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春埜馨
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روايات بقلم 春埜馨

天符繚乱

天符繚乱

舞台は古代中国、三教の一つである道教の修仙界。 呪符を扱う四つの正統門派『大篆門(だいていもん)・寒仙雪門(かんせんせつもん)・緑琉門(りゅうりゅうもん)・金龍台門(きんりゅうだいもん)』たちが、日々蠢く邪祟や妖魔を退治し、世を統治していた。    しかしある日、四つの門派を統括する天台山の裏手にある華陰山で、地の主として祀られていた【三神寳(さんしんほう)】が、突厥の手によって盗まれてしまう。  これにより全ての統治が保てず、世が乱れ始めるのだが、それと同時に、十年前に大敵である青鳴天(チンミンティェン)との闘いの末、強力な霊符の反動で謎の死を遂げてしまった最強の呪符師・墨余穏(モーユーウェン)が突然甦る。    記憶は今世でも引き継がれ、前世では叶わぬ恋心を抱いていた寒仙雪門の門主・師玉寧(シーギョクニン)と再会を果たすが、墨余穏は師玉寧に新たな想い人がいることを知ってしまう…。しかし、それは━︎━︎。  それぞれの想いが過去、未来へと繋がり、繚乱していく仙侠中華BL。
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Chapter: 第三十ニ話 永久の契り
 それから間も無くして天台山は大きな観音廟として新しく建立され、全て寒仙雪門が管轄することとなった。 三神寳と|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》は同じ廟で祀られ、かつての|香翠天尊《シィアンツイてんずん》と|深月天尊《シェンユエてんずん》も成仏するという意味で違う廟に位牌が納められた。かつての緑琉門にいた|葉風安《イェフォンアン》たちの位牌も天台山に集約され、いつでも故人を偲べるように配慮した。 それぞれの門派はというと、大篆門の門主・|高書翰《ガオシューハン》は道玄天尊の後を追うようにこの世を去り、後継者がいないという理由で大篆門は閉門となった。 金龍台門は|金冠明《ジングァンミン》が正式に門主となり、新しく家督を担ぐこととなった。あの邪教の鳥鴉盟はというと、盟主の死によって強制的に閉門。罪を犯した者は流刑され、その後も|師玉寧《シーギョクニン》が厳しく罰した。 寒仙雪門では、|墨余穏《モーユーウェン》が正式に寒仙雪門に入内し、師玉寧の伴侶となった。 |墨余穏《モーユーウェン》は相変わらず、玉庵のカウチでゴロゴロしながら、|師玉寧《シーギョクニン》の美しい横顔を眺めている。入内してからというもの、常に一緒にいる為あんなに嫌いだった一葉茶も難なく飲めるようになった。 一葉茶を喉に通すと、|墨余穏《モーユーウェン》はふと尋ねる。「ねぇ、|賢寧《シェンニン》兄。|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》が言っていたシユって人は誰なの?」「ハンリ殿から聞いた話なんだが、道玄天尊が若き頃に人攫いに遭った若き先代と幼女のハンリ殿を助けたそうだ。それからしばらく天台山で面倒を見ていたそうで、道玄天尊と先代は互いに恋慕を抱いたそうだが、叶わぬ悲恋で終わったらしい。その時抱いた悲しみとこの想いは永遠に忘れないという意味で、道玄天尊の|神漣剣《しんれんけん》と先代の|神翼鏡《しんよくきょう》、それぞれの秘宝に特殊な守護術を封じて三神寳として祀ったらしい」「へぇ〜。なんか深い愛だなぁ……」 |墨余穏《モーユーウェン》はしみじみと目を細めながら、一葉茶を啜った。 庭から入ってきた黄色い蝶が|師玉寧《シーギョクニン》の人差し指に止まる。「想いが強ければ強いほど、失う痛みは大きい。私は道玄天尊のお気持ちが凄くよく分かる」「だから、俺が死んだ後閉関してたんだ……」 黄色い
آخر تحديث: 2026-02-23
Chapter: 第三十一話 新羅の訪問者
 |香翠天尊《シィアンツイてんずん》は言うまでもなく、無惨な姿となって力尽きた。 |道玄天尊《ダオシュエンてんずん》の凄まじい威力を見せつけられた|墨余穏《モーユーウェン》と|師玉寧《シーギョクニン》は、その場で喫驚していた。 「いやはや、たまげたね〜。何という威力と人情劇なんだ。素晴らしいよ|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》さんよ。守ってきた盟主と実の妹を手に掛けるなんて、|李世《リーヨ》君といい、二人はお心が強いの〜」  ひどく感嘆した様子で拍手をするように、|呂熙《リューシー》は胸の前で鉤爪を鳴らした。 しかし、|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》はこれまでの力を使い果たしてしまったのか、突然吐血しその場に項垂れてしまった。一緒に来ていた天台山の道士たちが駆けつけるも、いつ力尽きてもおかしくない様子だ。「滑稽だなぁ。天尊と呼ばれた高貴なお方も所詮はただの人間。人間の裁量などその程度なものなのだよ」 口元を一文字に引き結んで、|呂熙《リューシー》は気怠く言う。凝り固まった首をゴリっと鳴らすと、|墨余穏《モーユーウェン》に向かって濁った目を据わらせた。「さぁ、とっとと終わらせようじゃないか」「そうだな。俺も早く終わらせて、|師玉寧《シーギョクニン》と三礼の儀をしたいからさ〜」 |墨余穏《モーユーウェン》は何の躊躇もなく真顔で言うと、その言葉を聞いていた|李世《リーヨ》は顔を顰め、「こんな奴と三礼なんて世も末だ!」と吐き捨てた。 すると、凍てつく光芒を放った剣が|李世《リーヨ》の頬を掠め、|李世《リーヨ》の背後にあった大木に勢いよく突き刺さった。「減らず口も大概にしないか」 重厚感のある低い声で、|師玉寧《シーギョクニン》は|李世《リーヨ》を凍らすように一瞬で黙らせる。 |師玉寧《シーギョクニン》の気迫に恐れ慄いたのか、|李世《リーヨ》はガタガタと歯を震わせ始め、それ以降口を閉ざした。|師玉寧《シーギョクニン》は念の為、|李世《リーヨ》の身体に字符を貼り付け、身動きを封じた。「あはははっ! 美人を怒らすと怖いってことを肝に銘じておけ、世間知らずの坊ちゃんよ〜」 |墨余穏《モーユーウェン》はケラケラとそう言い終えると、|豪剛《ハオガン》から譲り受けた剣を鞘からスルッと抜き出し、刃先を|呂熙《リューシー》に向けた。 何があっても|呂熙
آخر تحديث: 2026-02-23
Chapter: 第三十話 華陰山の乱
 懇ろな関係になった|墨余穏《モーユーウェン》と|師玉寧《シーギョクニン》は、二人で飲んだ|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》の同化呑術の効果も相まって、無敵だと言わんばかりに勢いをつけていた。 鳥鴉盟たちから決闘状が寒仙雪門に届いたのは、あれから数日経ったある日の事だった。 「いよいよだな、|墨逸《モーイー》」 「そうだね、まぁ大丈夫っしょ。俺ら最強だし。ただ、|賢寧《シェンニン》兄の好きだったお姉さんを始末しなきゃなんないからな〜。どうなるんだか」  |墨余穏《モーユーウェン》が横目に冗談めかして言うと、|師玉寧《シーギョクニン》は一葉茶を啜りながら目を細めた。 「私が好きだった? 何かの間違いではないか? 私はいつも、力を封じ込められてしまっていただけだ」 「え? 見つめていたじゃん。こう、好きで好きで堪らないって感じで〜」  相手を弄るように、|墨余穏《モーユーウェン》はジーっと|師玉寧《シーギョクニン》を見つめる。 |師玉寧《シーギョクニン》は小さく鼻息を漏らし、やれやれと言った様子で首を横に振った。「動きを止められていただけだ。その時から気づいていた。この人は、人間の動きを瞬時に止める力があるのだと。だから、そこをいかに打破するかが重要だ」 「あはははっ! 余裕だって。あの人たちには弱点があるんだ。それを全面に出せば、皆途端に弱くなる」  眉間に皺を寄せた|師玉寧《シーギョクニン》は、何を企んでいるんだ? とでも言いたげに|墨余穏《モーユーウェン》を見遣る。 「まぁ、後で見ててよ。とりあえず、突厥は崑崙山の爺ちゃん先生たちに任せて、|賢寧《シェンニン》兄はカラス達を頼むよ。そうだ、大篆門の門主は来るの?」 「いや、|高書翰《ガオシューハン》門主は来ないだろう。大病を患ったと知らせを受けた。来れたとしても|黄轅《コウエン》師範が黙っていないはずだ」 「確かに。友人を追い出した門派に情はないだろうね」 |墨余穏《モーユーウェン》は他人事のように言い終えると、書き留めておいた呪符を胸元に仕舞った。 |黄轅《コウエン》に磨いてもらった|豪剛《ハオガン》の剣も持って、|師玉寧《シーギョクニン》の支度を扉の前で待つ。 恐らくこの戦いで、長年続いた天台山の歴史は幕を下ろすだろう。今まで保たれていた統治は完全に崩壊し
آخر تحديث: 2026-02-23
Chapter: 第二十九話 翡翠泉
 目を覚ました|墨余穏《モーユーウェン》は、|黄轅《コウエン》が言っていた翡翠泉へ向かっていた。 ようやく連日連夜の修行から解放された|墨余穏《モーユーウェン》は、込み上げる疲れを感じると同時に、己の心身が一回りも二回りも大きくなっていることに気づく。 体が重くなっていることは薄々気づいてはいたが、こんなにも厚みがあっただろうか。 |墨余穏《モーユーウェン》は自分で、自分の逞しくなった二の腕や太腿を触ってみる。 |黄轅《コウエン》先生の鬼の修行は筋肥大にもなるのだなぁ、と内なる力を全面に引き出してくれた|黄轅《コウエン》に、|墨余穏《モーユーウェン》は思わず感嘆の息を漏らした。  そんな修行の成果を噛み締めながら歩いていると、生い茂る草むらから澄み切った翡翠の色をした泉が見えてきた。 少し奥へと進むと水面を激しく打ちつける滝の音が聞こえてくる。滝の側まで行くと、その辺りは白い湯気が漂っており、墨余穏は指先を泉に入れて温度を確かめた。「お、あったかいじゃないか! 珍しいな、温泉の滝なんて」 |墨余穏《モーユーウェン》は独り言を言いながら、衣を脱ぎ始めた。露わになった傷だらけの身体をゆっくり泉の中に沈め、痛みを堪える。 滝の側までゆっくり移動し、|墨余穏《モーユーウェン》はしばらく傷に染みていく痛みと戦いながら泉に浸かった。 すると、ちゃぽんと水面を鳴らしながら何者かがこちらに向かって歩いてくるのが分かった。|墨余穏《モーユーウェン》は女性かもしれないと思い、そっと滝の裏側にある空洞に身を隠した。 歩き方がゆっくりでどこかぎこちない。 女性というよりも老人か誰かだろうと様子を見ていると、白い肌をした長身の美しい男が現れた。 |墨余穏《モーユーウェン》の胸が打ち破るように高鳴った。 どうしてここに……。 どうしてここに、|師玉寧《シーギョクニン》が居るんだ?! |墨余穏《モーユーウェン》は、「何してるんだ? |賢寧《シェンニン》兄!」 と思わず叫ぶ。 目の前に突如現れた|墨余穏《モーユーウェン》を見て、師玉寧も目を丸くしていた。「傷が治ると聞いた」 「誰に?」「雲師の|黄轅《コウエン》師範に」 記憶が戻っているのだと確信した|墨余穏《モーユーウェン》は、「俺のことは分かるか?」と尋ねた。 すると、|師玉寧《シーギョクニ
آخر تحديث: 2026-02-09
Chapter: 第二十八話 修行
 翌朝、|墨余穏《モーユーウェン》は|一恩《イーエン》に|金王《ジンワン》から受け取った十包の薬を渡し、修行先である|崑崙山《こんろんざん》へ再び戻ることを伝えた。 「そんな。寒仙雪門には部屋もいくつかありますし、今すぐお戻りにならなくても……」 「いや、時間が無いんだ。|賢寧《シェンニン》兄が回復したら、すぐに鳥鴉盟のところへ行かなきゃならない。今のうちに修行しておきたいんだ」  |墨余穏《モーユーウェン》は先輩らしく、安心させるような逞しい笑みを見せて、|一恩《イーエン》の両肩を軽く叩いた。 そこまでしてどうしてですか、と肩を落とす|一恩《イーエン》に、|墨余穏《モーユーウェン》は頬を掻きながら照れ臭く言う。「好きな人の前ではカッコつけたいだろ」  賢い|一恩《イーエン》は顔と耳を瞬時に赤らめ、「そうですね」と言った。 続けて、何かを思い出したかのように、突然「あ!」と切り出す。「何だよ、急に」「|師《シー》宗主のお部屋を綺麗にしていた時、萎れた一輪の水仙が落ちていました。あれは、恐らく|墨逸《モーイー》先輩が持って来られたものですよね? 拾って小さな瓶に入れておいたら見事に咲き戻りまして……」「……」「……それを|師《シー》宗主の枕元に置いておいたら、昨日それをずっと穏やかな目で眺めてらっしゃいました。ご記憶が戻るのも時間の問題かもしれません」 |墨余穏《モーユーウェン》は少し間を置いて、「……だといいな」と言って小さく微笑んだ。記憶の片隅に残っている物を見ると、過去の記憶が蘇る話はよく聞く。|墨余穏《モーユーウェン》にも、一筋の希望の光が見えた気がした。「じゃ、|一恩《イーエン》。あとは頼んだぞ。何かあれば、また知らせてくれ」 |墨余穏《モーユーウェン》はそう言って、手を振りながら寒仙雪門を後にし、乗蹻術を放出して|黄轅《コウエン》のいる崑崙山へ向かった。 ◆ ほんの数日で戻ってきた|墨余穏《モーユーウェン》を見て、|黄轅《コウエン》は驚いた!「|墨逸《モーイー》! もういいのか?」「あ、|黄轅《コウエン》先生! いやぁ〜、それが……」 |墨余穏《モーユーウェン》は頭を掻きながら、|師玉寧《シーギョクニン》が思った以上に深刻であることを報告した。 そして一番恐れていた黒幕の正体も。「やはり、私の読み通りか。
آخر تحديث: 2026-02-09
Chapter: 第二十七話 月華
床に落ちた萎れた水仙の花に気づかず、|墨余穏《モーユーウェン》はそれを踏み付けて、|師玉寧《シーギョクニン》のいる荒れた寝台へ向かった。 「|賢寧《シェンニン》兄、俺だよ」 |墨余穏《モーユーウェン》は愛猫を愛でるかのような表情を見せて、優しく問いかけた。 以前のように何気なく|師玉寧《シーギョクニン》の肩に触れようと手を伸ばすが、煩わしいハエでも払いのけるかのように、力強く|師玉寧《シーギョクニン》に阻止される。 「誰だ! 貴様は! 知らない者が私に勝手に触れようとするな! 穢らわしい!」 |知らない者《・・・・・》と言われた|墨余穏《モーユーウェン》は「ごめん……」と言って、僅かに震える手を引っ込めた。 |墨余穏《モーユーウェン》は小さく息を吐き、気を取り直してもう一度、|師玉寧《シーギョクニン》に話しかける。 「知らないだなんて酷いなぁ〜。|賢寧《シェンニン》兄とずっと一緒にいた|墨逸《モーイー》だよ。本当に俺のこと忘れちゃったの?」 「知らないと言ったら知らない。用がなければ早く出て行ってくれ!」 どうやら、本当に|師玉寧《シーギョクニン》は記憶を失くしてしまっているようだ。|一恩《イーエン》曰く、特定の人物だけの記憶を失くしている訳ではなく、自分が何者かであることも忘れてしまっているらしい。 |墨余穏《モーユーウェン》は窓を開け、日差しの光で輝きを放っている埃たちを外へ追いやった。 「分かった、分かった! 俺は出て行くから、その代わりこの部屋を綺麗にさせてよ。ほら、見てよ! 凄い埃。こんな所にずっと居たらその傷も治んないよ。手当てもし直したいし、あなたは少しそこのカウチに横になって休んでもらってていいから、ね? |一恩《イーエン》」 「は、はい! 私たちが全てお綺麗にしますので、お気になさらずどうぞこちらでお休みに……」 |一恩《イーエン》は鼻を啜りながら、カウチを案内するように両手を向ける。 すると、|師玉寧《シーギョクニン》は黙ったまま、腹の痛みを抑えながら寝台から足を出した。 「手を貸そうか?」と|墨余穏《モーユーウェン》は尋ねるも、|師玉寧《シーギョクニン》は「触れるな」の一点張りだった。|墨余穏《モーユーウェン》は|一恩《イーエン》に掃除道具や処置に必要なもの、身体を拭く湯などいくつか持
آخر تحديث: 2026-02-02
千巡六華

千巡六華

舞台は古代中国の修仙界。『宋長安』『朱源陽』『橙仙南』『青鸞州』の四国が結託し、それぞれの国が持つ特徴的な仙術を使い、日々妖魔や邪祟を退治しながら世を統治していた。 医家術の三宗名家・六華鳳宗の末裔である華蘭瑛(ホア・ランイン)は、華山の麓にある邸宅・鳳明葯院で市医の医家として働いていた。ある日、封印されていたはずの最強の鬼・玄天遊鬼が何者かに解き放たれ、赤潰疫という鬼病が四国を襲う。そこで、眉目秀麗で有名な冷酷無情の剣豪、宋長安の国師・王永憐(ワン・ヨンリェン)と出会い、蘭瑛はある理由から宋長安の宮廷に呼ばれ、この宮廷で起こる様々な出来事に巻き込まれていく。そしてそれぞれの思惑や過去を知ることになり、探し求めていた真実に辿り着くのだが…
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Chapter: 第三十七話 千巡
 ひと月の喪に伏せた後、永憐は宋武帝の遺言通り世間に皇弟であることを公表し、|永豪帝《ヨンゴウテイ》として宋長安の後継者となった。 |賢耀《シェンヤオ》は少しずつ心を取り戻し、永憐と一緒に政への参加に勤しんだ。 橙仙南の後宮が滅んだ後も橙南の町はそのまま残し、宋長安の配下の元、風宇は深豊の側近として仕えることになった。 宋長安と橙仙南と青鸞州の三国を統合し、長安州という国に生まれ変わらせると、永憐は名医三家に俸禄をし、医術の繁栄にも力を注いだ。 その影響なのか、|秀沁《シウチン》は潔く蘭瑛から身を引き、永憐に対して無礼を働くことはなくなった。 更に永憐はその他にも貧富の差を埋める為、出自に関わらず様々な人材を確保し、様々な自国の農産物を各国に流出するなど、全ての民の仕事と生活を安定させた。 蘭瑛はというと本格的な悪阻が始まり、梅林の監視の元藍殿で休んでいた。「蘭瑛、具合はどう? 檸檬持ってきたけど食べる?」「食べますぅ、……うぅ」「あらあら……」 梅林は吐き戻している蘭瑛の背中を摩り、孫が見れるなら何でもすると、嫌な顔一つせず献身的に支えた。「こればっかりはね、仕方ないのよね〜蘭瑛」「すみません……。双子だからかな、悪阻も二倍なのは……」 蘭瑛は双子を懐妊した。 出産は初夏頃を予定しているが、蘭瑛のお腹はもうぽっこり出ている。悪阻は辛いが、お腹を触る度二つの命が宿っていると思うと、この上ない愛おしさを感じる。具合の良い時は梅林と散歩をしたり、具合の悪い時は水飴をひたすら舐め続けるなどして、この神秘的な瞬間を噛み締めるように日々を過ごした。 悪阻が落ち着き始めた春。 蘭瑛は永憐を連れて六華鳳宗を訪ねていた。 鳳凰が植えたとされる、百本の桜並木が今年も見頃を迎えており、どうしても永憐に見せたかったからだ。「綺麗でしょ、永憐様」「あぁ。凄い綺麗だ」 蘭瑛は足を止め、桜の木を見上げる。 昨年は一人でここに立っていたのに、今年は最愛の人とここに立っている。来年は二人増えて四人でここを訪れるだろう。 人生は本当に何が起こるか分からない。 だからこそ、良いことも悪いことも巡り巡って、各々の人生を彩っていくのかもしれない。 蘭瑛は隣にいる永憐の顔を見上げる。 例え過ちがあったとしてもそれを上回る愛と赦しがあれば、罪は少しずつ消えて
آخر تحديث: 2025-11-16
Chapter: 第三十六話 朱源陽決戦 〜流涕〜
 蘭瑛は蒼穹を垂らした永冠を光らせ、玄天遊鬼の元へ歩いて行く。玄天遊鬼は、蘭瑛の姿を捉えると何故か一歩後ずさった。 「お、お前は一体誰だ?」 「あなたが一番心から信頼していた六華鳳凰の末裔、|華蘭瑛《ホアランイン》だ」  どうやら蘭瑛の姿が六華鳳凰の姿に似ていると思ったのだろう。玄天遊鬼は慌てた様子で足元に落ちていた剣を足で蹴り上げ、剣を構えた。蘭瑛は構わず続ける。 「玄天遊鬼……。いや、本名は|天佑《テンヨウ》。娘の名前は|花舞《ファウー》。いつまで恨み続ける気ですか? 仕方ない出来事だったはずなのに」「黙れ!! 鳳凰は、私の娘を見捨てたんだ!! 別の子どもたちは皆、赤疫から助かったのに鳳凰は花舞だけ何もしなかった」「違う! あなたの力を信じていたからよ。あなたなら助けられると思ったから」 当時、玄天遊鬼は優秀な医家として六華鳳宗に所属し、六華鳳凰の弟子として働きながら、幼い娘を男手一つで育てていた。 そんなある日、当時は赤疫と呼ばれた今の赤潰疫のような流行病が蔓延し、幼い子どもたちの尊い命が奪われていく事件が勃発した。 鳳凰たちは、手当てをしに各地を巡回していたが、その最中に玄天遊鬼の一人娘・花舞もこの病に感染してしまう。 重症だった花舞を玄天遊鬼が必死に看病するも、一向に回復の兆しが見えず、玄天遊鬼は藁にもすがる思いで鳳凰に六華術の触診を願い出た。しかし、鳳凰は弟子の子どもを優先する訳にはいかず、玄天遊鬼の実力を熟知していたこともあり、あと三日待って欲しいと伝えた。だが、花舞の容体は見る見るうちに急変し、鳳凰が尋ねた時には息を引き取っていた。その事が引き金となり、玄天遊鬼は六華鳳宗を離反し、私怨を抱いたまま赤潰疫をばら撒く鬼と化した。「鳳凰先生の手記には、あなたに対する罪悪感と、自責の念が書かれていた。あなたに絶大な信頼を置いていたことも」「黙れ! 黙れ! 黙れ! 何が信頼だ! 何事も尽力してきた弟子の願いすら、あの男は聞き入れなかった。あの男が娘を殺したんだ!!」 玄天遊鬼は苛立つ気持ちを抑えられないまま、蘭瑛に向かって術滅印を放った。 しかし、蘭瑛は正還法を放出している為、何の被害も被らない。「くそっ! この六華鳳宗め!」 玄天遊鬼は「くたばれ!」と罵り、剣先を向けて蘭瑛に飛びかかった。 すると蘭瑛は掌から眩惑法
آخر تحديث: 2025-11-16
Chapter: 第三十五話 朱源陽決戦 〜眩夢〜
「やはり、お前だったか」 「口の利き方には気をつけろ、若僧が」  化けの皮が剥けた|玄天遊鬼《ゲンテンユウキ》は、更に邪悪な雰囲気を纏い始める。空は淀み、周辺が急に薄暗くなった。 永憐が睨みを効かし、口火を切る。「ずっと、端栄に化けて行動していたのか?」 「そうだ。|端栄《タンロン》という男が、その剣を持っていた男の封印を解き、私の所へ来た。統治を乱す者を全員消して欲しいと。だから四国の古い長たちを全員殺した。お前の存在を探る為、姿を変えて宋長安にも何度か行ったんだが、誰かを殺したくて躍起になっている妃達の姿が滑稽だったよ」 「|天京《テンキョウ》と名乗っていたのもお前か?」「天京? あぁ〜。そんなような名前を名乗ってたな。もう忘れちまったが。さぁ、戯言はここまでだ。準備はいいか?」 玄天遊鬼は汚い歯を見せながら、剣先を永憐に向けて永憐に飛び掛かった。永憐も十分に溜め込んだ剣気を放出するかの如く、果敢に攻める。二つの剣先が交わると、端栄の時とは違う光芒が轟音と共に鳴り響いた。 目が眩む程の激しい交戦が続き、誰もが息を呑んでいると、光芒が突如止む。「さすが剣豪の息子だ。しっかり血は通っているのだな」「当たり前だ」 永憐と距離を取った玄天遊鬼は、永憐の周りを囲うように黒い靄を放った。 「しばし、夢を見るがいい」 永憐は靄の隙間から見えた霞んだ玄天遊鬼の目を睨みつけながら、靄に呑み込まれていった。 ここは誰かの夢か? 永憐の目の前が暗闇から明けていくと、祝言を終えたあとに住む予定だった家の前で、一人の女が立っているのが目に入った。「|永郎《ヨンロウ》? 、お帰りなさい」「|美雨《メイユイ》……」 記憶に残っている美雨の姿がそのまま反映されているようだ。 美雨が永憐の手を取り、家の奥へ連れて行こうとする。「永郎、早く中に入ろうよ。ずっと待ってたんだから」「……」「ねぇ、どうしたの? 何でこっちに来てくれないの? 家の中に入ったら、ずっと一緒にいられるよ」「……中へは入れない」 永憐の言葉を聞いた美雨は永憐の手を離し、無の表情を見せた。「私をまた一人にさせるの? この家で私はずっとあなたの帰りを待ってるのに、あなたはどうして帰ってこないの? どうして、ねぇ、どうしてなの?!」「……美雨。お前はもう死んでいる。そ
آخر تحديث: 2025-11-16
Chapter: 第三十四話 朱源陽決戦 〜成就〜
 永冠は剣光を放ち、|端栄《タンロン》の剣とぶつかる! キンキンと剣先が擦れ、激しい光芒が交わると他の者たちも一斉に食ってかかった。 |永憐《ヨンリェン》は端栄の動きを瞬時に把握し、袍を靡かせ絶妙な足運びで攻撃を躱す。 さすが、帝の側近同士である。 互いに一歩も譲歩しないといった様子だ。「|王《ワン》国師は更に腕を上げられましたね。昔の手合わせとは全然違う」「私もそう感じる。まるで別人だ」 永憐は剣先を打つように離し、端栄から一旦距離を置く。 すると端栄の隙を狙ったのか、突然横から|龍凰《ロンファン》が端栄の足元に氷術を打った。 端栄の足元が瞬く間に凍り、端栄は身動きが取れなくなったのだが、持っていた剣に灼熱の火を放出すると足元の氷に突き刺した。「こんなもので私を捕まえられると思うな」 端栄はそう言いながら、突然姿を消した。 永憐は永冠を構えながら探知術で気配を探知するが、妙な術を放出しているのか上手く把握できない。 すると、永憐の側近である|宇辰《ウーチェン》が僅かな動きを把握して叫んだ!「龍凰皇弟! 危ない!」 姿を現した端栄の剣を庇うかのように、宇辰は龍凰の正面に飛び込む。 行動は吉とはならず、端栄の剣は宇辰の腹を通過し、宇辰は口から大量の血を吐いた。「宇辰!!」 永憐は憤慨しながら端栄に襲い掛かり、端栄の頭を永冠の柄で叩き打った。脳震盪を起こした端栄はその場に崩れ落ち、目を白目にして口から泡を吹き出した。永憐はすぐに宇辰の元に駆け寄り、腹の傷を抑える。倒れ込んだ龍凰もすぐに起き上がり、眉を下げながら駆け寄った。「大丈夫か宇辰!! おい!! しっかりするんだ!!」「宇辰殿、申し訳ない……」「お二人とも……。私のことは……、どうぞ……、お構いなく……」 息を切らしながら宇辰はいつものように微笑んだ。「ほっとけないだろう! 術で出血を止められるか?」 永憐は意識が朦朧とし始めている宇辰を揺さぶりながら、必死に呼び掛けた。  すると、二度と聞くことのないはずの女の声が背後から聞こえてくる。まるで救世主が現れたかのように。「ここは私たちが何とかするので、永憐様は早く敵のところへ」  永憐が声のする方へ振り向くと、蘭瑛と遠志が毅然と立っていた。遠志が目尻に皺を寄せて小さく頷き、永憐の安堵を誘う。「どうしてここに
آخر تحديث: 2025-11-16
Chapter: 第四章 終焉 第三十三話 朱源陽決戦 〜炎水〜
 空には分厚い雪雲が連なり、細雪が降り注ぐ。 |宋武帝《そんぶてい》を筆頭に|永憐《ヨンリェン》たちは物々しい朱源陽に到着した。 到着するのを見計らっていたかのように、門の前では早々に|橙剛俊《トウガンジュン》率いる元橙仙南の者たちが、意識を一瞬で失くさせる|風煙死《ふうえんし》を仕掛けてくる。「おい! この野郎! つい最近まで一緒にやってたっつーのに誰に向けて飛ばしてやがる! 殺すぞ!」 開口一番に怒号を飛ばしたのは|深豊《シェンフォン》だった。深豊に勝てない元橙仙南の者たちは一斉に逃げようとするが、深豊は一人残らず斬っていった。「俺と一緒に来てりゃ、こんな事にならなかったのにな」 深豊はそう言いながら剣を一振りし、垂れ落ちてくる血を払った。隣にいた永憐は探知術を使い、この広大な朱源陽の敷地内にいるであろう|朱陽帝《しゅうようてい》の位置を特定する。「宋武帝! あちらです」 永憐がそう言うと宋武帝が先頭に立ち、一行はまた煙を巻いて馬を走らせた。 すると、前方の上空から先の尖った何かが猛烈な光を放って大量に飛んでくる。 それが何なのか、真っ先に気づいた深豊が後ろから叫んだ!「橙仙南の攻撃の一種、砂鉄風だ! 先が尖っている! 当たれば出血、目に入れば失明だ! 皆、気をつけろ! ったく、禁じ手である砂鉄風を使いやがって! このクソ野郎ども!」 深豊の怒号を聞いた一行は、馬の手綱を引き一旦止まる。 永憐が守護術を上空全体を覆うとしたが間に合わず、宋武帝が代わりに雷術の電光石火を放ち、砂鉄風を全て吸い上げ轟音と共に跡形もなく砕いた。「さすが、宋武帝!」「ありがとうございます」「礼には及ばぬ」 永憐以外、宋武帝の真の威力を見たのは初めてだった。 さすが、雷術の本尊と呼ばれた長である。 後ろでその様子を体感した|賢耀《シェンヤオ》は、自分の父の威力と偉大さに感銘を受けた。「何をぼーっとしている! 先へ急ぐぞ!」 一行はまた更に先へ進み、ありとあらゆる攻撃を躱しながら、ようやく朱陽帝の本殿の前に到着した。 そこには獰猛な雰囲気を纏った強靭な男たちがずらりと立っており、視線を上に向けた上座には|朱陽帝《しゅうびてい》こと|温朱《オンシュウ》と、橙仙南の裏切り者|橙剛俊《トウガンジュン》が悠然と立っていた。 隣には護衛の|端栄《タンロン
آخر تحديث: 2025-11-16
Chapter: 第三十二話 雪影
それは剣門山の山に差し掛かったところで起きた。 前方から二人の高身長な男女が歩いてくるのが見え、蘭瑛は目を見開き思わず立ち止まった。 目に飛び込んできたのは、今蘭瑛が一番見たくない|永憐《ヨンリェン》と|儷杏《リーシー》の姿だった。見てはいけないものを見てしまったかのように、沸き立つ恐怖のような動悸が蘭瑛を襲う。 永憐も前から来る蘭瑛の姿を捉えたのか、その場で立ち止まり、茫然とする。見つめ合う二人の間には氷瀑が幾重にも連なり、決してそちらにはいけまいと言わんばかりの雨氷が吹き荒れているようだ。 茫然と突っ立っている永憐に気づいた秀沁は、憐れむような目を向けて拱手した。 「これは、これは、|王《ワン》国師殿。こんな所でまたお目にかかれるとは。仙女をお連れになるなんて、珍しいですね」 永憐は目を逸らすだけで何も言わない。 代わりに儷杏が答える。 「あら、どなたかと思ったら蘭瑛先生じゃないですか。宋長安では、|私の《・・》永憐がお世話になりました。お二人はどういうご関係なのですか? 随分と仲睦まじく見えますけど。もしかして祝言を控えてらっしゃるとか?」 「ははっ。そのようなご報告ができるといいのですが」 蘭瑛は自慢げに話す秀沁を一瞥した。 永憐は氷のような冷えた目で秀沁を見たあと、「お幸せに。では」と言って消え去るように歩いていった。 (「お幸せに。では」) 否定すれば、こんな一方的に突き放されるような言葉を言われずに済んだだろうか。やっと生傷が塞ぎかけてきたというのに、またその生傷に尖った刃を入れられたみたいだ。 蘭瑛は俯き、目を瞑って「待って〜」と言う儷杏が永憐を追いかける声を受け止めた。 「蘭瑛、ほらな。あいつは……」 「何で勝手なことを言うのよ!! 私がいつ、秀沁兄さんと結婚するって言った?! 勝手にべらべらと私の気も知らずに!! いい加減にしてよ!!」 蘭瑛は涙目になって秀沁に捲し立てた。 「……ごめん。でも、そうでもしないと俺だって……」 「俺だって何よ?!」 「……もたないよ」 蘭瑛の頬に一粒の大きな涙が伝う。 嗚咽が込み上げ、濡れた頬を手で拭いながら「帰る」と言った。秀沁は慌てて蘭瑛の腕を掴んで止める。 「一人でどうやって帰るんだよ?」 「離して! 私はどうにで
آخر تحديث: 2025-11-05
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