それぞれの人生を歩もう結婚して九年になる。毎年の結婚記念日には、夫は航空会社からフライトの担当を言い渡されたと言いながら、私をなだめるために高価なイヤリングを買ってくれた。
ところが今年の結婚記念日、私は偶然、彼と友人の談笑を耳にしてしまった。
「知樹、毎年結婚記念日にはお前、伊織(いおり)さんと一緒に過ごしてるんだろ?望美(のぞみ)さんは全然気づいてないのか?」
「そりゃあ、彼女が子どもを授かれないのも無理はない。あの程度の種じゃ、全く足りないからな」
東雲知樹(しののめ ともき)は煙草をふかしながら、同意するように言った。
「伊織はすべてを捨てて、俺のところへ来た。だから、彼女に家を作ってやらなきゃ。
望美のことなら、彼女が流産した時からもう愛してない。時期が来たら、離婚するつもりだ。
彼女に不公平なのはわかってるけど、金で埋め合わせる方法を考えるさ」
だが知樹には、もうその機会は訪れないだろう。結婚記念日のその日に、私は卵巣がんの末期と診断されたのだから。
すでに愛されていないのなら、私も彼を手放す覚悟はできている。
知樹、それぞれの人生を歩もう。