うちのレストランの社長は、株式を社員をやる気にさせるのが好きだ。 初期の株式保有率はゼロ。残業2時間で0.01%の株式が加算され、1人分の仕事を多くこなせばさらに0.01%追加、会社のコストを2万円節約すれば、また0.01%の株式がもらえる、という話だった。 私は社長に、「詳細な規則を正式な文書にして、専任の記録係を置くべきではありませんか」と提案した。 しかし、社長はただ笑顔で「みんなもっと頑張って」と言うだけで、その「インセンティブ制度」を文書にすることはなかった。 古参スタッフは社長の空約束を信じなかったが、一人だけ本気にした仕込み担当のスタッフがいた。彼は、年末に社長に株式の引き換えを求めた。 しかし、社長はこう言って断った。 「シェフさんが言ってた通り、社印のない文書がないので、株を交換することはない」 そのスタッフは1年間必死に働いたにもかかわらず、何の見返りも得られなかった。その怒りと恨みを、すべて私にぶつけた。年末に私が帰省する前日、包丁で私を襲い殺した。 「文書がなきゃ無効だなんて言わなきゃ、このレストランは、全部、僕のものだったんだ!」 幸運なことに、血だまりの中で倒れた私は、社長が私たちに空約束をしたあの日に戻っていた。
View More同僚たちも私と一緒にそっと外へ出た。オフィスの中ではまだ激しい口論が続いていた。「瑛海が夜にたまたまここでご飯を食べただけでしょう?それで何度か料理を作ってもらったからって、どうしてあなたと両思いになるのよ!瑛海は、私にそんな話一言もしていないわ!そもそも、あなた、自分の立場をよく考えたら?」寺田社長は、自分の尊大だな娘が田舎から来たスタッフの若い男に心を寄せるなんて、ありえないと信じて疑わなかった。小森可偉の母親はテーブルを叩いて、激しく怒鳴りつけた。「うちの息子が仕込み担当だからって、何よ!彼は努力家で志が高いのよ!親に迷惑をかけたことなんて一度もないわ!約束通りに株を渡せば、彼はもうスタッフじゃない。レストランの株主になるの!株主よ!若くしてオーナーの一人よ!それでどうしてあなたの娘と釣り合わないなんて言えるの?」寺田社長は、怒って言った。「夢みたいなことを言わないで!株を狙うだけでなく、娘まで奪おうとするなんて!すぐに出て行け!さもないと、警察を呼ぶわよ!」その時、小森可偉が冷静に口を開いた。ポケットからスマホを取り出して見せた。「本当は、株をもらった喜びの瞬間を記録するつもりだったんです。でも、あなたが約束を破る姿を録画することになりました。この動画をネットに公開して、あなたの醜態を晒します。このレストランがもう続けられないようにしてやる!」寺田社長はこんな手があるとは予想もしなかった。確かに約束を破ったのは自分であり、この動画が公開されれば、ネットで非難の嵐に遭うことは目に見えていた。自分の評判を何よりも大事にしているから、そんな大事なものを潰されるわけにはいかなかった。すると、慌てて小森可偉からスマホを奪おうとしたが、一人では太刀打ちできない。加えて、彼の母親は相当気が強く、寺田社長を簡単に押さえ込んでしまった。小森可偉は母親を連れて、レストランを後にした。寺田社長は床に倒れ込み、痛みに呻き声を上げた。「やれるものならやってみなさいよ!誰か、止めて!」......結局、小森可偉は無事に動画をネットに公開した。そこには、寺田社長が約束を反故にした様子が映っており、それを見た人たちは激怒した。レストランの評判は地に落ち、非難のコメントが殺到した。「真面目な人をいじめてる?小森の努力はみんな知ってる
小森可偉がホワイトボードを持ってオフィスに入ってきた。全員が誰もが一言も発せず、何が起こるかと興味津々で見守っていた。小森可偉はホワイトボードを指し示しながら、一つ一つ寺田社長に説明を始めた。「12ヶ月間、毎月で4万円を少なく受け取り、その分を株式0.24%に換算しました。本来の職務は仕込み担当ですが、それ以外に搬入、清掃、配膳も兼任してました。夜間には、シェフの代わりもしました。これらを株式0.48%に換算しました。それから、レストランの経費削減に貢献した分、一年間で合計4百万円のコストを削減しました。これを株式2%に換算しています。さらに、夜間に自分で接客したことで、2百万円の売上を追加しました。これが株式1%分です。それから、本来休むべき休日にも、近隣の住宅街や学校にチラシを配り、配達も自分で行いました。この分は、株式3%に換算しました」......私は横で話を聞きながら感心していた。彼には、私が思いつきもしない稼ぎ方がたくさんあったのだ。すべてを合計すると、なんと株式10%分を要求していた。確かにこの若者は大した志を持っている。だが、もし社長がこの計算に基づいて本当に株式を渡したら、1千万円以上を譲らなければならなくなる。そんなことはあり得ないのは当然だ。どんな社長でも、たとえ仕込み担当がどれだけ頑張ったとしても、10%もの利益分配を与えるなんて笑い話にもならない。寺田社長は椅子から立ち上がり、小森可偉の肩に手を置き、いかにも説得するような口調で言った。「小森さんの一年間の努力は、皆がちゃんと見てる。でも、小森さんが起こした問題で私も損害を被ったわ。だから、功績と過失を相殺して、年末には少し多めのボーナスを出すから、よく年越しをしてね」小森可偉は、この言葉を聞いて信じられないという表情を浮かべた。「社長、これらは年初に話し合って決めたことじゃないですか!どうして今さら約束を破るんですか!」寺田社長はさらに言葉を重ねた。「レストランを家のように使って、夜中にここに泊まってるけど、私がその費用を取ったことがある?夜中に残業して水道費、光熱費を使いまくっても、私が、細かく請求したことなんて一度でもあった?それに、ネットで小森さんに対して『サクラだ』とか『詐欺師だ』なんて悪口が流れていたけど、それも
厚生労働省は市民からの通報を受け、うちのレストランに立ち入り検査を行って、厨房の冷蔵庫からは腐った肉や傷んだ果物が見つかり。現場に駆けつけた寺田社長は、驚愕と困惑の表情を浮かべていた。「絶対にこんなものを使うのを許すはずがない!どうして厨房にあるの?これは明らかに誰かの嫌がらせよ!」しかし、監視員がモールの監視カメラを調べたところ、小森可偉が夜中に大きな袋を運び込む姿が映っており、それが決定的な証拠となった。これを見た寺田社長は怒りが爆発し、小森可偉に詰め寄った。「どうしてこんなことをしたの?!誰がこんなやり方を教えたのよ!」しかし小森可偉は自信満々で答えた。「社長のために節約していたんです!食材の支出が半分に減ってるの、気づきませんでしたか?これは全部、僕の功績ですよ。レストランのために節約したのが、そんなに悪いことですか?」寺田社長は怒りを抑えきれず叫んだ。「何だって?!このレストランは私のものよ!私が、どうするかを決めるの!私が、そんなに節約しろって言ったの?」その場には、まだ監視員がいて、証拠も揃っていたため、罰金と改善命令が下された。寺田社長はしぶしぶこれを受け入れるしかなかった。監視員が立ち去った後も怒りが収まらない寺田社長は、その場で小森可偉の頬を平手打ちした。「出て行け!もう働かないで!」小森可偉は信じられないという表情を浮かべた。半年以上も懸命に努力してきて、ようやく手が届きそうだった株を目前で逃すなんて。信じられないという顔をしながら叫んだ。「僕、こんなに一生懸命働いたのに!毎日、娘さんの夜食を作って尽くしてきたし、残業だって誰よりも多くして、たくさん働いてきました。たったこれだけのことで僕を追い出すんですか?僕の努力を無駄にするつもりですか?良心がありますか?」寺田社長は顔を赤くして怒り返した。「私は、給料を払ってる雇い主よ!あなたはスタッフなんだから、これがあなたの仕事でしょう?それに、残業は自分でやったことじゃないの!何を文句言ってるのよ!」二人が殴り合いになりそうだったため、私は慌てて間に入り、仲裁を試みた。「冷静になってください!今は怒りに任せて、感情的になっているだけです。まずは落ち着きましょう」そして小森可偉に向き直って言った。「小森さん、社長に謝りなさい。
ある日、寺田社長の娘、寺田瑛海が友人たちと近くで遊んでいた。夜になってお腹が空き、友人が彼女に言った。「ねえ、せっかくだから、お母さんのレストランでご飯食べようよ」「えっ?こんな時間じゃ、シェフさんも帰っちゃってるし、もう何も作れないんじゃない?」と寺田瑛海。友人は笑いながら彼女を軽く押し、冗談を言った。「まさかケチってるんじゃないでしょうね?このレストラン、今ネットで超人気なんだから、きっと夜も誰かいるよ。それに、あの『忠犬』を見に行くいいチャンスじゃない?」「忠犬」という言葉に少し興味を引かれた寺田瑛海は、友人たちとともにレストランへ向かうことにした。一行は女子4人と男子3人。到着すると、小森可偉は、厨房で夜の市場から拾ってきた傷んだ果物をせっせと処理していた。皮をむき、種を取り除いているところに、外からの声を聞いて急いで出てきた。「小森可偉か?」と誰かが指をさしながら聞いた。彼は笑顔を崩さず答えた。「そうですが、何かご注文ですか?」一行は遠慮なく席につき、次々と料理を注文した。小森可偉は料理を作って、レジカウンターに立ち寄り、どれくらいお金を使うか確認していた。少人数でも、合計で4万円近くの大金を使っていた。それも、ほとんどの料理は少ししか手をつけられていなかった。食べ終わると、一行は会計をせずにそのまま帰ろうとした。小森可偉は急いでスマホの支払いコードを出し、彼らに声をかけた。「お会計をお願いします」すると、彼らは一斉に嘲笑を始めた。「このレストランのスタッフって、社長の娘も知らないの?それで金を請求するなんて!」寺田瑛海は眉をひそめて言った。「母に言っとくから、大丈夫よ。お金なんて気にしなくていいわ」しかし、小森可偉は譲らなかった。「何言ってるんです?こんな夜中にタダ飯を食べるなんて許しませんよ。今日お金を払わないなら、誰一人として出られません!」そう言うと、ドアを閉め、鍵をかけてしまった。「バカじゃないの?信じられないなら、明日母にクビにしてもらうよ!」と寺田瑛海が怒ると、小森可偉は冷静に反論した。「本当に社長の娘なら、4万円くらいどうってことないでしょう?まず払ってください。それから、お母さんに返してもらえばいいじゃないですか。なぜ、僕を困らせるんです?」その言
レストランの人気は引き続き上昇し、注目を集めようとする数多くのユーチューバーが群がってきた。社長が掲げた方針のもと、今では小森可偉一人だけではなく、他にも貧しい生活に悩む4~5人の同僚が夜遅くまで残業するようになっていた。一方で私は、相変わらず定時に退社し、勤務中にやるべきことだけを淡々とこなしていた。なぜなら、こうした高いインセンティブが与えられる状況では、いずれどこかにルールの盲点が現れるだろうと分かっていたからだ。私はそのようなことに関与するつもりもないし、口を挟む気もなかった。そんな中、レストランを注視している無数の目が浮き彫りにしたのは、いくつかの運営上の問題だった。そして、それがすぐにマイナスイメージとしてネット上で拡散された。【SNSに浮上した負面の投稿】「このレストラン、サクラを雇ってるんじゃないの?こんなに話題になるわけないでしょ。客の残したフルーツを、別のフルーツプレートに再利用してるのを見た!」「料理が辛いのは分かるけど、それで味や匂いをごまかそうとしてるんじゃないの?今日食べたレバー、絶対に腐ってた!」「小森可偉なんて完全に仕込みのキャラでしょ!今どき、そんなに真面目に働くすスタッフなんているわけない。数日間の残業ならまだしも、毎日なんて信じられない!」「あいつが仕込み担当で、トイレ掃除までやってるんでしょ?その店の料理なんて、吐き気がするよ」寺田社長はネット上の批判を目にした。その後、数日間、マイクを持ったインフルエンサーたちが押し寄せ、質問攻めにするようになった。それで、事態の深刻さをようやく認識した。特に料理の品質に関する疑問に対して、急いで動画を撮り、潔白を主張した。「当店では、決して劣悪な食材を使用することはありません!いつでもチェックしに来ていただいて結構です!」しかし、「年末に本当にスタッフに株を分け与えるのか?」という質問には、一切触れようとしなかった。寺田社長はスタッフを急遽集めて会議を開き、次のように厳命した。「残業は禁止、ユーチューバーのインタビューも受けないこと!まずは料理の品質を守り、当店の評判を維持することが最優先です!」すると、小森可偉が最初に反論した。「残業できないなら、どうやって業績を積み上げて株を手に入れればいいんですか?それは困ります
小リンゴは小森可偉に取材の意図を説明した後、いろいろと「質問攻め」にした。「あなたは、夜勤ですか?他に誰かまだ働いてますか?」小森可偉は答えた。「僕一人だけです。夜勤ではなくて、自分の意思で残業してるんですよ」「さっき脚立に登ってたけど、何をしてました?」「電球に埃がたまってるのを見つけたので、拭いてたんです」「もしかして、オーナーですか?」小森可偉は急いで手を振りながら否定した。「まさか、全然そんなことないですよ!でも、社長が『年末に頑張った人には株を分けてあげる』って言うから、それを目指して努力してるんです。お金を貯めて、来年は結婚したいと思ってます」「それなら、社長さんは本当に良い方ですね!あなたの夢が叶いますように!」小森可偉は目の前の二人が親切そうな顔をしているのを見て、ついつい話が弾み、二人を厨房に案内して、自分が獲得した株の記録が書かれたボードを見せた。彼の名前は堂々とトップに書かれていた。カメラに向かって誇らしげに語った。「僕は今、すでに1.05%の株を手に入れてます。このレストランで一番努力してるのは僕です!食材の搬入から、料理の配膳、掃除、仕込み、さらにはトイレ掃除まで全部やってますよ。毎日6時間残業して、給料も月に6万円少ないけど、少し我慢して年末に株をもらう方が重要です。まだ若いですが、目標はちゃんと長期的に見てます」小リンゴは、彼の熱意あふれる話に感心したような表情を浮かべながら、内心では「こんな時代にまだ社長の甘言を真に受けるなんて、本当に珍しい人だ」と思っていた。帰る間際、小森可偉は二人にこう提案した。「何か料理を注文していきませんか?シェフじゃないけど、料理は作れますよ。良ければ、ぜひ2万円分くらい注文してください!非営業時間の売り上げは全て追加収益としてカウントされます。年末には、あなたたちの厚意をちゃんと覚えておきますから!」小リンゴは笑いながら、「今日はお腹いっぱいだから、また次回来る時に協力するね」と言い、小森可偉は名残惜しそうに二人を見送った。小リンゴは「とんでもないスクープ」を掴んだつもりで、小森可偉の話に夢中になりすぎたせいで、厨房の細かいチェックを忘れてしまった。レストランを出てから思い出し、ライブ配信の視聴者にこう語った。「皆さん、電球まで拭
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