あの時の掘削列車の描写を思い返すと、制度と個人の衝突が見えてくる。地下や閉鎖的な環境を舞台にする物語では、限られた空間での“支配的物語”がどのように正当化されるかが大きなテーマになる。'メトロ2033'ではカルト的な教義や強固な統治構造が登場し、個人の自由と集団の安全の間に鋭い亀裂が生まれる。
わたしが注目するのは、情報操作や恐怖政治が倫理判断をいかに歪めるかだ。感染や放射能といった外的脅威は、内部統制の名目で不正を隠す
口実になり得る。医療や検査、隔離といった場面で出てくる実験の倫理、被験者の同意の問題、子どもや弱者への配慮の欠如など、制度化された不正義が浮き彫りになる。物語はしばしば、その是正のために個人がどんな代償を払うかを問う。