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第1068話 祝いごとが続く日々

Author: 栗田不甘(くりた ふかん)
二つの家族が久しぶりに一堂に会し、賑やかなひとときを心ゆくまで楽しんだ。そして大晦日の前日、みんなで専用機に乗ってフランスへと戻っていった。

あっという間に、大晦日の夜がやってきた。

今年は三井家の皆がそろっていて、祝い事も重なった年。そのため、三井蒼はとくにこの日を大切にしていた。

朝早くから、三井家の執事が使用人たちを指揮し、邸宅中の飾りつけに大忙し。赤い提灯が吊るされ、家中が華やかに彩られて、正月らしい雰囲気に包まれていた。

三井鈴が階段を降りると、三井助がさっそく駆け寄ってきて、懐から分厚いお年玉袋を取り出して手渡してきた。「鈴ちゃん、あけましておめでとう」

三井鈴は目を細めて笑い、ぱっとそれを受け取った。「わぁ、すっごく厚い!ありがと、兄ちゃん!」

「僕のもあるぞ」

三井悠希も階段を下りてきて、惜しげもなく用意していたお年玉袋を差し出す。「ここ数年はずっと家にいなかったからな。抜けてた分、今年まとめて渡すよ」

「わーい、ありがとう、悠希!」

お年玉をたくさんもらって手がふさがった三井鈴は、両手でそれぞれの兄の腕を取り、感慨深げに言った。「ふたりがいてくれて、ほんとに幸せ!」

三井助と三井悠希は視線を交わし、満ち足りたような誇らしい笑みを浮かべた。

ちょうどそのとき、三井陽翔と小林雪奈が玄関から入ってきた。

三井陽翔は気遣うように小林雪奈のマフラーを外し、三人の兄妹が笑い合っている様子を見て、自然と微笑んだ。

「うちも、こんな賑やかなのは久しぶりだな」

小林雪奈も頷いて返した。「うん、本当だね!きっと、これからもっとよくなっていくよ」

三井陽翔は彼女の肩を抱き寄せながら、笑って言った。「来年には、ふたりのちびが生まれるんだ。忙しくなるぞ」

小林雪奈は照れながら彼の腕をこつんと小突き、顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。

意味がわからず、三井助が思わず口にした。「兄さん、ちびって誰のことだ?」

三人の顔に同時に疑問が浮かぶ中、最初に察したのは三井鈴だった。「もしかして義姉さん、妊娠したの?」

「えっ、ほんとに妊娠?」

「お義姉さんが?」

兄ふたりはハモるように声を上げ、思わず目を見合わせた。

すぐさま三人が駆け寄り、小林雪奈をぐるりと囲んだ。

小林雪奈は恥ずかしそうに三井陽翔の胸元に身を寄せる。三井陽翔はしっかりと
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