結婚記念日に、夫の秘書のために毒味をしろと?結婚記念日、今まで一度も台所に立ったことのない夫の宮崎浩(みやざき ひろし)が、テーブルいっぱいの料理を作ってくれた。
私が一口食べるごとに、浩は細かく味を尋ねて、真剣にメモをとる。
途中、浩は寝室へ行き電話に出た。杉本瞳(すぎもと ひとみ)からの着信だ。
浩が席を外した隙に、何気なくノートを手に取った。そこには、私とは全く無関係なことがびっしりと書かれていた。
【いんげんは少し硬い。瞳はきっと好みじゃないな】
【きのこは少し塩辛い。瞳のために作る時は気をつけないと】
【羊肉はクセが強すぎる。瞳のために作る時は牛肉に変えよう】
戻ってきた浩がノートを取ろうとした時、私の動きを見て激昂した。「美希(みき)、お前は本当に教養のかけらもないな。勝手に触るなと言っただろう?」
反論しようと口を開くより先に、激しい頭痛に襲われた。目の前の浩の姿が揺らぐ。
「浩、なんだか気持ち悪いの……インゲンが生だったのかも……」
「だったら急いで書き留めないとな。瞳のために作る時は長めに火を通そう」
浩は私を一瞥もせず、メモをとりながら足早に玄関へ向かう。
「出かけてくる。お前は丈夫なんだから、つらいなら薬でも飲んでろ」
意識が遠のく中、もう一度電話をかけると、苛立った声が聞こえた。「そんな大ごとなのか?死ぬのか?死んだらまた連絡してこい!」
浩、もう二度と連絡はしない。