作家はオメガバースとはどのように設定を作りますか？

設計図を描く感覚で話すと、オメガバースの世界はまず“ルールの集合体”として組み立てるものだ。私が最初にやるのは、生物学的な仕組みと社会的なルールを分けて考えること。発情（ヒート）や匂いの表現、身体的な差異がどこまで“生理”で、どこからが文化的意味付けなのかを決める。例えば匂いがコミュニケーションの中心なら、その描写は頻出するけれど、医療や衛生、法律がどう対応するかも同時に設計しないと世界に穴が開いてしまう。

私が気をつけるもう一つは「一貫性」。発情の周期や強度、身体の反応は物語を通して整合させる。俗語や礼儀、階級制度まで細かく詰めると、その世界での会話や対立がリアルに見える。起源設定も重要で、たとえば“突然変異”なのか“遺伝子操作”なのか、それを巡る倫理や歴史が社会構造を生む。

創作の現場でよくある落とし穴は、同意の扱いを曖昧にすること。私がいつも強く言うのは、性愛表現や力関係を描くときは当事者の意志や背景を丁寧に描写すること。強烈な生理現象を描くためにキャラクターの主体性を奪うような手法は避けたほうがいい。世界のルールを決めたら、それが人物の選択や葛藤にどう影響するかを徹底的に考えると、説得力のあるオメガバースになると信じている。

細かな運用面を突き詰めると、世界設定はぐっと信頼できるものになる。技術や医療の発展度合いを決めると、妊娠管理や避妊法、発情の制御手段が物語に与える影響が見えてくる。私が設定を詰めるときは、技術的な可否だけでなく、それが誰にアクセス可能かという“社会的配分”まで考える。

言葉遣いと慣習も重要だ。例えば特定の呼称や敬語、儀礼的な振る舞いがあると登場人物の立ち位置が一瞬で伝わる。このとき注意しているのは、用語を羅列して説明するのではなく、会話や行為の中で自然に示すことだ。読者は説明文よりも行動から世界を判断するからだ。

最後に私が常に心に留めているのは「検証すること」。設定を作ったら、そのルールに基づく小さなシーンをいくつも書いてみて、矛盾や意図しない帰結がないか確かめる。必要ならルールを緩めたり増やしたりして調整する。こうして磨かれた設定は、物語の推進力になると実感している。

関係性のダイナミクスに注目して設計する方法もある。私が物語を書くときは、支配と服従、保護と脆弱さといったテーマをどう均衡させるかを念頭に置く。オメガバースでは身体的な差異が感情や権力に直結しやすいから、二人の距離感を作る段階で「誰が選ぶのか」「どの瞬間に同意が生まれるのか」を丁寧に描くことが不可欠だ。単に発情シーンを繰り返すだけでは読者は共感しないし、キャラクターの信頼関係が育つ過程を見せることでシーンの重みは増す。

私がよく使う手法は、社会的圧力と個人の欲求を対立させることだ。家族や職場、宗教や法律といった外的要因が主人公たちの選択に影を落とすと、関係の成立に説得力が生まれる。物語の中で儀式や約束事を細かく示しておくと、違反や越境が大きなドラマになる。感覚描写では匂いや体温、鼓動の描写を比喩を混ぜずに具体的に書くと、読者はその緊張をより直接的に感じる。

昔の悲恋劇の構図を借りることもあるが、私の場合は伝統的な枠組みを意図的に壊していくことが多い。例えば“力を持つ側が守る”というテンプレを逆手に取って、守られる側が決定権を持つ場面を作る。そうすることで読者に既成概念の再検討を促し、ただの官能描写にとどまらない関係性の深さを狙う。