私はまた一年、風雪を待つ崎村家の別荘、夜の九時。二階の主寝室にはまだ仄かな明かりが灯っていた。
藤崎美紀(ふじさき みき)はドレッサーの前に座りながら、スマホで一文を打ち込んだ。
「お母さん、あと一ヶ月で結婚契約が切れます。その時に偽装死亡サービスの予約を入れます」
送信ボタンを押すと、すぐに返信が返ってきた。
「美紀、この十年間、本当にご苦労さま。智昭のことをよく世話してくれたし、うちの崎村家に初孫まで産んでくれて……」
「正直、私はもうとっくにあなたのことを本当の嫁だと思ってるの。契約なんて、もうやめにしない?」
そのメッセージを見た瞬間、美紀は無意識にスマホを握る手に力を込めた。
そして慌てて指を動かし、こう打ち込んだ。
「いいえ、お母さん。契約通りでお願いします」