Chapter: 2彼は遠慮がちだが、相変わらず窘めるような口調だった。「……わかりました。でもあんな危ない物を代わりに預かってもらうんです。必要な管理費を教えてください」「それには及びません。個人様に請求するものではありませんから」そう答えた時の彼の口元がわずかに笑っているのを見逃さなかった。「何よりも我々に託していただいたことに感謝申し上げます」「……」気付いた時には持って行かれていただけなんだけど……どう返そうか迷っていると、ルネに後ろへ引かれた。「私は妻と子どもと平和に暮らしたいだけです。ご面倒をおかけして申し訳ありませんが、あの剣は貴方達にお願いします」「では、長にもそのように伝えます。万が一処分するとしても、あの剣を壊すには相当な年月が必要となるので」ノーデンスは胸の奥が焼き付くような痛みを覚えた。この痛みの理由を考えていたが、ルネの横顔を見て思い出した。だらんと投げ出していた拳を握り締め、使いの男に向き直る。「あの……! 良ければヴィクトルさんに御礼をお伝えください。王城で、剣の暴走を止めてくれたこと……俺を止めてくれたことを」「もちろんです。必ず申し伝えます」それから男は小さな便箋をルネに渡し、一礼して去っていった。「何それ?」「えーと。要はあの剣を彼らが預かる……ことを私達に報告した、という証明書かな」緑色の便箋をポケットに仕舞い、ルネは扉を勢いよく閉めた。「わざわざ来てくれたのに、失礼な態度とっちゃったな。すまん」「あはは、あれぐらいなら平気だよ。彼も言ってたように、得をしたのは彼らさ。物が物だけに損得で考えるのは不謹慎だけどね」合理的な組織だからと、意に介さない様子でダイニングへ戻る。ぬるくなったコーヒーを口にした。「そもそもこっちの意思確認をする気なんてゼロだったろ。当然のように自分達のものにしようとしてた。助かるけどさ」あんなにも堂々とこられたら、よく分からない間に丸め込まれてしまいそうだ。もちろんこちらの手に余ることを見越した上での判断なのだろうが、色々圧倒されて録に話ができなかった。オリビエが部屋で本を読んでることを確認し、ルネの対面に座る。「ノースが費用の話をした時、彼少し笑ってたね」「あぁ」もちろん気付いている。あれは嘲笑以外の何物でもない。「俺なんかが到底支払える額じゃないってことか」ノーデ
Last Updated: 2025-08-07
Chapter: 1熱の中心が離れる。後ろの、ずっと痙攣していた口に当てられる。腰を掴む両手に力が入ったとき、意識を失いそうなほどの衝撃が訪れた。「あああっ……!!」彼が中に入ってくる。息ができない。苦しさに足をばたつかせると、顎を優しく掴まれた。「息して」深海に沈むように、ルネの腕の中で落ちていく。零れ落ちた涙をそっと指ですくわれる。やっぱり何度か意識が飛んだし、天井に向く自分の脚先がいやに鮮明だった。「ルネ、あっ待って、速い……っ!」激し過ぎてついていけない。気付いた時には既にイッてしまっていた。下腹部や胸には白い愛液が飛び散っている。今もイッてるはずだが、もうとけすぎて感覚がない。これ以上なく深いところに繋がっている。抜き差しされてルネの根元が当たる度に仰け反った。「私も悪いかもしれないけど、君があんまり可愛いこと言うから。もっともっと気持ちよくさせたくなっちゃったよ……っ」ルネの汗が、視界が揺れる度にはじける。悔しいけど気持ちいい。自分を手放してしまうほどに、彼の手技は絶妙だった。「ルネ、好き、好きだ……っ」伸ばした手を掴まれる。彼が好きだ。泣きたいほど、どうしようもないほどに。こんなにも愛されて、正直苦しい。でも彼がいなければとても生きていけない。「ありがとう。愛してるよ、ノース」前がまた弾ける。死んでしまいそうな快感が全身を包んだ。「イッ、ちゃ……っ」ドクドクと何かが吐き出されている。前も後ろも、もうぐちゃぐちゃだ。「とけちゃう……っ」脚を広げたまま背中をしならせるの、ルネはわずかに微笑み、さらに奥へと潜り込んだ。「私の愛がどれだけ重いか、知ってるだろう?」もう締め付けることもできないのに、腰を打ち付けられる。ルネは快感を求めてるんじゃなく、ただ自分を感じさせたいのだと分かった。「ああっ……! 分かった、分かったから…ぁ…っ……あ、も、やあぁ……っ!」逃れられない快楽に震える。絶倫なんてレベルじゃない。重症だ。愛され過ぎてやばい。自惚れにも程があるけど、ルネと目が合うとそう確信してしまう。彼が俺に抱く想いは依存や執着なんて生易しいものじゃなくて、災害レベルの愛情だ。なんて言ったらマジで抱き殺されるんだろうな……。とろけきった性器を扱かれ、言葉を失う。 あんな大変な事件を起こして、あれだけ迷惑もかけて。
Last Updated: 2025-08-06
Chapter: 家今日も空は快晴だ。冬が近付いてる為、早朝は少し肌寒い。ランスタッドは時間が止まってるかのように静かだ。他所の国のニュースでは違法薬物の密輸や政治がらみの暴動が起きたりしているけど、こちらは目立った事件もなく生活している。武器生産国とは思えない。少し皮肉に考えてしまい、慌てて思考を掻き消した。庭で遊ぶ主人と息子の姿を見ると弱気になってはいけないと再認識する。そして忘れてはいけない多くを思い出す。ちょうどオーブンの中のケーキが焼けた為、紅茶を淹れて庭へ持っていった。 「良い天気だなー……」雲ひとつない蒼空に、ノーデンスは呟いた。街の喧騒すら届かない丘の一軒家は否が応でも日常に引き込まれてしまう。それが苦く、また助かっている。初めこそ城から遠ざけられたことに落胆していたけど、仕事より何より大事なものに気付かされたから。「お。ちょうど苗植え終わったとこ?」庭に作った小さな畑。半分は葉野菜が顔を出している。もう片方はまだ小さな葉が均等に植えられていた。畑の中心にいた息子はこちらに気付くと手を振った。「お疲れ様。オリビエも手伝ってくれてありがとな」「ううん! 虫もいるし面白いよ。ほらっ」と、オリビエは近くにいた謎の赤い虫を差し出してきた。「うわ! ちょっ、持ってこなくていいから!」「え、かっこいいよ?」「オリビエ、ママは虫が苦手なんだ」後ろから苦笑いのルネが声を掛ける。オリビエはえー、と言いつつも虫を原っぱに連れて行った。「はー、俺はマジで虫は無理。バッタしか無理」「でもノース、オリビエが夏は虫捕りしたいって言ってたよ。ママと」「勘弁してくれ。それ以外なら何でもやるから」ネイビーのストールが風に飛ばされないよう抑えて、遠くにいるオリビエに手招きする。「ケーキ焼いたんだ。天気も良いし、せっかくだから外で食べよう」「おお~。良いね!」二人が手を洗った後、ミニテーブルを持ってきてケーキを皿に取り分ける。オリビエはお腹が空いていたのか、ひと口がとても大きかった。「ノースがケーキを焼く日が来るなんて。感無量だなぁ」「パパ、感無量ってどういう意味?」「感動してるってことだよ。ケーキもちゃんと美味しいし」「オイ、ちゃんとって何だよ」聞き流せない一言に詰め寄るが、ルネは優雅に紅茶を飲んで素知らぬふりをしていた。「君はクッキーは苦手
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 7再会してから何度悲しませたか分からない。これっきりにしようと思っても、気付けばいつも心配させて、困らせていた。今回はその最たるものだ。国の支配権を持つ王族を襲撃するなんて────これを呪いのせいだからと納得してくれる者などまず居ない。ルネだから冷静に話を聴いてくれているんだ。「俺はマトモじゃなかった」全身負った怪我なんかより、彼が苦しんでることの方が痛い。そして、これから彼の為にできることは限られている。「ごめん」ルネが置かれた気持ちを考えると、自分の今後を考えるよりずっとずっと怖かった。気付けば涙が溢れていた。いつかと同じように、嗚咽を堪えながら強く目を瞑る。小さな声で繰り返し謝ると、手を握られた。「もう謝るの禁止」「だって……っ」「私は大丈夫だよ。だから不安にならないで」額に口付けをし、そのままの体勢で呟いた。「何があっても……これからはずっと君の傍にいる」涙で顔がぐしゃぐしゃになって、前は見えない。左手を繋ぐと互いの指輪が当たって、何故か懐かしくなった。ルネは一年前に離れたことを後悔しているようだったけど、あの頃を思い返したら英断だと思う。ルネはもちろんのこと、オリビエへの影響が大き過ぎた。息子を自分から遠ざけてくれたことに感謝してるぐらいだ。大人になってからの方が目まぐるしく、月日が長く感じた。情報量が多過ぎて、間違った道にもぐんぐん入った。それでもぎりぎりで引き返すことができたのは、彼や周りの皆のおかげだ。謝るのを禁じられたら後はお礼の言葉しか出てこない。今度はルネが困るほど、一生分のありがとうを伝えた。「もう一つ謝っておきたいことがあるんだけど……言ってもいい……かな」「どうぞ」「陛下に、王族が憎いことも言っちゃった」息苦しい沈黙が流れる。覚悟を決めて怒声が振り落ちるのを待っていたが、何とも可笑しそうな笑い声が響いた。状況が状況なだけに、一応つっこむ。「笑うところじゃないぞ」「あはは、ほんとにね。でも言い方が、叱られてる子どもみたいで」このことを告白するのは勇気が必要だったのに、ルネはツボに入ったのかしばらく笑いが止まらなかった。まぁ実際、己の悪行を白状してるんだけど……。「呪いのせいじゃなくて、俺の意思で伝えたんだ。お前の立場を危なくして……本当にすまない」「ふふ……ふう。そうか」ひとしき
Last Updated: 2025-08-04
Chapter: 6「陛下、空が晴れました!」 細い光の矢が幾重にも差し込み、王室は瞬く間に明るさを取り戻した。 正午と相違ない日差しが辺りを包み込んでいく。いつもの風景を目にし、この場にいた全員が胸を撫でおろした。「一体何だったのでしょうね」「あぁ……」窓際まで歩いたローランドは暫く空を見上げていたが、側近に声を掛けられ振り返った。「陛下、他国の使者が続々と到着してるようです」「……来たと同時に事がおさまって申し訳ないな。先ずは丁重に迎え入れてくれ。説明は全員揃ってからにしよう」「はっ」ひとりの部下が扉まで向かう。すると彼は非常に驚いた声を上げた。「ノ、ノーデンス様!?」開け放された扉から影が現れる。見れば、目を疑う姿のノースが佇んでいた。彼は扉の手前で屈み、ローランドに礼をした。「な……ノース、大丈夫か? 一体何があった!」周りの制止を振り切り、ローランドは自らノースの元へ駆けつけた。かつてない大怪我に困惑し、ノースの頬に手を添える。ノースは表情ひとつ変えず、「突然申し訳ありません」と呟いた。「此度の天災と……城内の襲撃についてお詫び申し上げたいことがございます」「何? 襲撃だと?」下の階で起きたことを未だ知らないローランドは眉間を寄せた。「話なら聴く。だから先ず医務室へ」「陛下」ローランドは身体を支えて抱き起こそうとしたが、ノースはそれを拒んで頭を下げた。「私は……いや……俺は」再び膝をつき、消えそうな声を振り絞る。「王族が憎かった」突然の告白が理解できず、ローランドは口を噤む。そして分からないながらに彼の心境を汲み取ろうとした。部下が警戒して駆け寄ってきたが、その場に留まるよう命じる。二人にしか聞こえない距離を保ち、ノースを隠すようにして耳を傾ける。「今はまだ、何もお分かりにならないと思います。でも全て俺の不甲斐なさが起こしたことです。俺が王族を疎んでいたのは紛れもない事実で……そのせいで多くの人を傷つけた」拳はゆっくり開かれ、自身を支えるように床につく。「助けてくれた人達がいたから、またこうして陛下に拝顔できたのです。もしいなかったら、と思うと恐ろしくてたまらない」その言葉は恐らく本心だと感じ取れた。いつもは強気な彼が、今では蒼白のまま震えている。「如何なる処分も受ける所存です。……本当に、申し訳ございません」
Last Updated: 2025-08-03
Chapter: 5この天災の元凶である剣を奪うことに成功した。しかし床に倒れたままのノーデンスは仰け反り、血の塊を吐き出す。「ノーデンスさん……!」呪いを取り込んだ代償なのか、再び動かなくなった彼にヴィクトルは心臓マッサージを施した。すぐにでも医療チームを呼ぶべきだが、クラウスも既に限界を迎えており、足が動かない。床に手をついたまま祈ることしかできなかった。「死ぬな、ノーデンス」ここまできてそんな結末はやめてくれよ。反対側に屈んでいるヴィクトルは急いで携帯の端末を取り出した。どこかへ電話をかけているようだが、繋がらない。「くそっ……障害か?」「多分通信機器もおじゃんにしたんだろ。……このアンポンタンが」もちろん、そんなことができるのはノーデンス以外にいない。クラウスは這いずるように彼の側へ行き、額に手を当てた。「こういう時、処置ができるルネ王子が本当に羨ましいよ。大事な奴の命を助けることができるなら、悪魔にだって魂売っちまうかもな。……そういう気持ちもやっと分かった」「……」拳を握りしめ、血で汚れたノーデンスの口元をぬぐう。「大丈夫、死んだりしないさ。こいつはこれでもウチの長だからな」頭の下に薄いハンカチを敷き、大きく息をつく。「あなたは……」「クラウスだ」「クラウスさん。……僕は下に降りて、医者を呼んできます。隣国の僕が一番に到着したけど、もう他国からも救援や専門チームが着いてるはずだから」ヴィクトルはお願いしますと言い残し、剣を肩に背負って階段の方へ走っていった。お願いしますって言われてもな。これ以上できることはない。ノーデンスの生命力にかけるしかないだろう。今は罪悪感しかなかった。自分だけでなく一族の誰もが、このことを知ったら平静じゃいられないだろう。ヴェルゼの禁断の武器が存在していたことはもちろん、それをずっとノーデンスが管理していたなんて。恐らく彼の祖父の代から隠し通してきたんだろうが、一族は誰も気付けなかった。せめて内密にせず、負担を軽減できていたらこんなことにならなかったのでは……。そんな可能性の話も、今となっては後の祭りだ。あの武器を護っていたのがノーデンスだからここまで持ち堪えられていたとも言える。もし他の誰かが見つけていたら、もっと早い段階で意識を剣に乗っ取られていた。「……っ!」ノーデンスは再び血を吐き、呻い
Last Updated: 2025-08-02
Chapter: #9差し出された手を取る。紫弦の笑顔は太陽のように眩しくて、正直困っていた。嬉しい気持ちと、このままではいけない、という切迫感の板挟み。人として渡っていきたいから、道士であることは隠しておきたい。だが彼とずっと一緒に居ると不器用な自分は必ずどこかでボロが出る。天界の者が人界へ下ることはまずなく、その珍しさや秘術を求めて悪巧みをする人間もいると父から聞いたことがある。恐らく人界については師叔よりも父の方が詳しい。人の素晴らしさも醜さも、きっと天界の誰より熟知している。「俺は普通の人とは違うと思っていた。良くも悪くも目立ってしまう」前を行く紫弦に続き、長い通路を渡る。彼は振り返ることもせず、一定の速度で先を歩いた。「子どもの頃は本当にたまに、城の外へ出ることが許されたんだ。けど長く付き合える友人はもつくれなかった。やっと気が合った奴は、俺が王族だと分かると離れていった。同い年の中で遊離していると気付いたら、さすがにちょっと虚しかったよ。共にひとりつくれないなんて……」国王の父には数えきれないほどの友がいる。だがそれはほとんど親類で、身分が近い者ばかり。権力に頼りたくない。自分は、立場を越えた友を作りたかった。「結局大人になるまで交流関係は全然広がらなかったけど。お前と会えて良かったよ」「あ……ありがとうございます」気恥ずかしくなって、礼を言いつつ顔を逸らした。俺達も“友人”とは違うと思うけどな……。昨夜のことを思い出して鳥肌が立ったとき、紫弦は急に手を叩いた。「そういえば。幼い時に、とても綺麗な青年と会ったことがあるんだ。ただ昔のことだから綺麗だったことしか覚えてない。困ったもんだな」「子どもの頃なら仕方ありませんね」「あぁ。告白したことは覚えてるんだけどな」「あはは! それは大胆……」笑いながらおどけた時、突然過去の映像が脳裏に流れた。────僕のお姫様になって。自身の前髪を軽く掻き上げる。馬鹿な。あれは……いや、そんな偶然あるわけない。「千華、着いたぞ。俺の後に来てくれ」前を歩く彼の声でハッとし、急いで襟元をなおした。両側に大きな柱がいくつも並び、前方には立派な絨毯が直線上に敷かれている。紫弦はその上を躊躇いなく進んだ。いいや、待てよ……。以前父と人界へ下りたときから、人界の王は変わってないはずだ。ならば王と会うのはこ
Last Updated: 2025-10-01
Chapter: #8骨の髄まで溶かされた。愛情と欲情が綯い交ぜになった、本気で自惚れそうな情事だ。紫弦は千華の細い腰を支え、首から爪先まで愛撫を繰り返した。既に性器は萎えており、それは千華も同じだったが、相変わらず寝そべって密着していた。動く度に淫らな糸が引き、自分達の卑猥な行為を自覚する。恥ずかしい……。慣れずについつい離れようとしてしまうが、紫弦はこれまで幾度と経験してきたのだろう。そう思うと何だかやりきれない気持ちになる。息苦しさもあって自身の首を加減せずに掴んだ。それに気付いた紫弦が律動を止め、千華の腕を掴む。「何してる。窒息するぞ」「ん……っ」傷を負いそうなところでしっかり止めてくれる、その優しさが今は煩わしい。このまま本当に息が止まれば……彼は少しは慌ててくれただろうに。でもこんなことで死ぬのは馬鹿だ。情事中に自死なんて、冥界へいくこともなく消滅しそうである。ほとんどヤケになって、せめて声を出さないよう唇を噛み締めた。だがそれも早々に阻まれる。彼は千華の鼻を掴み、無理やり口を開かせた。「だから、自分の身体を傷付けるな」「そん、な……っ!」気が狂いそうなほど攻めてくるくせに、あんまりだ。この絶倫め。思いつく限りの罵詈雑言を浴びせたいけど、これでも彼は国父の息子だ。下手に憤激させたら惨いやり方で処刑されるかもしれない。でも……ないかな。そんなことをする奴には見えない。と言うのも、またひとつの自惚れなのか。「あっ、ん、ふあ……っ」両腕を押さえられ、口付けをせがまれる。女のような喘ぎ声が、千華の耳元でずっと聞こえている。自分のものと思いたくないのに、それは紫弦が身動ぎする度にはしたなく響く。本当に、一番会ったらいけない人。一番捕まったらいけない人に捕まってしまった。意識が水にとけていく。押し寄せる後悔と快楽は、透明な世界に飲み込まれた。快楽から解放された頃────。窓から陽光が射し込み、鳥の囀りが聞こえた。微かではあるが、人が慌ただしく動いてる音も聞こえる。小さな変化を感じつつ、千華は未だ紫弦と同じ毛布にくるまっていた。きっと城の者は朝餉や朝会の支度などで忙しいのだろう。ぐうたらしていることに罪悪感が募るが、動きたくても動けないのが実情だ。紫弦は後ろから千華を抱き留め、長いこと放そうとしない。「あの~……。そろそろ起きないと誰か来
Last Updated: 2025-09-30
Chapter: #7そんな無茶な。だが文句を言う間もなく、愛撫は激しさを増す。いやらしい水音が大きくかる毎に、羞恥心も肥大した。頭の中では混乱の渦が巻き起こっている。”愛されること”って、何なんだ……。どれだけ考えても答えに辿り着けない。けど紫弦の必死な表情を目にすると思考が止まってしまう。これらは全て欲求を満たす行為のはずなのに、どうしてそんな顔をするのだろう。分からないから、尚さら困惑して力が抜ける。「千華……俺を見ろ」今度は仰向けに寝かされる。舌は離れたが、紫弦の冷たい指が柔らかくなったそこに入り込んできた。「見て……」鈍い痛み。冷や汗をかいた。怖い……怖いけど、真っ直ぐ見てくる彼から目が離せない。片手だけ繋いだ。紫弦のもう片手の指は、自分の中に潜り込んできている。どう受け止めていいのか分からず、何度も腰を揺らした。彼の指は角度を変え、中の出っ張りを擦る。時に優しく、時に激しく。指の数も増え、圧迫感に呼吸が荒くなる。その息すらも奪われ、本気で殺されると思った。「ん……紫、弦様……っ」けど何故か、全身の緊張は解けてきている。殺され方としては酷く情けないけど、さっきよりも悪くない。彼がこちらの視線や仕草に神経を注ぎ、分かろうとしている。心で繋がろうとしている。そう気付くと小さな光が灯った。どれほど時間が経過したか分からないが、指は引き抜かれた。彼の指には卑猥な液体が絡みついている。それは彼が千華の為に用意した潤滑油だったが、自身の体内から零れているところを見ると羞恥でおかしくなりそうだった。「すごいな。とろとろ」「わざわざ言わないでください……!」「すまんすまん」紫弦は申し訳なさそうに笑い、千華の額に口付けした。「酷いことはしない。つもりだけど、お前が可愛いせいでやり過ぎる可能性があるから、先に謝っておく」もっと真剣に防ぐ努力をしろ。怒りを通り越して呆れ返ってしまう。けどそれすらも笑い流し、彼は千華の腰を掴んだ。「不思議なんだ。最初は鎮めてやろうと思っただけなのに……お前に触れてる時が今までで一番、気持ちいい」白い衣がはらはらと落ちる。紫弦のものはとっくに勃ち上がり、千華以上に熱をまとっていた。その先端が小さな入口に当たり、優しく刺激を与える。「気持ちよくておかしくなる。何でなんだろうな。出会った時からずっとだ。お前といると不思議な経験
Last Updated: 2025-09-29
Chapter: #6理性を投げ打って快楽に溺れるなんて許されざることだ。頭では分かっているのに、彼に見つめられると自分が今いる場所すら忘れそうになる。自分を受け入れてくれる世界に溺れたいと思ってしまう。ここは人の為の世界で、天が決めた仕来りはない。だから尚さら揺らぎそうになった。またあの快感を……。紫弦の手に自分の手を重ねようとした、その寸前で我に返った。「すみません! ……もう寝ます」「え。おい、千華?」彼は自分を呼び止めようとしていたが、聞こえないふりをして部屋を飛び出した。暗いため壁に手を宛てながら先へ進む。今のは本気で危なかった。なにか悪い気に当たっている気がする。でもこちらが影響されるほどの気を人間が発することなんてできないし、単に自分が血迷っているだけだろう。自分と彼では立場が違い過ぎる。今以上の関係になってはいけない。「は……っ」だが、まださっきの熱が下がってくれない。長い廊下を歩きながら、とうとう堪えられず近くの柱の影に隠れた。身体中が火照って苦しい。ずり落ちるようにして床に座り、衣の中に手を伸ばした。怖々確認すると、性器はまた真っ赤に反り返り、刺激を求めている。「何で……っ」あまりに卑猥なので咄嗟に視界から外した。醜い、浅ましい、怖い。何十年も生きていながら、自分の身体に恐怖を覚えた。今この身体は地上に馴染みつつある。それは即ち、人に近付いているということだ。それとは別に、紫弦といると異常なまでに反応してしまう……自分が歯痒くて仕方ない。無人の広間は冥々たる闇が広がり、無力感を助長していく。こんな不安定な身体でこれからやっていけるんだろうか。地上へ下りた時はあれほど自信に満ち溢れていたのに、もうよく分からない。ただの人間になったらどうしよう。熱を帯びた性器を握ったとき、恐怖や不安はわずかに薄れた。生理的な反応だろうが、涙が流れて床にぱたぱた落ちる。訪れる熱い快感に対し、孤独はやたらと冷めた目で自分を見ている。「千華!」ふいに自分の名が響いたとき、胸がぎゅっと締め付けられた。遠慮がちに顔を上げると、肩で息をしながら佇む紫弦がいた。わざわざ追いかけてくれたらしい。けど最悪だ。よりにもよって一番酷い姿を見られた。追いかけてきてくれたことは嬉しかったけど、羞恥心に打ち勝つことはできなかった。気まずくて俯くも、抱き抱えられた
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: #5どれだけ考えても答えに辿り着けない。けど紫弦の必死な表情を目にすると思考が止まってしまう。これらは全て欲求を満たす行為のはずなのに、どうしてそんな顔をするのだろう。分からないから、尚さら困惑して力が抜ける。「千華……俺を見ろ」今度は仰向けに寝かされる。舌は離れたが、紫弦の冷たい指が柔らかくなったそこに入り込んできた。「見て……」鈍い痛み。冷や汗をかいた。怖い……怖いけど、真っ直ぐ見てくる彼から目が離せない。片手だけ繋いだ。紫弦のもう片手の指は、自分の中に潜り込んできている。どう受け止めていいのか分からず、何度も腰を揺らした。彼の指は角度を変え、中の出っ張りを擦る。時に優しく、時に激しく。指の数も増え、圧迫感に呼吸が荒くなる。その息すらも奪われ、本気で殺されると思った。「ん……紫、弦様……っ」けど何故か、全身の緊張は解けてきている。殺され方としては酷く情けないけど、さっきよりも悪くない。彼がこちらの視線や仕草に神経を注ぎ、分かろうとしている。心で繋がろうとしている。そう気付くと小さな光が灯った。どれほど時間が経過したか分からないが、指は引き抜かれた。彼の指には卑猥な液体が絡みついている。それは彼が千華の為に用意した潤滑油だったが、自身の体内から零れているところを見ると羞恥でおかしくなりそうだった。「すごいな。とろとろ」「わざわざ言わないでください……!」「すまんすまん」紫弦は申し訳なさそうに笑い、千華の額に口付けした。「酷いことはしない。つもりだけど、お前が可愛いせいでやり過ぎる可能性があるから、先に謝っておく」もっと真剣に防ぐ努力をしろ。怒りを通り越して呆れ返ってしまう。けどそれすらも笑い流し、彼は千華の腰を掴んだ。「不思議なんだ。最初は鎮めてやろうと思っただけなのに……お前に触れてる時が今までで一番、気持ちいい」白い衣がはらはらと落ちる。紫弦のものはとっくに勃ち上がり、千華以上に熱をまとっていた。その先端が小さな入口に当たり、優しく刺激を与える。「気持ちよくておかしくなる。何でなんだろうな。出会った時からずっとだ。お前といると不思議な経験ばかりする」「それは……」自分も同じだ。体内中の気が、紫弦によって掻き乱されている。唯一可能性があるとすれば、彼を助けたときだ。全ての神気を注いだことで、人と同じ存在に成り下がった
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: #4理性を投げ打って快楽に溺れるなんて許されざることだ。頭では分かっているのに、彼に見つめられると自分が今いる場所すら忘れそうになる。自分を受け入れてくれる世界に溺れたいと思ってしまう。ここは人の為の世界で、天が決めた仕来りはない。だから尚さら揺らぎそうになった。またあの快感を……。紫弦の手に自分の手を重ねようとした、その寸前で我に返った。「すみません! ……もう寝ます」「え。おい、千華?」彼は自分を呼び止めようとしていたが、聞こえないふりをして部屋を飛び出した。暗いため壁に手を宛てながら先へ進む。今のは本気で危なかった。なにか悪い気に当たっている気がする。でもこちらが影響されるほどの気を人間が発することなんてできないし、単に自分が血迷っているだけだろう。自分と彼では立場が違い過ぎる。今以上の関係になってはいけない。「は……っ」だが、まださっきの熱が下がってくれない。長い廊下を歩きながら、とうとう堪えられず近くの柱の影に隠れた。身体中が火照って苦しい。ずり落ちるようにして床に座り、衣の中に手を伸ばした。怖々確認すると、性器はまた真っ赤に反り返り、刺激を求めている。「何で……っ」あまりに卑猥なので咄嗟に視界から外した。醜い、浅ましい、怖い。何十年も生きていながら、自分の身体に恐怖を覚えた。今この身体は地上に馴染みつつある。それは即ち、人に近付いているということだ。それとは別に、紫弦といると異常なまでに反応してしまう……自分が歯痒くて仕方ない。無人の広間は冥々たる闇が広がり、無力感を助長していく。こんな不安定な身体でこれからやっていけるんだろうか。地上へ下りた時はあれほど自信に満ち溢れていたのに、もうよく分からない。ただの人間になったらどうしよう。熱を帯びた性器を握ったとき、恐怖や不安はわずかに薄れた。生理的な反応だろうが、涙が流れて床にぱたぱた落ちる。訪れる熱い快感に対し、孤独はやたらと冷めた目で自分を見ている。「千華!」ふいに自分の名が響いたとき、胸がぎゅっと締め付けられた。遠慮がちに顔を上げると、肩で息をしながら佇む紫弦がいた。わざわざ追いかけてくれたらしい。けど最悪だ。よりにもよって一番酷い姿を見られた。追いかけてきてくれたことは嬉しかったけど、羞恥心に打ち勝つことはできなかった。気まずくて俯くも、抱き抱えられた
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: #1高城柚。人間性が最低だということは確信したが、彼の本当の目的は分からない。「あぁもう、ちょっといじめただけでかなり満足しちゃった。先輩ってすごいなー。すごい魔力を持ってるよ」まず頭がおかしい。人をこれだけ好き勝手しといて、ふざけるにも程がある。こちらの反応を楽しむ為だけにやってるようだ。「ねぇ、もっと虐めてほしい?」「ひっ……あ、やだ……っ」柚は自身の眼鏡を外し、一架の耳元で囁く。戦慄して青ざめる一架にとは反対に、彼は至極落着していた。体勢を整え、膝についた埃をはたき落とす。「そっか。わかった。俺も疲れちゃったから、続きはまた今度しよ」また……今度!?「も、もういいってば!」「えー、せっかく仲良くなったんだから、また楽しい子としようよ。俺、先輩のすごい秘密もたくさん知ってんだよ」「な、何の話だよ……?」身構え、怖々尋ねる一架に、柚は口角を上げた。「いつも西口のホテルで乱交パーティ開いてるでしょ? あれ、学校に知られたらやばいんじゃない?」絶句した。何故それを知っているのか訊きたかったが、手が震えそうだった為見えないよう後ろに回した。そして深く息をつき、目の前の柚を強く睨み上げる。「……脅す気?」取り引きでもするつもりだろうか。逸る鼓動を抑えて待っていると、彼は嬉しそうに顔を近付けてきた。「そんな、脅すなんて。俺は先輩のことが大好きだよ? 可愛くって綺麗。そんな先輩が俺の言うこと聴いてくれたら何て幸せなんだろ……とは思うけど」訳、「つまり脅したい」。 彼はそう言ってる。危険だ。人のこと言えないけど、こいつは危険すぎる。話が通じないタイプが一番厄介だ。「じゃあ先輩、またエッチなことして遊んでくださいね。あ、学校が嫌なら今度はホテルでもいいし!」柚は眼鏡をかけ、乱れた服を整えるとドアの方へ向かった。「俺の父親、あのホテルの管理者だから。じゃあね、先輩」「……は!?」いやいや、ちょっと待て。どういう事か問い詰めようとしたけど、彼は颯爽と教室から出て行ってしまい、その先は訊くことができなかった。それに、自分の今の格好は酷すぎる。下着もズボンも膝より下に落ちて、いやらしい体液を滴らせていた。うっわ……!改めて恥ずかしくなり、その場に蹲った。こんなところ、死んでも人に見られるわけにはいかない。急いでハンカチで拭いて、後
Last Updated: 2025-10-01
Chapter: 有名人「一架っ、頼む!! 今日の掃除当番変わってくれ!!」「え」その日の放課後。やっと帰れると安心していた一架の元に、クラスメイトのひとりが泣きそうな顔で立ち塞がった。「実はバイト入ってたの忘れててさぁ……。前も遅刻したから、今日は死んでも遅刻できないんだ。店長に殺されるから……この通り! 一生のお願い!」正直、もう疲れたから早く帰りたい。でもこんな風に頼まれたら断りづらいし、彼の悲壮な顔を見てるのもいたたまれない。く……。「分かった、代わりにやっとくよ。どこだっけ?」「一架ぁ……! 裏庭だよ、本当恩に着る! 明日何か奢るから、サンキューな!」彼は目に涙を浮かべながら走り去って行った。それは良いんだけど、裏庭か。よりによって一番遠くて面倒な場所だ。「しょうがないか……」さっさと終わらせて帰ろう。腰を浮かせ、教室を後にした。憂鬱なまま来たけど、思ったより裏庭は綺麗だった。いつもだったらジュースの缶が捨てられたりしてるんだけど、今日はついてる。これなら大丈夫だな。一通り箒で掃除して、自分の教室の方へ戻った。その道中、知らない生徒に声を掛けられた。「あの。崔本一架さんですよね?」「え? ……そうだけど」振り返った先に立っていたのは、眼鏡をかけた大人しそうな少年だった。格好や雰囲気だけなら自分と似ている。しかし一体何の用かと思ってると、彼は口を開き、小さな声で話した。「僕、一年の高城柚《たかじょうゆず》っていいます。その、いきなりすいません。ちょっと崔本さんに訊きたいことがあって……」小柄だとは思ったが、一年か。可愛い名前と見た目、オドオドした態度は男からモテる気がした。「大丈夫だよ。何が訊きたいの?」自分の中では最高の笑顔で問いかけた。自分を最も魅力的に魅せる笑顔。子役時代に身につけた、最初の武器でもある。「あ……ありがとうございます! えっと」すると予想どおり、彼は緊張を解いて明るい顔を浮かべた。そこまでは予想どおりだったのだが。「崔本さんって、同性愛者ですよね?」「えっ?」知らない人間に話しかけられることに慣れてる一架だったが、初対面でそんな質問を投げ掛けられたのは生まれて初めてだった。意表を突かれて、少しの間呆然としてしまった。何だこの子……!学校で、知らない人間にそんなことを訊けるのは相当な馬鹿か無神経か、────
Last Updated: 2025-09-30
Chapter: #4「あっ、一架おはよ。何か眠そうだね」「おはよう……うん、寝不足……」重い。心も体も。翌、朝八時三十分。一架は上履きに履き替えて自身の教室へ向かった。その内側は黒く淀んだ海が荒波を立てている。もうしばらく学校に行きたくない。と思ってたのは昨日の朝のこと。そして“今日”はさらに……ああ……。「お、良かった。休まずにちゃんと来たな」「げっ! 継美さん……っ」それに加え、タイミングの悪さに現実を呪う。どうせ教室で会うというのに、その前の廊下で継美と顔を合わせてしまった。気まずい……っ。来た道をスッと戻りたい衝動に駆られるが、そんな如何にも避けてますみたいに思われるのも癪だった。諦めて、さり気なく横を通り過ぎようと決める。「おはようございます。じゃ、お先」「あ、ちょっと待った。熱は下がったか?」前を阻むように、冷たい掌が額に当たった。「……っ!」周りには他の生徒が大勢いる。見られたくなくて何も考えずに振りほどいてしまった。「大丈夫だって、昨日も言っただろ!」口調まで強くなったことに驚いた。心臓がばくばくと鳴っている。心配してもらったこと自体は別に怒ってないのに、何でこんな当たり方をしたのか自分でも分からなかった。「そっか……とりあえず、大丈夫なら良い。今日は無理すんなよ」しかもそういう時に限って彼の反応が控えめ。何だこの罪悪感。モヤモヤが止まらない。「一架、どうした?」さっさと通り過ぎようと思ってたのに、ついその場で立ち止まってしまった。「いや、俺……」でも、言わなきゃ。このまま別れたらさらにモヤモヤするに決まってる。何より、悲しそうに映る彼の顔が耐えられない。とにかく大丈夫だって伝えて、安心してもらおう。それぐらいなら言える気がする。「あの……俺はもう元気だし、大丈夫だよ。もうすっかり誰かを視姦したい気持ちに駆られてるぐらいだし」「は?」継美さんのとても微妙な反応を見て、頭が真っ白になった。とても大きな声で叫んだから、恐らく廊下を歩く生徒全員に聞こえた。ような……。やっちまった……!今さら後悔しても遅いけど、やっぱり最悪な朝だった。失言じゃ済まない。シカンって他に何か良い意味あったっけ。言い訳に使えそうな言葉を考えなきゃ。ぐるぐる考えていると、彼は困惑しつつも口元を押さえ、落ち着いた口調で返した。「そ……
Last Updated: 2025-09-29
Chapter: #3正直に言うと、怖い。他人の手から与えられる、自分を忘れてしまうほどの快感に対応できない。「いっ……ああっ!」しかし身体は本当に素直だ。昨日を凌ぐ強い快感に打ち震える。彼の掌に包まれた部分は、溢れ出る透明な液体でぐちょぐちょにとけていた。馬鹿みたいな話、まるで天国にいるみたいだ。自分の身体だと思えない。手コキだけで何故これほど陥落してるのか理解不能。このままじゃもっと馬鹿にされるだろうな……。だけど、いやらしい音も、彼の言葉ももう聞こえなかった。「……っ!」快感の代わりに凄まじい倦怠感に襲われ、意識は音もなく閉じた。小さい頃から気付いていた。自分は周りと違う。子どもらしさがない。“らしさ”っていうのも上手く言い表せないけど、皆が喜ぶものに心が踊らない。流行りのゲームやアニメとか、テーマパークに行っても心にブレーキがかかってる。浮かれきれない。主体的になりたいんじゃない。俺は常に外野で、中心で踊り狂ってる奴らを眺めることが好き。舞台も、ゲームも、セックスも。おかしいけど、でもやめられない。むしろそんな不安を押し殺すように暴走してく自分が怖かった。快感を追い求め、他人の快感に乗っかる俺は一体何なんだろう。一体、誰とセックスしてるんだろう。「……ん」頭がガンガン鳴って、目が覚めた。知らないにおい、知らないベッドの上で。おかしいな。図書室に居たはずだけど、保健室にいる。「おっ、起きたか」「うわ!」隣を見ると、継美さんが椅子に座って首を傾げた。今まで寝てたみたいだ。夢じゃなかったのは残念だけど……。「何で俺……?」上体を起こして頭を抱える。痛いのと、少し息苦しい。不思議に思っていると、不意に額を触られた。「お前、あの後ぐーぐー眠ったんだよ。でも今はちょっと熱もあるな……」「え」慌ててシーツをめくる。下はしっかりズボンを履き、ベルトも留められてあった。それには安心したが、「さ、最悪……あんなカッコで……!」「心配すんな、ちゃんと綺麗に拭いといてやったから」「誰のせいだよ!」彼の白々しさに驚いてツッコむも、鋭い目つきで睨まれて後ずさる。「おっ、俺のせいです」いや違う。絶対違うけど、悪に屈してしまう自分が憎い。「……多分相当に感じてたんだと思うぞ。今まで抱いてきた中で、あんな気持ちよさそうな顔見んの初めてだったなぁ
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: #2さらっと、かなり困ることを言われた。「もう絶対しない! 気持ち悪いし」猛反発すると、継美は笑いながら襟元を正した。「一架はやっぱメガネかけてない方がいいな」「……っ」本当に、この人は何がしたいんだろう。俺のカラダ目当て? いや、そこまでは腐ってないと信じたい。かといって俺に気があるなんて可能性はもっとないな。ってことは俺に怨みがある……?それなら納得がいく。俺のことが好きではない、キス魔でもないっていうなら……答えは簡単に導き出せる。「継美さんて、もしかして俺に嫉妬してるの?」「うん?」意味が分からなそうに眉を寄せる彼を一旦スルーし、ドアの鍵をかけた。今さら過ぎるが、こんなディープな話を誰かに聞かれたらまずい。「ここに来れば好きなだけ男子高校生を食えると思ったんだろ。ところがクラスの皆はイケメンすぎる俺がいることで継美さんにいつまでも靡かない可能性がある。だから邪魔な俺に排除しようとしてるとか」「は~……。その想像力をもっと役立つことに使えたらいいのにな」継美は可哀想な人を見る目で一架を一瞥した。しかし気に留めた様子もなく、一架の横を通り過ぎてドアへ向かう。「でも思ったより元気そうで安心したよ。昨日のことが屈辱過ぎて、今日学校を休まないかと心配してたぐらいなんだ。……それじゃ手伝いご苦労様。寄り道しないで帰れよ」「待った。まだ話は終わってない!」鍵をあけて颯爽と出ていこうとする彼を慌てて止めた。「俺に嫉妬するのは仕方ないとしても、気持ち悪いちょっかい出してくんのはやめてくれる?」「俺がお前に嫉妬してる方向で話が進んでるのか……」彼は露骨に困り果てた表情を浮かべ、一回あけた鍵をまたかけた。「あのな、俺は別に嫉妬なんて」 「あ、良いこと思いついた! やっぱ何人か紹介するよ。継美さんほどの顔のランクじゃないかもしれないけど、間違いなく皆イケメンだし。それなら鬱憤も」晴れる。と言おうとしたが、とても言える空気じゃなかった。「前から思ってたけど」継美が、一架の後ろの本棚に勢いよく手をついたからだ。心臓が止まりそうなほど凄まじい音だった。一瞬だが、この壁一列の棚が揺れた気がする。前髪から覗く、冷徹な瞳と目が合い、一架はようやく自身の発言を後悔した。「お前はほんとに俺を怒らせるのが上手いな?」彼の口元は笑ってる。けど確
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: #1屈辱。なんて便利な言葉だ。継美さんに再会してからの全ては、この一言に集約されている。だが心情はどうであれ、現実は残酷だ。「崔本、お前図書委員だろ。悪いけどこの本、図書室に運ぶの手伝ってくれないか」放課後、やっと帰れると思って鞄を持った直後に怨敵の継美さんに話しかけられた。いや、名前を呼ぶのも腹立たしい。梼原だ。梼原のドS野郎だ。「わっ、すごいたくさんありますねー。これ一架に持てんのかな?」こいつめっちゃ細いし、と近くに居たクラスメイトが一架の肩に手を乗せて笑った。それを聞き、頼んだ継美も眉を下げる。「あぁ、確かに。崔本にはちょっときついかな?」彼の、心配してますみたいな困り顔が本気でうざい。馬鹿にしやがって。けどムカついてるのを悟られないよう、本が大量に入ったダンボール箱を持ち上げた。「図書室で良いんですね?」「おぉ、ありがとう。俺もひとつ持っていくから」彼が残りの一箱を持ち、二人で教室を出た。……あれ!?廊下を歩きながら思ったことがある。二人きりになっちゃった!手伝うって言った時点でこうなることは分かるはずなのに、馬鹿過ぎる。気まずさで死ねそうだけど、特に会話もなく図書室に着いた。部屋の中には誰もいなかった。「そこに置いてくれ。先生達が必要で借りてた資料だからカードとか確認しなくていいぞ」とりあえず言う通りの場所に置き、一息ついた。やっぱり結構重くて、両手をブラブラと揺らす。「重かった?」「別に」一架がぶっきらぼうに言い放つと、継美はテーブルに寄りかかって苦笑した。「素直じゃないな。……まぁ、助かったよ。お疲れ様」ポン、と頭の上に手を置かれる。俺達以外誰もいないとはいえ、それなりに慌てて手を振り払った。「触らないで」「えぇ? 昨日はすごいところ触らせてくれたくせに」「無理やりだろ! セクハラ教師!」思ったより大きな声で叫んでしまい、口元を手で覆う。「何気にしてんだ? 誰かに聞かれた方がお前は都合が良いんだろ」「ほんと何がしたいわけ……」彼の考えてることが本気で分からなくて、若干恐怖心が募る。怖々問い掛けると、彼は顎に手を当てて瞼を伏せた。「したい事ねぇ……」待ってみるも明瞭な答えは返ってこない。そのまま、彼は本の片付けに取り掛かってしまった。「継美さんて、教師になりたかったから役者の道は進まな
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: 1ねぇ和巳さん。和巳さんがいなくなった日のこと、思い出したくないけどよく覚えてるよ。冬の終わり。吸い込んだら喉がカラカラになりそうな風が吹く中、一緒に空港の周りを歩いた。フライトの時間まで残りわずか、何度も時計を確認した。いつ戻って来るのか。向こうで何を学ぶのか。……俺と、これからも連絡を取り合ってくれるのか。本当は訊きたいことが山ほどあった。けど和巳さんは俺が話す隙を与えず、心配そうに色々話してたっけ。勉強のこと、進路のこと、両親のこと。「無理しちゃだめだよ」って繰り返していた。何度も肩を落としては持ち直し、そして俺を見つめていた。彼だって、一人で異国の地に飛び立つ。今も不安で仕方ないはずなのに、口から出るのはやっぱり俺のこと。俺は中学二年生で、和巳さんは高校三年生。もうそこまで心配されるような歳じゃないけど、彼は最後まで俺の心配をしていた。見てきた景色も、立っている場所も全然違う。それでも心は繋がっている。地球を覆うこの青い空のように、全ては同じところに存在している。距離なんて大した問題じゃない。俺にそう教えてくれたのは他でもない、彼だった。触れたい時に触れられない。聞きたい時に声を聞けない。辛いことだ。でも、それはさほど珍しいことじゃない。例え同じ家に住んでいたとしても、心がすれ違えば触れられない。声を聞けない。遠い国にいるのと同じなんだ。心がすれ違ってしまったら。だから誰かを想う心に勝るものはない。絶対、会える。どれだけ遠い地にいても、海に遮られても、山が隔たっていても。この想いは、時間も空間も飛び越えられる。『大丈夫だよ。必ず戻って来るから』彼が旅立つ日にそう言ってくれたから、俺は諦めずに待ち続けることができた。惨めでも滑稽でも、愚直だと蔑まれても……カレンダーの前に立ち、日付を捲ることできた。そう、「大丈夫」。必ず戻って来る。だから和巳さんは俺の心配より自分の心配をして、元気でいて。貴方がこの地球のどこかにいるって思うだけで、怖いぐらい俺は強くなれるから。六年。流されそうな時間の中で大人になっていく。傍にはいないけど、一緒に生きていた。昼と夜が正反対の場所にいるけど……やっぱり俺達は今、確かに。……一緒に生きてるんだよな。◇「あぁ~! やっぱりビールはいつどこで飲んでも美味いっ!!」宿泊先の旅館の客室で、
Last Updated: 2025-08-08
Chapter: 誓いの言葉季節は次々に移り変わる。夏から秋、秋から冬へと。「ただいま、和巳さん」「おかえり、鈴!」肌寒い朝と夜を行き来する冬が訪れていた。大学から帰って、笑顔の恋人がいる暖かいリビングに入る。 俺達の生活は何も変わらない。忙しいのも変わらないけど、それは言い換えれば充実しているということ。大学、会社、家、その他のコミュニティを通して時間を費やす。最近は俺も和巳さんも、実家に顔を出すことが多くなった。以前はあえて避けてた親戚の集まりにも参加するようになった。会いたい人が増えたからだ。可愛い親戚の子も優しい祖父母も、気になって仕方ない。……会いたい衝動に駆られてる。そして会う度に、独りじゃないと気付かされる。たくさんの人に支えられて生きてるんだ、と改めて感じていた。「和巳さん、もうすぐ一年終わっちゃうね」「お、そうだね。俺と鈴が再会してから、もう半年も経ったんだ」リビングで寛ぐ和巳さんを尻目に、カレンダーを捲った。今でこそ何も考えずに捲れるけど、半年前は全然違ったな。和巳さんがいつ帰って来るのか。そればっかり考えて次のページを捲って、ゴミ箱に捨てていったカレンダー。あの苦い記憶すら今は懐かしい。恥ずかしいから和巳さんには絶対言わないけど。「そうだ、鈴! 俺達の輝かしい軌跡をお祝いしよう! 終わってしまうことを寂しく思うより、新しく始まる一年に乾杯するんだ!」「おぉ……さすが和巳さん、冬でも脳内は年中お花畑だね!」「鈴、その言い方だと皮肉になるから。それはさておき、冬と言えばスキー! 嘘! 俺は雪が嫌いなんだ! だから体も心も暖まる温泉に行こう! 雪見風呂なんて最高じゃない? 寒いのに暖かい所にいられる至福の時間、朝まで飲みたい!」色々と情報過多だけど、とりあえず温泉に行きたいことだけは伝わった。「温泉もいいね。せっかくだし、冬休みに入ったら行こう。和巳さんが乗りたがってた新幹線で」「おっ、分かってるねぇ鈴。じゃあさっそく計画立てていこうか」和巳さんがノリノリなので、新幹線で行く小旅行を計画した。スキーやスノボも良いと思うけど、和巳さんは「リフトが嫌なんだ」と真剣な顔で言ってきた。高い所が嫌いなんだろうか。でもすごい楽しみだ。和巳さんと初めての遠出……!その旅行は、わりとあっという間にやってきた。嬉しいことに、旅行当日は晴天。和巳さん
Last Updated: 2025-08-07
Chapter: 5明るい照明。嗅ぎ慣れないシーツの香り。壁。……吐息。向き合って密着している友人に、小声で囁いた。「秋……俺もう、二度とこっち関係は協力しない。次何かあっても、ひとりで何とかして……。いいね?」「あぁ……。俺も、もうやめる……もう、何もしない……」秋は投げやりというか、もう疲れて何も考えられない、というように肩を揺らした。安易に乗っかった俺も悪いけど、本当に困った友人だ。でもある意味、問題児は秋より……矢代さんの方が。「ごめん、鈴鳴。俺のせいで、こんな……」息も絶え絶えに、秋は手を握ってきた。くっ、本当はもっとこてんぱんに怒ってやりたいんだけど。こんな風に泣きつかれたらどつけないじゃないか。「いいよ。秋が意外と世話焼けるのは前から知ってたから」「んんっ……」彼の腹を汚す白い体液を指ですくといる。すると彼も腰を擦り付けて、俺のぬれた頬を舌で舐めとった。「ん、鈴鳴……やっぱ、お前可愛いすぎ」「ちょ、秋、くすぐったいってば」俺も同じようにやり返して、濡れた部分を舐め合う。そうしてじゃれあってたんだけど……途端に、背筋に寒気を感じて我に返った。「あははは。……矢代さん、どうします? ほんとの恋人の前で堂々とイチャイチャしてる、この子達」「うーん、そうだねぇ。可愛いけど、また時間をかけて教えてあげないといけないかもね」しまった……!!後悔しても、もう遅い。振り返って謝ろうとしたけど、また前を握られてドキッとする。「鈴は俺を嫉妬させんのが上手になったね。でも、もう本当に怒った。今度は潮吹くまで許さないよ」「えっ! そ、そんなの無理だって!」青ざめて訴える鈴鳴の隣で、矢代は無邪気に笑った。「ふふふ、人の潮吹きなんて久しく見てないな。ちょっと楽しみだよ。……秋、お前も負けてらんないな。俺の前で彼と戯れたこと、イッて後悔するんだな」「待っ、やだやだ、もう無理! もうイケないって!」「俺はまだイッてないんだよ。最低でも後三回、これから付き合ってもらう。足りない頭で反省しながら、身体で俺を覚えろ。いいな?」「ち、ちょっと待っ……あぁ、俺が悪かった! もう二度と余計な心配はしない! 俺は本当に先生に愛されてるよ……!」軋むベッド、染みだらけのシーツ。そして絶え間なく響く二人の青年の悲鳴に、その夜は色濃く染まった。地獄が終わったのは朝
Last Updated: 2025-08-06
Chapter: 4突然上半身を抱き起こされたと思ったら、今度は座位で貫かれた。嫌だと身を捩っても大きく脚を開かされ、挿入部分を確かめるように触られる。「ほら、中擦られるの気持ちいいでしょ?」「うっ、あっ、やっ……!」絶対、ハイとは言えない。だって目の前には矢代さんと、彼に抱かれてる秋がいる。だけど和巳さんはさらに激しく奥を突いて、俺の中を掻き回した。逃げようとすればするほど押さえ込まれる。「あっ、やだ、そんな激しいのっ……おかしくなっちゃうぅ……っ!」腰をホールドされる。彼の動きと連動して身体が震え、触ってもいない性器が跳ねてしまう。本当は触りたいけど、それはやっぱり許してもらえなかった。「……そうそう、忘れてるみたいだからおさらいしようか。鈴を世界で一番愛してるのは、誰だっけ?」「あっあぁ……か、和巳さん……っ」熱い。肉が蠢く穴の中も、剥き出しの下腹部も。どくどくと脈を打って、全身へと伝わっていく。 「じゃあ鈴が一番感じて。喘いで気持ちよくなっちゃう相手は、誰だっけ?」「ん、和巳、さんっ……和巳さん、だけ。あっ、中すごい事になってる……今も……っ!」胸の突起をぎゅっとつままれる度、口端から唾液か零れる。そしてその度に、彼の性器が高まる気がした。向きはそのまま、矢代さんと秋を盗み見みながら。恥ずかしいのに溺れた身体は快楽に逆らえなくて、むしろもっと彼を求めた。「和巳さん、もっと……もっと、強いの欲しい。おかしくして……っ!」「ふっ……もう、最高……!」後ろに押し倒され、正常位のまま激しく抜き差しされる。見上げる先の彼の顔は、快感に酔いしれてる。俺も多分、彼と同じか、……それ以上にだらしない顔をしてるんだろう。降ってくる汗が伝って、シーツに染みをつくる。肌と肌が触れ合う部分が滑って、なのに張り付いて、やらしい水音が響き渡る。和巳さんの熱で火傷しそうだ。感じ過ぎて制御できず、脚は限界まで大きく開いてしまった。「和巳さん、キスしたい……っ」「うん……いいよ」舌を出して求めると、舌ごと激しく吸い付かれる。ただでさえ熱い身体が、さらに熱く感じた。俺、今……上も下も、和巳さんと繋がってる……。もっと口を塞いで欲しい。離れたらきっと、また情けない声を出してしまうから。今は羞恥心も忘れたい。思考を溶かすほどの快感に包まれたかった。「ふふっ……和巳君と鈴鳴
Last Updated: 2025-08-05
Chapter: 3瞼に当たる和巳さんの手が、段々汗ばむ。どうなってんだ。そんなにやらしい光景なのか? すごく見たい。「でも、それなら何で……最近、俺とシてくれないんだよ。前は毎日シてくれたのに」秋の悲痛な声が聞こえる。でも、……あれ、毎日? 前に俺と話した時は週二って言ってなかったっけ?「あぁ。この前は本当に、疲れてやる気が出なかっただけだよ」「じゃあ、今回は何で……」「はは、そんなの決まってるだろ? 欲求不満に悶えるお前を観察するのが楽しくてしょうがないからさ」矢代さんの、十二分に喜色を含んだ声が鼓膜に届いた。……つまり今までわざとお預けにして、秋を焦らしていたのか。軽く鳥肌が立つ。姿が見えないからこそ、ベッドの軋み具合と彼らの声を全身で感じてしまう。やばい……。矢代さんからキチクの匂いがする。こんな人を敵に回したことが間違いだ。絶対倍返しに合う。後悔しても後の祭りだけど、案の定もう秋の喘ぎ声しか聞こえなかった。「く、そっ……サイテーだよ、アンタ……っ!」「ははは、否定はしないよ。でもお前も人のことは言えないだろ。さっきは本当に鈴鳴君と危ない空気になってたじゃないか。純直な和巳君に感謝するんだな」状況がよく分からないけど、何かガンガン音が鳴ってる。秋が暴れてるんかな。「いつまで経ってもお前は本当にどうしようもない……それでいて最高だよ。俺の為にこんな楽しい趣向を凝らしてくれるなんて」「ち、違っ……あぁ!」何かがビリッと破れる音がした。ちょっと、音声のみは怖くなってきた。「和巳さん、手を離して……! さっきから何も見えないよ!」「う~ん……どうしよっかな。今の光景は、ちょっと鈴には刺激が強いかも……」「ずっとこのままでいる方が気まずくない!?」尋常じゃなく情事の気配を察知している。和巳さんは二人をバッチリ見てるわけだし、俺も彼らと同じベッドに座っているし、この状況はやばい。彼らが本番に入る前に早くここから退散しないと!そう思っていたら、矢代さんの弾んだ笑い声が聞こえてきた。「せっかくだから和巳君と鈴鳴君もここですればいい。このベッドは大きいから、四人乗っても余裕があるよ?」い、今何て……。耳を疑った。矢代さんは秋と抱き合ってるベッドで、俺と和巳さんにもエッチをすすめている。正気じゃない。そんなの和巳さんだって断るに決まってる!「え
Last Updated: 2025-08-04
Chapter: 2「絶対やめた方がいい……嫉妬させるだけならともかく、このやり方は彼を傷つけることになるよ。恋人を傷つけるのは本望じゃないでしょ?」「ははは、心配ないって。先生は恋人が浮気してるぐらいで傷つくタマじゃないから」何言ってんだ、この子は。「恋人が浮気して傷つかないって、それはもう恋人じゃないよ! 矢代さんは絶対傷つくって!」「でもあの人はぬるいやり方じゃ絶対動じないし、本当の気持ちを確かめるにはこれしかないんだよ。あの人が俺のことをまだ想ってくれてんのか確かめるには、これしか」そう答える秋の目は、ガチだ。本気で切羽詰まってる。「こんな事に巻き込んでごめん……でも俺、あの人が好きなんだ」「秋……」彼も相当もがき、苦しんでいる。まぁ、それとこれとはちょっと話が違う気がするけど……。でも困った。彼の辛そうな顔を見てたら、全力で突き放せない。「矢代さんが、ショック受けて倒れないといいけど」計画に沿うことにするか。もちろん演技だから、変な所は絶対に触らない。俺は秋のシャツのボタンを外しにかかった。ところが。「うわっ、何してんだよ。攻めるのはお前じゃなくて、俺。お前はそういうの向いてないだろ」力任せにベッドに押し倒される。そしてあろうことか、彼は俺のベルトに手をかけた。瞬時に嫌な汗が溢れて、慌てて抵抗する。「ちょいちょいちょい! そんなの計画の時は決めてなかったじゃんか!」「決めてないけど、間違ってもお前はタチじゃない。つうか本来は俺がタチなんだよ。あの人にめちゃくちゃに抱かれなきゃ、そもそもこんな人生になってなかった!」よく分からない不満をぶちまけて、秋は俺のベルトを引き抜いてズボンを下ろした。以前、外の公衆トイレで彼にアナル開発を手伝ってもらったことはあるけど……今はちょっと状況が違う。ていうか、俺だけ恥ずかしい格好になるのは嫌だ!「こら! 秋も少しは脱いでよ」「はぁ? ……わ、やめろって!」ベッドが軋むほど、激しい取っ組み合いが始まった。尋常じゃなく息が上がる。互いに互いのズボンを奪い取ったとき、この争いはさらにヒートアップした。「おい、お前いつも和巳さんとする時は自分で後ろ弄るの? それとも弄ってもらうの?」「それは……あ、秋はどうなんだよ?」一瞬の不意をつかれ、ベッドに押し倒された。秋は真上に覆い被さり、俺を見下ろした。顔
Last Updated: 2025-08-03