怪人の花嫁

怪人の花嫁

last updateLast Updated : 2026-04-11
By:  東雲桃矢Completed
Language: Japanese
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時は明治。一般家庭で生まれ育った娘、うたは人攫いに拐かされるも、隙をついて逃げることに成功するも、すぐに見つかってしまう。 追いつかれそうになったうたを助けたのは、象牙色の長い髪に、眼帯をつけた華族、文彦。 日本人離れした美丈夫は、うたを屋敷に連れ帰り、子作りを強要する。 その理由は……。

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Chapter 1

1話

這床可真舒服啊,比那山上的破木床舒服多了...

這枕頭也這麼舒服,還有這抱枕,哎喲,軟綿綿的,真像女人的...

葉天明閉著眼感慨著,忍不住用力一抓,心卻驟然一沉!

不對!這手感不對!

下一秒,耳旁響起一道女人微弱的嬌哼聲。

葉天明一瞬間睜開惺忪睡眼,猛地坐起。

看清面前的一幕,整個人宛若石化。

五星級飯店套房的大床上,一個曼妙的女人正睡在自己身旁。

女人很美,完美精緻的側顏像是上帝親手雕琢而成。

她背對著自己,身上不存一絲遮蔽,膚如凝脂,體如美玉。

葉天明嘴角一抽,一臉懵,這什麼情況?

怎麼多出來個女人了?

昨夜的酒精依然刺激著腦袋,葉天明揉了揉額角,一拍腦袋,猛地想起來。

這裡是龍州市!

他的家鄉!

昨天他告別老頭,獨自下山歸來,抵達龍州市已經是晚上。

便在機場附近開了個套房睡了下來,心想第二天再回家。

半夜,他倍覺無聊,跑去了酒吧喝酒。

於是,他喝醉了...

腦中最後的畫面是一個傾國傾城的女人醉醺醺地跑到了自己的卡座上和自己碰杯...

一切想明白,葉天明目光再次看向眼前這玉體橫陳的女子,眼神變得複雜。

這麼說來...她應該就是昨晚的那個女人。

作孽啊!

葉天明想給自己一巴掌。

他這次下山是找老婆的,老頭子給他定了六門親事,讓他必須要找一個當老婆。

他滿懷欣喜歸來,可是死也沒想到。

這剛回來第一晚就欠下了一筆風流債!

又想到了什麼,葉天明趕忙掀開被子,低頭看向床單。

雪白的床單上,一縷如梅花般的血絲綻放,有些刺眼。

葉天明手一僵,心在這一刻沉入谷底。

最不願見到的事情還是發生了。

女人還是第一次...

玩大了,葉天明苦笑一聲,這可該怎麼辦?

正當葉天明惆悵間,女人翻了個身。

葉天明看清了女人的這張臉,忍不住呼吸一滯。

當真是紅顏禍水般的美!

縱然葉天明也見過不少女人,可能讓葉天明腦中蹦出傾國傾城這個詞的。

眼前的女人是第一個。

女人黛眉微蹙,似乎是夢做得不愉快。

也或者是沒什麼安全感,胳膊抱在自己胸前。

這麼一抱,她身前那完美的形狀就這麼擠壓呈現在葉天明的眼前。

看著這驚心動魄的一切。

「咕咚」一聲。

葉天明狠狠嚥了口唾沫。

嚥唾沫的聲音在安靜無比的房間裡清晰響起。

迷迷糊糊中的江暮婉像是察覺到了什麼,她這雙美麗如水晶般的眼睛帶著一縷困惑,緩緩睜開。

映入眼簾的首先是雪白素淨的天花板。

再然後是一張帶著幾分痞氣又有幾分帥氣的臉。

兩人對視。

氣氛在這一刻凝固。

沉寂了三秒,葉天明看著江暮婉,咧嘴一笑:

「美女...你胸真大。」

「啊——!」

一聲尖叫,打破房間裡寧靜。

江暮婉一個瞬間坐起,裹緊床單縮在床角,驚恐地看著葉天明。

「你誰?怎麼在這兒?!」

「這個問題難道不是該我問你嗎?這是我房間。」

江暮婉一怔,俏臉上出現一抹困惑,掃了一圈,臉色微變。

這的確不是自己的房間。

心一沉,完了,難道自己昨晚喝醉走錯房間了?

江暮婉幾乎是下意識地掀開被子低頭看去。

當看到自己身上沒有一絲片縷,床單上依稀還有一絲血跡的時候。

她徹底僵住了。

眼裡緩緩浮現出水霧,江暮婉看著葉天明,紅著眼眶顫聲道:

「你,把我...睡了?」

葉天明叼上一根菸,笑眯眯道:

「你是在質疑我的能力還是在質疑你的長相?」

「夜深人靜,孤男寡女,你跑到我床上,我要是不把你睡了我還配說自己是個男人?」

江暮婉眼裡淚水打轉,她抱著枕頭絕望砸來。

「你個混蛋!畜生!」

「不帶罵人的,再說了昨晚是你自己喝醉走錯了房間跑到了我床上,又不是我強....」

「閉嘴!」

江暮婉聲調驟然變高,淚水在這一刻滴落,劃過她美麗的臉龐。

她委屈,她憤怒,她悲傷。

她後悔!

若不是昨晚因為找不到那位能治爺爺的神醫,心情悲痛。

她又怎會去喝酒買醉?

若沒買醉,她又怎會被這種男人沾染?

江暮婉咬著唇,淚水不停滴落。

自己怎麼也算是天之嬌女,龍州市誰人不知自己?

仰慕自己追求自己的青年才俊們能從這裡排到二環。

可她一個沒看上,為的就是等待自己心中的那個男人到來...

然而,守了二十多年的處子之身,竟然在今天被一個看上去吊兒郎當的男人奪去。

江暮婉越想越委屈,淚水止不住地流淌。

再次看向葉天明。

當看到葉天明這鬍子拉碴的形象還有這廉價皺巴巴的衣服時。

她徹底絕望了。

江暮婉啊江暮婉,你怎麼就栽在這種底層卑微的男人手上了?

葉天明吐了口菸霧慢悠悠道:

「行了,你也別太難過了,雖然我有婚約,但是我可以對你負責的。」

「對我負責?」

江暮婉擦乾眼淚,冷冷道:

「你憑什麼對我負責?你又有什麼能力對我負責!」

葉天明眨眨眼睛認真道:

「我有錢,也有權,你想要的我都有。」

「你人品不端、邋裡邋遢也就罷了,還如此能吹牛,我最討厭的就是你這種男人。」

江暮婉像是聽到了天大的笑話一般,眼裡充滿譏諷。

「我真...」

「夠了!我不想聽你說任何廢話!」

江暮婉說完拿起床頭的包,從裡面掏出三疊現金,冷冷丟給葉天明。

「你我之間再無任何瓜葛,請你別糾纏我。」

葉天明看著面前三疊錢,嘴角一抽:

「你什麼意思?」

「沒什麼意思,當作你的補償。」

「你覺得我是缺你這三萬塊錢的人?」

江暮婉掃了一眼葉天明,看著這一身廉價衣服。

「是。」

再沒說二話,江暮婉起身穿衣。

收拾好一切。

她站在床邊,就這麼沉默地看著葉天明。

眼神充斥著恨意,又夾雜著一抹悲傷。

深吸一口氣,江暮婉轉身,頭也不回向門外走去。

要走到門口時,葉天明忽然道:

「其實我真的可以負責的。」

江暮婉身形一頓,身子停住。
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1話
「はぁ、はぁ……っ!」 街灯もロクにない時代の夜更け、うら若き乙女は、息を切らせながら走っている。真冬の空気が肺や喉に刺さっても、溶けた雪で泥になった道で転びそうになっても、足をとめるわけにはいかなかった。1秒でも止まれば、人生が終わってしまう。「待て、このアマ!」 しゃがれた怒鳴り声と足音が、松明の炎と共に迫ってくる。(まずい、このままじゃ……!) うたは少しでも前へ行こうと、歩幅を広くした。それがいけなかった。「きゃっ!?」 派手に転び、お気に入りの臙脂色の袴も、矢絣柄の着物も、泥まみれになってしまった。だが、そんなことを気にしている場合ではない。(逃げなきゃ!)「やっと捕まえた! 手間かけさせやがって!」 立ち上がるのとほぼ同時に、半上げにした黒髪を男に掴まれる。絶望のあまり、痛みも感じず、声も出ない。顔や服についた泥を気にする余裕すらない。(終わった……)「おい」 これから訪れるであろう暗い未来に絶望していると、凛とした声が降ってきた。顔を上げると、立派な馬車が停まっており、開いたドアからは、暗闇でも分かる美しい象牙色の長い髪が見えた。「あ、あんたは……。いえ、あなたは……!」 うたを追いかけ回していた人拐いの男は、目を見開き、馬車の中を見る。うたももう一度馬車の中にいる人物をよく見ようとしたが、男に髪を引っ張られ、見ることができなかった。「その小娘は、これから商売道具にするご予定で?」「へ、へぇ。そのとおりで。逃げ出したんで、捕まえに来たところでさぁ」「その小娘、小生が買いましょう」「へ?」 間抜けな声を出す男に、馬車の男は袋を差し出した。男が訝しげな顔をしながら袋を受け取り、中を見ると、彼のような身分ではお目にかかることのない大金が入っている。「こ、こんなにですかい!?」「それだけあれば足りるでしょう。その小娘を置いて失せなさい」「へへ、これだけありゃ、遊んで暮らせるぜ」 人拐いの男は、下卑た笑みを浮かべながら、大事そうに袋を抱えて闇夜に消えた。(助かった……?) 状況を飲みきれていないうたは、呆然と立ち尽くすしかできない。「小娘」 凛とした声に我に返り、顔を上げて息を呑む。満月に照らされた美丈夫がそこにいた。風に揺れる象牙色の長い髪も、吸い込まれそうな大きな瞳も、日本人離れした顔立ちも、すべてが
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2話
「そういえば、お礼がまだでしたね。助けていただき、ありがとうございます。私は、稲葉うたといいます。あなたは?」 うたがお礼と自己紹介をすると、美丈夫は冷酷な笑みを浮かべる。どことなく人間離れした容姿も相まって、ゾッとする。「おめでたい人ですねぇ。ただ助けたわけではありませんよ。あなたには、利用価値がある。だから助けた。それだけのこと」「利用価値……? 私に?」 皆目見当もつかず、首をかしげる。「私は、華族の人間ではありますけど、家柄は中の下ですし、4人兄弟の末っ子で、召使のように扱われてきたので、そんなに価値はないと思いますが……」「あなたの家柄など、問題ではありませんよ。明日、ゆっくりお話しましょう」「はぁ……」 結局美丈夫は名前すら名乗らず、彼の屋敷に着くまで、重たい沈黙が続いた。 屋敷に着くと、数人の使用人が出迎えてくれる。屋敷も使用人も、異国情緒溢れる外観や服装で、思わず不躾に見てしまった。「あの、何か?」「え? あ、すいません。洋装はあまり見たことがなくて」 訝しげな顔をする使用人に説明して笑いかけると、使用人の女性はうたを浴室に案内してくれた。そこまではよかったのだが、彼女も一緒に脱衣所に入ってきて、うたの服を脱がせだしたのだ。「え!? あ、あの、自分で脱げますから」「いえ、これも仕事ですから」 いくら断っても、使用人は譲らず、うたの服をすべて脱がすと、彼女を風呂場に連れていき、髪や体を丁寧に洗ってくれる。恥ずかしさよりも心地よさが勝り、うとうとしかけたところで、声をかけられて現実に戻される。「どうぞゆっくり、湯船にお浸かりください。お召し物をご用意いたしますので」 使用人は恭しく一礼すると、浴室から出ていった。「ふぅ……、なにがなんだか……」 小さく息を吐き、今日の出来事を振り返る。いつものように女学校へ行き、帰りに人気の少ない近道を歩いていたら、人拐いに拐かされてしまった。夜になんとか隙をついて逃げ出すも追いかけられ、未だに名前すら知らない美丈夫に助けられ、今に至る。『あなたには、利用価値がある。だから助けた。それだけのこと』 馬車の中で美丈夫に言われた言葉を思い返す。だが、どう頑張っても理解できない。屋敷や使用人の多さから、彼は華族の中でも上位の存在だろう。稲葉家と比べたら、否、比べ物にすらならない。 
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3話
 脱衣所に行くと、先程の使用人が待ち構えており、丁寧に体を拭いてくる。恥ずかしくて断っても、「仕事ですから」と言い、やめようとしない。 初対面に裸を見られたという恥ずかしさと、赤子のように拭かれる恥ずかしさで、耳まで真っ赤だ。(はやく終わって……) うたは目を閉じ、拭き終わるのを待った。「では、こちらにお着替えを」「は、はい……」 薄手の浴衣を受け取り、着ている最中、使用人は鉄仮面のような顔で、じっとうたを見つめる。居心地の悪さを覚え、彼女に背を向けて浴衣を着る。帯を締めていると、後ろからわざとらしい、大きなため息が聞こえてきた。「そうではないでしょう?」「え?」(この家特有の結び方でもあるのかしら?) どうすればいいか分からず、困惑していると、使用人は不躾に帯を解き、結び直した。その結び方に、冷めかけていた頬が再び熱を持つ。「あの、これって……」「旦那様がお待ちです。こちらへ」 うたの問いに答えようとせず、使用人は脱衣所のドアを開ける。うたは、前にある帯の結び目に触れると、小さく息を吐いて彼女の後についていく。 使用人は大きなドアをノックする。「旦那様、奥方様を連れてまいりました」「奥方……!?」「彼女だけを入れてください」 うたが混乱しているのも気にせず、使用人はドアを開けると、うたの背中を押して部屋に入れ、ドアを閉めてしまった。「いったい、何が……」「こちらへ」 声がする方を見ると、例の美丈夫は座布団を貼り付けたような、不思議な長椅子に座っている。「はぁ……」 恐る恐る近づくと、彼は自分の隣に座れと、長椅子を軽く叩く。座ってみると、座布団とはまた違った座り心地に感動する。体を包まれるような感覚に、思わず声が出た。「わぁ……!」「ソファも知らないのですか」「そ、ふぁ?」「この長椅子のことですよ」「ソファというのですね。初めて見ました」 ふかふかのソファの手触りを確かめるように押していると、呆れ返るようなため息が聞こえる。「す、すいません。はしたなかったですね」「いえ、緊張感がないと思いまして。自己紹介がまだでしたね。小生は水月文彦。馬車では華族だと言ってましたね。それなら、水月家の名は、聞いたことがあるでしょう」「水月家って、あの……!」 くりくりの目を更に丸くして、文彦を見つめる。水月家の噂は
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4話
「だから面白いんですよ。ふふ」 笑い過ぎで出た涙を拭う文彦を見上げて初めて、うたは自分は彼に押し倒されていたことに気づく。「あ、あぁ! 破廉恥!」「何を今更。ふふ、面白い人ですね。毒気が抜かれてしまいますよ」 文彦はひとしきり笑うと、真顔に戻ってうたに向き合う。「この髪を見て、なんとも思わないのですか?」「珍しくて綺麗だと思います」「あぁ、あなたは本当に……。けど、これを見ても、そんなこと言ってられますか?」 文彦は眼帯を取ると、ゆっくり瞼を持ち上げた。隠されていた瞳は、秋空のように青く、澄んでいる。日本人では見ない色だ。「宝石みたい……」「はぁ、あなたって人は」 文彦は呆れ返るような、どことなく嬉しそうな、そんな顔をしてため息をつく。「普通、不気味がるか、怖がるかなのですがね。まぁいい。好都合です」「好都合?」「あなたには、小生の子を産んでもらいます」「え……?」「怪人なんて言われていますが、小生も華族の人間。跡取りを作らなければなりません。ですが、小生の元に嫁がせたいという華族が、なかなかいなくて困っていたのですよ」「あのあの、なんで、私が? よく、分かってなくて……」「小生が助けなかったら、あなたは今頃、遊女として働かされていたでしょう。今、おいくつですか?」「17ですけど……」 年齢を告げると、文彦は絶望しきったようにため息をつく。「はぁ、それなら、何か教えてもらうこともなく、客を取らされていたでしょうね」「え?」「あなたが6つや7つなら、まずは礼儀や芸を叩き込まれ、立派な遊女にしてもらえたでしょうが、17なら、教養を身につける時間もなく、安い金で様々な男に売られていたでしょうね」 文彦の言葉を聞きながら、少し前まで繰り広げていた命がけの追いかけっこが頭によぎる。遊女として働かされるのは想像していたが、具体的なことはまったく考えていなかった。 というより、考える余裕がなかったと言ったほうが正しいだろう。「遊女の生涯は悲惨ですよ。幼い頃から育てられた遊女なら、客を大勢取れる見込みがあるから大事にされるでしょうが、あなたのような歳なら、使い捨てのボロ雑巾のように雑に扱われ、病気にでもなれば、肥溜めに捨てられておしまいです。傷口から悪いものが入り込み、そこから体が腐り、耐え難い苦痛が……」「いやああっ! それ
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5話
「実は小生、明日から数日ほど、屋敷を離れなくてはいけないのです。なに、ほんの2,3日程度ですよ。その間、あなたはここで自由に過ごし、好きなだけ贅沢をして、考えてください」「え?」「え? じゃありませんよ。あなたの人生がかかっているんですよ? 小生の妻となり、子を産むか。遊郭で様々な男に抱かれ、肥溜めに捨てられるか……。小生が帰ってくるまでに、決めておいてください」「そんな……!」「ひとりの怪人に抱かれるのと、様々な男に抱かれるの、どちらがマシなのでしょうね?」 文彦は意地悪な笑みを浮かべ、うたを見下ろす。そんなこと、答えは決まっている。2,3日も考える必要などない。「ここはあなたの部屋です。何か分からないことや、困りごとがあれば、使用人を頼ってください。それでは、よい夢を」 彼は皮肉たっぷりに言うと、部屋を出ていってしまった。「どうして、こんなことに……」 うたはよろよろとベッドへ行き、潜り込んだ。文彦にどう言おうか考えているうちに、夢の世界に落ちていった……。 翌朝、例の鉄仮面に体を揺すられ、目が覚めた。「奥様、朝ですよ」「あ、はい。えっと……」「ふさと申します。奥様のお世話係を任命されました」「よろしくお願いします、ふささん」「朝食はできております。はやく着替えてください」「は、はい」 勢いこそないが、淡々と問い詰めるようなふさの口調に圧倒され、背筋が伸びる。「あの、私の服は……」 恐る恐る聞くと、ふさはため息をつき、クローゼットを指差し、付き合いきれないと言わんばかりに部屋を出ていってしまった。「あんな態度取らなくても……」 クローゼットを開けると、色とりどりの洋服がずらりと並んでいた。「私が来たのは昨日だし、予想外の出来事でしょうに、どうしてこんなに服が?」 水色のワンピースを手に取り、着替えながら考え事をする。この屋敷は色々おかしい。無愛想な使用人に、用意周到な部屋。改めて室内を見回すと、人形が飾ってある。 うたの前に、誰かがこの部屋を使っていたのだろう。この服もきっと、前にこの部屋を使っていた誰かが持ち主だ。 そう考えると少し気持ち悪いが、昨晩着ていた着物や袴は泥まみれだし、どこに置いてあるのかも分からない。 幸い、うた自身も洋服は2着ほど持っていたため、ワンピースは着れた。見栄っ張りの父が、外出用に
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6話
「急だったものですから、まともな服がなくてすいません」「え? あ、いえ……」 まさか謝られるとは思ってもみなかったので、どう返していいのか分からず、おどおどしてしまう。文彦はそんなうたを見て、小さく笑う。「答えが決まるまで、自分の家だと思ってくれてかまいません」「はい……」(そんなこと言われても……) この屋敷は、あまりにも豪華すぎる。洋館というだけでも圧倒されるというのに、壁にかかっている絵画や、飾られている骨董品が高価なものというのは、うたにも分かる。平屋の日本家屋に住んでいるうたには、住む世界があまりにも違いすぎて、とてもくつろげたものではない。「食事が終わったらすぐに出かけますから、そのつもりで」「どこに行くんですか?」「その仕立て屋ですよ。そんな服では過ごせないでしょう」「ありがとうございます」「礼などいりません。はやく食べてください」「分かりました」 食事を終えると、うたは外に出て文彦を待つ。目の前に馬車が停まっているが、勝手に乗るのは気が引けた。御者はいるが、うたなどいないかのように、煙草を吸ってぶつぶつ独り言を言っている。「お待たせしました」 文彦は屋敷から出てくるなり、怪訝な顔をした。(もしかして、乗って待ってたほうがよかったのかしら?)「高野、客人をずっと立たせるとは何事ですか?」「す、すいません。気づかなくて……」「つまらない嘘をつかないでください。あなたの男尊女卑には呆れ返る。彼女は小生の妻になる女性。丁重に扱いなさい」「へ、へぇ! すいません」 高野と呼ばれた業者がぺこりと頭を下げると、文彦の目が鋭くなる。「謝るのは小生にではなく、彼女にでしょう?」「申し訳ありません、奥さん」 文彦が咳払いをすると、高野は慌てて背筋を伸ばす。「いえ、奥様」「大丈夫です……」「さぁ、行きますよ」 文彦は先に馬車に乗ると、うたに手を差し出し、乗るのを手伝った。「ありがとうございます」「いえ。家を空ける前に、あなたにはいくつか聞いておかないといけませんね。洋食を食べたことはありますか?」「え? いえ、ないです……」「そうですか。では、自宅の造りは? 日本家屋ですか?」「はい、そうです」 仕立て屋に着くまで、文彦はうたに質問をし続けた。主に生活関連のことが多く、うた自身についてはほとんど聞かれな
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7話
「こちらの服なら、お嬢さんのお体にぴったりかと」 「では、それをすべて購入しましょう」 「えぇ!? ま、待ってください!」 慌てて止めると、文彦も女性も不思議そうな顔をする。 「気に入らない服でもありましたか?」 「いえ、そうじゃなくて……。そんなにたくさん買っていただくのは、罪悪感が……」 「気にする必要はありません。それより、1着選んで、着替えてきてください。りえ、彼女が着ている服は、処分してください」 「かしこまりました。お嬢さん、どれになさいますか?」 「えっと……」 色とりどりの洋服の前で困惑していると、文彦が薄桃色のワンピースを手に取った。 「これでも着てなさい。時間がもったいない」 「は、はい……」 「では、こちらへ」 再び測定をしていた部屋に案内される。着替えて部屋から出る頃には、服はすべて馬車の中だった。文彦はうたを馬車にエスコートする。 「ありがとうございます」 「服を用意するのは、当然のことです。着物の方がいいと言ってましたが、しばらくはそれで我慢しててください」 「我慢だなんて、そんな……。素敵なお洋服を、ありがとうございます。そういえば、あの服、処分していいんですか? 誰かが着ていたのでは?」 うたの問いに、文彦は顔をしかめる。謝罪しようと思ったが、理解してない状態で謝罪しても、相手が不快になるのは、父を見て学んだから黙っていた。 「あれは、亡き妹のものです」 「妹さん……? 形見じゃないですか……」 「形見? はっ、莫迦らしい」 憎しみが込められた嘲笑に、言葉を選ぼうとするが、出てこない。家族だから仲がいいというのは、幻想だ。少なくとも、華族の間では。男は重宝され、女は蔑ろにされる。男として生まれても、次男や三男は適当に扱われることがある。 きっと文彦にも、事情があるのだろう。 「あなたは、賢いですね」 「え?」 「よく言うでしょう? 沈黙は金と。余計なことを聞かないのは、あなたの美点です」 先ほどとは打って変わり、優しい笑みを浮かべる。 (そんな顔も、できるんだ……) ほとんどずっと、しかめっ面だった文彦の笑みに、胸が高鳴る。つまらなそうな顔よりも、こういう顔をしていたほうが、ずっといい。 屋敷に戻ると、文彦はうたの部屋に服を運んでくれた。 「では、小生は2
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8話
 文彦がいなくなった屋敷は、うたにとって地獄でしかなかった。例えば、朝の身支度なんかはふさが手伝いに来るのだが、髪を梳かすにも雑で、うたが痛みを訴えても、自分でやると言っても、聞く耳を持たない。 うたが庭に出ようとすると「逃げる気だ」と言われて屋敷内に引き戻され、掃除を手伝えば、わざとらしくため息をつき、うたが掃除をした箇所を、目の前で掃除し直す始末。 うたにとって1番つらかったのは食事の時間だ。出されるのはすべて洋食。一応洋食は食べたことがある。だが、家で洋食を出される洋食は、あまり知識のない使用人が、見様見真似で作ったもので、味付けも和食のようだった。それに、箸で食べていたため、フォークやナイフなどのカトラリーを見ること自体、初めてだった。「あの、すいません。お箸はありませんか?」「洋食を箸で食べる人など、この世にいませんよ」 ふさは鼻で笑い、カトラリーを並べる。「この熊手のようなものは、どうやって使うのですか?」「熊手ぇ? ぷ、あはは。やだ、熊手ですって。皆、聞いた?」 ふさの後ろにいた他の使用人達も、クスクス笑う。聞いても教えてくれないので、自分なりに考えて使っても、指を指して笑ってくる。食事中は席を外すように言っても、「あなたが決めることではありません」と突っぱね、そんなことも知らないのかと言わんばかりにため息をつく。 父に怒られた日の食事が世界で1番不味いと思っていたが、使用人達に笑われながら食べる食事は、それ以上に不味かった。完全に食欲をなくし、食事の時間に迎えに来たふさにいらないと告げると、無理やり腕を引っ張られ、食堂に連れて行かれる。 まだ文彦のことをよく知らないが、彼らのように意地悪をしないだけ、文彦の方がマシだ。 文彦が屋敷を空けて2日目、客人が顔を出した。うたがふさの命令で床の雑巾がけをしていると、呼び鈴も鳴らさずに、若い男が入ってきた。「お、新しい使用人か?」 男は物珍しそうにうたの顔を見るが、すぐに小首をかしげる。「いや、使用人にしちゃ、着てるモンが立派だな」「正一様、どうなさいましたか?」 ふさは慌てた様子で来ると、うたを隠すように間に立った。「あぁ、ふみに頼まれて、書斎にあるものを取りに来たんだ」「そうでございましたか。では、ご案内します」「いや、いいって。なぁ、その子は? 少なくとも、使用人に
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9話
「そりゃな。アイツら、性格悪いし。おっと、自己紹介ちゃんとしてなかったな。俺は清宮正一。清宮家の長男で、ふみとは仕事仲間だ」「私は稲葉うたといいます。ふみって、文彦さん? 仲が良いんですね」「どうだろうな。俺が一方的にかまってるようなものだからさ。というか、ふみの奥さんって本当か?」「あ、えっと……。正式には、まだですが……」「へぇ。ふみのヤツ、こんな可愛い娘、どこに隠してたんだか」(軟派な人……。本当に文彦さんのお友達?) 疑いの目で見ていると、正一がにかっと笑う。「あはは、疑ってる?」「え? いや、えっと……」「分かりやすい娘だな。ま、アイツにはそれくらいがいいか。なぁ、アンタ、好きで掃除してたわけじゃないんだろ?」 真顔て問われ、言葉が詰まる。誰かに聞いてほしいと思っていたが、初対面の男性相手に、そういった話をしていいものだとは思えなかった。「黙ってても分かるんだから、素直に話せばいいのに」 正一は苦笑すると、本棚の前に立ち、数冊の本を引き抜いていく。「アンタがどういう経緯でふみの奥さんになるのか知らないけど、アイツにはちゃんと相談しろよ。とっつきにくいけど、あの使用人みたいに、性格がねじれてるってわけじゃないから」 正一はうたの肩をぽんと叩くと、書斎から出ていってしまった。「変な人……」 ぽつりと呟いてから、正一をお見送りする。彼が屋敷から出ると、ふさはうたを睨みつけた。「なんて女なの! 色々教えてやってるのに、私を悪人に仕立てようとするなんて! 恥を知りなさい!」「きゃ!?」 ふさの容赦ない平手打ちが、大福のように柔らかくて白いうたの頬に叩き込まれる。勢いのあまり倒れると、ふさはうたを見下ろし、鼻で笑う。「どうやってあの化け物に取り入ったか知らないけど、洋食のマナーすら知らない小娘が、いい気にならないで」 ふさはわざとうたのワンピースを踏んで足跡をつけると、水が入った桶を蹴り飛ばした。「綺麗にしなさい」 高圧的に言い捨て、どこかに言ってしまう。「う、うぅ……。どうして私が、こんな目に……」 結婚できる年齢とはいえ、まだ子供。知らない男に拐かされ、追いかけられ、助けられたと思ったら、結婚か遊郭かの2択を迫られる。更に使用人達に莫迦にされながら過ごす2日間。彼女にとって、あまりにも怒涛過ぎた。ついに涙が零れ、
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10話
「う、うぅ……」 泣いていると、クスクス笑い声が聞こえる。わざわざ目で確認するまでもない。「見て、あのほっぺ。真っ赤でみっともない」「元々大した顔じゃないけど、ああやって泣くと、見るに耐えないわね」「床がびしょびしょ。泣いてないで掃除しなさいよ」 使用人達が、うたに聞こえるように大きな声で悪口を言う。中には水を持ってきて、床にぶちまける者もいた。(負けてられない……!) 悔しさは闘志に似た感情に変わっていく。うたは立ち上がると、雑巾で床を拭き、桶の中に絞った。他の掃除用具を使えばもっと早く終わるのだが、貸してもらえないから、雑巾で地道に吸い上げるしかない。 陽が傾き、ようやくほとんどの水を拭き終えると、背中に衝撃が走った。確認する間もなく、桶がある方へ倒れ、水が再び床に飛び散る。ワンピースもびしょ濡れだ。「すいませーん、そんな邪魔なところにいるって思わなくってぇ。というか、まだやってたんですね。奥様?」 ふさの腰巾着をしている若い女が、ショックで言葉を失ったうたの顔を、ニヤニヤしながら覗き込んでくる。「せっかくの服がもったいない。もう、それで拭いたら? 雑巾と変わりないんだし」 使用人が高笑いしていると、玄関扉が勢いよく開いた。「何をしているのですか?」「え? あ、あぁ、旦那様! 奥様が倒れてしまったので、今立ち上がらせようと……」「笑っていたように見えましたが?」「あ、あはは、気の所為ですってぇ。ほら、私の悲鳴って独特ですから。あ、あ、あ、あ、あああっ!」 使用人の苦し紛れの言い訳に、怒りが込み上げてくる。「つまらない嘘を……。あなたは解雇です」「えぇ!? どうしてですか!」「即刻出ていきなさい」「でも!」「出・て・い・け」 文彦は声こそ荒げてはいないが、圧が強い。使用人は怖気づいたのか、文彦に頭を下げ、そそくさとその場を去ろうとする。「待ちなさい」「なんでしょう?」「彼女に謝りなさい」 使用人は何か言いたげな顔をしたが、文彦を見て震え、うたに向き直る。「申し訳ございませんでした」 深々と頭を下げると、悔しそうな顔をして部屋に戻っていく。「立てますか?」 差し出された手を見た瞬間、枯れたと思っていた涙が、ボロボロ零れてくる。止めたくても、涙も嗚咽も止まらなかった。「うっ、うぅ……! わた、私……!」
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