兄の俺が魔法少女で何か問題でも?

兄の俺が魔法少女で何か問題でも?

By:  広羽Updated just now
Language: Japanese
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「お嬢さん、誤解しないでください。私はただのしがないタクシー運転手で、あなたの先生じゃありません」 運転席に座る黒髪の青年は、目の下に濃いクマを浮かべ、必死に弁解した。 「いいえ、あなたが先生です」 後部座席には、息を呑むほど美しい金髪の少女がいる。彼女は頑なな表情を崩さず、ひたすらに青年の袖を引っ張っていた。 「ちょっと、お嬢さん!これ以上引っ張るなら、セクハラで通報しますよ!」 「先生の匂い……絶対に間違えるはずがありません!」 少女は怯むどころか、さらに距離を詰めてきた。 「勘弁してくださいよ……本当に先生じゃないんです。魔法少女になんて興味ないし、魔法アイドルのライブだって見たことない。そんな私が、あなたの先生なわけないでしょう?」 …… 「先生、ついに本来の姿を見せてくださったんですね」 金髪の少女の瞳が感動に潤む。それはまるで、長年生き別れた肉親と再会したかのような眼差しだ。 しかし、銀髪のマンダラは、不思議そうにコテリと首を傾げた。 「申し訳ないけれど、お嬢さん。何か勘違いをしているようね…… 私は『魔女』であって、あなたの『魔法少女の先生』なんかじゃないわ!」

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Chapter 1

第1話

私は魔法少女だ。

心に抱いた愛と正義を貫くため、私は全員を殺した……

しとしとと降る雨が、大地のアスファルトにできた水たまりに波紋を広げる。そこには雨水と共に、目に焼き付くような鮮血が混ざり合い、まるで鮮烈な絵の具をぶちまけたかのように赤く滲んでいる。

空は灰色だ。何層にも重なった鉛色の雲が視界のすべてを覆い尽くし、空そのものがこの涙雨の中で死に絶えてしまったかのようだ。

「マンダラ、気でも狂ったの!?」

煙るような雨の幕を通して、隊員の叫び声が耳をつんざく。

青い髪と瞳を持つ少女が、全身を震わせながら信じられないものを見る目で、眼の前の凄惨な光景を見つめている。彼女が「マンダラ」と呼んだ黒髪の少女は、無機質で凍りついたような表情で、手にした漆黒の剣をもう一人の仲間の腹部へと突き刺していた。

そのすぐ近くには、他の三名の魔法少女特戦隊員が重傷を負って倒れている。生死は不明だ。

魔法少女の中から選抜されたエリートである彼女たちを葬ったのは、侵蝕種の鋭利な爪ではなく、彼女たちが最も信頼を寄せていた隊長の手によるものだった。

「リンドウ、彼女から離れて……」

特戦隊の中でまだ立っていられる者は、わずか三人だけ。その一人である碧色の髪の少女が、悲痛な声で警告した。

「隊長は……彼女はもう汚染されてしまったのよ。あの方はもう、私たちの知るマンダラじゃない!」

青菊(あおぎく)は胸に押し寄せる潮のような悲しみをこらえ、チーム最年少であるリンドウを必死にかばうように前に立った。

特戦隊の半数が死傷するという異常事態。しかも、特戦隊隊長であるマンダラが、汚染爆発によってその場で堕ちるさまを、彼女は目の当たりにしたのだ。

任務目標である「穢れの母」の討伐は完了していた。隊員の誰もが、スリルはあったが無事に終わったS級任務だと安堵していたその瞬間、悪夢は起きた。

彼女たちの隊長であり、尊敬する先輩、そして強大な月光級魔法少女であるマンダラが、仲間たちが最も気を抜いたその瞬間に襲いかかったのだ。

三名の仲間が即死。生き残ったのは自分とリンドウのみ。しかし、汚染され堕ちる前から月光級の実力を持っていたマンダラ隊長を前に、生還の可能性は限りなくゼロに近い。

「どうして?どうしてこんなことを?隊長は私たちのことを完全に忘れてしまったのですか!?」

青菊に強く抱きしめられたリンドウは、身体を揺らし、頭を振りながら叫ぶ。かつては鈴のように澄んでいたその声は、今は絶望に満ちている。

耳元で響く仲間の問いかけを聞きながら、マンダラは血塗られた漆黒の剣を引き抜いた。

その赤紅色の瞳に、感情の波は一切ない。

彼女は目の前の遺体を無造作にトンと突き放す。まだ温もりの残る仲間の体は、雨でできた血の池へと崩れ落ちた。

冷たい雨が、マンダラが持つ剣の血を洗い流していく。澄み切った刀身には、心臓が凍るような寒々しい光が宿っている。

「忘れてなどいない。これからも忘れることはない……」

彼女が口を開く。その声は、異常なほどにかすれていた。

「隊長、目を覚ましてください!私たちは一番近くにいた仲間じゃないですか!

戦場で背中を預け合った戦友でしょう?なのになぜ?どうして殺し合わなきゃいけないの!」

少女の声は絶望で塗りつぶされている。美しい顔は雨か涙かわからない液体でぐしゃぐしゃに濡れていた。

「心にある愛と正義を貫くためだ」

影と雨に閉ざされた世界で、黒髪赤眼のマンダラは低い声でそう答えた。

ガハッ……!

鈍く重い、肉を貫く音が響く。

青菊とリンドウの瞳が、ほぼ同時に見開かれた。

二人はぎこちなく視線を落とす。自分たちの腹部を、赤褐色の斑紋を持つ触手が貫通していた。

口の端から鮮血が溢れ出し、串刺しにされた二人の体は力なく重なり合い、雨の中へと倒れ込んだ。

リンドウは即死だった。

雨の中で倒れた青菊には、かろうじて最後の息があった。彼女は焦点の合わなくなりつつある瞳で前方を見る。

隊長の足元から伸びる影。その中で、無数の不気味な赤褐色の触手がうごめいている。自分たちを貫いたのは、その中の一本だった。

「本当に狂ってしまったのね、マンダラ……」

鉄錆の味がする温かい液体が口から溢れる。青菊の眼差しは悲しみから完全な絶望へと変わり、彼女は渾身の力を振り絞ってその言葉を吐き出した。

ピチャ、ピチャ。

マンダラは漆黒のハイヒールで水音を立て、遺体となった二人のそばへと歩み寄る。

彼女はしゃがみ込み、手を伸ばして、死んでも死にきれない様子で見開かれた仲間の瞼をそっと閉じた。

夜明け前の雨は、疲れを知らぬように降り続いている。マンダラは足元で徐々に赤く染まっていく雨水を見つめ、疲弊しきったようにその目を閉じた。

「私は狂っているのか……」

少女の声には、自分でも気づかないほどの震えが混じっている。

「そうかもしれない。私は本当に狂ってしまったのかもしれない」

「だが、私が完全に狂ってしまうその前に――お前たちを、誰かの指差す罪人になど絶対にさせない」

しとしとと降る雨音が、少女の最後の呟きをかき消していく。

煙るような雨の幕の中、マンダラと呼ばれた魔法少女は傷だらけの体を引きずり、視界の果てにある闇へと消えていった。

風に揺れるボロボロの黒いドレスは、まるで傷ついた墨色の揚羽蝶のようだ。

……

早朝。一人の青年が悪夢にうなされ、目を覚ました。

静まり返った部屋に、荒い呼吸音だけがはっきりと響く。

如月悠人(きさらぎ ゆうと)は、関節が軋むように痛む腕を布団の中で動かし、背中へと手を回した。

案の定、ぐっしょりと濡れている……

まるで一晩中戦い続けたかのような気だるさを引きずり、彼は重い体を起こした。頭にかぶっていたナイトキャップを乱暴に引き抜き、布団を跳ねのけた瞬間、夜の名残を含んだ冷たい風が肌を打ち、汗で濡れたパジャマに悪寒が走る。

「ふぅ……」

スリッパを履き、窓辺へ歩み寄る。開いていた窓を、わずかな隙間を残して閉める。外はまだ薄暗いが、都市の稜線の向こうには魚の腹のような白い曙光が滲み始めている。

壁掛けの時計を見る。五時四十八分。

大学主催の就職説明会まではまだ時間がある。隣の部屋では妹もまだ眠っているだろう。普通の大学生なら、こんな時間に目が覚めても、時間を一度確認して二度寝を決め込むところだが、悠人は違った。

再び温かいベッドに戻ったとしても、もう眠れないことはわかっている。冷たい風で目が冴えたせいだけではない。あの夢のせいだ。

寝室のドアを開ける。リビングは静まり返り、妹の部屋からも物音ひとつしない。彼はいつものように足音を忍ばせ、キッチンへと向かった。昨夜冷やしておいた麦茶をコップに注ぎ、一気に流し込む。

麦茶が内臓に染み渡り、ようやく生き返ったような心地がした。

シンク脇のプラスチックカップを手に取り、水を汲む。リビングのテーブルに飾られた花に水をやってから、彼は再びキッチンへと戻った。

悠人は当初、近所のコンビニで肉まんかおにぎりでも買って腹を満たそうと考えていた。だが、昨晩のニュースで見た食品偽装問題の特集を思い出し、その考えを捨てた。

古い考えを持つ両親の教育のせいか、兄である彼はどうしても外食や出来合いの食品を信用しきれないところがある。

自分一人が不健康なものを食べる分には構わないが、妹の如月美桜(きさらぎ みお)はまさに育ち盛りだ……

一瞬の迷いの後、青年は引き出しからエプロンを取り出した。手慣れた様子で身につけ、背中で紐を結ぶ。冷蔵庫を開け、卵とパンを取り出すと、一日の始まりである朝食作りを開始した。

しばらくして、向かいの部屋のドアが開く音がした。

ピンク色のネグリジェを着た小柄な少女が、眠気まなこをこすりながら部屋から出てくる。リビングにはすでに、卵と油の焼ける香ばしい匂いが充満している。

キッチンを覗くと、ダイニングテーブルには黄金色に焼かれた目玉焼き、レタスを挟んだ温かいトースト、そしてケチャップとマヨネーズが添えられている。白い皿の横には、湯気を立てるホットミルクも置かれている。

少女は少し呆気にとられた様子で、無意識に玄関の方を見る。

案の定、そこにあるはずの馴染みの靴が一足、足りない……

美桜は唇を噛み締め、その澄んだ瞳に複雑な感情を走らせた。

その頃、すでに着替えを済ませた悠人は、マンションの下にいた。

かじりかけのトーストを口にくわえ、手には自分の証明写真が貼られた白黒の履歴書を数枚、無造作に掴んでいる。

「心にある夢のため~♪」

大通りを歩いていると、ポケットの中のスマホが震え、感情のこもった激しい着信音が鳴り響いた。

画面に表示された【総司】という発信者名を見て、彼は即座に緑の通話ボタンをタップし、スマホを耳に当てた。

「はいはい。用件は手短に頼むよ」

「おいおい悠人、お前起きたばっかか?なんだその不機嫌な声は」

電話の向こうから聞き慣れた声がする。

「電話で無駄話するなら切るぞ」

「ちょ、待て待て!言う、言うから……」

相手の声が明らかに焦ったものに変わる。悠人が「切る」と言えば本当に切る男だと知っているからだ。

「お前の三時の方向、約二百メートル先だ。俺は……」

最後まで聞かず、青年は赤い切断ボタンを押した。

彼はやれやれとため息をつき、首を振る。近づいてくる足音に耳を傾けていると、すぐに肩へ親しげな衝撃が走った。

「へっ、お前ホント電話切るの早すぎ」

視界に入ってきたのは、スーツでビシッと決め、銀縁メガネをかけた男だった。

悠人はその姿を上から下まで値踏みするように眺め、口元を引きつらせた。

「総司、なんだその気取った格好は。インテリヤクザみたいなナリして、履歴書を配りに行くのか、それとも無知で純粋な小娘をたぶらかしに行くのかどっちだ?」

天道総司(てんどう そうじ)。悠人が「総司」と呼ぶ彼は、いわゆる「親友」だ。もちろん悠人本人はその「親友」という関係を認めていない。クラスの女子たちが勝手に噂しているだけだ。この大学で、いつも一緒にいる男二人組というのは珍しく、彼らはその一組として数えられている。

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。知ってるだろ、俺は清純派には興味ないの。狙うなら熟した色気のある人妻か熟女だ。周りの学生は青臭すぎる。今日の説明会に色気のある女性人事担当者がいたら、就職を考えてやってもいい」

総司は適当なことをまくし立てる。スーツ姿に端正な顔立ちをしているため、街ゆく女性の視線を集めるには十分だ。

「で、履歴書はできたのか?見せてみろよ」

総司は遠慮なく悠人の手から薄っぺらい履歴書をひったくり、代わりに高価そうなビジネスバッグから自分の履歴書を取り出した。

二枚を見比べ、彼は口を尖らせてチッチッと舌打ちをする。

「ダメだな悠人、この履歴書じゃ」

悠人は横目でそれを見て、鼻で笑った。

このキザ野郎、履歴書をカラー印刷にしてやがる。さすがだな……

「で、悠人。この履歴書、どこの会社に出すつもりなんだ?」

「世界に名だたるフォーチュン500企業だ」

悠人は気だるげに答えた。

「500社のうちのどこだ?」

総司は目を輝かせ、食い気味に尋ねる。

「DDタクシー」

「……」

天道の手が止まった。まるでミュートボタンを押されたかのように、彼は黒髪の青年のやる気のない横顔を見つめ、絶句した。

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