春は哀愁を連れてくる私・江口凛(えくち りん)が妊娠していることを知った桜井渚(さくらい なぎさ)は、高額な報酬で名医を招き、私のために専属で面倒を見させた。日常ケアから体を調えるための薬まで。
仏教を信じない渚が寺でひざまずき、私の無事出産を祈った。
「本当につらいだろう。子供が生まれたら必ずしっかり埋め合わせするから」
その日、私は何気なく渚のかわりに電話に出た。
「社長、ご指示通り奥様のお薬に中絶薬を混入しました。生まれた子は死産となるでしょう。
そして、芦田様の胎児は極めて健康で、必ず無事に出産され、桜井グループの後継者となるでしょう。
奥様は何も気づかず、お二人の関係も損なわれません。ご安心ください」
私は膨らんだお腹を見つめ、渚の愛がこれほど偽りだとは思いもしなかった。
こうしたら私は未練もなく、離婚協議書に署名した後、去ることを選んだ。