結婚式で、私は彼の新婦をやめた「凛々、本当に花嫁の名前を高木彩羽(たかきいろは)に変えるつもりなの?」
松原凛々(まつはらりんりん)の声は揺るぎなく、はっきりしていた。
「うん、私の言った通りにして」
電話を切ったあと、彼女は一人でしばらく黙って座っていた。
彼女の脳裏には、婚約パーティーの後に見た光景が浮かんだ。
揺れる車の中で、婚約者は他の女を抱きしめ、離れがたい想いを語っていた。
彼女と稲葉辰一(いなば しんいち)がようやく結婚までこぎつけたというのに、どうして彼が浮気などできたのか、凛々には到底理解できなかった。
だが、もう関係がない。彼が愛しているのが別の人なら、彼女は身を引いて応援する。
彼にはその女と結婚させればいい。そして彼女自身も、彼が夢見ていた理想の結婚式をプレゼントするつもりだ。