憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-10
Oleh:  悠・A・ロッサBaru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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二十二歳の春、朝倉朱音は恋人・晴紀との初めての誕生日デートをすっぽかされ、丁寧に包んだプレゼントはゴミ箱に捨てられた。さらに、令嬢に押し倒され、深くキスされている晴紀の姿まで見てしまう。 泣き崩れた朱音を救ったのは、中性的な美貌のイメージディレクター・天野黛(D)。Dに導かれ、朱音は七年後、美しく成熟したマーケティング部長となる。そして仕事相手として再会した晴紀は、苦しげに謝罪する。だが朱音は知っていた。彼が背負う家の事情を──そして自分が奪われたものの大きさを。七年越しの復讐がいま静かに始まる。けれどその計画は、憎しみだけでは終わらず、次第に別の感情へと形を変えていく──。

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第1話 綺麗になった私を、彼は待たせた──そして捨てた
「──朱音、目、開けて」 鏡の中にいたのは──見知らぬ「綺麗な女」だった。 肌は淡く光り、瞳は深く、睫毛がきれいに影を落とす。 髪は滑るように揺れ、Dが選んだ深紅のワンピースは、光を吸ってわずかに艶が立ち上がる気品のある赤で、身体の線を静かに拾っていた。 薄い光が布の表面をかすめるたび、まるで高価な墨をひと刷けしたみたいに深みが滲む。 メイクも服も、どこも破綻がなくて、息をのむほど完成されていた。(……誰……? 本当に、私?) 普段の私はノーメイクで、髪も後ろで適当にまとめるだけ。でも、三週間だけは違った。早起きしてスキンケアを変えて、間食をやめ、脚が震えるほどスクワットして……この日のために、別人のように変わった。「努力の成果がきちんと出てるわよ」 背中越しにDの指先が髪を整える。ふわりと、いつものあの香り──Dの手にかからなければ絶対に出ない仕上がりの匂い。「朱音。これで落ちない男は、ゲイよ」「……Dのことじゃん」「私はゲイじゃなくてバイ」 言うと、Dはゆっくりと目を細めた。 長い指で前髪を払う仕草ひとつさえ洗練されていて、成熟した大人の余裕と、中性的な美貌の危うさが同居する横顔が、かすかに笑った。 その笑みを追うように視線を落としたとき──鏡の中の自分と目が合った。 そこにいた私は、信じられないほど幸せそうに微笑んでいた。 バッグには、晴紀に渡す淡い水色の革のメモ帳。(……喜んでくれるかな)*** 今日は、晴紀の誕生日。 そして——私たちが付き合って一年になる、大事な日。 待ち合わせは、晴紀が予約したホテル・クラウンセレスティアのフレンチダイニング〈ラ・ルミエール・サンクチュアリ〉だった。 五万円の特別コース。 画面でその数字を見た瞬間、思わず息をのんだ。 写真の中の店内はあまりに美しくて── 自分なんかが本当にあんな場所に座っていいのか、不安が胸に滲んだ。(でも……晴紀は、大丈夫って笑ってくれた)(大事な日だからって) 思い返すほどに、その言葉が胸の奥をそっと温めていく。(……好きって言われて、手をつないで、キスまでして)(──これって、次に進むってこと、なんだよね?) 期待と緊張がゆっくり混ざり合う。 胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。 晴紀と初めて会ったのは、被災地のボランティアだっ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-17
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第2話 深紅のキスと、崩れた誕生日の夜
 どうしたらいいのかわからなくて、ロビーの端のソファに沈んだ。  ホテルの照明はあたたかいのに、自分の身体だけが冷えていくみたいだった。  膝の震えだけが、自分のものじゃないみたいに止まらなかった。(……帰らなきゃ……でも……動けない……) そんなときだった。  自動扉が開く音が、妙に大きく響いた。 晴紀だった。 すぐ目の前を、誰もいないみたいに、一度も振り返らず真っ直ぐ歩いていく。「……はる、き……?」  声にしたつもりなのに、喉の奥で溶けた。  彼はそのまま外へ出た。 黒い車のドアが静かに開いた。 車内の灯りに浮かんだのは、青みを帯びた深い紫の装いの女──派手さはないのに、纏う空気だけが別格で、思わず息が止まる。 脚を揃えて座り、白い指先で髪を払う仕草が、妙に洗練されていて目が離せない。  横顔だけで、どこかの世界の人とわかる。(……誰……?) 世界の光が、その女だけを照らしていた。 「遅いわ、晴紀。……来て」 声の響きだけが、直接、胸の奥に落ちてくる。 指先が冷たくなる。  呼吸の仕方がわからなくなる。(なんで……目の前を……通り過ぎて……) 世界が細いトンネルみたいに歪んで、音も光も全部そこへ吸い込まれていく。  その先には──深紫の女と、晴紀しかいなかった。 晴紀が乗り込み、ドアが閉まる一瞬、車内の照明がはっきり二人の姿を照らした。 令嬢が晴紀の胸元をつかみ、強く引き寄せる。「ちょ……っ……」 押し殺したような声が聞こえた次の瞬間、唇が激しく重なった。 私とするみたいな軽いキスじゃない。  押しつけるみたいな、深いやつ。 晴紀の背中がシートに叩きつけられ、令嬢がその上に覆いかぶさるように身体を倒す。 噛み殺した息が混ざる。  服が擦れる音が、ロビーまで届く気がした。  令嬢の手が晴紀の顔を固定し、角度を変えて、何度も、何度も、貪るみたいにキスを落とす。 ガラス越しでも分かるほど「熱」があった。(……やだ……やだ……なに、これ……) 視界が揺れる。  涙が出ないのに、涙の味だけがする。 令嬢は晴紀の襟を指で引き下ろし、首筋にキスを落とした。 晴紀が小さく息を吸った。  その顔は、私と向き合っていたときより、  ずっと、ずっと……甘い。(……あ……) 呼吸を忘れたまま、ただ見
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-17
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第3話 地獄への手を、私は取った
 あの夜から、私の世界の輪郭は急に冷えた。  誰かに触れられるのも、優しくされるのも怖い。  恋なんて、もう二度とできないと思った。 朝、鏡に映るのは、Dが整えてくれた眉じゃない。  自分で描けば曲がって見える、冴えない顔だけ。(綺麗になろうとした自分が、一番バカだった) 化粧も、明るい服も捨てた。  黒と灰色ばかりを纏って、外見を放り出したら、自信も一緒に落ちていった。  人と目を合わせるのが苦しくなって、息が詰まることもあった。(誰にも期待されなくていい。誰にも見つけられなくていい) 就職したのは、都内の小さな広告代理店。  地味で忙しくて、数字だけが裏切らない世界だった。 そんなある日、上司から新規案件を任命された。 「お客様からの直々のご指名で、君が担当だ。ちゃんとやれよ」  渡された書類には、淡々とした活字が並んでいた。 〈清晴堂〉婚礼引き出物企画 式場:ホテル・クラウンセレスティア 新郎:清水晴紀 新婦:神園いずみ (晴紀が……結婚?  そして、あの夜の、ホテルで……?)「大丈夫?」 振り返ると、Dが立っていた。  フリーランスのイメージコンサルタントとして出入りしているDは、この会社とも何件か一緒に仕事をしている。  資料を見て、ほんのわずかに眉をひそめる。「最悪ね。打ち合わせ、同席するわ」*** ホテル・クラウンセレスティア。  一年前と変わっていない照明の高さも、香りも、でもそこに立つ私は、まるで別人になってしまったみたいだった。 Dの横顔を頼りに、なんとか呼吸を整える。 打ち合わせは淡々と進んだ。  晴紀の姿は——なかった。「では、ご家族との顔合わせを」 専務の声に、背筋が強張る。 披露宴フロアのロビーには、白い花と囁きが満ちていた。「……神園家と清水家よ?」 「神園家って資産、何百億とか。旧財閥の本家筋だって」 「令嬢、本物ね」 「清水家のご母堂も……今日は格が違うわ」 視線も、スタッフの動きも、二家に吸い寄せられていく。(見なければいい。仕事だけして帰ればいい) そう思った瞬間——「晴紀、こっち」 その名が耳を刺した。 純白のドレスの令嬢が、青みを帯びた薔薇色の唇で笑いながら、  タキシード姿の晴紀の腕を当然のように取っていた。 目が合った。一瞬だけ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-20
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第4話 七年越しの再会と、最初の刃
 東京・銀座。十一月の夜風が、街の照明をすり抜けて頬を撫でる。  ビルの前に車が止まり、後部座席のドアが静かに開いた。「──着いたわよ、朱音」 先に降りた 天野 黛──通称 D が、すらりと手を差し出す。深黒のコートに、赤い口紅。長い脚と、刃物みたいに冷たい横顔。 Dは、老舗ブランドでさえ一目置くイメージコンサルタントだ。  七年前、壊れた私を最初に拾ってくれた人で──  いまの外見も、評判も、ここまで積み上げてきた道のりも、全部、Dが作ってくれたものだ。 知っている。  マーケティング会社リュエールの裏側で、静かに私を押し上げ続けてきた黒幕が、他でもないDだということを。 今日のDは親友でも恋人でもなく、私の復讐を完璧に遂行するための共犯者の顔をしていた。「行くわよ。最初の一手、もう整えてある。晴紀の会社の弱点も、社内の派閥も、すべて手に入れた情報通りに動くわ」 手先から足先まで意識を巡らせて車を降りると、通りかかったサラリーマンが思わず振り返った。  それを横目に見ながら、私は静かにDの手を取った。 ふと、ビルのガラス壁に映った自分の姿が目に入る。 黒のスラックスに、深いボルドーのシルクブラウス。  街灯の光に照らされて、輪郭が静かに引き締まる。  線の甘さが消え、七年前の少女とはまるで別の──磨かれた女。(この人が、私をここまで連れてきた)「……どう?」  私は少し笑う。「綺麗よ。完璧。  ──で、本当にやる気なのよね」 D の声は冷静で、どこか甘い。  心配しているのか、楽しんでいるのか、判別がつかない。「やる。迷わない」 一歩だけ近づくと、D は妖艶に──けれどどこか楽しげに微笑んだ。「それでこそよ。——さぁ、行きましょう」「……ありがとう」(──七年前より、ずっと強い) その笑みをごく自然に消し、重いガラス扉へ手を添えた。 今夜は、七年前の続きを奪い返す夜だった。 今日の相手は、老舗和菓子屋 清晴堂。  コラボ商談のために、私は担当者を待っていた。  約束の時間より五分早く、商談室の扉を開けた。 空気が、一瞬だけ凍った。 向かいの席に座る男が、ゆっくりと顔を上げた。 その視線が私に触れた瞬間、晴紀の目が、わずかに大きく開いた。 息をひとつ飲む気配。  瞬きを
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-01
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第5話 公開処刑だと思った? 処刑するのは私よ
 月曜の朝。  部長席でメールを整理していると── 秘書アプリの通知が震えた。《清晴堂 東京本社より:朝倉部長を至急お招きしたいとのこと》(……来たわね) 私が返信するより早く、広報の若い子が駆け寄ってきた。「部長、大変です……!  清晴堂の神園いずみ様が至急、本社へと……」(呼びつけるとは、ずいぶん強気ね) その瞬間──胸の奥を、六年前のあの光景がねっとりと撫でた。  純白の令嬢が晴紀の腕を取り、「勘違いした子」と笑った夜。 絶望と屈辱の記憶が重なって、胸の内側がちり、と焼けた。  あの痛みだけは、いまだに身体の奥が先に反応する。(……忘れろと言われても無理よね) でも今は──その焼け跡さえ、私を前に進ませる熱になってる。(見ていなさい。もう私はあの子じゃない) 私は静かに立ち上がった。 「分かったわ。向かう準備をする」*** タクシーが止まったのは、銀座の裏手にそびえる──清晴堂・東京本社。 石造りの外壁に、黒染めの木枠。  重厚な暖簾が風に揺れ、  歴史そのものが建物の空気を支配している。 けれど、私は知っている。(……本当はずっと赤字続き) (格式の看板は立派でも、実態は──神園家の延命措置で辛うじて呼吸しているだけ) 銀座本店は観光客が絶えない。  でも、高齢の職人の人件費、設備維持費、原材料高騰──  全部が時代と逆行している。(……だからこそ、いま必要とされるのは私。でも彼女は、それだけは認めない) (そこまで含めて──最初から読めていた) 古い外観とは裏腹に、エントランスだけは近代的で、全面ガラス張りだ。 私はそのガラスの自動扉を抜け、受付で名前を告げた。 「リュエールの朝倉様ですね。お待ちしておりました。  会議室へどうぞ」(呼びつけておいて丁寧に迎えるって……余裕を見せたいのかしら)*** 会議室の扉に手をかけた瞬間、中から妙に余裕を含んだ、上から落ちてくるような声が響いた。「庶民向けの宣伝など不要ですのよ? 清晴堂は選ばれた人のためのブランドですもの」 語尾がやたら甘い。  自信に満ち、勝ち誇った見せつけの声色。(……ああ、完全に公開処刑モードね。呼びつけておいてこれ) 私は静かに息を整え、扉を押し開けた。 八つの視線が一斉に私へ向く。  いずみは、まるで勝
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-02
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第6話 最高傑作と呼ばれた夜
 ──東京都内・中目黒。 私のマンション、深夜0時27分。(……完璧に勝つには、まだ足りない) ローテーブルに企画書を広げたまま考え込んでいた。 キッチンの棚にはDがいつも飲むハーブティー、洗面台には彼のスキンケアが私のボトルの隣に並んでいて、クローゼットの一角には彼のジャケットが自然に掛かっている。 この部屋には、当たり前のように彼の気配がある。 そのとき、玄関の鍵がカチャ、と鳴った。「……戻ったわよ」 黒のコートを肩にかけたDが、慣れた動作で靴を脱いで入ってきた。 いつもの余裕の笑みが──今夜はない。「遅かったわね。会食?」「ええ。でもそれより……大変なものを拾った。」 Dは部屋に上がると、そのままソファに腰を落とし、 タブレットをテーブルに置いた。「いずみが連れてくる切り札が分かったわ。」「切り札?」「鬼塚 剛」 その瞬間、心臓が一拍だけ止まった気がした。 息が、喉の奥で細い糸みたいに途切れた。 知らないわけがない。マーケターなら、その名に反応しない方がおかしい。「……本気で来るの? あの鬼塚が」 自分の声が震えているのが、分かった。 10年間赤字だった大型テーマパークを18か月で黒字転換した怪物。 来場者を180万人から900万人に。 動線から感情まで全部読み切って作り変えた伝説のマーケター。 Dは、ゆっくり頷いた。「確定。もう動いているわ」 私は無意識に、自分の腕を抱いていた。 暖房が効いているのに、肌が少しだけ冷える。「鬼塚は顧客に憑くと言われてる」 Dの声が静かに落ちる。「鬼塚が拾っているのは、その人自身も気づいていない欲望。 呼吸の揺れ、歩幅の乱れ、視線の逃げ先、ため息の理由── 無意識に滲んだ欲望の芯をまず見抜く。 そして、その願いを数式に落とし、本人が望んだ以上の形で組み上げてしまう。」 ゾクリ、と背中が冷えた。「知ってる……嫌というほど……」 声が細くなる。 足の先まで、緊張の冷えが落ちていくのが分かった。(……あの鬼塚 剛が動く) 喉の奥にたまった小さな恐怖が、自分でも抑えられなかった。 ふっと息が揺れて──気づけば、口が勝手に動いていた。「……勝てるかな、私」 言った瞬間、Dの動きが止まった。 ソファに片肘をついていた姿勢のまま、ゆっくりと顔を上げる。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-03
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第7話 復讐相手が、未来を一緒に作りたいと言ってきた
 鬼塚の名前を聞いた夜から、一週間が過ぎていた。(……まだ、足りない) 毎日、企画を組み直しては行き止まりにぶつかった。 若者に向けて、職人の手元を映したショート動画を毎日発信する案も考えた。 素材の透明性を前面に出したパッケージリニューアルも。 都内ポップアップで、実演と試食を組み合わせた体験施策も──。 どれもきっと悪くはない。むしろ、今の市場には確かに刺さる。 それでも。(……鬼塚には、届かない気がする) 胸の奥が、氷を押し当てられたみたいに冷えた。 勝てない未来を想像するだけで、足元がわずかに揺らぐ。 企画でも数字でもなく、顧客の欲望そのものを読むあの男に。 喉から手が出るほど、彼が今、何を見ているのか知りたかった。  焦燥を抱えたまま、私は資料をつかんで家を出た。 少しでも空気を変えたくて、会社近くのブルーオーク・コーヒーへ向かった。 店内には焙煎の香りが漂う、落ち着いた米国発のコーヒーショップだ。 いつもより少し早い時間。 8時09分。 通勤の人たちのざわめきが、逆に落ち着く。 私は窓際の席に座り、紙カップを手のひらで温めながら資料を広げた。(……足りない。このままじゃ、鬼塚に届かない) そんな焦燥を噛みしめていた、そのとき。「……朱音」 胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。 顔を上げると、 ガラス越しの朝日に照らされて── 晴紀が立っていた。 黒のスーツ、少し乱れた髪。 通りすがり、じゃない。 ここを探して来た顔だった。「少し……話せるか?」 私は息を吸い込み、表情を整えた。「……どうぞ」 晴紀は向かいの席に腰を下ろす。 カバンを置く仕草さえ、なんだか緊張していた。「どう? うちの企画」 彼のこんなに柔らかい声を聞くのは、いつぶりだろう。 かえって、心のどこかが逆撫でされる。「……今、取り掛かってるわ」「いずみが鬼塚っていう人を連れてきた。すごい人らしい。 店に立ったり、客と話したり、職人と一緒に和菓子を作ったりしてる」 言葉の一つひとつが、嫌でも胸に刺さる。(本気ね、鬼塚……顧客に憑依するマーケターが動いたら、普通は負ける) 手の中の紙カップが、少しだけ熱く感じた。「それで何?」 精一杯無関心を装う。でも、喉の奥がひりつく。(負けたら──)(いずみの、あの勝ち誇っ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-04
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第8話 捨てたはずの私と、捨てなかった彼。京都行きの朝に
 翌日からの京都出張に備えて、スケジュールを細かく調整していたとき── 晴紀から、短い連絡が届いた。「明日は工房の職人たちが、早い時間しか作業を見せられない。 だから──同じ新幹線じゃないと間に合わないんだ。 ……もしよければ、同じ便で行かないか?」(……そういうことね) 嫌だ。 できれば断りたい。 でも── 本店、工房、卸、そして大口の取引先まで回るなら、確かに一緒に動いた方が合理的だ。(必要なのは……勝つための材料) 私はため息をつき、返信した。『了解。合わせるわ』 仕事のため。 それだけのはずなのに、胸の奥が少しざわつく。*** 翌朝、東京駅の新幹線ホーム。 冬の朝の空気は薄く白くて、吐く息がすぐにほどけていく。 晴紀がスーツの内ポケットに手を入れ、切符を取り出した── そのときだった。 ポケットの奥に、淡い水色の革がわずかにのぞいた。 使い込まれて、色が変わっている。 見覚えのある、メモ帳。(……え、今の)(見間違い……よね?) 一瞬、呼吸がすっと消えた。 足元の線路の白い反射が揺れた気がして、思考が半拍だけ止まる。(どういうこと……?)(なんで今さら……) 言葉にも感情にもならない混乱だけが、胸の内側をざわっと撫でた。 晴紀は気づいていない。 切符だけを取り出して、自然にポケットを閉じた。(違う。動揺してる場合じゃない。私は仕事で京都に行くのよ)*** 二人で並んで座ると、私はすぐに PC を開いた。 晴紀はスーツの袖を少し捲り、スマホでメールのチェックをしている。 静かに新幹線が動き出した。「……仕事、忙しいの?」 ふ、と一息を入れたところで、視線は前を向いたまま、晴紀がぽつりと言う。「そうね。あなたは?」「俺も。……頑張ってるみたいだな。朱音は仕事でうまくいくって、昔から思ってたよ」 理由なんて説明しない。 ただ淡々と、当たり前みたいに。 胸がかすかに痛くなった。(……昔から? そんなはずはない)(私がこうなったのは、あの日の裏切りがあったから)(なのに……どうして、そんな声で言うのよ)「部長になったって聞いたときも驚いたけど……正直、不思議じゃなかった」 まるで、何年も前から分かっていたみたいに。(やめてよ……そんな言い方) 窓の外に目をそらす。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-05
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第9話 知らない晴紀を、私は初めて知った
 京都駅から車で二十分。  細い路地を抜けた先に、清晴堂の「工房」はひっそり立っていた。 冬の朝の空気がしんと冷えていて、鼻先が痛い。  戸を開けると、木と砂糖が混ざった甘い匂いがふわりと流れてきた。 職人たちの動きは正確で、無駄がない。  金属音と砂糖を扱う微かな音が、静かなリズムを刻んでいる。「……おはようございます。今日はリュエールの朝倉さんが見学を」  晴紀が頭を下げる。 その瞬間、最年長と思しき職人がこちらをひと睨みした。 「忙しいんでね。東京の人に見せるほどのもんは、ないですよ」 職人のそっけない言葉にも、晴紀は小さく頭を下げた。「親方……頼むよ。今日は、ちゃんと話を聞きに来たんだ」 私にだけ、ぎりぎり届く声量だった。 その瞬間、別の職人が奥から顔を出した。  白髪まじりで、眉間に皺を寄せた、いかにも長年この工房にいるという風格の男だ。「おい晴坊、ええからこっち来い。  型の温度、微妙に狂ってんねん。早よ見てくれ」「はい、すぐ行きます」 晴紀は小さく会釈し、白衣の袖をまくりながら職人たちの方へ歩いていく。  その背中は、不器用に真面目で、少しだけ懐かしく見えた。  工具のこすれる金属音が響く。 ふと横を見ると、後藤が腕を組んだまま、晴紀の背中を無言で見つめていた。「……あれでな、がんばっとるんや」 ぽつりと落ちた言葉は、さっきまでのそっけなさとは違っていた。 窓から射す冬の光が、木粉の微かな粒を照らしている。  後藤は腕を組んだまま、私をじっと見た。「……あんた、東京の子なんやな」 穏やかでもなく、敵意でもない。  測る声。「は、はい。マーケティング会社リュエールの──」「緊張せんでもええ。  怒鳴るんは晴坊だけや」 その言い方に、思わず瞬きをした。「……晴坊?」「あの子の、小さい頃の呼び名や。  晴紀はん、こっちでは晴坊で通っとった」 胸に、知らない晴紀の姿が一瞬だけ灯った。  だが、その感覚を自分で押し潰す。  ——これは、今さら触れてはいけない領域だ。 後藤は視線を工房の奥へ投げる。「ちっこい時分は、ようここ走り回っとったわ。  危なっかしいんに、職人の真似して工具触ってな。  『晴坊、落ちるで!』言うて毎日怒鳴っとった」 言葉の端々に、懐かしさと愛情が滲む。「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-06
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第10話 工房で聞いた一言が、私の計画を壊していく
 胸に溜まった問いが、ひとつの形にもならないまま、静かに沈んでいった。 その沈黙を断ち切るように、後藤の声が落ちる。「……そんでな。晴坊が大学卒業する頃や、先代が倒れはって。 結局、そのまま後を継ぐ形になったんや」(大学を卒業するとき)(あのレストランでの頃だ) 不意に胸が揺れた。 そのとき、後藤がほんの少し、目尻を下げた。 懐かしさと、誇りが混ざったような顔。 あの晴坊という呼び名に似合う、柔らかい笑み。「……まあ、あの子が戻ってきてくれて、正直、わしはうれしかったんやけどな。」 その表情に、胸がふっと緩んだ。「難しいことはわからんけど……経営があれでな。あの子、よう苦労しとるみたいや」 素朴な声。 責めるでもなく、分析するでもなく、ただ人として晴紀を案じる言葉。 その響きに、私の心は気づけば前へ傾いていた。「……私……」 言葉が勝手に滑り出る。「私も……清晴堂のこと、なんとかしたいんです。 晴紀さんが背負ってるもの……少しでも、力になれたらって」 言ってしまった。 口に出た瞬間、血の気が引く。(……なにを言ってるの、私は)(復讐しに来たはずなのに……) 自分の声が、自分のものじゃないみたいだった。 けれど後藤は驚くでもなく、ただ静かに頷いた。 その瞳は、どこか優しく、どこか確かだった。「……あんたがそう思うてくれるなら、清晴堂も変われるかもしれん」「変わる……?」「変わらなあかんのや」 後藤の声が、少しだけ低くなる。「先代もよう言うとった。 守るだけやと、伝統はすぐ死ぬ。磨け。変われてな」 思わず顔を上げた。「え……先代が? でも晴紀さん、伝統とか格調とか……ずっと、こだわってて」「せや。そこがあの子の悪いとこや」 後藤は苦笑した。「晴坊は律儀すぎる。 格調を守らなあかん、伝統を継がなあかん、って…… こだわりすぎて、逆に動けんようになっとる」「……そうなんだ……」 胸の奥で、何かが音を立ててつながった。 新しい清晴堂を作りたいという願いと、ここで聞いた先代の言葉が──一本の線になっていく。(ああ……この人たちが守ってきた清晴堂を、 私も守りたいと思ってしまっている……) 後藤は腕を組み直し、私を真正面から見据えた。「朱音はん。 ……晴坊があんたをここへ連れてきたん
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-07
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