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last update Dernière mise à jour: 2025-05-26 05:38:50

(この部屋も見納めかあ)

三日後にコオは帰らなくてはいけない。そのことはワスカも知っているから、いまこうして一緒の部屋で過ごすようにしている。コオが帰ってしまったあと、彼は自分のことを忘れないだろうか、などと後ろ向きの考えが浮かんでは消える。

それに、街へ戻り一級薬草師の資格を取ったところで、それをどこで活かすべきなのか、自分はどういう道に進みたいのか、全く見当がつかないのだ。ため息をつくとうつ伏せになりワスカを待った。

翌日。コオは明日の滞在最終日まで密林に入って色々な薬草を探していた。滞在中、見つけたのは希少性の高いものから普段使われているものまで。ココリス村は薬草の宝庫だった。

「研究者がこの村に来る理由が分かるな」

汗を拭きながら手にした薬草を見つめる。それは独特の香りを放つシイ。皮膚の再生に役立ち、主に切り傷や火傷に効果がある。

「俺には薬草の見分けがつかない」

クスコスは知っていたワスカだが、さすがに二級薬草師の知識には到底及ばない。だが、コオがいろんな薬草を見つけては、その名前と効力を一つずつ教えていた。

「ああ、腹減ったな。昼飯はなんだろう」

一旦戻って昼食をとり午後からまた出かけるのがいつもの流れだ。宿に到着し、ドアを開けると目の前にはステラがいた。

「お、ちょうどよかった。ワスカ、コオ。悪いけど昼食は自分たちで温めてくれるか」

少し慌てているステラの様子に、コオは何かあったのだろうかと首を傾げた。

「何かあったんですか」

「うちのやつがな、怪我をしたらしいんだ。湯を少しかぶって火傷している」

「えっ」

「ひどくないらしいんだが、薬草師に処方してもらわないといけないから隣村まで行ってくる」

「ここに一級薬草師はいないの? ストックとかは」

とワスカはそう聞いたがステラは首を振った。

「実はこの村にはストックはない。村人は怪我や病気になると隣村まで行くしかないんだ」

それを聞いていたコオは手にあるシィをギュッと握る。火傷に効く薬草は手の中にあり、配合の知識もある。なのに自分は何も動けず、ステラは隣村まで行かなければならないなんて。これがもし、急を要する怪我や病気だったら……? コオの青ざめた顔を見てステラはその額を指で押した。

「お前が気にすることはないからな、すぐ戻る
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  • 触手召喚士   8

    (この部屋も見納めかあ) 三日後にコオは帰らなくてはいけない。そのことはワスカも知っているから、いまこうして一緒の部屋で過ごすようにしている。コオが帰ってしまったあと、彼は自分のことを忘れないだろうか、などと後ろ向きの考えが浮かんでは消える。 それに、街へ戻り一級薬草師の資格を取ったところで、それをどこで活かすべきなのか、自分はどういう道に進みたいのか、全く見当がつかないのだ。ため息をつくとうつ伏せになりワスカを待った。 翌日。コオは明日の滞在最終日まで密林に入って色々な薬草を探していた。滞在中、見つけたのは希少性の高いものから普段使われているものまで。ココリス村は薬草の宝庫だった。 「研究者がこの村に来る理由が分かるな」 汗を拭きながら手にした薬草を見つめる。それは独特の香りを放つシイ。皮膚の再生に役立ち、主に切り傷や火傷に効果がある。 「俺には薬草の見分けがつかない」 クスコスは知っていたワスカだが、さすがに二級薬草師の知識には到底及ばない。だが、コオがいろんな薬草を見つけては、その名前と効力を一つずつ教えていた。 「ああ、腹減ったな。昼飯はなんだろう」 一旦戻って昼食をとり午後からまた出かけるのがいつもの流れだ。宿に到着し、ドアを開けると目の前にはステラがいた。 「お、ちょうどよかった。ワスカ、コオ。悪いけど昼食は自分たちで温めてくれるか」 少し慌てているステラの様子に、コオは何かあったのだろうかと首を傾げた。 「何かあったんですか」 「うちのやつがな、怪我をしたらしいんだ。湯を少しかぶって火傷している」 「えっ」 「ひどくないらしいんだが、薬草師に処方してもらわないといけないから隣村まで行ってくる」 「ここに一級薬草師はいないの? ストックとかは」 とワスカはそう聞いたがステラは首を振った。 「実はこの村にはストックはない。村人は怪我や病気になると隣村まで行くしかないんだ」 それを聞いていたコオは手にあるシィをギュッと握る。火傷に効く薬草は手の中にあり、配合の知識もある。なのに自分は何も動けず、ステラは隣村まで行かなければならないなんて。これがもし、急を要する怪我や病気だったら……? コオの青ざめた顔を見てステラはその額を指で押した。 「お前が気にすることはないからな、すぐ戻る

  • 触手召喚士   7

    コオは無言で手を伸ばしてワスカの顔を両手で包み込むように触れて自分から顔を近づけて唇を重ねた。するとすぐにワスカはコオの体を抱きしめながらその体をベッドにゆっくりと押し倒した。上半身はティカによって裸にされたコオ。ワスカは着ていた服を脱ぎ捨て、コオの体に覆い被さった。その時感じたワスカの重みと肌のふれあい。そして体温と鼓動。何もかもがティカ、触手では感じることのできないもの。人と肌を触れ合わすというのはこんなにも暖かいものなのかとコオは感じた。 どんなに快楽を与えてくれる触手が何本も自分を攻めたとて、体は反応しても気持ちは満たされない。だけどいま、ワスカの体温を感じコオはたっぷりと満たされている。全身を伝う彼の辿々しい愛撫はティカに比べたら未熟だ。それでもコオは体中が悦びに溢れていて、きっと気持ちが満たされているから。上半身をゆっくり攻められ、するりと指が後孔に入れられる。しばらく広げるために指で中を弄られている時。コオの体に電流のようなものが駆け巡る。 「あ……! ワスカ……そこ……きもちい……」 「ここ?」 答える代わりにコオの体がビクンと痙攣し、ワスカはそこを執拗に攻めていく。コオの声を聴きながら反応を楽しんでいるようだ。 「……や、だ……っ、指でイクの……」 目を潤ませてワスカを見つめるコオ。その先を望んでいるのは、ワスカには分かっているし彼自身もそうしたい。だけどここにきて尻込みしてしまっている。本当に良いのだろうかと。 「……ワスカ?」 指を抜き自分のソレを孔の近くにあてがったまま、ワスカは動きを止めている。その様子にコオは少し心配になった。 「本当に、挿れていい?」 ワスカの言葉にコオは力が抜ける。ここまで執拗に攻めてきて今更……! とは思ったがおそらく挿れてしまうことに大きな意味を感じているのだろう。ココット村の人たちは真面目な性格が多く一途だと聞いたことがある。そんな環境で育ったワスカにとってこの状況に戸惑いがあるのは仕方ないのだ。 コオは微笑みながら自分の体を跨いでいるワスカの逞しい太ももを優しくさすった。

  • 触手召喚士   6

    「あ、あ……っ!」 ビクッと体が震えたのち、ずるりと触手が孔から抜かれ、四つん這いになっていたコオはベッドに倒れた。触手がコオに触れている間、ワスカは同じ部屋にいる。ティカは行為をやめる術を身につけていない。ワスカが止めなければずっと続けてしまうのだ。行為を見られてしまうことに当初、コオは激しく拒否したが自分で止められる自信があるのかと問われ、半分ワスカに押し切られた。実際、今も二回ほど達したのにまだ触手は伸びてくる。 もう体が持たないとワスカの方を見て首を振ると、ワスカは立ち上がり手にしていたティの葉に口付け何かを唱えた。すると伸びていたティカはするすると細くなりあっという間に消えていく。壁に張り付いていたものも全て。その様子を肩で息をしながら、コオは見ていた。やがて全て消えたとき、ワスカはシーツを持ってきて体を優しく包み、しばらく息を整えてコオはようやく落ち着いてきた。ふと以前、ティカは枯れてしまったのに、今日は消えたのが不思議でコオが聞くと答えが返ってきた。 「本当は今日みたいに消えるのがいいんだ。彼らを戻すだけで、生きているからね。この前は……咄嗟にだったから、死んでしまった」 ティカはもう個体数が少ないと聞いていた。それでもコオを助けるために貴重なティカを引きちぎり捨てたのだ。 胸が熱くなり、コオは視線を右に向けた。するとワスカの日に焼けた逞しい腕が目に入り、体を半分起こし振り向くと目の前にワスカの顔があって、薄い茶色の瞳がジッと見ていた。その時コオの中に甘くどうしようもない衝動が走った。 (ワスカに触れたい) そのままコオは顔をゆっくりとあげてワスカの唇に自分の唇を重ねた。その柔らかい感触に心が落ち着いていく。これが何の意味を持つのか、コオ自身もわからない。満足そうなコウに対して、ワスカは思いもしなかったことに目を見開いたが、拒否せずそのまま触れていた。 少しの間、重なった唇が離れると、二人は見つめ合う形になりどちらからともなくまた唇を重ねた。今度はゆっくりと、お互いの唇を感じるように。長く長く。 「ん……」 ワスカの背中にコオの手が伸び

  • 触手召喚士   5

    ワスカに手を振りその姿が見えなくなるのを確認してコオは部屋に戻り、自分から今日は休みだと言ったはずなのに、いつもの帽子を被り宿を出た。目指すはワスカに止められたあの禁足地だ。密林を数分歩きながら流れてくる汗を拭う。クスコスや他の薬草を探すわけではない。禁足地に踏み入れて、あのツルにまた触れて欲しいがために向かうのだ。 ワスカはコオが禁足地にあったツルを切ったからではなく、踏み入れたから襲われたのだと言っていた。それならば行けばきっとまたツルは現れるはずだ。ただ自分の快楽だけのためにワスカに嘘までついて行く自分が情けなくてコオはため息をつく。 しばらく歩くと大きな木の根元に生えているクスコスを見つけた。皮肉なもので、クスコスが禁足地の目印となっていた。コオは生唾を飲み込み、足を前に進めようとした時…… 「コオ!」 背後から名前を呼ばれて、心臓が飛び出してしまいそうなほどコオは驚き、振り向くとその先にはターバンをしていないワスカが立っていたのだ。サアッと血の気が下がるのを感じコオは拳を握る。 「……どうして」 「様子がおかしいからもしかしてと思ったんだ。ティカの毒性は強いから」 ティカという名前を出されてコオは体を揺らす。きっとワスカは分かっている。何故コオが約束を破ってまで禁足地に来たのかを。ワスカがコオに近寄ろうとしたがコオは後退りする。 「近寄るな」 「コオ」 なんでここにお前がくるんだ、と涙を滲ませながら呟いた。 「軽蔑しただろ? あんな……ことされて今度は自分から望んでるなんて。自分でも情け無いって分かっているんだ。でも体が疼いて」 「コオ、大丈夫。軽蔑なんてしていないから」 そう言われても羞恥でコオはワスカの顔を見れず俯いたまま。するとワスカはコオの腕を引っ張り自分の方へ引き寄せ、その体を抱きしめた。コオは驚き目を見開きながらもワスカの腕の中で落ち着きを取り戻す。以前にもこの場でこうしてワスカの匂いを感じたなあと思いながら。抱きしめられた腕はゆっくりとコオの背中をさすっていた。まるで母親が子供をあやすように。 宿に戻り、コオの部屋で話がしたいとワスカが言ってきたので二人で部屋に入る。食堂で淹れてきたお茶を飲みながらしばらくの沈黙のあとに、ワスカが口を開いた。 「落ち着いた?」 「……うん。ありがとうな」

  • 触手召喚士   4

    「はあっ、あ……ッ」 コオはしばらく肩で息をしながら呆然としていたが、ふいに手や足元が軽くなったような気がして見てみると、ツルは切れていた。辺りを見渡すとさっきまで身体を縛っていたツルや、室内で蠢いていたツルが一斉に萎んで枯れていっている。まるで風船が空気を失って小さくなっていったかのようだ。 (なんだ……?) 霞んだ光景の中に、人影が見えてコオはギョッとした。そこに立っていたのはワスカだったからだ。ワスカは無表情で手にしていた枯れたツルを投げ捨て、コオに近づいてきたかと思うと床に落ちていたシーツでコオのぐちゃぐちゃになった体を隠す。その瞬間、とんでもない自分の体を見せてしまったことにコオは顔から火が出そうなくらい真っ赤になった。もう声が枯れて言葉すらでない。 「このツル、処分するから、とりあえず湯で体を洗って」 ワスカはコオの体を見ないようにしながら、いつもより低い声でそう言った。 しばらくして体を清めて部屋に戻るとあれだけびっしり貼り付いていたツルは全てなくなった上に、寝具も新しいものに替えてある。ワスカは腕組みをしたまま椅子に座っていて、その表情は厳しいまま。おそるおそる、その前に立ちコオは頭を下げた。 「ごめん……変なもの見せて」 「ティカに触れられたら、みんなあんな風になるから気にしないで」 「ティカ?」 「あのツルの名前だ。それより、何でこうなったか、分かってる?」 「……禁足地に入ったからだろう? あの時切ったツルはこれ?」 「違う。あれはただのツルで、問題はその奥にあったティの葉」 「……?」 はぁ、とワスカはため息をつく。そしてそれ以上の説明をやめてしまった。険しかった顔が少しだけ柔らかくなったかと思うとワスカは立ち上がり、拳を作ってコオの胸をドンと叩く。 「コオの言うと

  • 触手召喚士   3

    「……?」 そして真横に伸ばしている左腕も自分で動かすことができない。異様な雰囲気を感じ、コオは頭を左右に動かした。暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと浮かんできた室内の様子に、コオは思わず言葉を失う。 (な、何だこれ……!) 寝る前は何の異常はなかったはずなのに、今目の前に広がっているのはあり得ない光景。室内に植物のツルのようなものが壁一面にびっしりと貼り付いているのだ。ツルは腕くらい太いものから小指くらいの細いものまでたくさん。さらにコオが息を呑んだのは、その中の数本がまるで生き物のように動いているのを見つけたからだ。 「ひ……」 明らかに異常な光景に目を背け、逃げようとするも腕が動かせない。まさか、と思い右腕を見ると手首にツルがぐるぐる巻きになっていて縛られていた。左腕も同様。コオは思わず足をバタバタさせると、シュルと音がして長いツルが足に絡まってきて左右に大きく開かせ縛りつける。そうしてコオの体はとうとうベッドにくくりつけられてしまったのだ。 誰か、と叫ぼうとしたとき、隣の部屋に寝泊まりしているワスカのことを思い出しコオが大きく口を開けた瞬間、太いツルが伸びてきて口の中に入ってきた。 「ンンッ!」 指差二本くらいのツルは一般的な植物のツルではなかった。表面が粘液で包まれたような、ヌルリとした感触。まるで舌のようだ。太くて噛み切ることはおろか、声を出すことすらできない。せめてもの抵抗で頭を左右に振りながら、ふと昼間に禁足地に入った時に切ったツルを思い出した。あの場所は聖なる土地だとワスカが言っていた。もしかしたら、印のツルを切り土地に入ってしまったせいなのか、とコオは青くなる。どうしたらいいのか見当もつかずジタバタと身体を捩るしかなかった。そしてしばらくするとツルがまた数本伸びてきてコオの衣服の中に入り込み、それはコオの上半身をヌメヌメと這いつくばる。その感触にコオは恐怖と気持ち悪さで体がどうにかなってしまうと涙を滲ませた。すると突然ツルの先端がコオの胸の突起物をギュッと摘んだ。 「ヒアッ!」 ビクンと体が痙攣する。さらにツルはまるでそれを愛撫する

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