頭の片隅にいつもあるのは、原作キャラの
人徳を大事にすることが、読者としても作者としても誠実なスタンスだということだ。創作の自由は尊重しつつも、そのキャラクターが長年築いてきた価値観や行動原理を安易に書き換えないことが最優先だと考えている。まずは原作を丹念に読み返し、キャラが何を大切にしてきたか、どんな失敗や葛藤を経て今の姿になったのかを掘り下げる。これだけで、物語のトーンや対話の調子が大きくぶれずに済むことが多い。
次に意識しているのは、動機の一貫性だ。たとえば、普段は他者を思いやるタイプの人物に急に冷酷な決断をさせるなら、その裏に相応の理由や心理的変化をきちんと設ける必要がある。軽いサプライズやドラマを狙って性格を翻すのは読者を裏切りかねない。代わりに、キャラの弱点や過去を深掘りして「なぜ今回そうなったか」を描くことが肝心だ。関係性の扱いも同様で、長年の盟友や師弟関係を尊重するなら、会話のトーンや礼節、距離感に細心の注意を払うべきだと感じている。たとえば『鋼の錬金術師』や『進撃の巨人』のように、関係性自体がテーマに直結している作品では、ちょっとした台詞の書き方で受け取られ方が変わる。
また、原作の倫理観や社会観を無視しないことも重要だ。もし原作がある種の寛容さや赦しを重視しているなら、ファンフィクションでもその価値観を踏まえた展開の付け方が自然だ。逆に原作が厳しい現実や冷徹な判断を描いているなら、あまりに安易なハッピーエンドで結びつけるのも違和感を生む。読者に対する礼儀として、設定の範囲内で可能な変化と不可能な変化を明確に分ける。必要なら注釈や時系列の明示、出典(話数や章)を示して整合性を保つのも効果的だ。
創作上のマナーも忘れてはいけない。原作者や出版社の権利を侵害しないよう配慮し、公開先やタグ付けで二次創作であることを明確にする。過度な商用利用や原作の重要プロットを無断で流用するのは避けるべきだ。さらに、自分以外の読者・作者への敬意を示すために、変化点(性格改変、死描写、恋愛の改変など)にはネタバレや注意書きをつけると親切だ。個人的にはベータリーダーに読んでもらって「この描写はそのキャラらしいか」を確認するプロセスが作品の信頼度を上げると思っている。
結局のところ、核になるのは敬意と理解だ。原作を深く理解した上で丁寧に肉付けすれば、新しい視点や掘り下げが自然に受け入れられる。大胆な解釈も、根底にある人徳を尊重する一貫性があれば魅力的な派生作品になる。そういう心持ちで書けば、読んでくれる人たちと温かい共感を築けるはずだ。