言葉の選び方を見ると、英語版では複数の自然な言い回しが使われることが多い。原文の『帰路に着く』は動作の開始と向かう先を同時に表すので、英語では "set off for home" や "made his way home" といった表現が典型的だ。前者は行動の始まりを明確に伝え、後者は移動の過程や距離感を含めやすい。
実際の翻訳では文体や登場人物の性格で選択が変わる。たとえばカジュアルな会話では "headed home"、やや硬い語りなら "departed for home" や "took his leave for home" が合う。リズムや語数の制約も重要で、短い一文に収めたい場合は簡潔な "went home" が採られることもある。
個人的には、情感を残したい場面では "made her way home" のように過程を感じさせる訳を好む。場面の性質に応じて訳語を微調整するのが翻訳の腕の見せどころだ。
耳に残るあの気だるさとぶっきらぼうさを翻訳で再現するのは、いつも頭を悩ませる仕事だ。やじろべーの台詞は短く、時に投げやりで、言葉の端々に人となりが滲む。翻訳するときは単に語彙を置き換えるのではなく、話し手の態度や場の空気を言語間で動かすことを意識している。たとえば日本語の「めんどくせえ」一語をどう処理するかで印象が変わる。単純に「what a pain」とするか、それとももっとぶっきらぼうな「don't feel like it」で済ますかは、その場面の緊迫感やコミカルさに合わせて選ぶ。
実戦では三つの方向を試すことが多い。第一に口語的で砕けた英語を使い、とにかく軽薄さを出す。第二に地域色を借りてキャラクター性を強調する(ただし文化的誤読のリスクに注意)。第三に敢えて翻訳注や脚注で説明を入れ、原語のニュアンスを読者に残す。『ドラゴンボール』の翻訳史を見れば、版によってはやじろべーの粗野さを強調するために語尾の省略やスラング化を選び、別の版ではより中立的で読みやすい口調に落ち着けた例もある。
訳者として私はいつも、読者がキャラクターをどう受け取るかを最優先に考える。やじろべーの無愛想さが単なる悪態に終わるのか、どこか憎めない人間味として立ち上がるのかで語調を変えると、翻訳は生きてくる。最終的には、場面の感情と語りのテンポを優先して訳語を選ぶことが多い。