「よく来たわね。貧乏臭くて吐き気がするわ」
松本咲夜は豪奢なイブニングドレスに身を包み、鼻を押さえながら、少し離れた場所から嫌悪感をあらわにして私を見つめていた。
東京のお嬢様である彼女の誕生日パーティーに招待されたのに、名家の令嬢たちの前で私を侮辱する。
「そんなに臭いなら、洗ってあげましょうか?」
そう言って、見覚えのある意地悪な笑みを浮かべた。
次の瞬間、私はプールに蹴り落とされた。
彼女のパーティーに体裁よく参加するため、全財産の3000円をはたいて白いワンピースを買ったのに。
狼狽えてプールサイドに這い上がると、濡れた白いワンピースが透けて体にぴったりと張り付き、不快な感覚に襲われた。
咲夜は鋭い目つきで私の痩せた体を見回し、冷笑した。「やっぱり誰とでも寝る下等人ね。今度は皆にあんたのおばあちゃんみたいな下着を見せたいの?」
私は胸を両手で隠し、慌てて逃げ出した。
後ろから笑い声が聞こえてきた。
でも、邸宅が広すぎて道がわからず、どんどん暗くなっていく場所へ逃げ込んでしまった。そして、ふいに厚い胸板にぶつかった。
清々しい木の香りが私を包み込んだ。
私は赤くなった鼻を押さえながら、小さな声で謝った。「ご、ごめんなさい......」
すると頭上から軽い笑い声が聞こえてきた。「どこから来た野良猫かな?」
磁性のある魅惑的な声に、思わず顔を上げてしまった。
月明かりの下、男性の整った顔立ちが一層魅力的に見えた。
私はしばし見とれてしまった。
彼も私を観察していた。朧月夜の中、薄手のドレスは私のくびれたボディラインを隠しきれていない。驚きで少し開いた唇は、まるで摘み取られるのを待つ花のようだ。
男性の表情が一瞬暗くなり、次の瞬間には両手で私の細すぎる腰を包み込んだ。
低い声で言った。「誘惑する野良猫だったとはね」
そう言うと、顔を近づけてキスをしてきた。
彼の唇は熱く、せわしなく、良い香りの白檀の香りがした。私も思わず夢中になってしまう。
突然体が宙に浮いた。男性に抱き上げられたのだ。
「あっ......」
思わず小さな悲鳴を上げ、驚いた子鹿のように、哀れっぽい目で男性を見上げた。
私の無邪気な様子を見て、男性の機嫌が良くなったようだ。
口元を上げて言った。「怖がらなくていいよ、野良猫ちゃん。俺が気持ちよくしてあげる」
恥ずかしそうに彼の広い胸に顔を埋めたが、心の中では冷笑していた。
もちろん怖くなんかない。だって、この出会いは私が一歩一歩計算して辿り着いたものだから。
私はただの山村から必死に這い上がってきた貧乏学生。成績優秀で名門校に目をつけられ、高額な奨学金をもらって無料で通えることになった。
希望に胸を膨らませて大学に入学したのに、入学初日、松本咲夜は私の継ぎ当てだらけの服を見て嘲笑った。
「本当に誰でも彼でも私のクラスメイトになれるのね」
たったこの一言で、私の世界は闇に包まれた。
仲間はずれにされ、トイレに閉じ込められ、椅子に画鋲を置かれ、汚水をかけられた。
松本咲夜と私は同じ学校にいても、身分は雲泥の差だった。
我慢して黙っていれば、彼女は私を放っておいてくれると思った。
でも、そうはならなかった。彼女は法さえ無視するほど大胆だった。
単に面白いからという理由で、スポーツカーで校門の前で私をはねとばした。
事後、ハイヒールで近づいてきて、札束を私に投げつけた。「お金が欲しいんでしょ?よくも私に当たり屋なんかするわね」
私は3ヶ月も入院して、やっと回復した。
でも、クラス委員長の久保田悠人が一度見舞いに来ただけで、松本咲夜は私の治ったばかりの足にタバコの火を押し付けた。
「あんた知らないの?久保田悠人は私が狙ってる男よ。あんたが誘惑しようなんて」
また車ではねられて殺されるかと思ったけど、意外にも咲夜は誕生日パーティーの招待状をくれた。
招待状を見て、これが私のチャンスだとわかった。
松本咲夜を倒さなければ、次は私が彼女に殺される。
そう思うと、私は男性の首に腕を回し、色っぽく囁いた。「私、初めてなの......優しくして......」