Chapter: 7黙っているとさらに高瀬は言葉を続ける。 「告白しようって決意してたけど、先生を目の前にするとやっぱり言えなくて……。先生と離れて『告白してどうするんだ』『迷惑じゃないか』って悩んで気がついたらもう連絡できなくなったからもう諦めた方がいいのかなって」 俺が高瀬に対する気持ちに気づいたころ、高瀬は俺を諦めようとしていたのか。 「だけどインタビュー受けた後から、どうしても声が聞きたくなって。でも声聞いたら会いたくなってしまうし……本当は告白する気なかったのに、先生が家に呼ぶから」 その言葉に思わず笑ってしまった。 「俺のせいかよ」 「公園で顔見るだけでよかったのに……しかも手に触れてきたりとか、反則でしょ」 「だってお前が寒そうだったから、それにゆっくり話したかったし」 そう言うと、ふいに高瀬は俺の腕を手に取った。突然だったから心臓が飛び出そうなほど驚いた。 「雪ノ下先生、僕のことどう思ってますか?ただの元生徒?」 「え、あ……」 すると高瀬は笑顔を見せる。それは『遊園地に連れてって欲しい』とおねだりをされた時に感じたあざとい笑顔と同じ。 「先生は寂しかったって言ってくれたし、同性にこんな告白されて普通なら拒否するのに、先生は顔を赤らめて僕の話を目も背けずに聞いてくれてる。今だって僕の手を振り解かないし」 そう言えばさっきから顔が熱い。というか、もう見破られている。 高瀬はジッと俺の答えを待つ。さっきまであんなに雄弁だったのに。 ああ、もう降参するしかない。 「お、俺が自覚したのは最近だからな」 心臓が口から出てしまいそうだし、顔から火が出そうに熱い。 「ちゃんと聞きたいです、先生」 「〜〜っ」 こんなに意地が悪かったか?と思いながら、心の中でもやもやしていたその言葉をとうとう口にした。 「……高瀬が好きだよ」 すると、高瀬は満足そうな笑顔を見せる。ほんの少しだけ目が潤んでいるのはきっと気のせいではないだろう。俺は何だか力が抜けて高瀬の手を握り返した。 「お前が芸能界復帰するって聞いて、俺に見せていた笑顔をみんなに見せるのかと思ったらイラついたんだ。ただの生徒なら独り占めしたいって思わないし」 一度好きだと口にするともう楽になって、想いを伝える。高瀬は笑顔のまま俺を見つめて
Terakhir Diperbarui: 2025-05-05
Chapter: 6都電の横を走りながら高瀬の待っている公園に俺は急いだ。そして街灯の下でスマホを見ている高瀬を見つけた。 「高瀬」 顔を上げた高瀬は動画で見た通り、塾にいた頃よりもうんと大人っぽくなっていて笑顔を見せてきた。久しぶりに見た、画面越しではない笑顔に俺は胸が熱くなる。自分の顔が赤くなってないか、心配だ。 だけどよく見ると高瀬が少し疲れたような表情なのは仕事帰りだからなのだろうか。それとも寒い中外にいたせいか。 コートは着ているものの、この気温ならダウンジャケットじゃないと堪えるはずだ。 「雪ノ下先生」 どれくらい冷えたのか心配で思わず高瀬の左手をにぎった。するとかなり冷たくてこっちが震えるほどだ。 「こんなに冷たくなって」 両手で手を擦ってしばらく温めてやると、高瀬が手を振り解く。 そして突然俺に抱きついてきた。あまりのことに、俺は声が出ない。 ふわりと香る柑橘系のフレグランス。サラサラの髪が頬に当たる。 それはほんの少しの時間。でもとても長く感じた。 「たっ、高瀬?」 ようやく声をかけると高瀬はゆっくりと体を離した。 「……先生が暖かいから、つい」 ついってお前、と言いかけて真横にある端正な顔に思わず目を逸らした。 「とりあえず! 俺の家に行くぞ。風邪ひいたら大変だろ」 「ここでいいですよ。わざわざ家に行くなんて申し訳ないですし」 近くまで来ているとアピールしながら、この寒空の下でいいなんて、謙虚なんだかよく分からない。 しばらく押し問答したあと俺の一言で高瀬は反論をやめた。 「俺が、寒いんだよ! だから家に来い」 コーヒーの香りが漂う暖かい部屋でしばらく体を休めるとようやく高瀬の顔色が良くなってきた。 「これ美味しいですね」 「近くに美味しいコーヒーショップがあって、焙煎した豆を買ってるんだ」 「へぇ」 それにしても、自分の部屋に高瀬がいるのが何だか不思議だ。まあ自分が連れてきたんだけど…… テーブルを挟んで俺はなんだかソワソワしながらコーヒーを飲んでいた。 それからポツリポツリとお互いに近況を話す。高瀬の近況はネットニュースに書いてある通りだった。 「……聞いていいか分からないけど、どうして芸能界復帰したんだ?」 「大学合格したとき、マネージャーが
Terakhir Diperbarui: 2025-05-05
Chapter: 5「この先生誰なのかなあ。雪ノ下先生、知らない?」 女子生徒の声でハッと我にかえる。 「さあ、分からない」 自分の頬が熱い。顔を背けたけれど、もしかしたら気づかれたかもしれない。 家に帰ってパソコンでもう一度、インタビューの動画を見ながら俺はため息をついた。 何故なら気がついてしまったからだ。 高瀬が『消しゴムをくれた先生』の話をした時の笑顔が、それまでの笑顔と違うことに。 そしてその笑顔を画面越しに見ることの寂しさの意味に。 俺は高瀬に恋愛感情を持ってしまっている。消しゴムの話も、笑顔も独り占めしたかった。 「……アホか、俺」 報われることのない気持ちに今更気がついたところで、何になる? いやそもそもあの頃に気がついても、どうしようもなかった。 塾の講師に告白されるなんて、ドン引きだろ。しかも同性だし。 『素敵なお話をありがとうございました。その先生に感謝ですね』 『はい、僕の大好きな先生です』 マイク越しに聞こえる高瀬の声。俺は液晶画面に手を当て、映っている顔を撫でた。 すると突然鞄の中からムー、ムーとスマホの振動音が聞こえた。帰宅して取り出してなかったなと思いながら慌ててスマホを出す。画面に表示された相手の名前は、高瀬だった。 約二年ぶりの連絡がいまこのタイミングだなんて。 『もしもし』 緊張して声が少しうわずってしまった。ああもうカッコつかないな…… すると少しだけ間があってようやく高瀬の声が聞こえた。 『お久しぶりです、雪ノ下先生』 さっきまでパソコンから聞こえていた声が、スマホを通して耳元で聞こえる。好きだと自覚した途端、自分に向けられる声がこんなに特別になるとは。 って俺、いい大人なのに何でこんなに初心にかえってるんだろうか。 『お元気ですか?』 『あ、ああ。相変わらずだよ。高瀬の方は……って元気そうだな』 俺の言葉に、高瀬は何かを掴み取ったのかまた少し沈黙が流れた。 『……復帰したの、知ってるんですね』 『うん。ネットニュースで見たよ。おめでとう。言うの遅くなったな』 『いえ、そんな』 『元々復帰の予定があったなんて、水臭いなあ教えてくれたら良かったのに』 照れ隠しのためか、自分の気持ちを吐き出したかったのか饒舌になってしまう
Terakhir Diperbarui: 2025-05-05
Chapter: 4その後、高瀬からメッセージが届くようになった。一人暮らしを始めたことや、講義が面白いとか他愛のないことを数ヶ月あけてポツリポツリと。それを読み返事を送る。 そんなやりとりは一年くらいは続いたけど、翌年からは少なくなり冬を迎える頃にはメッセージは来なくなった。 少し寂しいけれど、高瀬はきっと友達たちと充実した日々を送っているのだろう。 「雪ノ下先生、この回答についてなんですけど」 声をかけられてハッとする。目の前には、大学受験追い込み中の生徒がいた。 「ごめんごめん」 「授業中にボーっとしないでくださーい」 他の生徒につっこまれて、教室は笑い声が溢れた。 「うどんすすると鼻水止まらなくなりますねぇ」 昼休み、教員室で濱田はカップ麺を食べながら言う。汚いなー、と苦笑いしながら隣でおにぎりを頬張った。 また受験のシーズンがやってくる。今はその前の、ほんの少しだけ平穏な生活だ。 「ああ、そういえば雪ノ下先生。これ見ました?」 濱田は自分のスマホを俺に差し出す。ネットニュースが画面に表示されていた。 「中間ゆきみの婚約ニュース?お前ファンだったもんな」 「いや、そこじゃなくて。その下!」 婚約記事の下にある他の見出し。 『一世風靡したあの子役が芸能界復帰!』 その文字を見た途端、頭を叩かれたくらいの衝撃が走る。えっこれもしかして? 慌ててその文字をタップするとそこに表示されたのは、男の子と青年。 『たかせはやと』と『高瀬颯人』だった。 驚いたのは今の高瀬の画像。あの長い前髪はセンター分けになっていて、隠れていた大きな瞳がこっちを見据えているのだ。カメラには慣れているのか、表情は穏やか。 「高瀬くんなんだが変わりましたねぇ。こんなにイケメンってむかし、分からなかったな」 スマホを覗きながら、濱田が感心したように言う。イケメンだったよと心の中で呟きながら俺はなんだかモヤモヤしていた。 高瀬の前髪の下にある素顔を、色んな人が知ったこと。それが自分の中で焦りとも寂しさともとれる感情が渦巻いている。 『芸能界から離れ、学業に勤しみ大学進学を果たした。在学中であるため、芸能界活動は控えめにする予定』と記事には書いてある。どうして復帰する気になったのだろうか。 てっきり大学生活を普通の学生
Terakhir Diperbarui: 2025-04-30
Chapter: 3.結局、高瀬からメッセージが来て数日後に2人で遊園地に行くことになった。 心配していた雨は前日に止んで晴天。時間配分を間違えてかなり早く着いたのに高瀬はもう待ち合わせ場所にしていた正門に立っていた。どれだけ楽しみにしていたんだろうか。 黒い帽子とカーキのボディバック。いつもより少しオシャレ感が出ているが相変わらず表情は見えない。 俺は少し時間を置いて近寄り声をかけた。 「待たせたな」 高瀬はスマホから目を離した。 「いえさっき着いたので」 すました声に俺は思わず笑ってしまった。着いたのは『さっき』じゃないだろ。 「何がおかしいんですか」 「いや、なんでもないよ。行こう」 入園するやいなや、高瀬はキョロキョロと園内を見渡す。どうやら事前にアトラクションをチョイスしていたらしい。高瀬が目指したのはこの遊園地の目玉である、六十メートルの落差があるジェットコースター。 すでに数人並んでいて『怖いけど、頑張ろうね』なんて励まし合いをしているカップルがいた。まあ、気持ちは分からないでもない。 すると高瀬がコソッと聞いてきた。 「先生大丈夫ですか?」 「……なんで」 「眉間に皺がよってます」 めざとい。そう俺は絶叫系が少し苦手なんだ。なのに、乗るのは高瀬が乗りたがっているんだから、一緒にいってやらなくてはという使命感からきている。 「大丈夫だ。お前こそ泣くなよ」 そう強がったが、結局ジェットコースターから降りた後、俺は半べそ状態。悲鳴をあげすぎて喉が痛い。 対する高瀬は楽しかったらしく、興奮しながらもう一回乗りたいと言っていた。乗るなら一人で行ってくれ…… そのあとは、高瀬が気を利かせてくれたのか絶叫系のアトラクションではなくゆっくり楽しめそうなものを巡った。 園内に張り巡らされたレールに自転車みたいなものを使い、2人でゆっくり漕いでいくアトラクションは、地上5メートルという高さ。 眺めと風が心地よくて気持ちいい。 「これ、カップル用だろうな」 「雪ノ下先生もデートで遊園地行ったりしたんですか」 「うん、まあ」 ふぅんと言いながら黙々と漕いでいく高瀬。彼女を作ることもできなかったのだろうか。 「お前ならこれから彼女できるだろ。背も高いし顔だって」 さらさらの前髪が風に
Terakhir Diperbarui: 2025-04-24
Chapter: 2.高瀬はしばらく手にした消しゴムを眺めていた。表情がみえにくい前髪だけど、口元が緩んでいる。きっと喜んでくれているのだろう。 「先生、裏に名前書いてください」 「へっ」 なんで、と思いながらも断る理由もないので、戻された消しゴムに自分のフルネーム『雪ノ下陽介《ゆきのしたようすけ》』と書いた。 「陽介っていうんですね。苗字は寒そうだけど名前は暖かそう」 「いいこと言ってくれるな」 再度消しゴムを渡すと、それをポケットに入れて小さくお辞儀した。 それから高頼は今までにも増して講義を熱心に聞くようになった。そのせいか、消しゴムのおかげなのか、テストの点はうんと良くなった。 数学だけではなく他の科目もつられて点数が上がったので、希望する大学の合格ラインに程遠かった模試の結果も、狙える範囲内の評価になっていた。 受験を控えたある日。寒くなったなあと思いながら猫背で廊下を歩いていると、高頼が前から歩いてきた。 「雪ノ下先生、寒そう」 「俺、宮崎県の出身だからここの寒さは堪えるんだよ」 はは、と笑う高頼。最近ではよく笑顔を見るようになっていた。昔見た、思わずテレビを消してしまいたくなるような笑顔ではなく、自然な可愛らしい笑顔だ。 「いよいよ週末が本番だな」 受験日を間近にして本人以上に身震いしてしまう俺だが高頼はいつものように飄々としている。 「そうですね。ヘマしないように頑張ります」 「まあいまのお前なら大丈夫だよ」 「一年前は絶望的でしたけどね。先生たちのおかげですし、雪ノ下先生がいてくれたからここまでこれました。ありがとうございます」 思わぬ言葉に俺は鼻がツン、とした。どうも最近涙脆くていけない。 「そうだ、先生。行きたいところがあるんですけど、合格したらお祝いに連れて行ってくれませんか」 突然の申し出に驚く。高頼とは他の生徒よりは少し距離は近いが贔屓しているわけではない。それに塾講師と生徒がプライベートで近づくのは昨今、禁止されている。 俺が即答出来ずにいると高頼は続けた。 「僕、遊園地に行ったことがなくて。小さい頃からスタジオばかりで親も連れて行ってくれなかったから」 前髪にうっすら隠れている大きな目。それがじっと俺をみている。 多少のあざとさを感じながら、そういった事情であ
Terakhir Diperbarui: 2025-04-23
Chapter: 8(この部屋も見納めかあ) 三日後にコオは帰らなくてはいけない。そのことはワスカも知っているから、いまこうして一緒の部屋で過ごすようにしている。コオが帰ってしまったあと、彼は自分のことを忘れないだろうか、などと後ろ向きの考えが浮かんでは消える。 それに、街へ戻り一級薬草師の資格を取ったところで、それをどこで活かすべきなのか、自分はどういう道に進みたいのか、全く見当がつかないのだ。ため息をつくとうつ伏せになりワスカを待った。 翌日。コオは明日の滞在最終日まで密林に入って色々な薬草を探していた。滞在中、見つけたのは希少性の高いものから普段使われているものまで。ココリス村は薬草の宝庫だった。 「研究者がこの村に来る理由が分かるな」 汗を拭きながら手にした薬草を見つめる。それは独特の香りを放つシイ。皮膚の再生に役立ち、主に切り傷や火傷に効果がある。 「俺には薬草の見分けがつかない」 クスコスは知っていたワスカだが、さすがに二級薬草師の知識には到底及ばない。だが、コオがいろんな薬草を見つけては、その名前と効力を一つずつ教えていた。 「ああ、腹減ったな。昼飯はなんだろう」 一旦戻って昼食をとり午後からまた出かけるのがいつもの流れだ。宿に到着し、ドアを開けると目の前にはステラがいた。 「お、ちょうどよかった。ワスカ、コオ。悪いけど昼食は自分たちで温めてくれるか」 少し慌てているステラの様子に、コオは何かあったのだろうかと首を傾げた。 「何かあったんですか」 「うちのやつがな、怪我をしたらしいんだ。湯を少しかぶって火傷している」 「えっ」 「ひどくないらしいんだが、薬草師に処方してもらわないといけないから隣村まで行ってくる」 「ここに一級薬草師はいないの? ストックとかは」 とワスカはそう聞いたがステラは首を振った。 「実はこの村にはストックはない。村人は怪我や病気になると隣村まで行くしかないんだ」 それを聞いていたコオは手にあるシィをギュッと握る。火傷に効く薬草は手の中にあり、配合の知識もある。なのに自分は何も動けず、ステラは隣村まで行かなければならないなんて。これがもし、急を要する怪我や病気だったら……? コオの青ざめた顔を見てステラはその額を指で押した。 「お前が気にすることはないからな、すぐ戻る
Terakhir Diperbarui: 2025-05-26
Chapter: 7コオは無言で手を伸ばしてワスカの顔を両手で包み込むように触れて自分から顔を近づけて唇を重ねた。するとすぐにワスカはコオの体を抱きしめながらその体をベッドにゆっくりと押し倒した。上半身はティカによって裸にされたコオ。ワスカは着ていた服を脱ぎ捨て、コオの体に覆い被さった。その時感じたワスカの重みと肌のふれあい。そして体温と鼓動。何もかもがティカ、触手では感じることのできないもの。人と肌を触れ合わすというのはこんなにも暖かいものなのかとコオは感じた。 どんなに快楽を与えてくれる触手が何本も自分を攻めたとて、体は反応しても気持ちは満たされない。だけどいま、ワスカの体温を感じコオはたっぷりと満たされている。全身を伝う彼の辿々しい愛撫はティカに比べたら未熟だ。それでもコオは体中が悦びに溢れていて、きっと気持ちが満たされているから。上半身をゆっくり攻められ、するりと指が後孔に入れられる。しばらく広げるために指で中を弄られている時。コオの体に電流のようなものが駆け巡る。 「あ……! ワスカ……そこ……きもちい……」 「ここ?」 答える代わりにコオの体がビクンと痙攣し、ワスカはそこを執拗に攻めていく。コオの声を聴きながら反応を楽しんでいるようだ。 「……や、だ……っ、指でイクの……」 目を潤ませてワスカを見つめるコオ。その先を望んでいるのは、ワスカには分かっているし彼自身もそうしたい。だけどここにきて尻込みしてしまっている。本当に良いのだろうかと。 「……ワスカ?」 指を抜き自分のソレを孔の近くにあてがったまま、ワスカは動きを止めている。その様子にコオは少し心配になった。 「本当に、挿れていい?」 ワスカの言葉にコオは力が抜ける。ここまで執拗に攻めてきて今更……! とは思ったがおそらく挿れてしまうことに大きな意味を感じているのだろう。ココット村の人たちは真面目な性格が多く一途だと聞いたことがある。そんな環境で育ったワスカにとってこの状況に戸惑いがあるのは仕方ないのだ。 コオは微笑みながら自分の体を跨いでいるワスカの逞しい太ももを優しくさすった。
Terakhir Diperbarui: 2025-05-25
Chapter: 6「あ、あ……っ!」 ビクッと体が震えたのち、ずるりと触手が孔から抜かれ、四つん這いになっていたコオはベッドに倒れた。触手がコオに触れている間、ワスカは同じ部屋にいる。ティカは行為をやめる術を身につけていない。ワスカが止めなければずっと続けてしまうのだ。行為を見られてしまうことに当初、コオは激しく拒否したが自分で止められる自信があるのかと問われ、半分ワスカに押し切られた。実際、今も二回ほど達したのにまだ触手は伸びてくる。 もう体が持たないとワスカの方を見て首を振ると、ワスカは立ち上がり手にしていたティの葉に口付け何かを唱えた。すると伸びていたティカはするすると細くなりあっという間に消えていく。壁に張り付いていたものも全て。その様子を肩で息をしながら、コオは見ていた。やがて全て消えたとき、ワスカはシーツを持ってきて体を優しく包み、しばらく息を整えてコオはようやく落ち着いてきた。ふと以前、ティカは枯れてしまったのに、今日は消えたのが不思議でコオが聞くと答えが返ってきた。 「本当は今日みたいに消えるのがいいんだ。彼らを戻すだけで、生きているからね。この前は……咄嗟にだったから、死んでしまった」 ティカはもう個体数が少ないと聞いていた。それでもコオを助けるために貴重なティカを引きちぎり捨てたのだ。 胸が熱くなり、コオは視線を右に向けた。するとワスカの日に焼けた逞しい腕が目に入り、体を半分起こし振り向くと目の前にワスカの顔があって、薄い茶色の瞳がジッと見ていた。その時コオの中に甘くどうしようもない衝動が走った。 (ワスカに触れたい) そのままコオは顔をゆっくりとあげてワスカの唇に自分の唇を重ねた。その柔らかい感触に心が落ち着いていく。これが何の意味を持つのか、コオ自身もわからない。満足そうなコウに対して、ワスカは思いもしなかったことに目を見開いたが、拒否せずそのまま触れていた。 少しの間、重なった唇が離れると、二人は見つめ合う形になりどちらからともなくまた唇を重ねた。今度はゆっくりと、お互いの唇を感じるように。長く長く。 「ん……」 ワスカの背中にコオの手が伸び
Terakhir Diperbarui: 2025-05-24
Chapter: 5 ワスカに手を振りその姿が見えなくなるのを確認してコオは部屋に戻り、自分から今日は休みだと言ったはずなのに、いつもの帽子を被り宿を出た。目指すはワスカに止められたあの禁足地だ。密林を数分歩きながら流れてくる汗を拭う。クスコスや他の薬草を探すわけではない。禁足地に踏み入れて、あのツルにまた触れて欲しいがために向かうのだ。 ワスカはコオが禁足地にあったツルを切ったからではなく、踏み入れたから襲われたのだと言っていた。それならば行けばきっとまたツルは現れるはずだ。ただ自分の快楽だけのためにワスカに嘘までついて行く自分が情けなくてコオはため息をつく。 しばらく歩くと大きな木の根元に生えているクスコスを見つけた。皮肉なもので、クスコスが禁足地の目印となっていた。コオは生唾を飲み込み、足を前に進めようとした時…… 「コオ!」 背後から名前を呼ばれて、心臓が飛び出してしまいそうなほどコオは驚き、振り向くとその先にはターバンをしていないワスカが立っていたのだ。サアッと血の気が下がるのを感じコオは拳を握る。 「……どうして」 「様子がおかしいからもしかしてと思ったんだ。ティカの毒性は強いから」 ティカという名前を出されてコオは体を揺らす。きっとワスカは分かっている。何故コオが約束を破ってまで禁足地に来たのかを。ワスカがコオに近寄ろうとしたがコオは後退りする。 「近寄るな」 「コオ」 なんでここにお前がくるんだ、と涙を滲ませながら呟いた。 「軽蔑しただろ? あんな……ことされて今度は自分から望んでるなんて。自分でも情け無いって分かっているんだ。でも体が疼いて」 「コオ、大丈夫。軽蔑なんてしていないから」 そう言われても羞恥でコオはワスカの顔を見れず俯いたまま。するとワスカはコオの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せ、その体を抱きしめた。コオは驚き目を見開きながらもワスカの腕の中で落ち着きを取り戻す。以前にもこの場でこうしてワスカの匂いを感じたなあと思いながら。抱きしめられた腕はゆっくりとコオの背中をさすっていた。まるで母親が子供をあやすように。 宿に戻り、コオの部屋で話がしたいとワスカが言ってきたので二人で部屋に入る。食堂で淹れてきたお茶を飲みながらしばらくの沈黙のあとに、ワスカが口を開いた。 「落ち着いた?」 「……うん。ありがとうな」
Terakhir Diperbarui: 2025-05-23
Chapter: 4「はあっ、あ……ッ」 コオはしばらく肩で息をしながら呆然としていたが、ふいに手や足元が軽くなったような気がして見てみると、ツルは切れていた。辺りを見渡すとさっきまで身体を縛っていたツルや、室内で蠢いていたツルが一斉に萎んで枯れていっている。まるで風船が空気を失って小さくなっていったかのようだ。 (なんだ……?) 霞んだ光景の中に、人影が見えてコオはギョッとした。そこに立っていたのはワスカだったからだ。ワスカは無表情で手にしていた枯れたツルを投げ捨て、コオに近づいてきたかと思うと床に落ちていたシーツでコオのぐちゃぐちゃになった体を隠す。その瞬間、とんでもない自分の体を見せてしまったことにコオは顔から火が出そうなくらい真っ赤になった。もう声が枯れて言葉すらでない。 「このツル、処分するから、とりあえず湯で体を洗って」 ワスカはコオの体を見ないようにしながら、いつもより低い声でそう言った。 しばらくして体を清めて部屋に戻るとあれだけびっしり貼り付いていたツルは全てなくなった上に、寝具も新しいものに替えてある。ワスカは腕組みをしたまま椅子に座っていて、その表情は厳しいまま。おそるおそる、その前に立ちコオは頭を下げた。 「ごめん……変なもの見せて」 「ティカに触れられたら、みんなあんな風になるから気にしないで」 「ティカ?」 「あのツルの名前だ。それより、何でこうなったか、分かってる?」 「……禁足地に入ったからだろう? あの時切ったツルはこれ?」 「違う。あれはただのツルで、問題はその奥にあったティの葉」 「……?」 はぁ、とワスカはため息をつく。そしてそれ以上の説明をやめてしまった。険しかった顔が少しだけ柔らかくなったかと思うとワスカは立ち上がり、拳を作ってコオの胸をドンと叩く。 「コオの言うと
Terakhir Diperbarui: 2025-05-20
Chapter: 3「……?」 そして真横に伸ばしている左腕も自分で動かすことができない。異様な雰囲気を感じ、コオは頭を左右に動かした。暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと浮かんできた室内の様子に、コオは思わず言葉を失う。 (な、何だこれ……!) 寝る前は何の異常はなかったはずなのに、今目の前に広がっているのはあり得ない光景。室内に植物のツルのようなものが壁一面にびっしりと貼り付いているのだ。ツルは腕くらい太いものから小指くらいの細いものまでたくさん。さらにコオが息を呑んだのは、その中の数本がまるで生き物のように動いているのを見つけたからだ。 「ひ……」 明らかに異常な光景に目を背け、逃げようとするも腕が動かせない。まさか、と思い右腕を見ると手首にツルがぐるぐる巻きになっていて縛られていた。左腕も同様。コオは思わず足をバタバタさせると、シュルと音がして長いツルが足に絡まってきて左右に大きく開かせ縛りつける。そうしてコオの体はとうとうベッドにくくりつけられてしまったのだ。 誰か、と叫ぼうとしたとき、隣の部屋に寝泊まりしているワスカのことを思い出しコオが大きく口を開けた瞬間、太いツルが伸びてきて口の中に入ってきた。 「ンンッ!」 指差二本くらいのツルは一般的な植物のツルではなかった。表面が粘液で包まれたような、ヌルリとした感触。まるで舌のようだ。太くて噛み切ることはおろか、声を出すことすらできない。せめてもの抵抗で頭を左右に振りながら、ふと昼間に禁足地に入った時に切ったツルを思い出した。あの場所は聖なる土地だとワスカが言っていた。もしかしたら、印のツルを切り土地に入ってしまったせいなのか、とコオは青くなる。どうしたらいいのか見当もつかずジタバタと身体を捩るしかなかった。そしてしばらくするとツルがまた数本伸びてきてコオの衣服の中に入り込み、それはコオの上半身をヌメヌメと這いつくばる。その感触にコオは恐怖と気持ち悪さで体がどうにかなってしまうと涙を滲ませた。すると突然ツルの先端がコオの胸の突起物をギュッと摘んだ。 「ヒアッ!」 ビクンと体が痙攣する。さらにツルはまるでそれを愛撫する
Terakhir Diperbarui: 2025-05-19