千巡六華

千巡六華

last updateDernière mise à jour : 2025-11-16
Par:  春埜馨Complété
Langue: Japanese
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舞台は古代中国の修仙界。『宋長安』『朱源陽』『橙仙南』『青鸞州』の四国が結託し、それぞれの国が持つ特徴的な仙術を使い、日々妖魔や邪祟を退治しながら世を統治していた。 医家術の三宗名家・六華鳳宗の末裔である華蘭瑛(ホア・ランイン)は、華山の麓にある邸宅・鳳明葯院で市医の医家として働いていた。ある日、封印されていたはずの最強の鬼・玄天遊鬼が何者かに解き放たれ、赤潰疫という鬼病が四国を襲う。そこで、眉目秀麗で有名な冷酷無情の剣豪、宋長安の国師・王永憐(ワン・ヨンリェン)と出会い、蘭瑛はある理由から宋長安の宮廷に呼ばれ、この宮廷で起こる様々な出来事に巻き込まれていく。そしてそれぞれの思惑や過去を知ることになり、探し求めていた真実に辿り着くのだが…

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Chapitre 1

登場人物

━︎━︎医家術・三宗名家━︎━︎

◆『六華鳳宗《ろっかほうしゅう》』 所在地‥華山《かざん》

・華蘭瑛《ホア ランイン》 23歳

六華鳳宗の開祖の末裔。六華術を持つ市医の医家。

華山の乱を起こした宋長安《そんちょうあん》に嫌悪感を抱いている。六華術以外にも、末裔にしか持てないとされる慧眼術《けいがんじゅつ》を持っている。

・華遠志《ホア エンシ》 58歳

六華鳳宗の現宗主。蘭瑛の叔父である。

穏やかで物腰が柔らかく、誰からも慕われている。

六華術はもちろん、漢方薬に詳しい。

・華法志《ホア ホウシ》 54歳

遠志の双子の弟である。

足が不自由である為、鳳明葯院《ほうめいやくいん》で主に薬の調合をしている。

・鈴麗《リンリー》・鈴玉《リンユー》 16歳

蘭瑛が可愛がっている双子の弟子。

◆『玉針経宗《ぎょくしんけいしゅう》』 所在地‥橙仙南《とうせんなん》

・玉晩正《ギョクワンジョン》 50歳

玉針経宗の現宗主。針脈《しんみゃく》や手術を得意とする。六華鳳宗とは良好な関係を築いている。

・王林杏《ワンリンシー》 50歳

玉晩正の妻。薬膳茶に詳しい。蘭瑛を可愛がっている。

・玉秀沁《ギョクシウチン》 30歳

玉晩正と玉林杏の一人息子。眉目秀麗で頭が良く、

明るい性格から人気者の医家である。蘭瑛の兄的存在。

◆『清命長宗《せいめいちょうしゅう》』 所在地‥ 青鸞州《せいらんしゅう》管轄の函谷《かんこく》

・清雲《セイウン》 60歳

清命長宗の現宗主。病を清めたり、予防医学に力を入れている。六華鳳宗とも玉針経宗とも仲が良い。

・地《ジー》先生・広《グアン》先生・元《ユエン》先生

清雲の三人の弟子。

・林《リン》先生 秀綾の父

◆その他

・暁明《シャオミン》 28歳

六華鳳宗へ薬草を届けてくれる薬の行商人(情報屋)

江湖郎中《こうころうちゅう》と呼ばれる流医

━︎━︎四国《よんごく》━︎━︎

◆『宋長安《そんちょうあん》』

‥雷術《らいじゅつ》(守護術、探知術、神札の術、弓術)

・王永憐《ワンヨンリェン》

(字)天藍《テンラン》(号)永豪君《ヨンゴウクン》 32歳

宋武帝の息子を救って以来、宋長安の国師として宋武帝に仕えている。剣心極道《けんしんごくどう》出身の剣豪である。誰もが羨むほど眉目秀麗だが、冷酷無情で女を寄せ付けず、堅物である。雷術の他に悟心術《ごしんじゅつ》を持つ。

・林宇辰《リンウーチェン》 30歳

永憐の側近・侍従で忠実な右腕。永憐の一番弟子である。頼まれごとは何でもこなし、永憐とほぼ変わらない強さを誇る。

・梅林《メイリン》 55歳

永憐の専属侍女で食事係。蘭瑛と仲良くなり、蘭瑛のことを「ランラン」呼ぶ。過去は宋武帝の母、純翠妃チュンツイヒの侍女頭であった。

・(号)宋武帝《そんぶてい》 (字)宋栄辰《ソンロンチェン》 35歳

宋長安の皇帝。賢耀と光明の父。優しく気前が良い。永憐をかなり慕っている。今も亡くなった紫秞妃《シユヒ》を思い、紫を好んでいる。

・宋賢耀《ソンシェンヤオ》 18歳

第一皇太子殿下。母は亡き紫秞妃。

永憐に命を助けてもらった恩義があり、永憐を兄のように慕う。甘え上手で、少し幼いところがある。

・泰然《タイラン》 20歳

賢耀の護衛

・宋光明《ソンコウミン》 17歳

第二皇太子殿下

母は光華妃。賢耀とは異母兄弟である。男色。

賢耀を酷く嫌い、永憐にも反抗的。生まれつき術を持つことができなかった為、何もできない。

・半宿《バンシュウ》 20歳

光明の護衛

・光華妃《コウファヒ》 34歳

現皇后。皇帝からは光娘《コウミェン》と呼ばれている。光明を溺愛し、後の皇帝にしたいと思考を巡らせている。賢耀の存在が疎ましい。かなりの見栄っ張りで傲慢。皇帝が手に負えないほどのわがままである。

・美朱妃《ミンシュウヒ》 30歳

貴妃。朱源国の温朱の娘

光華妃に忠実。光華妃と様々なことを目論む。

・雹華妃《ヒョウカヒ》 23歳

淑妃。青鸞州の皇后・水華妃の妹

肌が綺麗で美しく大人しい。東宮が産まれ、美朱妃から執拗な嫌がらせを受けている。

・梓林《ズーリン》 28歳

光華妃の選定した流医の娘

・秀綾《シュウリン》 23歳

梓林の雑務係。梓林にいいように遣われ、梓林を憎んでいた。蘭瑛と出会い良き友人となる。

父を赤潰疫で亡くしている。

・江《ジャン》先生

・金《ジン》先生

秀綾と蘭瑛と一緒に働くオカマの男性薬師

◆その他

・儷杏《リーシー》 30歳

永憐がいた剣心極道の女流に所属している女剣士。

永憐と結婚したいと強く思っている。

・王心悦《ワンシンユエ》 55歳

永憐の養父でもあり剣の師匠。剣門山に住んで、今も剣心極道の道長として道門を開いている。

・冠月《グァンユエ》 55歳

何の術も使え剣豪であった、今は亡き伝説の男。心悦の親友だった。

◆『朱源陽しゅうげんよう

‥炎術《えんじゅつ》(術滅印《じゅつめついん》、弓術、剣術)

・(号)朱陽帝《しゅうびてい》 (字)温朱《オンシュウ》  50歳

朱陽陽の皇帝。美朱妃の父。

四国の中では最年長。女好きでいつも愛人といる。

傲慢にしているが、実は何もできない。

・端栄《タンロン》 30歳

朱陽帝の側近・護衛

温厚でとても優しい。朱陽帝をよく宥めている。

剣術に長けている。

・辟鹿《ピールー》 30歳

朱源国で一番最強と言われているが、名前は尻込みする鹿である。

◆『橙仙南《とうせんなん》』

‥風術《ふうじゅつ》(変化術《へんげじゅつ》、香術《こうじゅつ》、砂術《さじゅつ》、弓術)

・(号)橙武帝《とうぶてい》(字)橙敏俊《トウビンジュン》45歳

橙仙南の皇帝。美凛の父。

宋武帝の父、宋長帝から良くしてもらった恩義があり、宋武帝を大切にしている。

・橙仙月《トウシェンユエ》 42歳

橙敏俊の妻。美凛の母。

・橙美凛《トウメイリン》 18歳

とても美人で謙虚。

・橙剛俊《トウガンジュン》 40歳

皇弟。兄の橙敏俊と仲が悪い。

・橙美春《トウミーチュン》 33歳

橙剛俊の妻。風宇の母。

・橙風宇《トウフォンユー》 16歳

永憐の元で剣術を習う。術の扱いが上手い。

・南深豊《ナンシェンフォン》  30歳

(字)青狐《チンフー》

現在は橙仙国の大将軍

若い頃は永憐と一緒に討伐に出ていた。

永憐の次に強いとされている為、永狐(ヨンフー)の双璧と言われている。

変化の術(女の姿になれる)、剣術、弓術、風術、香術

特に変化の術には長けている。

◆『青鸞州《せいらんしゅう》』

‥水術《すいじゅつ》(空術《くうじゅつ》、氷術《ひょうじゅつ》、弓術、剣術)

・(号)鸞氷帝《らんひょうてい》 (字)雲鸞凰《ユンランファン》 25歳

現皇帝。先帝を亡くしたばかりで四国では最年少の皇帝である。宋武帝と永憐に忠実である。一番下の弟・青明を可愛がっている。

・水華妃《スイカヒ》 24歳

宋長安の淑妃・雹華妃の姉

・晶麗《ジンリー》

鸞氷帝と水華妃との間に生まれた姫 

・雲龍凰《ユンロンファン》 23歳

皇弟。気性が荒い。兄を独占したいが故に弟・青明を嫌う。

・雲青明《ユンチンミン》 21歳

鸞凰と龍凰とは腹違いの弟。ぼんやりしている。

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登場人物
━︎━︎医家術・三宗名家━︎━︎◆『六華鳳宗《ろっかほうしゅう》』 所在地‥華山《かざん》・華蘭瑛《ホア ランイン》 23歳六華鳳宗の開祖の末裔。六華術を持つ市医の医家。華山の乱を起こした宋長安《そんちょうあん》に嫌悪感を抱いている。六華術以外にも、末裔にしか持てないとされる慧眼術《けいがんじゅつ》を持っている。・華遠志《ホア エンシ》 58歳六華鳳宗の現宗主。蘭瑛の叔父である。穏やかで物腰が柔らかく、誰からも慕われている。六華術はもちろん、漢方薬に詳しい。・華法志《ホア ホウシ》 54歳遠志の双子の弟である。足が不自由である為、鳳明葯院《ほうめいやくいん》で主に薬の調合をしている。・鈴麗《リンリー》・鈴玉《リンユー》 16歳蘭瑛が可愛がっている双子の弟子。◆『玉針経宗《ぎょくしんけいしゅう》』 所在地‥橙仙南《とうせんなん》・玉晩正《ギョクワンジョン》 50歳玉針経宗の現宗主。針脈《しんみゃく》や手術を得意とする。六華鳳宗とは良好な関係を築いている。・王林杏《ワンリンシー》 50歳玉晩正の妻。薬膳茶に詳しい。蘭瑛を可愛がっている。・玉秀沁《ギョクシウチン》 30歳玉晩正と玉林杏の一人息子。眉目秀麗で頭が良く、明るい性格から人気者の医家である。蘭瑛の兄的存在。◆『清命長宗《せいめいちょうしゅう》』 所在地‥ 青鸞州《せいらんしゅう》管轄の函谷《かんこく》・清雲《セイウン》 60歳清命長宗の現宗主。病を清めたり、予防医学に力を入れている。六華鳳宗とも玉針経宗とも仲が良い。・地《ジー》先生・広《グアン》先生・元《ユエン》先生清雲の三人の弟子。・林《リン》先生 秀綾の父◆その他・暁明《シャオミン》 28歳六華鳳宗へ薬草を届けてくれる薬の行商人(情報屋)江湖郎中《こうころうちゅう》と呼ばれる流医━︎━︎四国《よんごく》━︎━︎◆『宋長安《そんちょうあん》』 ‥雷術《らいじゅつ》(守護術、探知術、神札の術、弓術)・王永憐《ワンヨンリェン》(字)天藍《テンラン》(号)永豪君《ヨンゴウクン》 32歳宋武帝の息子を救って以来、宋長安の国師として宋武帝に仕えている。剣心極道《けんしんごくどう》出身の剣豪である。誰もが羨むほど眉目秀麗だが、冷酷無情で女を寄せ付けず、堅物である。雷術の他に悟心術《ごしんじゅつ》を
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序章 赤潰疫再次
●はじめに本作には、古代中国修仙界の世界観において、現代社会では不適切である、流血を伴う激しい暴力や拷問、差別表現や性別の有無を問わない性描写を含みます。上記をご留意の上、お読みいただけますと幸いです。・・・月の光を遮るように、漆黒に渦巻く妖雲が、強力な妖魔や邪祟が眠る閉山《へいざん》を煽っていた。 とある一画に、男十人でも動かすことのできない巨大な碑石で封じられた洞窟がある。一枚の強力な呪符が貼られているにも関わらず、その洞窟からはただならぬ霊気が漂い、風が吹くたびに不気味さが際立つ…。  だが、そんな靄のような霊気など感じまいと、何者かが碑石に近づき、貼られた呪符を見つめている。 そして、その呪符をゆっくり撫でるように触れ、口を開いた。 「そこに眠る者よ、復活するがよい!」 その者は、念仏を力強く唱えるように、決して剥がしてはならない呪符を勢いよく剥がした。 良識のある者が目にしていたら、今頃この者は間違いなく腹を斬られていただろう。 辺り一面は、瞬く間に轟くような地鳴りを呼び起こし、地面を揺らす。この世の終わりを知らせるかのように、巨大な碑石がガタガタと小刻みに揺れ始め、その者は碑石の前から三歩ほど下がった。 天を突き抜けるかのようにヒビが入り、碑石は遂に重苦しい破壊音を立てながら真っ二つに割れた。 砂塵が舞い、暗闇の中視界が眩む。 しばらくすると、中からあの魑魅魍魎《ちみもうりょう》と謳われた妖魔・玄天遊鬼《げんてんゆうき》が腰を据えた様子で姿を現した。 顔は全く見えていないが、確かにこちらを向いていることだけは分かる。 しばらくその様子を伺うと、玄天遊鬼のドス黒く掠れた声が聞こえてきた。 「私を解放するとは何が望みだ?」 「統治を乱す者を消してもらいたい」 「ならば、お前は私に何を差し出せる?」 「何でも。あなたの仰せのままに…」 玄天遊鬼は口角に残忍な笑みを見せる。 そして、何も言わずゆっくり立ち上がり、二言三言交わした後、その者を洞窟の中へ呼び寄せた。 この洞窟の中へ足を踏み入れたら最後、二度と戻ることはできない。 その者が意を決して入るや否や、瞬く間に唸り声と、聞くに耐えないほどの残虐な音が、暗い洞窟の中で響いた。  ・ ・ ・ ・ 「赤潰疫《せっかいえき》だ!どいてくれ!」 身体
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第一章 邂逅 第一話 六華鳳宗
春陽の候。 華山《かざん》の麓では桜が咲き誇り、ちょうど見頃を迎えていた。 六華鳳宗《ろっかほうしゅう》の開祖・六華鳳凰《ろっかほうおう》が植えたとされる桃色の色鮮やかな百本の桜並木は、誰の目にも美しく映り、まるで華麗な舞踊を見ているかのように煌びやかだ。 「綺麗だなぁ〜」 蘭瑛《ランイン》も足を止め、桜の木を見上げる。 何かを思い起こさせるかのように、ひらりと舞い降りてきた二枚の花弁が、蘭瑛の手のひらに乗った。 「父上、母上。今年も素敵に咲きましたよ」 春になると、毎年思い出してしまう。 両親を失くしてしまったあの日のことを…。 蘭瑛は手のひらに乗った二枚の花弁を、吹かれた風に差し出し、自然に還らせた。風に乗って飛んでいく花弁を見送ったあと、蘭瑛はハッと我に帰る。 「いっけない!早く行かなきゃ。また、叔父上に怒られる〜」 六華鳳宗の現宗主・叔父の遠志《えんし》に頼まれていた約束の問診を思い出し、蘭瑛は急ぎ足でそこへ向かった。 山を降りた華山の町は、栄えている宋長安《そんちょうあん》より人口は少ないが、食材が豊富な為、食材を求めて近隣の町から人が流れてくる。町は露店で賑わい、蘭瑛はいつも問診が長引いたと嘘をついて、露店の店先で寄り道をしていた。 美味しい物に目がない蘭瑛は、もちろんこの後も、こっそり串焼きを食べるつもりだ。 「こんにちは〜。六華鳳宗の蘭瑛です」 「あ、蘭瑛先生どうぞ〜。ごめんなさいね、こんな所まで来てもらって」 もうすぐ臨月だという、腹が大きく膨らんだ亭主の妻に、笑顔で迎え入れられる。 「いえいえ、とんでもない!私は何処まででも飛んでいきますから〜」 亭主の妻とたわいもない挨拶を交わし、蘭瑛はいつも通り問診する。 六華鳳宗は名医の三宗と言われているが、朝廷に所属する御用医家ではなく、市医の医家として生業を立てている。こうして、依頼を受けた場所に出向かい、町の人々の命を守りながら歩き回っているのだ。 「今日も落ち着いてらっしゃいますね」 「蘭瑛先生のおかげだよ〜」 横になっている亭主の腹を触診し、深傷を負った腹部の傷に六華術の一つ、癒合《ゆごう》の術を施す。 「蘭瑛先生、知ってる?」 亭主の妻がお茶を淹れながら少し怪訝そうに尋ねた。 蘭瑛は首を傾げ、亭主
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第二話 新安
 朝方に眠ると、蘭瑛《ランイン》はいつも同じ夢を見る。  この切り取られた夢は、蘭瑛の奥底に眠る悲しみを、容赦なく抉り出す…。  ・  ・  ・  「蘭瑛、早く来なさい。その子も連れていくの?」  「うん。だって友達だもん!どんな時も一緒にいなきゃ」  蘭瑛の母・瑛珠《インジュ》と、白いウサギを抱えた8歳の蘭瑛は、六華鳳宗《ろっかほうしゅう》の弟子たちの誘導を受けながら、華山の奥へと逃げる。    「どうして、こんな事になっているの…」  「宋長安《そんちょうあん》の朝廷から宗主を打首にすると…」  「どうしてよ…。主人が何をしたっていうのよ…」  弟子の言葉に瑛珠は泣き崩れ、蘭瑛は震えているウサギを抱えながら、母の慟哭な姿を眺めていた。  「父上はどうなっちゃうの?」  「大丈夫ですよ。小蘭《シャオラン》様。何があっても、御父上は必ず私たちを守ってくださいます」    弟子たちに小蘭と呼ばれていた蘭瑛は、その言葉に、勇気づけられたが、状況は一変する。  蘭瑛の父・鳳鳴《ホウメイ》と遠志《エンシ》、双子の弟・法志《ホウシ》が駆けつけたが、宋長安の修仙者たちが、カチャンカチャンと凍てつくような冷たい鍔音を立て、続々と背後から迫ってきているのが分かった。  蘭瑛は、その物々しい空気に怖気付いてしまい、瑛珠と一緒に大きな岩の後ろに隠れ、うさぎの体に顔を埋めた。  ついに、追い詰められた六華鳳宗の全員は逃げ場を失い、宋長安の者たちと対峙する。  もう終わりだと皆が思った刹那、鳳鳴が皆の前に出た。  「玄天遊鬼の責任は六華鳳凰の末裔として私が担う。しかし、ここにいる者たちの命だけは取らないでいただきたい」  鳳鳴は跪き、頭を下げた。  その瞬間、鳳鳴の首を目掛けて一本の剣光が一閃する。  鳳鳴を庇うかのように、瑛珠は蘭瑛を残して岩から飛び出し、一閃の中に飛び込んだ。   「父上!母上!」  ・  ・  ・  蘭瑛は自分の声でハッと目を覚ました。  激しい鼓動を抑えるように胸に手を当て、ゆっくりと呼吸を整える。  しばらく落ち着くまで、蘭瑛は無機質な天井を、ただただぼんやりと眺めた。  15年前の春。玄天遊鬼《げんてんゆうき》は封印されていたものの、その年の冬は玄天遊鬼の傀儡《かいらい》が多く出没し、多くの命が犠牲
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第三話 四国会
開花という一幕を終えた桜は、緑へと色彩を移し、木々の隙間から溢れる木漏れ日が、黄華殿《おうかでん》の床を照らす。 新安《しんあん》で赤潰疫が発生したことを受け、世を統治している四つの国 宋長安《そんちょうあん》・朱源陽《しゅうげんよう》・橙仙南《とうせんなん》・青鸞州《せいらんしゅう》が集まる『四国会《よんごくかい》が、橙仙南の宮廷・黄華殿《おうかでん》で執り行われた。 豪華な黄華殿の中にある小さな人工池の中で、黄色の花々が咲き乱れている。一段と上品な香りが、辺り一面を漂い、来る者の鼻腔をくすぐった。 「永憐《ヨンリェン》兄様、いい香りだね」 口を開いたのは、永憐の横で足を崩して座っている、宋長安の皇太子・賢耀《シェンヤオ》だ。その横には、永憐の側近・宇辰《ウーチェン》も端座し、宇辰は穏やかな笑みを賢耀に見せていた。永憐はというと「うん」と小さく頷くだけで、相変わらずの仏頂面だ。 宋長安の皇帝・宋武帝《そんぶてい》は、もう一段上の年長者が並ぶ上座で、橙仙南の皇帝・橙武帝《とうぶてい》と、青鸞州の皇帝・鸞氷帝《らんひょうてい》と和やかに談話している。  かかった雲が日差しを遮り、黄華殿の中が少し暗くなった。 明度を見計らったかのように、この上品な香りを、一瞬にして自国の香油の香りに変える、強者がやってきた。 嗅覚を疑うその如何わしい香りは、妓楼の売女が客寄せに使うような、甘ったるさを秘めており、嗅ぐ者の鼻を麻痺させる。 先ほどまでの、穏やかな香りは一変し、こっそり鼻を覆う者もいれば、気分を害して外に出る者もいたり、はたまた永憐のように、微動だにしない者もいたりと、周囲は異様な空気に包まれた。 そんな周りを気にする素振りも見せず、朱源陽の皇帝・朱陽帝《しゅうびてい》は、意気揚々と床を鳴らして、上座に座った。 その後ろでは、護衛の端栄《タンロン》がそれぞれの国の年長者たちに拱手をしている。 「さて、とっとと始めようではないか」 四国会の中では最年長の為、傲慢な態度はいつものことだが、今日は遊女のような愛人も連れてきたようだ。 老人が年若い女を見て興奮しているように、朱陽帝は愛人の頭をいやらしく撫でている。 何を見せつけられているのだろうか。 下にいる者たちからは、溜息が漏れる。 朱色の衣を纏った変態な老人を一瞥しながら、賢耀は小さく口
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第四話 宋長安
蘭瑛《ランイン》は今日も、華山《かざん》の麓にある小さな町に、薬を届けに行っていた。  露店の串焼きを頭の中で浮かべ、口の中に唾液が溜まっていくのを感じる。側から見たら気味の悪い光景だが、蘭瑛の小顔からは、にんまりとした笑みが溢れていた。  蘭瑛は、ハッと普段の表情を取り戻し歩いていくと、突き当たりの道端で人集りが見える。 大道芸でもやっているのだろうか? 蘭瑛はその人集りの行列に紛れ込み、何やら話をしている老婦人たちの会話に耳をそば立てた。 「あの麗しい宋長安の国師様が、さっきここを通られたのよ〜。まぁ〜それはそれは、美しい方だったわ」 「あぁ〜残念。私ももう少し早く来れば、お目にかかれたのに〜。それにしても何故、華山に来られてるのかしら?」 「分からないわ〜。渭陽《いよう》にでも行かれるのかしらね」 「んな訳ないでしょう。あんな閉山の近くなんかに。今、閉山は凄いことになってるって噂よ。赤潰疫が蔓延して、子ども達がほぼ亡くなってるって…」 蘭瑛はその話を聞いて、先日清安《せいあん》の寺で、赤潰疫に罹患した親子を思い出した。あのような惨虐な光景が、閉山でも起きてると思うと、胸が締め付けられる…。  蘭瑛は空を見上げた。 いくら名家の流医であろうと、万人を助けることはできない。それは、幼い頃から教えられてきた流医としての心構えの一つだ。それに、タダで薬を処方することも、六華鳳宗の教えでは禁じられている。一人の者にそれを許してしまえば、皆にそれをしなければならなくなるからだ。 悲しいが、ここは善人ばかりがいる世界ではない。 どれだけ情が湧こうが、規律を持って接しなければ、名家としての存続が危ぶまれる。 蘭瑛は、宋長安の国師がどれだけ麗しかろうが、美しかろうが、そんなことはどうでも良く、ただこの惨事が終息することを、青天に向かって願うしかなかった。 薬を届け終わった蘭瑛は、露店に行く気分を完全に失い、そのまま鳳明葯院《ほうみんやくいん》へ戻った。 いつも通り六華鳳宗の門を潜ると、立派な鼻革を付けた白と黒の二頭の馬が、大人しく主人を待っているかのように、立っていた。 驚いた蘭瑛に気づいた門番が、声を掛ける。 「蘭瑛、お帰りなさい」 「ただいま戻りました。これは?」 「はい。滅多にお目にかかれない、宋長安の上客の御馬たちです」
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第五話 毒薬
馬に揺れること一炷香《いっちゅうこう》。  新安《しんあん》をあっという間に通り抜け、威風堂々とした宋長安《そんちょうあん》の町に辿り着いた。 華山《かざん》の麓より、初夏の陽気を感じる。  軒先一つ一つに竹簾がかかり、連なる日陰の下を通るように、人々が行き交っている。この果てしない町並みは一体、どこまで続いているのだろう。蘭瑛は不覚にも好奇心をくすぐられた。  宋長安の二人は馬の手綱を緩め、宮廷へと繋がる緩やかな坂道を、ゆっくりと進んでいく。  蘭瑛《ランイン》は、見慣れない景色に目を奪われつつも、複雑な感情が胸を掻きむしっていた。 父親を打首の刑にした先帝の宋長帝《そんちょうてい》は、もうこの世に存在しない。しかし、旱魃した場所に水を張るのが難しいように、どれだけ月日が経とうと見聞は残り、残された者たちの心は未だ枯れ果てたままだ。過去に起きた『華山の乱』が、どのように宋長安の人々に伝わっているか分からないが、恐らく六華鳳宗に良い印象を持つ者は少ないだろう。 蘭瑛の目は、段々と虚ろになっていく。  すると、今まで口を開かなかった後ろの美人が、突然言葉を発した。 「宋長安は初めてか?」 「あ、はい…。今まで来る機会がなかったので」 過去の尾を引いているせいもあるが、宋長安は新安よりも流医が溢れており、当然ながら今まで一度も宋長安から、依頼が来たことはない。六華鳳宗は、色んな意味で管轄外だ。  ふと、蘭瑛は疑問に思った。  宋長安には宮廷専属の御用医家はいないのだろうか?と。  普通、宮廷に一人は御医と呼ばれる医家がいるはずなのだが…。 蘭瑛は後ろの美人に、恐る恐る尋ねてみる。 「あ、あの…。宋長安には御用医家はいらっしゃらないのですか?」 永憐は、少し間を置いて答える。 「いない訳ではないが、色々と信用できない」 (信用できない…) 蘭瑛は心の中で呟いた。  なるほど。宮廷の中に、毒を盛れと言われたら毒を盛るような、よからぬ流医がいるという訳か。  あまり、余計なことを尋ねない方がいいと思い、蘭瑛は目線を馬の頭に向ける。すると、その斜め後ろで手綱を引く、指先の長い永憐の右手が、目に入った。  新安で手当てしたことを思い出し、蘭瑛は後ろまで聞こえるように首を横にして、ぎこちなく美人の名を呼んだ。 「あ、あの…。ワ…、王《
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第六話 藍殿
歩いて来た道を戻るように、妃たちの殿門の前を通り過ぎ、突き当たりを左に向かってそのまま歩いていくと、藍殿《らんでん》はあった。 「こちらになります」 「は、はい」 青を基調とした立派な建造物が何棟も連なっており、宿舎か何かだと蘭瑛《ランイン》は思った。ぼんやり眺めていると、隣にいた宇辰《ウーチェン》が、爽やかな笑みを向けて口を開く。 「あちらは、永憐《ヨンリェン》様の住居です。こちら側は、私たち護衛や侍女が寝泊まりする所になっております」 宇辰は、向かって右側の塔を指しながら、蘭瑛に説明した。 「はぁ…」 やはり、国師というだけあって、暮らしぶりは桁違いのようだ。ここで、露店の串焼きなんぞ食べた日には、間違いなく打首にされるだろうな…。蘭瑛から思わず苦笑いが漏れる。 「蘭瑛様は客人ですので、今晩はこちらではなく、あちらの塔にある客室へご案内いたします」 藍殿の斜め奥にある塔を指され、蘭瑛はコクっと頷いた。 宇辰の後ろに続いて歩いていくと、左右に分かれる中央の廊下に到着する。奥にはだだっ広い中庭があり、その庭を囲うかのように、藍殿は造られているようだ。宇辰から、左側の廊下は永憐の住居に繋がる為、ここから先は入室禁止であることを、入念且つ丁寧に説明された。 あんな威圧感を漂わせた、仏頂面の男の家に入ったところで何になる?居心地が悪いだけじゃないか。 蘭瑛はそう思いながら、口元を一文字に固める。 しかし、宇辰によると、今も永憐に好意を寄せた下女たちの侵入が後を絶たず、寝台に潜り込んだり、下着や肌着を盗む不届き者がいるんだとか。蘭瑛は宇辰に、無断で入ったらどうなるかを尋ねてみると、無断で入室した場合は、男女問わず三日三晩鞭打ちの刑に処され、しばらくの間、禁足処分になるとのことだった。 蘭瑛は、誰が見ても分かるぐらい顔を引き攣らせて、宇辰が歩いていった右の塔へ進んでいく。 すると、厨房から肉料理の香りがふんわりと踊るように、蘭瑛の鼻腔に入り込んだ。 (はぁ〜、なんて美味しそうな匂い…) 美味しいものに目がない蘭瑛は、口から生唾が飛び出そうになった。 そういえば、今日は突然の事で何も口にしていない。寄り道して、露店の串焼きを食べてくるべきだったと、蘭瑛は少し後悔した。 ぎゅるるる、とお腹が鳴るの
last updateDernière mise à jour : 2025-06-27
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第七話 暗雲
「ご機嫌いかがですか?」 「見ての通りだよ!蘭瑛《ランイン》先生がくれた薬飲んだらさ〜、凄い楽になって、ほら」 賢耀《シェンヤオ》は座ったまま、身体を腰から左右に動かす。 一晩、付きっきりで賢耀の側にいた護衛の泰然《タイラン》も、他にいた護衛たちも、賢耀のあまりの回復の早さに驚きを隠せないでいた。 周りの驚愕な様子に見向きもせず、賢耀は続ける。 「いやぁ〜ほんと、僕はいつも永憐《ヨンリェン》兄様に助けてもらってばかりで…」 (永憐兄様?そんなに慕っているのか…) 蘭瑛はふ〜ん、と思いながら黙って耳を傾ける。「永憐兄様が蘭瑛先生を連れてきてくれなかったら、間違いなく死んでたよ」 蘭瑛は作り笑みを見せた。 本当にその通りだ。あと三日遅かったら、賢耀は間違いなく、ここにいないだろう。先ほど中に入ろうとしてた医局長の女は、賢耀の様子をひどく知りたがっていた。毒殺に深く関わっていることは間違いないだろう。 しかし、皇太子殿下という天下人を殺めるなど、代償があまりにも大きすぎる。余程憎く、殺意があるのか…若しくは、誰かへの当てつけか?剣で一突きすれば早いが、毒殺にすれば自然死に見せかけられる。不特定多数の人間を使って、毒薬を紛れ込ませれば、犯人は特定されにくい。計画性は十分にある。 蘭瑛は頭の中で、ぐるぐると考えを巡らせた。 それにしても、やはり術を持つ者は回復が早い。処方したのは、術者専用の強い解毒剤だったということもあるが、蘭瑛は賢耀の異様な回復力を見て、胸を撫で下ろした。 「ねぇ、蘭瑛先生!いつから、外に出ていい?」 賢耀は早く外に出たくて、堪らないらしい。 どうやら、永憐が師範となって毎日行っている稽古に、一刻も早く出たいそうだ。蘭瑛は「三日後の体調を見てから」という判断を下すと、賢耀は「え〜、そんなに?」と子どものように駄々をこねた。 こういう人懐っこい所といい、少年のような無邪気さが否めない賢耀を、永憐も可愛がっているのだろう。だから、宋長安にいる数多の流医ではなく、わざわざ治る確率の高い、医家の六華鳳宗《ろっかほうしゅう》を尋ねてきたのかと、蘭瑛は悟った。 それから、蘭瑛と梅林は賢耀の『永憐愛』を、しばらく聞かされることとなり、蘭瑛の目が段々と萎んでいったのは言うまでもない。 ・ ・ ・ 一方。宋武帝《そんぶてい》の宮
last updateDernière mise à jour : 2025-06-29
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第八話 永冠
 「…し、知りません…」 「そうか。ならば用はない」 人影はまた剣光を放ち、男の喉を瞬く間に突き刺した。 刃の先に注がれた剣気と鮮血が入り混じり、不気味な血腥さが漂う。 人影の口元が僅かに動いた。 「必ずや…この手で見つけ出し、遺恨を晴らす…」 人影は、苛立ちを込めた表情で剣の柄を力強く握り締め、地鳴りを轟かせるように地面を穿った。 ・ ・ ・ 翌日。 蘭瑛《ランイン》は賢耀《シェンヤオ》がいる宮殿で、痙攣するかのように顔を引き攣らせていた。 「ねぇ、お願い!一緒に永徳館《よんとくかん》へ来てよ。蘭瑛先生がいてくれたら、きっと永憐《ヨンリェン》兄様も許可してくれるから〜」 どうしても永憐の稽古に参加したい賢耀は、蘭瑛同席なら、稽古に参加してもいいんじゃないかと、打診してきた。  賢耀の身体はもうほぼ回復していた。 しかし、異様な回復劇だったものの、まだ回復してから二日しか経っていない。 蘭瑛は悩みながら梅林《メイリン》と顔を見合わせる。 梅林は大きく息を吸いながら、頬に手を当てながら呟いた。 「そうねぇ〜。とても元気そうだけれど…。永憐様が何ておっしゃるか…」 「ん〜、ですよね…」 蘭瑛は目尻を垂らし、困り顔で続ける。 「それに…私のような部外者が永徳館へ行ったら、怒られませんか?」 「それは問題ないと思うわよ。毎日、黄色い声が飛び交っているから」 梅林はクスクスと笑っている。 (黄色い声?虫か何かか?) 女の熱烈な感情に疎い蘭瑛は、その声の主が何か分からず、首を傾げた。 賢耀は吹き出すように高笑いし、「行ってみれば分かるよ」と言った。 蘭瑛は賢耀に、半ば強引に連れて行かれ、仕方なくといった様子で、永徳館へ向かうことになった。梅林は食材を取りに行くと言って、途中で別れた。 宋長安の宮殿内はとてつもなく広大だ。少しでも迷ったら、客室どころか藍殿にすら戻れないだろう。蘭瑛はキョロキョロと辺りを見回しながら、進んだことのない道を、賢耀たちに続いて歩いていく。 しばらく進むと、区切られた敷地内にある立派な木造の建物から、木刀のぶつかる音が何層にも連なって聞こえてきた。その奥では、物珍しそうな芸を見るかのように、宮殿内の女たちが、目を光らせて集まっている。 蘭瑛はその光景に思わず目を瞠った。 すると、突然。耳を
last updateDernière mise à jour : 2025-07-01
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