アルバム全体を通して真っ先に惹かれるのは、メロディが場面の記憶と結びつく力だ。繰り返し聴いているうちに、特に『宵の調べ』が心の奥に残るようになった。弦楽器の細やかな装飾と、後半でひそかに顔を出すホーンのフレーズが、単なる背景音以上の感情を運んでくるからだ。私はそれが最も劇的に効いている瞬間を何度も思い出す。
別の角度では『風の記憶』も外せない。シンプルなピアノと環境音的なパッドの重なりで、広がりと距離感を巧みに表現している。ここでは音そのものが物語を語る役割を担っていて、楽曲の余白にある沈黙が逆に印象を強める。
最後に『蒼い航路』は編曲の巧みさが光る一曲だ。テンポの揺らぎと打楽器の間合いが、作品のテンションを微妙に保ちながら前へ進める。サウンドトラックファンなら、これら三曲で
カオルコの作風──細部の美意識と余韻の扱い方──をつかめるはずだ。聴くたびに新しい発見がある作品群だと感じている。