中世を舞台にした知的ミステリーを好むなら、'The Name of the Rose'(1986)は見逃せないと思う。修道院という限定された空間で起きる連続殺人の謎解きを通じて、教会の権威、学問と異端の境界、そして帝国的な力関係がさりげなく浮かび上がる。僕が特に面白いと感じたのは、推理のプロセスそのものが中世の思想史や教派論争に根ざしていて、単なるサスペンス以上の深みがある点だ。
ヨーロッパの内戦を背景にした映画で忘れがたいのは'The Last Valley'(1971)だ。三十年戦争というホーリーローマ帝国内部の狂乱を舞台に、戦闘の混乱がもたらす人間の倫理と日常の崩壊を叙情的に描いている。僕がこの作品に惹かれるのは、戦場の荒廃を単に残酷さとして見せるのではなく、どの勢力も完全な悪でも善でもない曖昧さを映すところだ。登場人物たちは理想や信念だけで動いているわけではなく、生き延びるための選択に追われる。