ぷるんとしたフォルムに小さな王冠がのっているだけで、なぜか愛おしくなる存在だと思っている。『ドラゴンクエスト』シリーズに登場する“キングスライム”は、もともとごく小さなスライムという基本モンスターを
王様にしたアイディアがそのままデザインになったようなものだ。制作にはキャラクターデザインを担当した鳥山明氏のシンプルで丸みのある造形思想と、企画の発想(複数のスライムが合体して大きくなる)というゲーム側のメカニクスが強く反映されている。見た目の元ネタを一言で言えば「王冠+スライムの拡大化」、そこにマンガ的なデフォルメ美学が乗っかったものだと感じる。
ゲームの文脈を考えると、キングスライムの成り立ち自体がそのままデザイン動機になっている。もともとスライムはシリーズのマスコット的存在で、プレイヤーにとって親しみやすい丸い顔と笑顔が特徴だ。そこに「王」という明確な属性を与えるには、視覚的に真っ先にわかるものが必要で、誰もが把握できる王冠が選ばれた。王冠や首飾りといった装飾は西洋の中世的な王のイメージからの借用がわかりやすく、対比でコミカルさが生まれる。小物を足すだけで下位の雑魚が“ボスらしく”見える、という手法はRPGの敵デザインでは古典的だが、鳥山氏のタッチだとそれがとても魅力的に映る。
また、素材感や色使いにも意図があると感じる。スライムの半透明でゼリーのような質感は、子どもでも親しめる食べ物(プリンやゼリー)を連想させるため、とっつきやすさが強調される。キングスライムはそれを大きく、かつ金色の王冠で飾ることで「強そうだけど可愛い」という微妙なバランスを作っている。さらに、ゲーム側の都合としてシルエットだけで敵の判別がつくこと、2Dや初期の3D表現でも一目で分かる単純さが求められたこともデザインに影響している。そうした実用性とキャラクター性が合わさった結果が、あの最小限の要素で最大の印象を与えるビジュアルになっている。
余談めくが、似た発想はいくつかの派生作品やメディアでも見られる。たとえば色違いや装飾違いの“キング”バリエーションは、象徴的なアイテムでランク付けするというRPGの古典的な手法を踏襲している。個人的には、あの単純さと遊び心がずっと好きで、デザインとしての完成度の高さは今でも色あせない。シンプルな形にひとつ刺さる要素を加えるだけで、キャラクターが強烈に立つ──キングスライムはその好例だと思う。