追憶の霧、届かぬ約束一夏は、凜と共に北部の鉱山地帯から南の果ての熱帯地帯までを歩んできた。
二人は互いの人生において、最も強く、揺るぎない支えだった。
凜が家族に見捨てられた時、彼女はすべてを賭けて彼に寄り添った。
彼が必ず勝つと信じて。
一週間前、凜はついに勝利を掴んだ。
伊礼家の当主が自ら彼を帝都へと迎え入れ、実権を握った彼の勢いは今や飛ぶ鳥を落とすほどだ。
誰もが、泥沼から這い上がった二人の絆が、ようやく円満な結末を迎えるのだと考えていた。
「一夏、おめでとう!」
親友の千暁から届いたLINEのボイスメッセージは、震えるほど興奮していた。
「一日も早く一夏を嫁にするために、伊礼さんは寝る間も惜しんで仕事を進めてたって、伊礼さんの友達が言ってたんだよ!」
スマホを握る一夏の心に、温かな感情が広がっていく。
彼女はふと、絆創膏が巻かれた自分の指先に目を落とした。
それはここ数日、フラワーショップでラッピングの練習をしていた時にできた傷だった。