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編成の幅を広げることが重要だと感じる場面は多い。例えば『鬼滅の刃』のように和楽器的な色彩が求められる楽曲では、通常のロック編成に尺八のフレーズを模したフレーズをギターで表現したり、和太鼓のアタック感をスネアの叩き方で再現したりすることで原作の匂いを出している。
僕はステージで音色の選び方に時間をかける。シンセのパッチを和風寄りに調整したり、ボーカルに伝統的な節回しをほんの少し取り入れてみたりすることで、視聴者が「それらしい」と感じるラインを作る。ただしやり過ぎると浮くので、バランス感覚が勝負だ。最終的には曲全体のダイナミクスを原作のドラマと同じように起伏をつけて進めることが肝心だと思う。
ライブの舞台で原作の情景を音でなぞるとき、まず目指すのは空気感の再現だ。
僕はいつも曲の“鳴り方”を考える。『進撃の巨人』のように大きなスケール感を持つ作品では、ギターやシンセの厚みを増やして壁や戦闘の重さを表現することが多い。低域を強調して歪みをコントロールし、ドラムは鼓動のように刻むことで観客の胸に直接響かせる。
次に大事にするのは瞬間の“演出”だ。サビで照明が光る瞬間に合わせてブラスやコーラスを重ねたり、間奏で一度音を抜くことで原作の緊張と解放を再現する。単に原曲を再現するだけでなく、舞台上の動きや視覚効果と互いに作用させることで情景が生き返る感覚を作っている。
曲の間合いを調整する時、感情の流れに敏感にならざるをえない。
僕はある公演で『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の挿入歌を担当した経験があって、その時はただ綺麗に弾くだけでは足りなかった。原作の場面は言葉にならない想いの機微が肝で、フレーズの終わりを少し引き伸ばしたり、歌のブレスを自然に変化させたりして、画面の呼吸に音を寄せた。そうすることで観客は曲を聴きながら場面を追体験できる。
また、間奏で弱めに弾く瞬間を作ると、ステージの光や映像とピタリ合う場面が生まれる。視覚と聴覚のタイミングを細かく合わせる作業は手間がかかるが、その分感動が深くなるのを実感する。
即興性を尊重する場面も多い。『カウボーイビバップ』のようなジャズ魂を持った楽曲では、原作の雰囲気を壊さない程度にソロを伸ばしたり、テンポをほんの少し揺らしてニュアンスを出すことが効果的だ。
僕は曲の核となるメロディを守りつつ、その周辺で自由に遊ぶことが好きだ。たとえばサックスっぽいフレーズをギターでアドリブ風に入れたり、リズム隊と一瞬の駆け引きをして間を作ると原作のクールさが生きる。こうした即興的なやり取りは、毎回の公演で微妙に違う情景を観客に提示する手段にもなり、ライブならではの一期一会を生むんだ。
観客との掛け合いを意識して演る曲もある。『ラブライブ!』系の楽曲では、音の処理だけでなく振りや掛け声とのタイミングが重要で、曲の構成を少し変えてコール&レスポンスを入れやすくすることがある。
僕はステージ上でテンポを微妙に調整して歌いやすさを確保したり、間奏で観客の反応を拾って次のパートを強めに出したりする工夫をする。そうすることで原作の「一体感」やアイドル的な盛り上がりをライブ特有の熱量として再現できる。結果として映像や演出と合わさった瞬間に、原作のシーンが会場全体で共有される感触が生まれる。