比喩表現としての働きを意識すると、選べる訳はおのずと絞られてくる。灯台もと暗しは“身近な盲点”を指すことが多いから、私は短く強い英語に置き換えることが多い。場面がコミカルなら『you're overlooking the obvious』のような言い回しを選ぶし、シリアスなら『the nearest place can be the most hidden』のように少し重みを持たせる。
たとえば登場人物が自分のすぐ近くにある真実に気づかない場面なら、『it's right under your nose』や『you can't see what's right in front of you』のような口語的で即効性のある英訳が有効だ。対照的に、作品全体のトーンが叙情的であれば、直訳的なイメージを残した『it's darkest beneath the lighthouse』のような案も生きる。『ノルウェイの森』のような微妙な内面描写の中では、どちらの方向を取るかで読者の受け取り方が大きく変わる。