胸が詰まるのは、裏山が物語の決定的な場所になる瞬間を目にしたときだ。'あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。'では、子どもたちの
秘密基地や裏山が過去と向き合う場として機能している。幼い日の遊び場が、成長した彼らの抱える痛みや後悔を照らす舞台になり、そこで交わされる言葉や沈黙が一層重く伝わってくる。
作中のあるキーシーンでは、裏山の木の下に集う光景が強烈に印象に残る。見た目はのどかな場所なのに、そこにある古い記憶が一気に噴き出す描写には胸が苦しくなる。キャラクターたちがそれぞれの立ち位置で過去を認め合い、和解に向かう過程は、背景としての裏山の存在感があってこそ成り立っている。
個人的にあの作品の裏山描写は、景色が登場人物の心情を代弁する好例だと感じる。風景が台詞の裏側を補完して、見ている側の感情を無言のうちに動かしてくるから、いまだにページを閉じたあとも涙が引っ込まない。