結婚前夜の裏切り結婚式の前夜、橘蓮司(たちばな れんじ)は私・白石美羽(しらいし みう)の義妹・白石穂香(しらいし ほのか)の癌の診断書を受け取った。
彼は顔色をわずかに変え、毅然とした口調で言った。
「美羽、明日の結婚式は中止だ。穂香は今、とても傷つきやすい。こんな時に彼女を刺激するわけにはいかない」
「納得できない!
どうして私の結婚式が、あの女を刺激するというの?」
拒否された後も、蓮司は不満な様子を見せず、私に気遣わしげにミルクを用意してくれた。
翌日、私が目を覚ますと、本来なら賑やかであるはずの家は、信じられないほど静まり返っていた。
私は慌てて蓮司に九十九回電話をかけ、百回目でようやく繋がった。
「私のウエディングドレスと靴が何故消えたの?」
しばらく無言だった後、彼は申し訳なさそうに言った。
「美羽、ごめん。穂香は一度でいいから花嫁になってみたいって。後悔を抱えたまま逝かせたくない。
しばらく我慢してほしい。彼女が安心して旅立ったら、必ず埋め合わせをする」
通話の切れる音を聞きながら、私はベッドの端に座り込み、しばらくの間、我に返ることができなかった。
一ヶ月後、蓮司が新婚旅行中に。
私は、私と彼の宿敵・篠原颯真(しのはら そうま)の結婚発表ライブを、正確に彼のスマホに映し出した。
彼は、取り返しのつかない後悔の中に沈んだ。