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メルヴィル作品のアレンジで忘れてならないのは、『ビリー・バッド』をモチーフにした学園ドラマ『INNOCENCE』(2020)だろう。海軍から私立高校へ舞台を移し、いじめと冤罪をテーマにしたこの作品は、原作の倫理観を驚くほど自然に現代に移植した。
特徴的なのは、SNSの拡散力という新たな要素を加えた点だ。主人公の無実を証明しようとする教官の奮闘が、ツイートのリツイート数と連動して進行する演出は、デジタル時代の「噂」の恐ろしさを如実に物語っている。時代は変わっても人間の本質は変わらないというメルヴィルのメッセージを、全く新しい形で輝かせた好例だ。
台詞の少ないメルヴィル作品の映像化は、そもそも難易度が高い。そんな中で傑作と言えるのが『バルトリューチェ』(2019) の実験的アプローチだ。『書記員バートルビー』をオフィスビルからコワーキングスペースに移し、ミレニアル世代の疎外感を見事に対比させている。
無言のラストシーンは、原作の不気味さを保ちつつ現代的な孤独に置き換えており、SNS時代のコミュニケーション不全を想起させる。監督は意図的にスマホの通知音やチャットメッセージの効果音で緊張感を演出し、19世紀のペンとインクが担った静寂をデジタルノイズで再解釈している。こうした細部の選択が、古典の現代化における重要なヒントになる。
メルヴィルの濃密なテーマを現代に移植する試みは、確かにいくつか存在している。『白鯨』の精神を受け継ぐ作品として、クリス・ヘイズ監督の『ハート・オブ・ザ・シー』(2015) は19世紀の捕鯨船の悲劇を実話ベースで描きつつ、自然との対峙という普遍性を浮き彫りにした。
特に興味深いのは、原作の寓話的要素をSFに転換した『リヴァイアサン』(2014) だ。宇宙船を舞台に人間の傲慢さを問うこの作品は、メルヴィルが投げかけた文明批評を異なる形で継承している。映像美と哲学的深さが融合した稀有な例と言える。
現代風アレンジの核心は、原作の重厚なテーマをどれだけ柔軟に解釈できるかにある。単なる設定の変更ではなく、ディストピア的要素や環境問題といった現代的な文脈にどう落とし込むかが勝負どころだ。