霧のように消えた愛私・温井祈香(ぬくい いのか)が妊娠中に転倒したあの日、夫・清川宏(きよかわ ひろし)は指導教官の発熱した娘の世話に駆け回った。
流産を防ぐための医療処置にはリスクがあるから、家族のサインが必要だったが、電話に出た宏の口調は冷たかった。
「君は先生が気に食わないのを、僕はずっと知っているが、そんな言い訳で僕をそこに呼びかけるなんて、ふざけるな!」
私はすっぱり心が冷え切り、目頭から涙が落ちた。
「もう流産を防ぐことはありません。中絶手術をお願いします!」
子供と共になくなったのは、彼に対する私の満ち溢れる愛だ。