地団太という言葉の履歴を追いかけると、口語表現としての成り立ちと書記体系の変化が絡み合っていて面白い。語形そのものは擬音・擬態語の重ね(だんだ+だ)から来ていると考えられ、足を踏み鳴らす動作を音で表現したものだと僕は理解している。言葉として文献に現れる確かな時期を特定するのは難しいが、口承的なジェスチャー自体はずっと古いだろう。人が腹立ちや悔しさで足を踏む行為は古代からある行為だから、その音をまねた語も自然に生まれていたはずだ。
文書としての証拠が増えてくるのは中世以降、特に江戸時代の庶民文芸や随筆、戯作などで頻繁に見られるようになる点が重要だと感じている。江戸期に活字や浮世絵を通して広く流布されたことで、現在の形『
地団駄を踏む』『地団太』といった定型句が定着した。漢字表記には揺れがあり、『駄』『太』など複数の当て字が用いられたが、発音は基本的に「じだんだ」で変わらない。この表記の揺らぎは、音を文字でどう表すかという近世の事情を反映していると思う。
現代に至るまでの流れを総括すると、行為そのものの歴史は古く、書記に現れる形が明瞭になるのは主に中世以降、そして江戸期に一般化して近代に入ってから標準化された――と僕は解釈している。民俗学や口語史の観点からは、地域差や表記差を手がかりにさらに遡れる可能性があるが、日常語としての定着は江戸を境に急速に進んだ、という感触を持っている。