めかし込んだのは、あなたとさよならするために瀬戸遥(せと はるか)は、神崎奏人(かんざき かなと)のSNSの投稿写真を見つめていた。そこには、別の女性の指に輝くダイヤモンドの指輪が写っている。
彼女の指先は、画面の上を彷徨うように行き来する。
「遥、サインしてくれ。これからは俺と結奈の邪魔をしないでほしい」
奏人は離婚協議書を彼女の前に滑らせた。その瞳は、骨の髄まで凍りつくほど冷たかった。
彼女は冷ややかな笑みを浮かべ、ペンを走らせて署名した。「神崎さん、あなたとの十年、結局は無駄だったわね」
八歳になる息子の、「結奈さんがママならいいのに」という一言が、ナイフのように心を抉る。
アシスタントの策略、愛する人の裏切り……彼女は覚悟を決め、足の不自由の億万長者、桐山蒼真(きりやま そうま)のもとへ嫁ぐ道を選んだ。
「少なくとも、あの人は私に『妻』という立場をくれるから」
鏡に向かって化粧を直すが、目尻から溢れる涙はどうしても隠せない。
結婚式当日、目を赤くした奏人が、教会の外で彼女を引き留めた。「遥、俺が間違っていた。一緒に帰ろう!」
蒼真は車椅子から立ち上がり、彼女を背に庇う。「神崎さん。遥は今、僕の妻だ」