author-banner
春埜馨
春埜馨
Author

Novels by 春埜馨

天符繚乱

天符繚乱

舞台は古代中国、三教の一つである道教の修仙界。 呪符を扱う四つの正統門派『大篆門(だいていもん)・寒仙雪門(かんせんせつもん)・緑琉門(りゅうりゅうもん)・金龍台門(きんりゅうだいもん)』たちが、日々蠢く邪祟や妖魔を退治し、世を統治していた。    しかしある日、四つの門派を統括する天台山の裏手にある華陰山で、地の主として祀られていた【三神寳(さんしんほう)】が、突厥の手によって盗まれてしまう。  これにより全ての統治が保てず、世が乱れ始めるのだが、それと同時に、十年前に大敵である青鳴天(チンミンティェン)との闘いの末、強力な霊符の反動で謎の死を遂げてしまった最強の呪符師・墨余穏(モーユーウェン)が突然甦る。    記憶は今世でも引き継がれ、前世では叶わぬ恋心を抱いていた寒仙雪門の門主・師玉寧(シーギョクニン)と再会を果たすが、墨余穏は師玉寧に新たな想い人がいることを知ってしまう…。しかし、それは━︎━︎。  それぞれの想いが過去、未来へと繋がり、繚乱していく仙侠中華BL。
อ่าน
Chapter: 第二十二話 暗恋
 腹部を刺された|葉風安《イェフォンアン》はその瞬間、ずっと待ち侘びていた|墨余穏《モーユーウェン》の姿を捉えた。 記憶の中に沈めていた思い出が走馬灯のように駆け巡り、|墨余穏《モーユーウェン》が見せる絶望的な眼差しを見る。 天流会で助けてくれたあの日から、|葉風安《イェフォンアン》は|墨余穏《モーユーウェン》に想いを寄せていた。 |師玉寧《シーギョクニン》とは違う端麗な面持ちと、風が吹き抜けるような爽やかな笑みに何度も心を奪われ、脆い心に自ら心地よい風を吹かせた。墨余穏だけは常に特別であり、気まぐれな彼がいつ来ても良いようにと、緑琉門の厳重な門符を解き、私室も開放した。 数え切れない程の時間を共にし、ようやく心づもりができたと思った矢先だった。小夜嵐が軒を鳴らすように|青鳴天《チンミンティェン》との戦いで、|墨余穏《モーユーウェン》が死んだという知らせが届いた。 この時、葉風安は絶望を超えた喪失感に襲われ、この世に風が存在していることすら忘れてしまう程途方に暮れた。 |葉風安《イェフォンアン》はどうにかして、|墨余穏《モーユーウェン》の魂魄を呼び戻せないかと|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》の元へ悲願しに行ったが、どうしてか魂魄は見つからず、手掛かりが掴めないまま十年が過ぎてしまった。 その間に、自分と同じ気持ちでいた人が別にいたことを風の噂で聞き、それがまた敵わない相手だと知った|葉風安《イェフォンアン》は、悲恋を抱いた。 目の前にいる二人の関係性を崩す訳にはいかないと、|葉風安《イェフォンアン》は一人、自分の心に木枯らしを吹かせ、二人の幸せを願った。 「|風立《フォンリー》!!」  |墨余穏《モーユーウェン》の叫ぶ声が鳴り響く。 |葉風安《イェフォンアン》は墨余穏の声に応えるように、ほんの僅かに口元を緩ませると、口から物凄い勢いで鮮血を吐き出し、意識を失くした。 側にいた|呂熙《リューシー》が更に追い討ちをかけるかのように、鉤爪で固定していた葉風安の首を切断した。  目の前の惨劇に驚愕した|墨余穏《モーユーウェン》は、思わず叫ぶ! かつてないほどの殺気を込めて胸元から呪符を取り出し、|墨余穏《モーユーウェン》は|呂熙《リューシー》の元に飛び掛かった。強力な神呪で呂熙の身動きを封じた後、次に墨余穏は動きを変え、|青鳴天《チンミ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-22
Chapter: 第二十一話 緑琉門
「シェ……、|賢寧《シェンニン》兄……」 「人様の家で何をしている」  |師玉寧《シーギョクニン》の目は据わり、幾重にも連なる氷瀑の先が今にも頭上に落ちてきそうな刺々しい雰囲気を纏っている。|墨余穏《モーユーウェン》は額に冷や汗を滲ませ、口元を引き結ぶ。 |水仙玉君《スイセンギョククン》は続けた。 「何故、勝手に出て行った?」 「そ、それは……」「何だ?」「俺がいると迷惑かなっと思って……」 視線を合わすことに耐えかねた|墨余穏《モーユーウェン》は、俯きながら|師玉寧《シーギョクニン》から向けられる冷たい視線を逸らした。 師玉寧は深く溜め息を吐き、墨余穏に言う。「私がいつ迷惑だと言った?」「……だって、俺がずっと側にいたらさ|賢寧《シェンニン》兄の好きな人が嫌がるでしょ。だから、俺とは居ない方が……」 |師玉寧《シーギョクニン》は|墨余穏《モーユーウェン》の言葉を遮ったと思ったら、墨余穏の胸ぐらを勢いよく掴んで逞しく引き締まった己の身体に引き寄せた!「私に二度と心配をかけさせるな!! 分かったか!!」 深雪のような白い肌が血に染まるが如く、師玉寧は血相を変えて怒鳴りつけた。感情的な|師玉寧《シーギョクニン》を初めて見た|墨余穏《モーユーウェン》は、思わず顔を引き攣らせ怖気付く。 |師玉寧《シーギョクニン》は更に声を荒げた。「お前は、黙って私の横に居ればいい!!」「で、でも、それじゃ……」「でも何だ?! まだ何か文句があるのか?! これ以上無駄口を叩くならば、霊符に封印するぞ!!」「……」 |師玉寧《シーギョクニン》の黄玉の瞳が激しく揺れている。 その瞳の奥から、猛獣の如く獲物を独占したいという欲望が溢れていた。墨余穏はどうする事もできず口を閉ざす。 師玉寧からようやく胸ぐらを解放され、墨余穏はよろけた身体を立て直し、そっと首元を整えた。 |水仙玉君《スイセンギョククン》は、|墨余穏《モーユーウェン》に背を向け、声だけを墨余穏に向ける。「|緑琉門《りゅうりゅうもん》へ急ぐぞ。|風立《フォンリー》が危ない」「……何があったの?」 |墨余穏《モーユーウェン》は怪訝そうに訊ねると、|師玉寧《シーギョクニン》は小さく溜め息を漏らし、言葉を繋げた。「突厥に捕まったと神通符が届いた。その中にはお前を襲った|呂熙《リュ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-15
Chapter: 第二十話 栄穂村
 |墨余穏《モーユーウェン》の心の水面は凪の如く落ち着き、正気を取り戻すと、|趙沁《ジャオチン》の言っていた|栄穂村《ろんすいむら》に到着した。 古い家屋が並び、奥にはだだっ広い田畑が広がっている。 その横には馬や牛、山羊などの動物たち飼育されており、酪農の独特な香りが漂っていた。 「ここが僕たちの住む村だよ。僕たちは皆農家なんだ。五十人も満たない小さな村だけど、皆仲良くやっているよ」「へぇ。そうなのか。ちなみに、|趙沁《ジャオチン》は何を作ってるんだ?」「僕は、山羊を飼育している。ここの村の山羊肉やお乳はとっても美味しいだ。良かったら食べていかない? 後でご馳走するよ」 山羊肉が好物な|墨余穏《モーユーウェン》はそれを聞いて、口の中を涎で満たした。 墨余穏は溢れてくる生唾を飲み込みながら、案内された家まで趙沁を運ぶ。すると、趙沁の背負われた姿に気づいた村の長老が、何事かと顔を曇らせて駆け寄って来る。「|趙沁《ジャオチン》! 一体どうしたんだ! 何があったんだい?!」「あ、|長豊《チャンフォン》さん。いやぁ〜、山道を下ろうとしたら足を滑らせてしまって。ちょうど近くにいたこちらの|墨逸《モーイー》仙君に助けてもらったんだ」 長老の|長豊《チャンフォン》はそれを聞いて、|墨余穏《モーユーウェン》に小さく頭を下げた。続けて、「あまり無理をするな」と|趙沁《ジャオチン》に言うと、長豊は墨余穏の背中から降りようとする趙沁の背中を支え、椅子に座らせた。趙沁の様子に安堵したのか、長豊がゆっくりと顔を綻ばせる。「仙君。うちの村の者を助けてくださり、ありがとうございました。礼は尽くしますので、今しばらくこちらでお待ちください」 「あ、|長豊《チャンフォン》さん、僕の所にある山羊の肉もお願いできる?」「あぁ、分かったよ! 茶も持ってくるから、ゆっくりしていな」「礼には及ばない」と|墨余穏《モーユーウェン》は言うも、長豊は全く聞き耳を持たず、外へ出て行ってしまった。 |趙沁《ジャオチン》は鼻を掻きながら墨余穏に言う。「気にせず甘えていいから。僕も|墨逸《モーイー》ともう少し話がしたいから、ここにいて」「なんか、申し訳ないなぁ。ありがとう」 |墨余穏《モーユーウェン》は控えめな笑みを見せた。 すると、|趙沁《ジャオチン》がおぼつかない足取りで、薬
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-08
Chapter: 第十九話 鳥鴉盟
物々しい雰囲気が漂う鴉の住処で、|鳥鴉盟《ウーヤーモン》の|青鳴天《チンミンティェン》は、虚な目をして黒石の冷えた床に額を付けていた。 「お前はまだ、|緑稽山《りょくけいざん》を仕留められないのか?」 石の床が僅かに震えるほど低い威圧的な声が、青鳴天の耳に襲い掛かる。「はい……」と震える声で答えながら、青鳴天は更に額を床に擦り付けた。 「お前は一体、どこで何をしている。天台山の力が弱まった今、我々が天下を取れる千載一遇の好機なのだぞ。|阿可《アーグァ》と手を組んでやっているというのに、お前と来たらこの有り様か。これ以上、私を絶望させないでくれ」 「……申し訳ありません。父上」 自分の倅だというのに、居丈高で有名な鳥鴉盟の盟主•|天晋《ティェンシン》は、害虫でも見るような目で青鳴天を見下ろしていた。 天晋は、僅かに肩を震わす|青鳴天《チンミンティェン》に向かって、更に言葉を振り下ろす。 「かつてお前が殺したはずの|墨余穏《モーユーウェン》が生きていると聞いた。まさか、それも仕留めそびれていたと言うんじゃないだろうな」 「ち、違います! 確かに私は奴を殺しました! けれど……」 青鳴天は顔を上げ、先日墨余穏と屈辱的な再会を果たしたことを、嫌悪感混じりに話した。 「━︎━︎あれは確かに、あの時のままの|墨余穏《モーユーウェン》でした。どうして甦ったのか、私にも分かりません」 「妙な話だ」 |天晋《ティェンシン》は伸びた髭を弄りながら|青鳴天《チンミンティェン》を見遣る。 青鳴天は続けた。 「巷の噂では、奴は今|寒仙雪門《かんせんせつもん》に身を寄せていると聞いています」 「寒仙雪門? 相変わらず|師《シー》門主も変わり者だな。あのような者を匿ったとて、何一つ良いことなどないのに」 「そうです! 父上の仰る通りです! あの者はもう一度私が必ず……」 |天晋《ティェンシン》は、お前がか? とでも言いたげに、|青鳴天《チンミンティェン》を一瞥した。 その背筋が凍るような視線を感じた青鳴天は、それ以上言葉を繋げることができず、唇を噛みながら俯いた。 「ふん。まぁ、いい。奴は最後の砦にしよう。先ずは|緑琉門《りゅうりゅうもん》からだ。それから|寒仙雪門《かんせんせつもん》へ行けば、奴は自ずと消えるだろう」 天晋は陰湿な笑
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-01
Chapter: 第十八話 金杭州
 |墨余穏《モーユーウェン》は胸の痛みを隠しながら、「そっか」と無理矢理笑みを作った。気まずくなるのが怖くて、墨余穏は更に言葉を続ける。「一緒に過ごせるといいね、その人と。もし、その人と|賢寧《シェンニン》兄が結婚したら、俺はちゃんと玉庵から出て行くから安心して。あ、もう出てった方がいいかな? |金王《ジンワン》先生に診てもらったら、そのまま俺は違う所へ行くよ。俺は|賢寧《シェンニン》兄が居なくても、どこでも生きていける」  鼻の奥がツンとした。 本心じゃないことを口走り、目縁がほんの少し濡れ始める。 墨余穏は師玉寧に見られないように、後ろを振り返って黒い袖で目縁を拭った。 すると、師玉寧はずっと瞳を揺らしながらこちらを見ている。「ん? どうした? |賢寧《シェンニン》兄」「……お前にも、好いている者がいるのか?」 言おうかどうか迷ったが、|墨余穏《モーユーウェン》はそれとなく答えた。「俺? あははははっ。そうだね、いるよ。死ぬ前からずっと思いを寄せてる人が。でも、その人は高嶺の花みたいでさ。ずっと触れられそうで触れられないんだよね。その人にも大切な人がいるみたいだし……」「そうなのか……」 これまで感じていた空気が、夕陽ごと一気に沈む。 女夜叉のせいで足止めを食らってしまった為、夜分に押し掛けるのは良くないと判断した二人は、山を登らず近くにあった簡易的な宿に身を寄せた。それぞれの部屋から大きな溜め息と鼻を啜る音が聞こえていたのは、誰も知らない。 重苦しい夜長がようやく明け、澄んだ朝がやってきた。 何事もなかったかのように二人はいつも通りの雰囲気で山を登り、無事|金王《ジンワン》医官の所へ到着した。 山奥に聳え立つ一軒の屋敷の外は、ありとあらゆる薬草で溢れかえっており、独特な匂いが漂っていた。簡易的な木の門の前で二人の姿を捉えた銀髪の長老・金王は、持っていた桶を真ん中で持って小さくお辞儀をする。|墨余穏《モーユーウェン》と|師玉寧《シーギョクニン》も丁寧に拱手し、|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》の紹介でここを訪ねたと話した。「はい。伺っておりますよ。天台山の若き道士が来られると。あなたが、あの|豪剛《ハオガン》の……。どうぞお二人ともお入りください」『お邪魔します』 同時に発した言葉が重なり、二人は互いを見遣る。 墨余穏は
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-24
Chapter: 第十七話 金華の猫
 |黄林《フゥァンリン》の後についていくと、|金龍台門《きんりゅうだいもん》の正門付近で、松明を持った人集りが見えてきた。 「何が起きたんだ?!」  眉間に皺を寄せながら|墨余穏《モーユーウェン》が黄林に尋ねると、黄林が口を開く前に|金冠明《ジングァンミン》が先に口火を切った。 「ここ最近、|金華《きんか》の猫という人間に化けた妖獣がこの周辺に出没し始め、男なら男根と金品を奪い、女なら下腹部の人肉……特に子を孕んでいる女子は母胎ごと取られるという悲惨な事件が頻発している」 「はぁ……」  |墨余穏《モーユーウェン》は顔半分を歪ませながら、その悲惨な現場を目撃する。丸裸の男が横たわり、下半身から悍ましい量の鮮血を漏らしている。まるで、血溜まりの上で身体が浮いているかのようだ。墨余穏は思わず、大事な部分を隠すかのように、身体をくの字にして縮こまった。「|道玄天尊《ダオシュエンてんずん》が言っていた、根こそぎ取られるというのは、こういう意味なのか……」 顔を歪ませながら|墨余穏《モーユーウェン》がそう言うと、背後にいた|師玉寧《シーギョクニン》が死体を見ながら呟いた。「しかし、凄い血の量だ。余程、男に強い怨みがあるのだろうか?」「いや、まだ男ならこの程度で済みますが、孕んだ女子の死体はもっと悲惨ですよ……。顔も抉られ、原型を留めません。あれは言葉を失うぐらい、目も当てられませんよ……」 |金冠明《ジングァンミン》は俯きながら、そういう死体を幾つか見てきたと言う。俯く金冠明を見たあと、|墨余穏《モーユーウェン》は目線を死体に向けた。この死体と金華の猫との間に何があったのかは分からないが、少なからず金華の猫は人間の心を得てして、男女問わず人間に強い怨みを抱いていることは間違いない。金と男女の縺れは人の人生を狂わすと、|豪剛《ハオガン》が生前言っていたのを思い出し、墨余穏は小さく息を吐いた。  墨余穏はそっと、一途に想う恋の相手に視線を向ける。 その相手もまた、何かを思うように死体を見つめていた。「|水仙玉君《スイセンギョククン》。何か気になることでもあるのですか?」 |金冠明《ジングァンミン》が|師玉寧《シーギョクニン》に訊ねると、師玉寧は死体を見つめたまま小さな声で呟いた。「いや、昔を思い出しただけだ……」 聞いていた|墨余穏《
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-17
千巡六華

千巡六華

舞台は古代中国の修仙界。『宋長安』『朱源陽』『橙仙南』『青鸞州』の四国が結託し、それぞれの国が持つ特徴的な仙術を使い、日々妖魔や邪祟を退治しながら世を統治していた。 医家術の三宗名家・六華鳳宗の末裔である華蘭瑛(ホア・ランイン)は、華山の麓にある邸宅・鳳明葯院で市医の医家として働いていた。ある日、封印されていたはずの最強の鬼・玄天遊鬼が何者かに解き放たれ、赤潰疫という鬼病が四国を襲う。そこで、眉目秀麗で有名な冷酷無情の剣豪、宋長安の国師・王永憐(ワン・ヨンリェン)と出会い、蘭瑛はある理由から宋長安の宮廷に呼ばれ、この宮廷で起こる様々な出来事に巻き込まれていく。そしてそれぞれの思惑や過去を知ることになり、探し求めていた真実に辿り着くのだが…
อ่าน
Chapter: 第三十七話 千巡
 ひと月の喪に伏せた後、永憐は宋武帝の遺言通り世間に皇弟であることを公表し、|永豪帝《ヨンゴウテイ》として宋長安の後継者となった。 |賢耀《シェンヤオ》は少しずつ心を取り戻し、永憐と一緒に政への参加に勤しんだ。 橙仙南の後宮が滅んだ後も橙南の町はそのまま残し、宋長安の配下の元、風宇は深豊の側近として仕えることになった。 宋長安と橙仙南と青鸞州の三国を統合し、長安州という国に生まれ変わらせると、永憐は名医三家に俸禄をし、医術の繁栄にも力を注いだ。 その影響なのか、|秀沁《シウチン》は潔く蘭瑛から身を引き、永憐に対して無礼を働くことはなくなった。 更に永憐はその他にも貧富の差を埋める為、出自に関わらず様々な人材を確保し、様々な自国の農産物を各国に流出するなど、全ての民の仕事と生活を安定させた。 蘭瑛はというと本格的な悪阻が始まり、梅林の監視の元藍殿で休んでいた。「蘭瑛、具合はどう? 檸檬持ってきたけど食べる?」「食べますぅ、……うぅ」「あらあら……」 梅林は吐き戻している蘭瑛の背中を摩り、孫が見れるなら何でもすると、嫌な顔一つせず献身的に支えた。「こればっかりはね、仕方ないのよね〜蘭瑛」「すみません……。双子だからかな、悪阻も二倍なのは……」 蘭瑛は双子を懐妊した。 出産は初夏頃を予定しているが、蘭瑛のお腹はもうぽっこり出ている。悪阻は辛いが、お腹を触る度二つの命が宿っていると思うと、この上ない愛おしさを感じる。具合の良い時は梅林と散歩をしたり、具合の悪い時は水飴をひたすら舐め続けるなどして、この神秘的な瞬間を噛み締めるように日々を過ごした。 悪阻が落ち着き始めた春。 蘭瑛は永憐を連れて六華鳳宗を訪ねていた。 鳳凰が植えたとされる、百本の桜並木が今年も見頃を迎えており、どうしても永憐に見せたかったからだ。「綺麗でしょ、永憐様」「あぁ。凄い綺麗だ」 蘭瑛は足を止め、桜の木を見上げる。 昨年は一人でここに立っていたのに、今年は最愛の人とここに立っている。来年は二人増えて四人でここを訪れるだろう。 人生は本当に何が起こるか分からない。 だからこそ、良いことも悪いことも巡り巡って、各々の人生を彩っていくのかもしれない。 蘭瑛は隣にいる永憐の顔を見上げる。 例え過ちがあったとしてもそれを上回る愛と赦しがあれば、罪は少しずつ消えて
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-16
Chapter: 第三十六話 朱源陽決戦 〜流涕〜
 蘭瑛は蒼穹を垂らした永冠を光らせ、玄天遊鬼の元へ歩いて行く。玄天遊鬼は、蘭瑛の姿を捉えると何故か一歩後ずさった。 「お、お前は一体誰だ?」 「あなたが一番心から信頼していた六華鳳凰の末裔、|華蘭瑛《ホアランイン》だ」  どうやら蘭瑛の姿が六華鳳凰の姿に似ていると思ったのだろう。玄天遊鬼は慌てた様子で足元に落ちていた剣を足で蹴り上げ、剣を構えた。蘭瑛は構わず続ける。 「玄天遊鬼……。いや、本名は|天佑《テンヨウ》。娘の名前は|花舞《ファウー》。いつまで恨み続ける気ですか? 仕方ない出来事だったはずなのに」「黙れ!! 鳳凰は、私の娘を見捨てたんだ!! 別の子どもたちは皆、赤疫から助かったのに鳳凰は花舞だけ何もしなかった」「違う! あなたの力を信じていたからよ。あなたなら助けられると思ったから」 当時、玄天遊鬼は優秀な医家として六華鳳宗に所属し、六華鳳凰の弟子として働きながら、幼い娘を男手一つで育てていた。 そんなある日、当時は赤疫と呼ばれた今の赤潰疫のような流行病が蔓延し、幼い子どもたちの尊い命が奪われていく事件が勃発した。 鳳凰たちは、手当てをしに各地を巡回していたが、その最中に玄天遊鬼の一人娘・花舞もこの病に感染してしまう。 重症だった花舞を玄天遊鬼が必死に看病するも、一向に回復の兆しが見えず、玄天遊鬼は藁にもすがる思いで鳳凰に六華術の触診を願い出た。しかし、鳳凰は弟子の子どもを優先する訳にはいかず、玄天遊鬼の実力を熟知していたこともあり、あと三日待って欲しいと伝えた。だが、花舞の容体は見る見るうちに急変し、鳳凰が尋ねた時には息を引き取っていた。その事が引き金となり、玄天遊鬼は六華鳳宗を離反し、私怨を抱いたまま赤潰疫をばら撒く鬼と化した。「鳳凰先生の手記には、あなたに対する罪悪感と、自責の念が書かれていた。あなたに絶大な信頼を置いていたことも」「黙れ! 黙れ! 黙れ! 何が信頼だ! 何事も尽力してきた弟子の願いすら、あの男は聞き入れなかった。あの男が娘を殺したんだ!!」 玄天遊鬼は苛立つ気持ちを抑えられないまま、蘭瑛に向かって術滅印を放った。 しかし、蘭瑛は正還法を放出している為、何の被害も被らない。「くそっ! この六華鳳宗め!」 玄天遊鬼は「くたばれ!」と罵り、剣先を向けて蘭瑛に飛びかかった。 すると蘭瑛は掌から眩惑法
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-16
Chapter: 第三十五話 朱源陽決戦 〜眩夢〜
「やはり、お前だったか」 「口の利き方には気をつけろ、若僧が」  化けの皮が剥けた|玄天遊鬼《ゲンテンユウキ》は、更に邪悪な雰囲気を纏い始める。空は淀み、周辺が急に薄暗くなった。 永憐が睨みを効かし、口火を切る。「ずっと、端栄に化けて行動していたのか?」 「そうだ。|端栄《タンロン》という男が、その剣を持っていた男の封印を解き、私の所へ来た。統治を乱す者を全員消して欲しいと。だから四国の古い長たちを全員殺した。お前の存在を探る為、姿を変えて宋長安にも何度か行ったんだが、誰かを殺したくて躍起になっている妃達の姿が滑稽だったよ」 「|天京《テンキョウ》と名乗っていたのもお前か?」「天京? あぁ〜。そんなような名前を名乗ってたな。もう忘れちまったが。さぁ、戯言はここまでだ。準備はいいか?」 玄天遊鬼は汚い歯を見せながら、剣先を永憐に向けて永憐に飛び掛かった。永憐も十分に溜め込んだ剣気を放出するかの如く、果敢に攻める。二つの剣先が交わると、端栄の時とは違う光芒が轟音と共に鳴り響いた。 目が眩む程の激しい交戦が続き、誰もが息を呑んでいると、光芒が突如止む。「さすが剣豪の息子だ。しっかり血は通っているのだな」「当たり前だ」 永憐と距離を取った玄天遊鬼は、永憐の周りを囲うように黒い靄を放った。 「しばし、夢を見るがいい」 永憐は靄の隙間から見えた霞んだ玄天遊鬼の目を睨みつけながら、靄に呑み込まれていった。 ここは誰かの夢か? 永憐の目の前が暗闇から明けていくと、祝言を終えたあとに住む予定だった家の前で、一人の女が立っているのが目に入った。「|永郎《ヨンロウ》? 、お帰りなさい」「|美雨《メイユイ》……」 記憶に残っている美雨の姿がそのまま反映されているようだ。 美雨が永憐の手を取り、家の奥へ連れて行こうとする。「永郎、早く中に入ろうよ。ずっと待ってたんだから」「……」「ねぇ、どうしたの? 何でこっちに来てくれないの? 家の中に入ったら、ずっと一緒にいられるよ」「……中へは入れない」 永憐の言葉を聞いた美雨は永憐の手を離し、無の表情を見せた。「私をまた一人にさせるの? この家で私はずっとあなたの帰りを待ってるのに、あなたはどうして帰ってこないの? どうして、ねぇ、どうしてなの?!」「……美雨。お前はもう死んでいる。そ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-16
Chapter: 第三十四話 朱源陽決戦 〜成就〜
 永冠は剣光を放ち、|端栄《タンロン》の剣とぶつかる! キンキンと剣先が擦れ、激しい光芒が交わると他の者たちも一斉に食ってかかった。 |永憐《ヨンリェン》は端栄の動きを瞬時に把握し、袍を靡かせ絶妙な足運びで攻撃を躱す。 さすが、帝の側近同士である。 互いに一歩も譲歩しないといった様子だ。「|王《ワン》国師は更に腕を上げられましたね。昔の手合わせとは全然違う」「私もそう感じる。まるで別人だ」 永憐は剣先を打つように離し、端栄から一旦距離を置く。 すると端栄の隙を狙ったのか、突然横から|龍凰《ロンファン》が端栄の足元に氷術を打った。 端栄の足元が瞬く間に凍り、端栄は身動きが取れなくなったのだが、持っていた剣に灼熱の火を放出すると足元の氷に突き刺した。「こんなもので私を捕まえられると思うな」 端栄はそう言いながら、突然姿を消した。 永憐は永冠を構えながら探知術で気配を探知するが、妙な術を放出しているのか上手く把握できない。 すると、永憐の側近である|宇辰《ウーチェン》が僅かな動きを把握して叫んだ!「龍凰皇弟! 危ない!」 姿を現した端栄の剣を庇うかのように、宇辰は龍凰の正面に飛び込む。 行動は吉とはならず、端栄の剣は宇辰の腹を通過し、宇辰は口から大量の血を吐いた。「宇辰!!」 永憐は憤慨しながら端栄に襲い掛かり、端栄の頭を永冠の柄で叩き打った。脳震盪を起こした端栄はその場に崩れ落ち、目を白目にして口から泡を吹き出した。永憐はすぐに宇辰の元に駆け寄り、腹の傷を抑える。倒れ込んだ龍凰もすぐに起き上がり、眉を下げながら駆け寄った。「大丈夫か宇辰!! おい!! しっかりするんだ!!」「宇辰殿、申し訳ない……」「お二人とも……。私のことは……、どうぞ……、お構いなく……」 息を切らしながら宇辰はいつものように微笑んだ。「ほっとけないだろう! 術で出血を止められるか?」 永憐は意識が朦朧とし始めている宇辰を揺さぶりながら、必死に呼び掛けた。  すると、二度と聞くことのないはずの女の声が背後から聞こえてくる。まるで救世主が現れたかのように。「ここは私たちが何とかするので、永憐様は早く敵のところへ」  永憐が声のする方へ振り向くと、蘭瑛と遠志が毅然と立っていた。遠志が目尻に皺を寄せて小さく頷き、永憐の安堵を誘う。「どうしてここに
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-16
Chapter: 第四章 終焉 第三十三話 朱源陽決戦 〜炎水〜
 空には分厚い雪雲が連なり、細雪が降り注ぐ。 |宋武帝《そんぶてい》を筆頭に|永憐《ヨンリェン》たちは物々しい朱源陽に到着した。 到着するのを見計らっていたかのように、門の前では早々に|橙剛俊《トウガンジュン》率いる元橙仙南の者たちが、意識を一瞬で失くさせる|風煙死《ふうえんし》を仕掛けてくる。「おい! この野郎! つい最近まで一緒にやってたっつーのに誰に向けて飛ばしてやがる! 殺すぞ!」 開口一番に怒号を飛ばしたのは|深豊《シェンフォン》だった。深豊に勝てない元橙仙南の者たちは一斉に逃げようとするが、深豊は一人残らず斬っていった。「俺と一緒に来てりゃ、こんな事にならなかったのにな」 深豊はそう言いながら剣を一振りし、垂れ落ちてくる血を払った。隣にいた永憐は探知術を使い、この広大な朱源陽の敷地内にいるであろう|朱陽帝《しゅうようてい》の位置を特定する。「宋武帝! あちらです」 永憐がそう言うと宋武帝が先頭に立ち、一行はまた煙を巻いて馬を走らせた。 すると、前方の上空から先の尖った何かが猛烈な光を放って大量に飛んでくる。 それが何なのか、真っ先に気づいた深豊が後ろから叫んだ!「橙仙南の攻撃の一種、砂鉄風だ! 先が尖っている! 当たれば出血、目に入れば失明だ! 皆、気をつけろ! ったく、禁じ手である砂鉄風を使いやがって! このクソ野郎ども!」 深豊の怒号を聞いた一行は、馬の手綱を引き一旦止まる。 永憐が守護術を上空全体を覆うとしたが間に合わず、宋武帝が代わりに雷術の電光石火を放ち、砂鉄風を全て吸い上げ轟音と共に跡形もなく砕いた。「さすが、宋武帝!」「ありがとうございます」「礼には及ばぬ」 永憐以外、宋武帝の真の威力を見たのは初めてだった。 さすが、雷術の本尊と呼ばれた長である。 後ろでその様子を体感した|賢耀《シェンヤオ》は、自分の父の威力と偉大さに感銘を受けた。「何をぼーっとしている! 先へ急ぐぞ!」 一行はまた更に先へ進み、ありとあらゆる攻撃を躱しながら、ようやく朱陽帝の本殿の前に到着した。 そこには獰猛な雰囲気を纏った強靭な男たちがずらりと立っており、視線を上に向けた上座には|朱陽帝《しゅうびてい》こと|温朱《オンシュウ》と、橙仙南の裏切り者|橙剛俊《トウガンジュン》が悠然と立っていた。 隣には護衛の|端栄《タンロン
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-16
Chapter: 第三十二話 雪影
それは剣門山の山に差し掛かったところで起きた。 前方から二人の高身長な男女が歩いてくるのが見え、蘭瑛は目を見開き思わず立ち止まった。 目に飛び込んできたのは、今蘭瑛が一番見たくない|永憐《ヨンリェン》と|儷杏《リーシー》の姿だった。見てはいけないものを見てしまったかのように、沸き立つ恐怖のような動悸が蘭瑛を襲う。 永憐も前から来る蘭瑛の姿を捉えたのか、その場で立ち止まり、茫然とする。見つめ合う二人の間には氷瀑が幾重にも連なり、決してそちらにはいけまいと言わんばかりの雨氷が吹き荒れているようだ。 茫然と突っ立っている永憐に気づいた秀沁は、憐れむような目を向けて拱手した。 「これは、これは、|王《ワン》国師殿。こんな所でまたお目にかかれるとは。仙女をお連れになるなんて、珍しいですね」 永憐は目を逸らすだけで何も言わない。 代わりに儷杏が答える。 「あら、どなたかと思ったら蘭瑛先生じゃないですか。宋長安では、|私の《・・》永憐がお世話になりました。お二人はどういうご関係なのですか? 随分と仲睦まじく見えますけど。もしかして祝言を控えてらっしゃるとか?」 「ははっ。そのようなご報告ができるといいのですが」 蘭瑛は自慢げに話す秀沁を一瞥した。 永憐は氷のような冷えた目で秀沁を見たあと、「お幸せに。では」と言って消え去るように歩いていった。 (「お幸せに。では」) 否定すれば、こんな一方的に突き放されるような言葉を言われずに済んだだろうか。やっと生傷が塞ぎかけてきたというのに、またその生傷に尖った刃を入れられたみたいだ。 蘭瑛は俯き、目を瞑って「待って〜」と言う儷杏が永憐を追いかける声を受け止めた。 「蘭瑛、ほらな。あいつは……」 「何で勝手なことを言うのよ!! 私がいつ、秀沁兄さんと結婚するって言った?! 勝手にべらべらと私の気も知らずに!! いい加減にしてよ!!」 蘭瑛は涙目になって秀沁に捲し立てた。 「……ごめん。でも、そうでもしないと俺だって……」 「俺だって何よ?!」 「……もたないよ」 蘭瑛の頬に一粒の大きな涙が伝う。 嗚咽が込み上げ、濡れた頬を手で拭いながら「帰る」と言った。秀沁は慌てて蘭瑛の腕を掴んで止める。 「一人でどうやって帰るんだよ?」 「離して! 私はどうにで
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-05
สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status