LOGIN女神によって異世界へと送られた主人公は、世界を統一するという不可能に近い願いを押し付けられる。 分からないことばかりの新世界で、人々の温かさに触れながら、ゆっくりと成長していく。
View More「あ~、夏休みだってのに補習なんて行きたくねぇ……」
俺――黒川 夜(くろかわ よる)は、照りつける太陽の光に目を細めながら、不満を漏らす。
高校2年の夏。数学のテストで壊滅的な点数(詳細は国家機密)を取ってしまったせいで、愛川かえで先生から補習を言い渡された。
しかも、俺だけじゃなく、同じような犠牲者があと3人いるらしい。教科ごとに分かれているせいで、各担当教師との二人きり。地獄のマンツーマンコースを強制されることに。俺が通ってる白新高校は進学校。勉強はそこそこできるという自負がある。だが数学……てめえはダメだ。
数学とか、人生のどこで使うの……って思っちゃう。「まあ、言い訳だけどさ……はぁ……」
20分ほど歩いてようやく学校に到着。
ワイシャツの下に着ている母親がスーパーで買ってきた安物の肌着が、じっとりと汗を吸って気持ち悪い。しぶしぶ机に教科書とノートを広げ、適当に漫画を開いて時間を潰していると──
ガラガラガラッ……
教室の扉が開く。
入ってきたのは愛川先生。そしてその後ろには……見知らぬ、異様なほど美しい金髪の女性。透き通るような肌、完璧な顔立ち、モデルどころかこの世のものとは思えないレベルの美貌。彼女は微笑みながら先生の肩にそっと手を置いている。
……いや、先生の様子、おかしくね?
目の焦点が合っておらず、俺を見ているようでどこか別の場所を見ているみたい。
みんなからかえでちゃんの愛称で親しまれている彼女。栗色のショートカットに、教師らしいスカートタイプのスーツ姿。小動物を思わせる小柄で可愛らしい印象の先生が、なぜか今日は化け物のように感じてしまう。
「黒川ぐん……ぎょうヴぁ補習し、じます。頭の悪い子はいでぃまぜん!」
ヨダレを垂らしながら、危ない薬でもやってるんじゃないかってくらい瞳孔が開いた目で俺を睨みつける愛川先生。その姿に、背筋がぞわりと粟立つ。
「な、なんかやばくね……?」
絶対におかしい。あんなのかえでちゃんじゃない。
幸い、俺は窓から遠く、出口に近い席に座っている。逃げるなら今だ。自分の感覚を信じて席を立つ。 そして、一目散に走りだ……そうとした。「あら、補習はまだ終わっていませんよ?」
透き通った声が教室に響く。琴の音のように美しく、まるで脳に直接響くような、そんな声が。
金髪の美女が俺に微笑む。 その視線を受けた瞬間、心臓が強く締めつけられてしまう。 何が起きているんだ。胸に走る異様な痛み。うまく呼吸ができない。──まずい。これは、絶対にまずい。
全身が総毛立ち、まるで操られたように勝手に席に戻ってしまう。直前まで走り去ろうとしていた俺の意思はどこへ行ってしまったのか。
金髪の美女は先生の肩に置いていた手をすっと離す。
すると、愛川先生の体がガクリと崩れ落ち、床に倒れ込む。「せ、先生……!?」
駆け寄ろうとするが、動けない。まるで、見えないロープで体が椅子に縛りつけられてるみたい。
「大丈夫ですよ? 何も怖くはありませんから」
絶世の美女の声に、俺が安堵しようとしているのが恐ろしい。
脳みそがあいつの言いなりになっている。全てを包み込もうとする強欲な微笑みを浮かべ、美女がゆっくりと歩み寄ってくる。それがひどく邪悪なものに感じてしまう。
……怖い。怖い。怖い。
逃げたいのに、膝がガクガクと震えるだけ。
俺の目の前で立ち止まった美女が陶器のような白い手を、優雅な仕草で俺の頭へ伸ばす。
「あ……あぁ……」
恐怖で自分の口から勝手に声が出る。
どうにかなってしまいそうだ。もう耐えられない。氷のように冷たい指先が額に触れた瞬間……そこで俺の意識は途切れてしまった。
ヨールとして冒険者にになり、3年が経った。 今ではオリハルコンランクの2級。名ばかりで何もできなかった頃から考えると、随分と遠くまで来たもんだ。気がつけば、上級冒険者として名簿に名を連ねるようになっていた。 人族の国『ヒューマニア』に点在するダンジョンは、ほぼすべて踏破した。命を削るように戦い、身ひとつで切り抜けてきた。貯金もそれなりにできたし、生きていく上での不安はもうない。 ――やっと、次に進める。 旅の最初に立てた目標は、世界平和。笑われるような理想だった。薄暗いボロ宿で一人、シミだらけの汚い天井を眺めながら、どうやって世界を統一しようか……なんて、一生懸命に考えていたあの日が懐かしい。 でも、それはただの夢じゃない。俺がこの異世界に飛ばされた理由は、世界を一つにしなければ元の世界に帰れないからだ。 次に目指すのは、獣人の国『ビーストリア』。 人族とは何世代にもわたり対立してきたと聞く。けれど、俺には失うものも、守るものもない。その分、恐れずに飛び込める。冒険者という立場が、せめて対話のきっかけになればいい。 まずは向こうの冒険者たちと関係を築こう。共に依頼をこなし、実力を認めてもらえれば、やがては国の中枢に声が届くかもしれない。急がない。
戦斧と盾を置き、岩山を駆け登っていると、ロックリザードが懲りもせず襲いかかってきたが、噛みつきをバックステップで避け、ハンマーのように右手を脳天に叩きつけると岩のような表皮は砕け、頭蓋を砕く音が聞こえ、ロックリザードは舌を出してぐったりと力なく倒れた。回収する数が増えてしまったけどラマツンがいるから大丈夫だろう。 2体のロックリザードを回収すると、山間を薄いオレンジ色に染め上げながら太陽が昇ってきていた。そろそろラマツンも交代しているだろう。地面を慣らすように尻尾を持ってトカゲを引き摺りながら大急ぎで岩山を降りた。 門に近づくと、ラマツンと交代した門番が目を丸くしながら口をあんぐりと開けていた。「ラマツン、行くよ」「よ、よし行くか。回収したやつはアジャが見てくれるから、門の横に並べておこう」 交代した門番はアジャというらしい。ラマツンよりも小さいが「お、おいラマツン。その怪力の女の子は彼女か?」「ラマツンは僕の手下」「そう、私はケンザキ様の下僕……って違うだろ!」「行くぞ我がラマツン」「だから違うって! 武器は持っていかないのか?」 無視して山を登り始める。ラマツンはやれやれと首を振っているが、僕は早く終わらせて寝たい。 上から順に回収していく。一往復で大体1時間半くらいかかり、僕が2体、ラマツンが1体の計3体だと7往復で終わる計算だ。 3往復し、4往復目に差し掛かるとラマツンが遅い。「ラマツン遅い」「ぜぇ……はぁ……少し休憩しないか?」「だからモテない」「な……!? やるよ、やりますよ!」 ラマツンが元気になったみたいだ。両頬を叩いて気合を入れているようだが、顔面蒼白で体調が悪そうだ。恐らくそれが巨人族の絶好調なのだと思う。 途中ラマツンがロックリザードに襲われた。武器を持っておらず、疲れから反応できていない様子だったので、飛び上がって
「街に入りたい」 僕は今街の門の前にいる。門番が街の中に入れてくれなくて困っている。「だからダメだと言っているだろう! 夜間の門の開閉はゴールド級冒険者以上もしくは許可された者以外には出来ない!」 僕よりも背の高いメロンのように逞しい肩をした巨人族の門番がガミガミと怒っている。「ねえ、街に入りたい」「いつまで続けるつもりだ!」「街に入れるまで」「それでは朝になってしまうな」「じゃあそうする。街に入れて」「気でも触れてるのかこの娘は! 怪しい格好に怪しい言動、通せるわけがないだろう!」「じゃあ脱ぐ」 盾と戦斧を地面に置き、上着のボタンを1つ外す。「何をしている貴様! 服を着ていようが着ていまいが朝まで街には入れんのだ!」「僕を通さない、冗談も通じない。つまらない人」「な、なに……。この俺がつまらないだと!? よーし分かった。貴様はどうせ朝まで街に入れんのだ、門が開くまで俺が話に付き合ってやろう! 俺の名前はラマツンだ」「僕はケンザキ」 ラマツンは肩に担いでいた5メートルはあるだろうロングハンマーの先端を下にして地面に立てるように置き、腰に手を当てて仁王立ちになった。「ケンザキは冒険者なのか? 何故1人でゴールド級が依頼を受けるような場所にいる?」 返答に困る質問だ。なんて答えようか。「冒険者じゃない。岩トカゲを倒してた」「岩トカゲってロックリザードのことか? 南の森にいるストーンリザードではなくてか?」「ちょっと待ってて」 辺りは真っ暗で月明かりと星明かりしか頼るものがないが、何も見えないわけではない。盾を地面に突き刺し、岩山を駆け上がり、一番街に近い位置で倒したトカゲの尻尾を掴んでラマツンの元へ持って帰ってきた。「これ」「ロックリザードじゃないか! ふむ、確かにソロで倒すには骨が折れる相手だ。日が暮れてしまうのも頷けるな。ちなみに俺ならソロで1時間もかから
「じゃあこのリパッパデルコーサをお願いしまーす!」「かしこましましたー、こちらの席へどうぞ」 自信満々に注文したけどわたしは何を頼んだんだろう。日本円で1300円てまあまあの値段だったから失敗してないといいんだけど。 ウエイトレスさんが持ってきてくれた水は薄くピンクがかった色をしている。氷は入ってないけどひんやりと冷たい。「頂きます!」 あ、これ多分ワインを薄めたやつだ。アルコールはあまり感じないけれど、ほんのりと赤ワインの香りがする。「お待たせしましたー、リパッパデルコーサでーす!」 透けるように薄く切られた円形の巨大な大根で魚や色彩豊かな野菜が包まれてる。美術展に展示されていても気づかない程の完成された美しさに、ほぅと思わず溜息が出る。 木のナイフとフォークで食べるようだ。大胆に半分に切ると、中からソースがとろりと溢れ出し、同時にわたしのヨダレも溢れ出した。恐る恐る一口大に切り分けたそれを口に運ぶ。「うんまっ! なにこれー!」 これは当たりだ、大当たりだ。息つく間もなくぺろりと平らげてしまった。さて、デザートが気になりますねぇ。「ウエイトレスさーん、甘いものってありますー?」「こちらのゲロンデなど如何でしょうか?」「はーい、それにしまーす!」 名前は不吉な感じがするけど、このお店のならなんでも美味しい気がする。大丈夫でしょ。「こちらゲロンデになります」「はー……何これ?」「こちらゲロンデというカエルのモンスターの鼠径部付近の脂肪をギロングヤシの実からとれたミルクで味付けしたものになります」「な、なるほど……」 カエル……。ぶつ切りの白くてシワシワでぶにゅぶにゅした見た目の塊がココナッツミルクのような液体に浸っている。どうしようか、勇気を出して食べてみようか。えーい、いっちゃえ!「お、美味しい。美味しすぎる!」 甘みが強く酸味のある香り高いココナ