「鏡よ、鏡。この国で一番美しいのは誰?」『それは、ハロルド陛下でございます』――自分より年上の現国王は、幼少時はとても己に優しくヒーローだったのだが、今は二面性のあるただの意地悪な仕事を押しつけてくる存在だ。継母であるマリアローズは、いつも白雪王と評されるぐらい麗しいハロルドと仕事をしつつ、目を据わらせている。※白雪姫を下敷きにした異世界恋愛ファンタジーです。ツンデレ二重人格ヒーローと、頑張り屋の純粋ヒロインのお話です。国王(白雪)×継母(皇太后)。
View More元々マリアローズは、エルバ王国の末の王女だった。姉妹は七人いる。結婚適齢期の姉達は、既に皆嫁いでいた。 そんなおり、大陸で存在感のあるパラセレネ王国が、いくつもの小国と条約を締結し、実質それらの国々を属国とするようになった。エルバ王国も例に漏れず、パラセレネ王国の属国となることが決まったのである。 ただパラセレネ王国は、属国と貿易をすることで、各国に足りない品々を援助するなどの、好ましい側面も持っていた。 だが一つだけ、属国に求めることがあり、それが非常にエルバ国王を悩ませていた。 パラセレネ王国は、自国の後宮に、必ず各国を治める王族の姫君を輿入れさせろという通達を出していたのである。そこには、人質という意味合いが込められている。万が一属国が裏切った場合は、嫁いだという形式で、後宮内でかごの中の鳥のような生活をさせている王女を殺害する。そうして報復する。その用意のために、姫君を差し出せという命令だ。 さて、マリアローズの父であるエルバ王国の国王は、非常に困った。既に娘達は、マリアローズを除いて、全員結婚していたわけであり、これでは、マリアローズを嫁がせるしかない。だが、マリアローズはまだ九歳だった。このような幼子が、後宮に召し上げられた例は、ほとんどない。だが人質を差し出さなければ、エルバ王国は裏切ったと捉えられるだろう。 悩みに悩んだエルバ国王は、パラセレネ王国にお伺いを立てた。 すると、九歳の少女でも問題は無いという返答があった。何故ならば、正妃を愛しているので、これまでに一度も側妃に手を出したことがないからだと、パラセレネ王国の国王は手紙で答えたのである。それに安堵し、エルバ国王はマリアローズを嫁がせると決めた。 幼いマリアローズは、いつもよりも華美でお洒落な子供用のドレスを着せられ、馬車に乗せられた時、自分がこれから何処へ行くのかを知らなかった。何故なのか、両親と姉達が涙を流しながら手を振っているので、手を振り返しながら不安に駆られたものである。特に一つ上の姉のミーナは号泣していた。 そのようにして馬車での旅路を終え、マリアローズはパラセレネ王国へとやってきた。その時点においては、自分はまた今後はエルバ王国へやがて帰り、父や母、姉達と再会すると信じきっていた。「ええ? 帰れないの?」 そう知ったのは、マリアローズの世話をすることにな
「鏡よ、鏡。この国で一番美しいのは誰?」『それは、ハロルド陛下でございます』 今日も《魔法の鏡》の回答は、いつもと同じである。問いかけたマリアローズは、目が虚ろになった。現在鏡には、この国の現国王であるハロルドが映っている。その姿を憮然たる顔で見ていると、その姿はすぐに消え、また元の通りにマリアローズが鏡に映った。 マリアローズは、己の緑色の瞳を眺めてから、右側で垂らしている茶色の長い髪が少し乱れていたので、手で直す。本日のドレスは、ベイビーブルーのマーメイドだ。ドレスに合わせた同色の扇を右手で持ち、マリアローズは嘆息した。「確かに、ハロルド陛下は、顔はいいんだけれど……」 ……けれど。 そう続けたマリアローズは、言いたいことがたくさんあった。「昔はもっと素直だったのに、どうしてあんな風に育ったのかしら」 マリアローズは、幼くしてこのパラセレネ王国の後宮へと嫁いできた。 九歳のことである。 初めて後宮の庭園に足を踏み入れた際、マリアローズはハロルドと遭遇した。 今でもその記憶は色濃い。 二歳年上のハロルドとは、その後も何度か顔を合わせた。 当時のハロルドは、優しく穏やかに笑い、とても素直だった。後宮において、他に同年代の者もおらず、マリアローズはハロルドと話すことが非常に楽しかった。 だがそれは、ハロルドが次期国王として、本格的に帝王学を学ぶため、後宮ではなく王宮の部屋で暮らすようになった頃、終わりを告げた。マリアローズが十四歳、ハロルドが十六歳の時である。マリアローズは、当初寂しくて、一緒に眺めた思い出がある白い百合に触れながら、涙で目を潤ませたものである。 ――それが、再会したら、どうだ? マリアローズは目を据わらせて、《魔法の鏡》を見る。鏡に映る己の顔は、疲れきっている。思わずため息をつきながら、マリアローズは目を伏せた。長い睫毛が影を落としている。すると頭の中に、幼少時の出来事が、より鮮明に浮かんできた。
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