Masuk中学三年生の月野沙羅は、学校に馴染めず不登校になった。そんなある日、気分転換のために外へ行くと、不思議な雰囲気を纏う深山律に出会う。そんなに律に惹かれ、沙羅は密かに恋心を抱く。 しかし、その先に予想もしない困難が待っていた——。 大切な人を守るため、二人で秘密を背負いながら進む。ドキドキの恋愛ミステリー。
Lihat lebih banyak私は首を傾げて彼の言葉を待った。目の前にいる彼は一歩私に近づいて言葉をこぼす。「あいつと知り合いなの?」 意図が読み取れず眉を顰める。数秒考えてから彼に視線を向けた。鋭い彼の視線で体が強張る。一度拳に力を入れてからつぶやいた。「あいつって?」「青い目のやつ」「あー……」 彼の澄んだ茶色い瞳から一人の人物が伝わってきて、頭に浮かんだ。その笑顔があまりに眩しくて、気づけば心の奥がじんわりと温まっていた。しかし、彼の瞳は律を警戒しているようで、なぜか頭に血が上った。「そうだけど、何?」 彼の棘ある言葉に強く返してしまいすぐに後悔をする。目の前にいた彼も一瞬目を大きく見開いた。思ったより低い声が出て、自分も驚く。咄嗟に彼が視線を逸らしたことで、頭に上った血が全身を巡るように感じた。「いや、別に」「そっか。ていうか|瑠唯《るい》くんだっけ?」「そうだけど……」 私はなるべく笑顔を浮かべるように優しく言葉にした。自己紹介を聞いて偶然覚えていた名前を口にする。そうして手を差し出した。「私、月野沙羅って言います。よろしくね」「別に……仲良くするつもりはないから」 そのまま手を握り返すことはなく、瑠唯は背を向けて立ち去った。野良猫みたいだな、と肩を落としてため息をつく。 振り返るとすぐ近くに顔を顰めた翔真がいた。「今の誰?」「誰って、|音瀬《おとせ》瑠唯くんだよ。自己紹介聞いてなかったの?」「覚えるの苦手なんだよ。ていうかそういうことじゃないから」「どういうこと?」 私は翔真の言葉に首を傾げた。翔真は呆れたようにため息をつき言葉をこぼす。「なんの話してたのかって」「あー……まぁ律の話してた」「なんで?」 目を見開いた翔真が首を傾げる。私はなんとなく面倒に感じて言葉を濁した。「さぁ?それより屋上行こ。紬ちゃん呼んでくるね」「おう、そうだな」 それ以上は聞くこともなく翔真はその場に留まる。私は紬ちゃんの席に行き、彼女の肩を叩いた。 屋上の扉を力いっぱいに開くと、律がその音に気づいたようでこちらを向く。「律、お待たせ!」「お疲れ……って翔真くんと、誰だろう。初めましてだよね」 律は不思議そうに首を傾げて、紬ちゃんの方に視線を向ける。私は翔真の後ろに隠れていた紬ちゃんの腕を優しく引き、律の前に連れて行った。「昨日、友だちに
私たちは昇降口の入り口に張り出されたクラス表を見ていた。先に自分の名前を見つけた私は律の方に視線を向ける。律の視線の先を見て心に雲がかかった。 「律、何組だった?」 「僕は三組だったよ。沙羅は?」 「私、一組」 律は分かりやすく肩を落とした私を慰めるように、そっと肩を叩いていた。少し視線を上げて律を見れば、悲しみを宿した表情で微笑んでいる。ひんやりした春の風が二人の頬を掠めた。 「まぁしょうがないよ」 律の言葉に私は下を向いて頷く。律のいない教室を想像すると、何かが足りない空虚感があった。私は、悲しげな瞳の奥で熱を灯して、はっきりと言葉を告げた。 「絶対休み時間に会いに行くね」 「ふふっ、待ってる」 律の表情から笑みが溢れた。その表情を見て、私も自然と口角を上げる。そして教室へゆっくりと歩き出した。 廊下を歩いていると、私たちに少し視線を向けてコソコソ話している同級生が視界の端に入った。私の耳元に口を寄せて律が呟く。 「やっぱ噂になってるみたいだね」 「ん、なにが?」 私は律に視線を向けて首を傾げる。思ったより顔が近くて心が跳ねた。律は周りの人たちをぐるりと見渡して言葉をこぼす。 「僕たちのこと」 「あー……」 律の言葉を聞いて、私は昨日の光景を思い浮かべた。確か、私たちは手を繋いで帰ろうとしていたはずだ。今思うと、なぜ同級生がいる前で堂々と手を繋いだのだろう。私は自分に対して溜息をついてから言葉をこぼした。 「昨日見られてたのはそういうことだったのか」 「きっとそうだろうね」 律は頷いて顎に手を当てる。そこで律の教室の前に着いたので、扉の前で足を止めた。寂しい気持ちが心を埋めて、足が接着剤でくっついたかのように動かなくなる。律のことを見つめていると、律は首を傾げて口を開いた。 「どうしたの?」 「……寂しいなって」 私が言葉をこぼすと律の目が大きく見開かれた。すぐに先ほどよりも明るい笑顔になって、私の手を優しく掴む。そのまま手を引かれて、人気の少ない場所まで連れて行かれた。 「ここならいっか」 そんな言葉が聞こえると、全身にふわりと温もりが伝わった。動けなくなった体を律に預けて言葉をこぼす。 「律?」 「充電させて」 甘い声が耳に吹きかかり、顔が赤くなってい
平穏な日常はすぐに流れ過ぎ、気づけば私たちは高校生になっていた。今日から私と律は同じ高校に通う。 入学式の朝、太陽が穏やかな表情で、新しい春を迎える生徒たちを祝福していた。まだ馴染んでいない制服に袖を通して、律の家へ向かう。新しい制服の肩が、やけに重く感じた。動かしづらい腕を一生懸命振って律の家までたどり着く。震える手で扉を叩いた。 すぐに扉が開き、強張った表情の律が顔を覗かせる。 「律、おはよう!」 「おはよう……」 「緊張してるの?」 「……少しだけ」 普段の頼もしい律とは少しだけ違い、触れたら割れてしまいそうなほど繊細な表情をしていた。 私は思わず口から笑みをこぼし、律の手を優しく握った。律の手はかすかに震えている。律の指先から、私の心の奥まで震えが伝わり、全身に広がった。静かに見つめ合い、そっと微笑み合う。一度、律の手を離した。森の香りを乗せた温かい風が、私たちを包んだ。思い出したように律が口を開く。 「あ、カバン持ってくるね」 そう言って律は、部屋の中へ戻っていった。開いたままの扉から律の後ろ姿を眺める。律はカバンを部屋から持ってきて、家の鍵を閉めた。 「私も緊張してきちゃった」 「緊張するよね」 「でも、律がいるから楽しみ!」 「僕も沙羅がいるから安心できるよ」 二人はお互いを引き寄せ合うように手を繋ぐ。いつもより強く握られた手に、不安と期待が滲んでいた。 「律!いつものところ寄ってから行こ!」 「あ、ちょっと……」 私は律の手を強く引き、ある場所へ迷いなく突き進む。やがて、一本の木の前で足を止めた。初めて出会った時、律が寄りかかっていたあの木だ。 「よし!律も手を合わせて」 「分かったから引っ張らないで……」 木の前に二人で並び、目を瞑って手を合わせる。事件が収束した時から、二人の習慣だった。朝、律の家で待ち合わせて、木の前で手を合わせる。――確証はないが、私たちに力をくれているようで、心の奥が震えた。 木に別れを告げて、私たちは歩き出す。毎日来ているのに、なぜか心細さが残った。 この地域には高校も少ないため、家から歩いて一時間ほどかかる高校へ向かう。それでも律と話している高揚感で、疲れなど感じなかった。 「沙羅は、高校で何がしたい?」 「んー……文化
私は今日も律と並んで登校をしている。秋が近づいているというのに暑さは変わらなかった。夏の名残を感じる暑さに憂鬱な気分になる。「律ー……溶けそう」「暑いもんね……」「あ、いいこと思いついた!」「なに?」 私が声を上げて言うと、爽やかな表情をしている律が私を見て口角を上げる。律の笑顔を見ると何故か涼しい気分になれた。「学校まで走ろうよ!」「余計暑くなるじゃん」「どうせなら早く行って学校で涼もう!」「えー……」「よし!行くよ!」「……やだ」 そう言いながらも律は小走りで私に着いてくる。以前より蝉の鳴き声も少なくなり、事件の終幕を告げているかのようだった。「沙羅、もう疲れたよ……」「えーもう?」「歩こう」「しょうがないなー」 笑い合いながら歩く姿を、後ろから木々が見守ってくれる。木々をすり抜けて冷たい風が私たちの頬を掠めた。 学校の喧騒にも慣れて、私たちもクラスに溶け込んでいた。窓側の席は風が私を包み込んでくれるようで、律の庭を思い出す。私の心が穏やかになった。「律おはよう」「あ、翔真くん」 あれから翔真は、律に懐いている犬のように、常に私たちの近くにいた。翔真は律の肩に腕を回して、豪快な笑みを浮かべている。 私は無意識に唇を尖らせて、翔真を睨んでいた。「沙羅…?」「ん?どうしたの?」「いや、顔が怖いよ……」「え……」 すぐに、頬をつねって表情を和らげる。そんな様子を翔真が笑って見ていた。「お前、嫉妬だろ」「ち、違うもん!」「え、嫉妬してくれたの?」「う、うぅ……」 私は顔を真っ赤にして机に顔を伏せる。律はそんな私の頭を撫でてクスッと笑みをこぼしていた。——こんな幸せが続くといいな あれから律のあの現象は抑えられるようになってきている。どうやら、好きな人の匂いでその衝動を抑えられるようになったらしい。律の言葉を思い出して頰を赤く染める。 机に一筋の光が差していた。私の気持ちも前向きになる。 私たちに希望の光が見えてきた。隣にいる律の笑顔が私の未来を照らす。そんな光を守るために、私は律の影であり続けようと思った。 暗闇から私を導いてくれた律の幸せが、いつまでも続きますように——そう願って私は律の後ろを静かに歩いた。 しかし、穏やかな日々の下には、まだ沈黙の闇が息を潜めていた。 二人はその存在を知