憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

憎しみと愛~共犯者と綺麗になった私の七年越しの復讐計画~

last update최신 업데이트 : 2026-05-01
에:  悠・A・ロッサ참여
언어: Japanese
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二十二歳の春、朝倉朱音は恋人・晴紀との初めての誕生日デートをすっぽかされ、プレゼントはゴミ箱に捨てられた。さらに、令嬢に押し倒され、深くキスされている晴紀の姿まで見てしまう。 朱音を救ったのは、中性的な美貌のイメージディレクター・天野黛(D)。Dに導かれ、朱音は七年後、美しく成熟したマーケティング部長となる。そして仕事相手として再会した晴紀は、謝罪する。だが朱音は知っていた。彼が背負う家の事情を──そして自分が奪われたものを。七年越しの復讐がいま静かに始まる。けれどその計画は、憎しみでは終わらず、次第に別の感情へと形を変える──。

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1화

第1話 綺麗になった私を、彼は待たせた──そして捨てた

「──朱音、目、開けて」

 鏡の中にいたのは──見知らぬ「綺麗な女」だった。

 肌は淡く光り、瞳は深く、睫毛がきれいに影を落とす。

 髪は滑るように揺れ、Dが選んだ深紅のワンピースは、光を吸ってわずかに艶が立ち上がる気品のある赤で、身体の線を静かに拾っていた。

 薄い光が布の表面をかすめるたび、まるで高価な墨をひと刷けしたみたいに深みが滲む。

 メイクも服も、どこも破綻がなくて、息をのむほど完成されていた。

(……誰……? 本当に、私?)

 普段の私はノーメイクで、髪も後ろで適当にまとめるだけ。でも、三週間だけは違った。早起きしてスキンケアを変えて、間食をやめ、脚が震えるほどスクワットして……この日のために、別人のように変わった。

「努力の成果がきちんと出てるわよ」

 背中越しにDの指先が髪を整える。ふわりと、いつものあの香り──Dの手にかからなければ絶対に出ない仕上がりの匂い。

「朱音。これで落ちない男は、ゲイよ」

「……Dのことじゃん」

「私はゲイじゃなくてバイ」

 言うと、Dはゆっくりと目を細めた。

 長い指で前髪を払う仕草ひとつさえ洗練されていて、成熟した大人の余裕と、中性的な美貌の危うさが同居する横顔が、かすかに笑った。

 その笑みを追うように視線を落としたとき──鏡の中の自分と目が合った。

 そこにいた私は、信じられないほど幸せそうに微笑んでいた。

 バッグには、晴紀に渡す淡い水色の革のメモ帳。

(……喜んでくれるかな)

***

 今日は、晴紀の誕生日。

 そして——私たちが付き合って一年になる、大事な日。

 待ち合わせは、晴紀が予約したホテル・クラウンセレスティアのフレンチダイニング〈ラ・ルミエール・サンクチュアリ〉だった。

 ――最豪華コース。

 一ヶ月分のバイト代では、話にもならない値段だった。

 画面でその数字を見た瞬間、思わず息をのんだ。

 写真の中の店内はあまりに美しくて──

 自分なんかが本当にあんな場所に座っていいのか、不安が胸に滲んだ。

(でも……晴紀は、大丈夫って笑ってくれた)

(大事な日だからって)

 思い返すほどに、その言葉が胸の奥をそっと温めていく。

(……好きって言われて、手をつないで、キスまでして)

(──これって、次に進むってこと、なんだよね?)

 期待と緊張がゆっくり混ざり合う。

 胸の奥が、じんわりと熱を帯びていく。

 晴紀と初めて会ったのは、被災地のボランティアだった。泊まり込みで炊き出しや片付けをする、けっこうハードなやつだ。

 なのに彼は、自分の荷物もロクに用意しないまま現れて、配られたおにぎりを見て、開口一番こう言った。

「夕食、これだけなんだ?」

 その瞬間、カチンときた。

「ここホテルじゃないんだけど。もてなされる側で来たわけ?」

 思わず噛みついたら、彼はぽかんとしたあと、少しだけ笑った。

 なぜかうれしそうだった。

 それから、彼は気まずそうに頭をかき、周囲を気遣ってテキパキと動き出した。

 初対面の人にすぐ手を貸せる優しさと、どこか放っておけない不器用さ。

 そのアンバランスが、妙に目を引いた。

 それからなぜか、会えば口喧嘩ばかりして、なのに、彼はいつも私の班に紛れ込んでくる。

 ある日、作業が終わった夕暮れ、彼は何でもない声で言った。

「……朱音のそういうとこ、好きだよ」

 驚いた瞬間、胸の奥がじわっと熱くなって手足の先までぽうっと温度が広がった。

 頭の芯がふわふわした。

 そこから先は、よく覚えていない。気づいたら一緒にご飯を食べるようになって、気づいたら手をつないでいて、気づいたら、付き合っていた。

 彼の誕生日に選んだのは、掌に収まる小さな革のメモ帳だった。明るい水色で、触れるとゆっくり沈んで戻る。彼の好きな色。

 晴紀は昔から「メモ魔」だ。京都の老舗の和菓子屋の跡取りだという彼は、和菓子の形や味のアイデアを思いつくたび、くしゃくしゃの大学ノートに急いで書く。角が折れて、紙は波打って、それでも律儀に全部取っておく。

(こんなに大事なことを、こんな紙に……)

 ずっと気になっていた。

 晴紀は明るくて、どこか浮ついて見えるときもあるけれど──

 そんな彼がアイデア帳を開く瞬間だけは、子どもみたいに目がきらきらする。

 その晴れた感じに合わせたくて、この色を選んだ。

 淡い水色の革。開くたびに光を吸って少し明るく見える、軽やかなやつ。

 中にそっと紙を挟む。

「どうか──自分の晴れを、誰かのために使える人でありますように」

 言葉はそれだけ。

 言わなくても、伝わると信じた。

***

 タクシーを降りた瞬間、ホテルのガラス壁に映った「美女」に息が止まった。

 光を滑らせる髪、肌の艶、揺れるワンピースの線。

 通りすがりのスーツの人が、ちらっと振り返る。

(……今日の私は、ちゃんと綺麗だ)

 胸の奥がじん、と熱くなる。

 ホテル・クラウンセレスティアの自動扉が開いた瞬間、空気が低い温度で肌に触れる。

 ロビーの女性たちの視線が、一瞬「有名人?」とでも言うように止まった。

(晴紀、驚くかな)

 レストラン受付で「清水晴紀・二名」と告げる。

 スタッフが一瞬だけ眉を動かした。

「……少々お待ちください。ええと──本日のご予約は……」

 タブレットを確認して、ほんの一拍の沈黙。

「席を、おつくりいたしますね」

 「おつくりします」の言い方に、なにか小さな違和感が刺さった。

 でも、深く考えず頷いた。

(忙しいのかな。満席なのかも)

 案内された席に腰を下ろしながら、思わずスマホを開く。

《着いたよ。もうすぐ?》

 送信。未読。

(大丈夫、少し遅れてるだけ)

 周囲では、ワインの香りと、カトラリーが触れ合う軽い音が溶けていく。

 その音が、なんだかテーブルの上のひとりを強く照らし出す。

 五分後──《まだ?》

 送信。未読。

(迷ってるのかな。ロビーで待ってる、とか)

 そう思って背筋を伸ばすけれど、

 さらに視線に気づいてしまう。

 最初にロビーでもらった「綺麗な人」という視線が、今は「ひとり?」と温度を変えていた。その瞬間から、時間だけが止まってしまったみたいに遅くなり、座っている場所のすべてが急に居心地悪く感じられた。

 給仕がそっと近づく。

「お連れさまがお揃いになるまで、お飲み物だけでもご用意できます」

「だ、大丈夫です」

 自分の声の震えがわかる。

(二十分……まあ、あるよね)

 二十五分。

 三十分。

 スマホの画面は、ただ暗く光っているだけ。

(晴紀……どうしたの……?)

 四十分。

 五十分。

 テーブルクロスの赤が、だんだん重く感じる。

 指先がひやりと冷たくなっていく。

(何かトラブルがあったの? 大丈夫かな)

 一時間。

 ワクワクしていた胸の奥が、少しずつ、置き場所のない熱で満たされていく。ここにいること自体が、

 だんだん苦しくなる。

 二時間の後、立ち上がりかけた瞬間──

「朱音?」

 振り向くと、晴紀が立っていた。

 普通の顔。

 遅れた理由を言う気配もない。

「……よかった。ずっと未読だったから……」

 言いかけると、

「何やってんの、こんなところで」

(……え?)

 声の温度が冷たい。

 優しさも、謝罪もない。

「え、だって……予約、晴紀が……」

「キャンセルしたよ。言ったと思ったけど」

「……言われてないよ。どうして……?」

 今日は何の日か、忘れた?

 そんなはずないでしょう。

 なのに晴紀は、私のことなど何も気にしないみたいに、軽く笑って肩をすくめた。

「覚えてないだけじゃない? 最近忙しいみたいだし」

(……え? 私が悪いの……?)

 何かが、かすかに噛み合わない。

 今までも、こんな温度差……あったっけ?

「で? その袋、何?」

 話題を、まるで最初から興味なんてなかったみたいに切り替える彼の声。

 胸の奥に、生温い不安がじわりと広がる。

(……なんで? 私、何か間違えた?)

 震える手でプレゼントを差し出す。

 包装紙もリボンも、時間をかけて選んで──自分で丁寧に包んだものだ。

「……誕生日、だから……」

「へー」

 晴紀は包装紙をその場で乱暴に引きちぎった。

 ビリッ。

「メモ帳? 子どもかよ。こういうの、重いんだよ。わかんない?」

 そして──

 ゴミ箱へ向けて。

 ためらいも、振り返りもなく。

 ゴトン。

 革表紙の鈍い音が底に落ちた。

(……こんなの、嘘だ)

 私の指先には、破れた包装紙の端だけが残っていた。

 泣いてなんかいない。けれど、胸の奥がじわりと熱くゆらぎ、まぶたの裏だけが、ひどく痛む。

***

 ──この後の「わずかな違和感」に気づく余裕なんて、いまの朱音にはなかった。

 ゴミ箱の影で、一度だけ立ち止まった晴紀の横顔にも。

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