『峠』の主人公・長岡藩の家老・河井継之助は、幕末の激動期に藩の存続のためにあらゆる困難に耐え忍ぶ姿が胸を打つ。政治的な駆け引きから武装解除まで、彼の選択には常に「堪忍」という美学が流れている。
特に印象的なのは、戊辰戦争で敗色濃厚となっても、投降ではなく「武士としての意地」を貫く決断だ。
司馬遼太郎の筆致が、彼の内面の苦悩と誇りを鮮やかに描き出す。忍耐を強いられる立場の人間が、いかに己の信念を守り抜くか――その葛藤が重厚な歴史小説として昇華されている。
現代でもビジネス書として読まれる『武士道』にも通じる、日本人の精神性を考える良い材料になる作品だ。