古い手紙を一通読むところから話を始めるとして、その手紙が
蕾本家の隠された季節を開くんだと想像してみる。僕はその手紙を書いた人物の声を追いかける形で外伝を組み立てたい。中心になるのは、戦前から続く家の“匂い”と匠の仕事──祖父の代で途絶えかけた庭師の技、祖母が密かに残した染物の図案、
兄妹間に流れるわずかな確執。手紙はある夜に庭の小屋で見つかり、そこには家族が抱えてきた小さな抵抗と選択の痕跡が綴られている。
語り口は回想と現在を行き来させるのが面白い。手紙の断片を手がかりにして、語り手が過去の記憶を再構築していく過程を描く。場面転換のたびに別の視点を差し込み、読み手が徐々に“真実”に近づく構成だ。具体的には、祖母の若き日の恋とその選択が一家の運命を微妙にずらしていたこと、祖父が故郷を離れる決断をした理由、そして家宝の小さな箱が持つ象徴的意味が明かされる。こうした要素は、しばしば局所的な美術や手仕事の描写で補強されると世界が生き生きする。たとえば、柄の入った布切れ一枚が時代を越えて語るような場面があると、読者は家の歴史を手触りで感じられる。
物語の雰囲気には『蟲師』のような静かな余白を取り入れたい。超常ではなく人の心のひだを丁寧に掘ることで、平凡な日常が逆に重くなる。外伝は単発の事件解決に走らず、日常の小さな選択が世代を跨いで影響を与える様を描くことで魅力を生むはずだ。最後は完全な解答を与えずに、読む人が自分なりの解釈を抱いて余韻を持ち帰る形にする。そうすることで蕾本家の過去はただの説明文ではなく、読後にも伸びる影を残す――そんな外伝が読みたいし、作られたら没頭してしまうだろう。