霧島透子の変化を追うと、僕には作者が段階的に“信頼の回復”を描いているように思える。
序盤では言葉が少なく、周囲との距離を保つ描写が中心だ。表情や細やかな所作で内向性を示し、語りは断片的で読む側に欠落感を与える。ここでの透子は観察者に近く、他者の物語を見守る役回りに置かれている。
中盤以降、作者は会話の密度と行動の積極性を増やして変化を見せる。決定的な事件や誰かの一言が契機となり、透子の内的独白が長くなり、自分の意志で動く場面が増える。細部では手の動きや服装の変化といった非言語表現が積み重ねられ、内面の蓄積が外面に反映される描き方が丁寧だ。
終盤は過去の葛藤に折り合いをつける描写があり、作者は急激な改変を避けつつも確かな成長線を示している。感情の揺れをそのまま肯定する書き方で、むしろ不完全さごと受け止めることで透子の人物像に深みを与えていると感じる。