ちょっと想像してみてください、
マイペースという言葉が音楽のかたちに変わる瞬間を。テーマが示すのは速さではなく“余裕”や“自分のリズム”なので、僕が主題歌を作るときはまずその感触を頭の中で丁寧に確かめます。テンポは速くても遅くてもかまわないけれど、聴き手が焦らされないこと、呼吸が整うことを最優先に考えます。拍子は普通の4/4でもよいし、6/8のゆったりとした揺らぎを使っても面白い。肝心なのは“揺れる余地”を曲に残すことで、そこに歌や演奏の余韻が生まれます。
次にメロディとハーモニーの設計ですが、強烈な起伏や速いフレーズを多用するよりも、反復と少しの変化で安心感を作ります。たとえば、ワンフレーズの中で同じモチーフを繰り返しつつ、最後の小節だけコードをひねるなど、聴き手が「お、今ちょっと違う」と気づく瞬間を意図的に作ります。伴奏は余白を活かすためにシンプルに。アコースティックギターやピアノのアルペジオ、温かいパッドや柔らかいストリングスを薄く重ねて、音がぶつからないようにします。リズムはスネアを強調しすぎず、軽いブラシやコンガ系のゆるいビートで“走らない”印象を出すことが多いです。
歌詞はマイペースのコアを直接的に語るより、日常の小さな発見や自分の内側に寄り添う言葉で紡ぎます。短いフレーズを反復したり、語尾を少し伸ばして呼吸を感じさせると、歌全体がゆったりとした会話のようになります。ボーカルの録り方も重要で、あえて完璧を追い求めすぎず、微かな息遣いや言い回しの揺らぎを残すと人間味が出ます。コーラスやハーモニーは控えめに、ところどころで厚みを出して安心感を与えるのが狙いです。
アレンジの最終段階では、ダイナミクスのコントロールと空間作りに時間をかけます。曲の盛り上がりは緩やかに、ピークも尖らせず“広がる感じ”でまとめるのが合っています。ミックスではリバーブやディレイを柔らかく使い、音同士が仲良く会話しているようなバランスを目指します。もし主題歌として映像と結びつけるなら、映像の余白と呼吸を合わせてタイミングを決めると、よりマイペースのテーマが自然に伝わります。最終的には、聴き終わったあとに肩の力がすっと抜けるような曲を目指して仕上げます。こんなやり方で作れば、マイペースというテーマが音そのものからちゃんと伝わると感じています。