White Shadow

White Shadow

last updateLast Updated : 2025-12-30
By:  七賀ごふんOngoing
Language: Japanese
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白は一番綺麗で、それ故に何色より汚れてしまう。 ───────── 起業家の親を持つクリストは、同性愛者であることを隠して生きている。縁談話に辟易した彼は、同性愛者が集まるパーティーに参加することを決めた。そこで出会った美しい青年、ヴェルムに心奪われるが、裏社会で生きてきた彼はクリストとはまるで違う考えを持っており…。 愛重めの御曹司×風俗店経営者のお話。

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Chapter 1

【1】

「んんっ……や、あ……っ!」

青いライトが妖しく光るホテルの一室で、快楽に溺れた声が響いた。

きつい薔薇の香水や悪趣味な部屋の造り、かけっぱなしのラジオならもう慣れた。

そんなものに構ってられない。慣れざるを得ない環境というものが、どうしてもある。

「うっ、あ、あぁ……っ」

例えば、“俺”が今抱いている“少年”にも。

彼は男に抱かれるのは初めてらしい。でも仮にこれから経験を積んでいったとしても、彼がタチになる姿は想像できない。

華奢で抽象的な容姿以上に、柔く脆い心が見え隠れしている。

「ああぁっ!!」

そんな事を考えてる間に少年は射精した。精液の強い匂いが鼻腔をくすぐる。

「はぁ……はぁ……っ」

シーツに突っ伏して放心していた彼は、少ししてからため息混じりに呟いた。

「すみません……こんなキツいなんて、俺甘かったっていうか、ちょっと耐えられないです。この仕事は断らせて下さい」

少年は涙目で訴える。見てるこっちが気の毒に思ってしまうほどの悲壮感を漂わせていた。

「……わかった。じゃあ帰りな。部屋代は俺が持つから」

「あ、ありがとうございます」

彼は身支度を終えると気まずそうに、逃げるように部屋を出て行った。

用済みのラジオを止めたものの、今度は静寂が気持ちが悪い。

シャワーを浴びる前に一服し、窓際に佇んだ。

「ふう……」

男でも女でもいいから、今は人手が欲しい。だがそう簡単に欲しい人材は見つからない。 

もっとピンとくる人間がいれば、どんな手を使っても手に入れるのに。

危険な思考に入りかけていることに気付き、自嘲した。

頭の中はグチャグチャなのに、不思議と気持ちはスカッとしてる。

さてと。

灰皿に煙草を押し付けて、部屋の時計を確認する。あまり行きたくないけど、そろそろ仕事に戻らないと。

青年は銀髪を掻き乱し、ハンガーにかかったジャケットを取った。

「警察だらけじゃんか。この辺りも物騒になったよなあ」

「そうか? 元からじゃないか?」

夜の繁華街で、鉛のような会話が交わされる。

といっても、弾んでないと勝手に思ってるだけかもしれない。自分の気持ちが急降下しているのは間違いないから。

いつもならもっと話を盛り上げたり、穿った展開をしたり、とにかく溌剌とした受け答えができる。しかし今日はそんなことをする気力もない。

「気が乗らないって感じだな、クリスト。お前が行ってみたいっていうから連れて来てやったんだぞ」

「あぁ、そうだよな。すまない」

クリストと呼ばれた金髪の男性は、そう返しながらも内心溜息をついた。

だからって今日いきなり行くとは思わなかった。申し訳ないが、できれば事前に予定を立ててくれてからの方が良かった。

周りでは老若男女が人目も気にせず互いに夢中になっている。一組や二組ではない。誰も彼もが現実を忘れ、立場を捨ててここへ来ている。

表向きは合法と謳っている、夜の大人の遊び場。いかがわしい店はもちろん、金持ちの為の賭博場も数えきれない。

街全体が夜になると姿を変える。自分はどちらかというと無縁な世界だったが、突然こんな場所に来ようと思ったのには理由があった。そこは好奇心と、やはり不純な目的で、

「さぁ、クリストの眼に留まる王子様がいるか探しに行かないとな」

「声が大きい」

クリストは隣の青年を睨んだが、笑って流された。

「聞かれても大丈夫だって。珍しくないから」

そういう問題じゃない、と内心文句を言う。

彼はクリストの古い友人だった。そして、自分にとってとても大きな秘密を知っている。

まさか男の恋人を探しに来たなんて……自分自身、信じられない。

クリストは同性愛者だ。しかしそれは友人の彼にしか打ち明けていない。

起業家の父を持ち、急成長した子会社に入社した。今は誰もが羨む七光を受け、専務として働いている。

本当に恵まれた環境に身を置いているし、責任は重いが仕事も充実してる。

だが異性を好きになれない、ということが周りと決定的に違った。

恋愛だけが最大の敵で、コンプレックスで、そして何よりも手に入れたい……金では買えない価値のあるものだと思っている。

いや、もはや恋愛なんて可愛いことを言える歳でもない。仕事第一に生きて、三十代の仲間入りをしてしまった。

縁談は何とかやり過ごしてきたものの、今後はそうもいかないだろう。親や親族から良い人がいると話を持ちかけられる度にウッと思ってしまう日々は精神が擦り切れる。

だからそろそろ生き方を決めたい。同性愛者だとアウティングできなくても、生涯寄り添いたいと思える大切な存在を見つけたい。

その為には今まで敬遠していた場所に足を踏み入れるのも有りだと思えた。

今から向かう場所で、別の道が見つかるかもしれない。淡い期待を抱きつつ、暗く細い道を進んだ。

「でもさ、心配ないよクリスト。第一印象は大事だけど、お前なら大抵の奴は落ちる。顔良し頭良し、金もあって将来有望なんだから」

「将来のことなんて分からないよ。ずっと父の会社にいるとは限らないし」

ただでさえ低いテンションが、会社の話でさらに音を立てて下がった気がする。それを察したのか、友人は背中を叩いて鼓舞してきた。

「まぁまぁ、とにかく楽しもうぜ。今夜のパーティで良い出会いがあるよう祈ってるよ」

何だかんだ言っても友人の励ましは素直に嬉しく、クリストは静かに頷いた。

彼の同伴で訪れたパーティ会場は、ホテルの最上階を全て貸切にしているものだった。煌びやかな装飾に様々な料理が並び、演奏家達が場の雰囲気に合わせた音楽を奏でている。

「金かけてるな。大したもんだ」

「俺達だって参加費出したじゃないか。ちゃんと回収されてるよ」

あぁ。確かに受付で出したけど、それだけで賄える額ではない気がする。太いスポンサーがいるようだ。

「ここは金さえあれば一般人も入れるし、各界の有名人も来たりする。でも下手に知り合いにならない方がいいかもな。もし知り合ったとしても、次会った時は初対面ってことにしとけ」

「わかった」

「じゃ、早速ホールに行くか」

会場は申し分無い広さだった。人の数も凄まじい。一体皆どこからこのパーティの情報を入手したのか、素直に不思議だ。

「ほら、どう見てもカップルっぽい男二人組多いだろ?」

友人が耳打ちしてきたので注視してみると、確かに……そんな雰囲気を醸し出している存在は結構いた。

「それじゃ俺達も解散するか。男二人でいたら近寄り難いだろうし、俺はこれから美人を捜しに行くから」

「ここで一人か。ちょっと拷問だな」

「あのなぁ、出会いが欲しいんだろ? 大丈夫、お前は顔がいいから標識みたいに突っ立ってたとしても向こうから寄ってくるよ。じゃ!」

そう言い残すと、彼は集団の中へ消えて行ってしまった。本当は彼の方が出会いに飢えてるんじゃないか。そう思わせる勢いだ。

だが確かに、タイムリミットがある以上無為に過ごすわけにもいかない。自分から動かないと。

でも女ならともかく、男をどうやって誘うんだ……。

どちらかと言うと誘われる方が多かった為、行き詰まってしまう。憂鬱になっていると、人混みに紛れて印象的な人物が目に留まった。

「……!」

それは一人の青年だった。珍しい銀髪で、白のスーツを見事に着こなしている。

何よりも惹きつけられたのは、誰もが一度は振り返る美貌だ。正確な年齢は分からないが、かなり若い。二十代前半であることは間違いないだろう。

周りの女性は息を飲んで、彼に見蕩れている。

気付けばクリストも、自然と彼の方へ歩みを進めていた。

もっと……、もっと間近で見てみたい。純粋な欲にに支配されていた。ところが。

「あの、良かったらどうぞ」

「!」

その声で、一気に現実に引き戻される。

目の前にはグラスを二つ持った女性がいた。

「こういった席はよく来られるんですか」

「いいえ、初めてです。不慣れなもので……所在がなくて困ってます」

チラッと人混みの方へ目を向けると、もうその青年はいなかった。内心、残念に思ってしまった。

けどあれだけ美形だったら恋人がいるに違いない。

第一ストレートだったら話にならない為、すぐに頭から切り離し、受け取ったワインを口にした。

「そうですか。なら私と一緒」

上品に笑うその女性は、これまた美人だった。

「お話したい方は見つかりました?」

「いえ、まだ……しっかり捜すだけの余裕もなくて」

「ふふ。でも貴方を見てる女性、たくさんいますよ」

彼女の言葉を聞き、クリストは辺りを見回した。確かに、コソコソとこちらを見て話してる女性が多い。

以前友人に突っ立っているだけでも目立つ、と言われたことを思い出し、咳払いした。

「貴女は? どなたか見つかったんですか?」

「えぇ。もちろん貴方……」

目が合い、思わずドキッとする。

「……ではないのよ、ごめんなさい。私は別に狙ってる女の子がいるの」

「そうなんですか。他に……女の子が……」

言ってる途中で、口を噤んだ。まさかとは思うが、

「私男性とはお付き合いできないんです。でも貴方の様子が可愛い女の子を探してる風には見えなくて、つい声を」

「あ……」

彼女も同性愛者。そして自分を同性愛者だと思って近付いて来た。

冷静に考えるとそれだけ挙動不審に見えていたということ。無性に恥ずかしくなり、軽く頬を搔いた。

「それじゃあ、お互い頑張りましょう」

彼女は朗らかな微笑みをたたえ、去っていった。

「……」

不意打ちとはいえ驚いたのは事実だ。ここは本当に、そういう意味での一般人は少ないのかもしれない。

そう思うと少し気が楽ではあるが、意欲に火が灯るほどではない。

それでもやはり、先程の青年だけは脳裏にチラついていた。

その後もひっきりなしに女性から声をかけられたが、適当に逃げ続けた。かといって男に声をかける勇気もなく、右往左往。完全に時間を無駄にしてしまった。

パーティの雰囲気は充分味わったんだし、ひとまず一服して心を落ち着かせよう。

「……っと」

クリストは広場を出た後に、人気の少ない場所を探した。すると天井がガラス張りの中庭があった為、とりあえず中へ入ってみた。

辺りを全て囲むように観葉植物が埋められている。もう少し奥へ進むと、ベンチが一つ置かれてあり、そこには見覚えのある人物が座っていた。

「……!」

さっき広場で見かけた、白いスーツの青年。偶然、彼も一服中みたいだ。

クリストの視線に気付いたのか、彼は少し端に寄った。

「隣どうぞ」

「……どうも」

まさかそんな風に声をかけられると思わず、無機質な声が出た。

とりあえず煙草とライターを取り出して一服する。

「楽しんでます? パーティ」

青年は唐突に、クリストに問いかけた。

「あー……いや、それが……」

クリストは彼に話した。ここへ来た経緯も、結局合わずに抜け出したことも。

初対面だというのに不思議と彼には隠し事をせず、気軽に話せた。彼も丁寧に聞いてくれたから、尚さらだったのかもしれない。

「色々苦労されてるみたいですね。まぁこういう場所は特に、合う合わないがあるし、仕方ないかと」

こうして間近で見ると、やはり彼は驚くほど端麗な顔立ちをしていた。

「でもクリストさんって、真面目な方なんですね」

「それは違いますよ。真面目じゃないからこんな所に来たんだし」

そう。出会いが欲しいなら、他にいくらでも方法がある。

「君はよくこういう場所に来るんだ?」

「いえ、今日はたまたま。開催者が知り合いで、ちょっと呼ばれただけです」

青年は溜息を吐いた。

「正直めんどくさかったぐらい。……でも」

青年は少し置いて、意味ありげな視線をクリストに送った。

「やっぱり来て良かったかな。俺は、貴方みたいな人好きですよ」

「……」

どう反応するべきだろうか。

ほんの僅かだけど、警戒心が生まれる。今会ったばかりの人間に向ける視線や声ではない。

そう思った時だった。

彼の顔が近付き、唇に柔らかい何かが当たったのは。

「なっ……」

ゆっくりと彼の顔が離れていく。

唇の乾いた感触。鼻腔に残る、香水と煙草が混ざった香り。一瞬夢かと思ったが、これは間違いない。

会ったばかりの人間にキス。あまりに唐突で驚愕した。

「あ。男とキスするの、初めてですか?」

「違う……けど……」

「じゃあ大丈夫ですよ」

何が大丈夫だというのか。理解不能だ。

男との経験が全くないわけじゃないが、困惑を通り越して少々癇に障る。

どう返そうか考えていると、青年は立ち上がってクリストの手を引いた。

「キスの御礼にお酒奢りますよ。行きましょう」

「えっ」

勢いよく引っ張られた為に、強制的にクリストも立つ羽目になった。

「ここじゃゆっくり話ができないから、俺が働いてる店にご案内します」

早い誘導についていけない。どうすべきか本当に迷ったが、ここで彼と別れるのも今いち納得できなくて、結局ついて行くことにした。

ホテルを出て、彼の車で目的地へ向かう。その道中、彼はステレオからやたら古い歌を流していた。

「そういえば。俺のことはヴェルムと呼んでください」

「はぁ……」

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「んんっ……や、あ……っ!」青いライトが妖しく光るホテルの一室で、快楽に溺れた声が響いた。きつい薔薇の香水や悪趣味な部屋の造り、かけっぱなしのラジオならもう慣れた。そんなものに構ってられない。慣れざるを得ない環境というものが、どうしてもある。「うっ、あ、あぁ……っ」例えば、“俺”が今抱いている“少年”にも。彼は男に抱かれるのは初めてらしい。でも仮にこれから経験を積んでいったとしても、彼がタチになる姿は想像できない。華奢で抽象的な容姿以上に、柔く脆い心が見え隠れしている。「ああぁっ!!」そんな事を考えてる間に少年は射精した。精液の強い匂いが鼻腔をくすぐる。「はぁ……はぁ……っ」シーツに突っ伏して放心していた彼は、少ししてからため息混じりに呟いた。「すみません……こんなキツいなんて、俺甘かったっていうか、ちょっと耐えられないです。この仕事は断らせて下さい」少年は涙目で訴える。見てるこっちが気の毒に思ってしまうほどの悲壮感を漂わせていた。「……わかった。じゃあ帰りな。部屋代は俺が持つから」「あ、ありがとうございます」彼は身支度を終えると気まずそうに、逃げるように部屋を出て行った。用済みのラジオを止めたものの、今度は静寂が気持ちが悪い。シャワーを浴びる前に一服し、窓際に佇んだ。「ふう……」男でも女でもいいから、今は人手が欲しい。だがそう簡単に欲しい人材は見つからない。 もっとピンとくる人間がいれば、どんな手を使っても手に入れるのに。危険な思考に入りかけていることに気付き、自嘲した。頭の中はグチャグチャなのに、不思議と気持ちはスカッとしてる。さてと。灰皿に煙草を押し付けて、部屋の時計を確認する。あまり行きたくないけど、そろそろ仕事に戻らないと。青年は銀髪を掻き乱し、ハンガーにかかったジャケットを取った。「警察だらけじゃんか。この辺りも物騒になったよなあ」「そうか? 元からじゃないか?」夜の繁華街で、鉛のような会話が交わされる。といっても、弾んでないと勝手に思ってるだけかもしれない。自分の気持ちが急降下しているのは間違いないから。いつもならもっと話を盛り上げたり、穿った展開をしたり、とにかく溌剌とした受け答えができる。しかし今日はそんなことをする気力もない。「気が乗らないって感じだな、クリスト。お前が行ってみたい
last updateLast Updated : 2025-11-27
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#1
ホテルからそう遠くない街角に彼は車を停めた。そして案内されたのは、洒落た外観の建物。三階まであるが、どこまでが店内なんだろうか。ヴェルムがドアを開けた為先に入る。内装から確信したが、ナイトクラブのようだ。入ってすぐの場所にカウンターと、客席が部屋全体に並んでいる。「あ。ヴェルムさん、お帰りなさい」二人の存在に気付いたボーイがすぐに駆け寄ってきた。「ウォルターは?」「今は外出中ですよ」「そう。良かった」ヴェルムは悪戯を仕掛けた子どものように笑った。「こちらお客様ですか?」「あぁ。二階使うから、他は通すなよ」 ヴェルムは店内を軽く見渡した後、クリストに笑いかけた。「じゃ、行きますか」彼はクリストをホールではなく、個別の大部屋へ案内した。そして席に促し、手慣れた仕草で酒の用意をする。「では改めて、乾杯!」グラスがぶつかる小気味いい音。この高価な酒もキスの御礼……なんてはずがない。絶対に裏がある。あえてノコノコついてきたのは、彼の真意を確かめる為だ。その実、まだ彼に対する興味を捨てきれていないわけだけど。「それで、何が目的ですか」「あはは……もう、そんな怖い顔しないで。目的というか、お誘いです」ヴェルムは宥めるように片手を翳した。「クリストさん、この店のオーナーやってみません?」彼の“お誘い”は、またまたぶっ飛んだ“お願い”だった。「困ったことにオーナーが不在なんです。前はいたんですけど色々あって、現状俺が代理をしています」ヴェルムは、いかにも社用の携帯を取り出してテーブルの上へ置いた。「けど俺じゃ毎日何とか回すのも精一杯で。この店を任せられる方を捜していた、という状況なんですが」「いきなりそんな事を言われても困ります。俺達、今日会ったんですよ」からかってるなら不快だし、本気で言ってるなら異常だ。そこはクリストも譲れないし、揺らぐ要素がなかった。雇われなら捜せばいくらでも希望者が集うだろう。そう言ったものの、彼は変わらない調子で話を続けた。「俺、人を見る目はあると思うんです。貴方は大抵のことは受け止める度量がありそうだ。それに、そう……ちょっと一緒に来てください。見せたいものがある」ヴェルムはあくまで態度を崩さず、笑顔で話す。これ以上聞く義理はない。……そう思うが、ここまできたら付き合おう、と腰を上げた。理由はただひ
last updateLast Updated : 2025-12-03
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#2
足元から伝わる、コンクリートのひんやりとした感触が気持ち悪い。この痛みも感覚も慣れることはない。だがこの部屋の空気は馴染みかけてきてるから不思議だ。ヴェルムは白い息を吐いた。────どれぐらいの時間が経ったかは分からないが、体感的には異様に長く感じた。「……抜くぞ」ヴェルムに含んでいた、まだ生暖かい指で、クリストは自身の性器を取り出した。そして緩んだ彼の穴へ押し当てる。「やっ……ホントに無理だって、それはっ」「だから、無理じゃないからお前も他人にやってきたんだろ? ……とはいえ最初だし、加減無しにやられたら痛いじゃ済まないかもな」体重をゆっくりかけるようにして、クリストはヴェルムの開き掛けの扉を貫いた。「あぁあっ!!」その衝撃を言葉に表すことはできなかった。ヴェルムは身体を仰け反らせ、後ろの壁に背をぶつけた。抵抗しようとした両手は、手錠のせいでかえって自身の手首を傷付けてしまう。加えて、下半身の痛み。 「い……あっ」挿入されてから動いてないとはいえ、ヴェルムは苦痛に呻いた。「無理かと思ったけど、案外入るな。お前はこっちの方が性に合ってるんじゃないのか」「そんなわけ……あぁっ!」反論する間も与えず、クリストはヴェルムの腰を緩やかに突いた。男とセックスしたことはある。だが経験のない相手を抱いたのは初めてだ。だから彼の些細な反応もよく見えるし、感じるのかもしれない。声も動きも、表情も。「ふあ……ぁっ」ぐい、と更に腰を押し上げて、きつい体勢をとる。「痛いか」「……っ」クリストの問いにヴェルムは答えず、声を殺して我慢した。「痛い」と答えたところで彼が自分を解放する気がないことは分かっている。それに、彼を批判するのも筋違いだと分かっていた。自分がしてきたことは間違いなく犯罪で、どこでどんな目に遭っても仕方ないことだから。けど、これが罰だとしても……これ以上はとても耐えられそうにない。そういえば……。やはり以前に勧誘した少年をホテルで抱いた時、彼は『耐えられない』と言っていた。その言葉の意味が今さらわかってしまった。「も、もう……!」駄目だ。早く終わってほしい。それしか考えられない。ヴェルムは掠れた声で哀願した。「お願いだから……、もう駄目……もう、イキたい……!」甲高い声、涙で潤んだ瞳。不覚にも心が揺れ動き
last updateLast Updated : 2025-12-04
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#3
─────あの日。あの夜から“俺”の世界は変わった。もちろん、悪い意味でだ。「あ、この発信機付きの首輪はいいな。すごくお前に似合いそうだ」一般人ならドン引きもののマニアックな雑誌を広げながら、彼は微笑んだ。深夜、高級ホテルに男二人で過ごすのは気分が悪い。無駄に機嫌が良いのも薄気味悪い。とにかく、隣に座る青年が嫌で嫌で仕方なかった。「ヴェルム、お前はどれが欲しい? お前が欲しい物も買ってやるから、遠慮なく選びな」「生憎その本に載ってる商品で俺が欲しいもんはない」楽しそうに笑うクリストとは対照的に、ヴェルムの気持ちは最大限まで沈んでいた。その原因は、クリストにある。こんなはずじゃなかったのに、という言葉を何百回唱えただろう。無論、心の中で。ヴェルムは窓際へ寄って、煙草を取り出した。そして過去の記憶を振り返る。三日前、彼……クリストに出会った。穏やかな雰囲気の、見るからに真面目な好青年で、その上肩書きのある完璧な人間だった。彼ならば、安心して店を譲れるかもしれないと淡い期待をした。歩み寄っても今までの人間のように逃げないし、多少なりとも自分に好意を持っている様だったから。……しかし結果は悲惨だった。クリストは鬼畜で、そのせいで自分はかつてない屈辱を味わった。今や彼の奴隷といっても過言じゃない立場まで降格している。「ヴェルム」声掛けに振り返ると、かなり近い位置にクリストが立っていた。「なに……」「煙草」言葉と同時に、ヴェルムは手に持っていた煙草を取り上げられてしまった。「匂いがつくからやめろと言ったろ」「誰のせいで吸う量増えてると」思ってんだ。と、最後まで言い終わらないうちに唇を掠め取られた。「……っ!」両手を掴まれ、窓に背を預ける。逃げられないこの時間が未だに恨めしい。どんなに美形だろうと、好きでもない相手と意味の無いキスはできなかった。「……はぁっ」やっと唇を離され、ヴェルムは呼吸を整える。「なぁ。俺と初めて会ったとき、キスしてきたよな。あれは何でだ」クリストの言葉に、ヴェルムは少し驚いていた。あえてそのことを訊いてくるとは思わなかったから。「あぁ。……はっ、アレね……」しかし吐き捨てるように言って、彼から乱暴に煙草を奪い取った。「何でだったかな。……忘れた。でも結局はビジネスだよ。店を任したかっただけ
last updateLast Updated : 2025-12-05
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#4
「クリスト、せっかくだから出掛けないか」ヴェルムは車のキーをちらつかせ、わずかに声を弾ませた。怒りやら何やらで流されそうになっていたが、切り替えは大事だ。本来の目的を忘れてはいけない。クリストは不審そうに窺っていたが、やがて「あぁ」と言ってついてきた。腹の底では勘ぐっているだろうが、こちらのアクションは何でも嬉しいらしい。彼を連れ出すことに成功し、深夜の街道を運転する。最も車内は沈黙そのもので、とても居心地が良いとは言えない。「……またあの店に行くつもりか」しかしその空気を打ち消すように、クリストは指を鳴らした。「その通り。分かってるじゃんか」ヴェルムは運転に集中しつつ、密かに整理していた話を始める。「もう俺は引退して、適当に生きたいんだ。だからあの店を引き継いでほしい。例え男をレイプする犯罪者でも……絶対、俺が決めた人間に任せたい」「……」クリストもまた彼を見ることはせず、むしろ窓の外を意識して見ていた。「心配しなくても人買いは止めるよ。それも俺が勝手に始めたことで、他に関わってるスタッフはいない。店は本当に関係ないから」時間帯のせいか走ってる車に全く出会わない。この静かさも、落ち着くよりは不気味に思えた。「とりあえず一度話を聞いてくれ。経営リスクについて心配してるなら、そこはちゃんと俺が……」そこで喋るのを止めて、ヴェルムは隣を一瞥する。隣の彼は相も変わらず、興味がなさそうに外を眺めていた。「もう既に聞いてないな?」「聞いてたよ。むしろ俺は俺で提案があるんだけど、お前がその店を辞めればいい話なんじゃないか? 店の方針は今いる人間に任せて、お前は足を洗う。それで円満解決じゃないか。それとも経営不振か? お前が辞めたらすぐに潰れるような状況なのか」クリストの台詞に、ヴェルムはかぶりを振り、そして黙った。真面目に取り合わないから、怒らせてしまっただろうか。クリストが密かに考えていると、意外にも彼は今までで一番明るい声で話した。「……そうだな。ほんとに、そうすれば良いだけなのに」そう言って最後に見せた笑顔はひどく頼りなくて、壊れそうだった。だからなのか、自然と彼の方へ向き直ってしまった。「そんなに店が大事なのか」「うーん。……かもな」そしてまたヴェルムはハンドルを握る。その様子を尻目にして、クリストは大袈裟にため息を
last updateLast Updated : 2025-12-06
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#5
ヴェルムが裏へ入ろうとした時、クリストは目敏く一言付け加えた。「ランクはこだわらないが余計なものは入れるなよ」「はは……何ですかね、余計なものって……」ヴェルムは苦笑してみせたが、それは決して余裕あっての反応ではなかった。今まさに、彼に睡眠薬入りの酒を用意しようとしたところなのに……。というか、ずいぶん信用されてないみたいだ。当たり前だけど……。「……まぁ、ここにある物は好きに使って構わない。アンタの回答次第じゃ、所有権は全て譲るんだから」彼のその言葉に驚いたのは周りだった。皆一様にざわつき始めている。「ヴェルム、それどういうこと?」「あぁ、これからは彼が俺に代わってこの店を切り盛りしてくれる。……かもしれないんだ」ヴェルムが視線を送ると、クリストは苦々しい顔でため息をついた。空気が凍る。「そういうことで、先に皆と顔合わせしたかったんだよ。ウォルターも……聞いてただろ」そこで初めて、クリストはヴェルムの後ろに立つ青年の存在に気が付いた。眼鏡を掛けたダークブロンドの青年。彼は自分とそう歳は変わらないように見える。温厚そうだが、状況が状況だけに怪訝な表情だった。「また急な話を……どうしてそうなったんだ?」「俺が決めた」「だから、何でそう決めたのかを言わないと……第一それは合意の上か?」幸い彼は話が通じそうだ。クリストは直感し、密かに胸を撫でおろした。ヴェルムとは理性的な話し合いができない。断るなら彼に間に入ってもらった方がスムーズだろう。「まだ考え中みたい。だから心の整理ができるのを待ってる」「なら何で、ここで公言するような真似をしたんだ」「中々思いきらないからね。ちょっと背中を押してやるぐらいが良いかと思って」話の途中で、ウォルターの機嫌が悪くなってるのは誰もが分かった。女性達も居心地が悪そうにしている。「恣意的な行動は昔からだけど、お前、最近はちょっと異常だぞ。独断専行にも限度がある」「当然だ、俺が決定権を持ってるからな。抗議は受け付けない」ウォルターは頭が痛そうに椅子に座る。子どもじみた口論でヴェルムに勝てる人間はいないらしい。……だが本当に、ヴェルムがここの管理者であることも証明された。クリストはため息混じりに肩を竦める。若輩の上、短絡的な彼に代理を任せた前オーナーとやらの顔を見てみたいと思った。「ヴェルムっ
last updateLast Updated : 2025-12-07
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#6
「……いや、意外にぶっ飛んでるね。もっとクソ真面目な人種だと思ってたよ」クリストの大胆宣言はだいぶ効いたようだ。レイグールは壁に背をつけて、めんどくさそうに腕を組む。まさかここまで思い切った行動に出るとは思わなかった。人生とは分からない。……いや、自分自身が。「自分でもそう思います。それじゃ、今度こそ失礼しますね」ヴェルムの連れ去り自体は呆気なかった。ある意味夜逃げとも言えるか、と自嘲する。店に入る前は黒かった空が、深い青に変わりかけている。朝が近い。個人的にこの時間帯は好きだ。一日が始まる予兆。でも、単に徹夜で気持ちが上がってるだけかもしれない。クリストはパーキングエリアで気持ちよさそうに外の空気を吸った。停まってる車はわずか数台、人も見かけない。国道に沿ってるのに静かで落ち着く場所だ。隣の彼はまた、静かすぎるけど。「ヴェルム、いつまで黙ってるんだ? いい加減平常心は取り戻してるだろ」クリストはヴェルムの車を挟んだ助手席側にいたが、彼は反対の運転席側に立っていた。ドアに寄りかかり、クリストから背を向けた形で。「ん」ようやく返答があったが、相変わらず彼の顔は生気が感じられなかった。「今はどこらへんで思い悩んでるんだ」店を出てから、彼の頭の中では色々な感情が渦巻いてるように思えて、そんな質問をしてみた。すると、「全部終わった」「ほう」待った甲斐があった、とクリストは安堵する。後は、あの沈黙のドライブを無にするぐらいの結果になれば上出来だ。「……悪かった。今まで振り回して」「いいや。それよりもレイグール……さんだっけ? 彼に大人気ない対応をとっちゃったな。お前の悪口聞いたら、つい。内容自体は事実だと思ったのに、不思議だよな」ヴェルムはなにか言いたそうだったが、再び口を閉ざした。「でも図星だから、お前は何も言い返さなかったんだろ? それで良いんだよ。もしあそこで嘘に嘘を重ねて彼に言い返してたら、俺はまた違った感情をお前に抱いたかもしれない」ヴェルムはハッとした様にクリストを振り返る。そして懐かしむように、小さな声で話し始めた。「……初めて会った日、俺が買った男の子をアンタは逃がしただろ。そういうところ、ちょっとだけ凄いと思ったんだ」「ちょっとだけか」ついツッコんでしまったが、そんな小さなことで言い合ったらキリがない。
last updateLast Updated : 2025-12-08
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#7
ある日、勤務中に一本の内線が掛かった。『クリスト、お前この前無断欠勤したそうだな』胃痛と頭痛が同時にやってくる、物々しい声だ。これほどの圧力を与えられるのは世界で彼だけだろう。「はい、申し訳ありません。仰るとおり休んだ分の仕事がたまってるんで、失礼します」『待て、お前最近弛んでるぞ! 何考えてるんだ!?』クリストは受話器を耳から遠ざけて、耳を劈くような怒声を聞き流した。朝っぱらよくこんな声が出せると逆に尊敬する。今はオフィスで仕事中だったが、父からの電話で否応無しに手を止めていた。出た瞬間、怒声と罵声の嵐。電話を離してても聞こえるから、周りの部下にも聞こえてしまっている。「後で直接伺いますので、一旦切っても宜しいでしょうか」嘘だ。出向く気なんてこれっぽっちもない。今は如何にして、この難敵から逃れるかが重要だった。『……わかった』それだけ聞こえると、電話は切れた。ヒヤッとした。面倒な取引先と同じぐらい厄介だ。しかし親の目が届く場所を選んだのだから、自業自得。今日も定時に帰ろう。仕事がどれだけ忙しくても、プライベートは楽しみたい。そして早く帰って、ヴェルムに会いたい。先週、彼に告白した。彼はイエスとは言わないが、ノーとも言わなかった。だからもうカップル成立と受け取ることにしたのだ。今までならこんな横暴かつ自惚れた考えなどしなかったのに。本当に不思議だ。ふと、隣を横切る女性社員の綺麗な足が目に入った。そういえばヴェルムも男とは思えないほど足が綺麗だったと思い出す。この前も半強制的に全裸にしてカメラで撮りまくった。その後しばらく着信拒否にされたけど、彼は自分の美貌を自覚してるんだから慣れてもいいと思う。「クリストさん、社長に何言われたんだろうな。……すごい考え込んでるぞ」真剣な表情で悩むクリストを、近くの社員達は心配そうに見守っていた。夜を迎え、人で賑わう歓楽街にクリストは来ていた。「よ、ヴェルム」待ち合わせ場所に適した広場で、クリストはヴェルムを見つけた。「悪いな、待ったか?」「いいや、全然」ヴェルムは腕時計を見て、淡々と答える。「よし、じゃあ今からディナーといこうか。部下に良い店を教えてもらったから」「今度はどこの高級レストラン?」二人は雑踏をかき分けるように歩き出した。「なんだ、何か不満か? 心配しなくても
last updateLast Updated : 2025-12-09
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#8
人に見られたら一環の終わりだ。なのに身体は石のように固まって動けない。「ふ……っ」深いキス。水の音が耳に張りつく。息も唇も、全てが甘い。酒のせいか妙な錯覚がした。物足りない。キスだけじゃ収まりがつかない。ヴェルムはクリストを街路灯の裏側へ押し倒した。灯りの真下ではなくなったが、人が近くを通れば気付かれてしまうかもしれない。それでも、もう止められなかった。彼のベルトに手を掛ける。「……っ」ヴェルムはクリストの熱の中心を口に含み、自身のものを扱いた。どうする……。────入れてほしい。自分の中に、彼の……。彼に抱かれた日から、全てがおかしくなってしまった。火照る身体を彼に預け、自分の後ろへも手を伸ばそうとした……そのとき。「ヴェルム」酔いが少し醒めたのか、クリストは心配そうにヴェルムに問いかけた。「そこはやめとけって。まだ痛いんだろ」「……」クリストはヴェルムの腰に手を当て、引き寄せた。「もっとしたいなら家に帰ってから好きなだけ入れてやる。だから今は……」ヴェルムの手を引き離し、クリストは自分と彼の性器を引き出し、一緒に扱き始める。「ぁ……っ!」その瞬間、例えようのない快感がヴェルムを襲った。「これだけでも充分気持ちいいだろ?」……確かに、すごく気持ちいい。この痺れるような快感は簡単に抜け出せそうになかった。手の動きに合わせてやってくる快感の波。何度も攫われ、彼の手の中でイった。クリストも遅れて、手の中に飛沫を放つ。「あっ……」断崖から飛び降りたようだった。快感は一瞬で突き抜けて、理性はわりとすぐに戻ってきた。早く後始末しないと。頭では分かっていても、身体が怠くて動きたくない。クリストは地面に手をついて空を仰いだ。「……帰るか」てきぱきと衣服を整えている。しかしヴェルムはまだ気だるそうに座り込んでいた。「全く、本当に体力ないな。俺より若いんだから頑張れって」「そんなすぐに切り替えられないっての……」大体、先に手を出したのはそっちなんだから責められる筋合いはない。「もうアンタと外で飲みたくない」「どうして?」「どうしても!!」翌、週をまたいで金曜日の夜。「やっ……と終わった」今日も無事に仕事を終え、クリストは椅子に深くもたれた。その直後に着信があった。登録してない番号。疑問に思いつつも、電話に
last updateLast Updated : 2025-12-10
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#9
「ランディ、他に用がないなら出ていきな」ウォルターは呆れた様子で額を押さえた。普段から似たようなやり取りをしているようだ。「待ってよぉ、ヴェルムを店に戻させたいんでしょ? 俺力になるよ! まぁクリストさんも協力してくれればの話だけど」ランディは無邪気な笑顔をクリストに送る。「まず意思確認が大事だよね。クリストは、ヴェルムがこの店で働くのは賛成? それとも反対?」「それは……」ヴェルムのことを考えるのであれば、当然反対だ。真っ当に生きる為には、彼は初めから無茶なステージにいる。けど、同時に思い出す。彼の車の中で交わした質問を。そんなに店が大事なのか? ……と。ヴェルムは寂しそうに答えた。“俺にとっては”。あの時の彼の表情が、鮮明に瞼の裏に焼き付いている。そもそも何故、こういった店で働き出したのか。話してくれないから皆目見当もつかないけど……あれはきっと、偽りの言葉じゃない。「俺の意見はいいんだ。今はただ、あいつの好きなようにさせたい」「はい、決まりだね。呼び戻そう」ランディは楽しそうに指を鳴らした。「ヴェルムもほんとは絶対店に戻りたいって思ってるよ。でも性根が曲がってるし、無責任に逃げ出した自覚があるから余程のことがなきゃ戻って来られないね」「だろうな。で、お前はそれを何とかできるのか。ランディ」ウォルターのもっともな疑問に、彼は半笑いで肩を竦めた。「ウォルターから聞いたけど、二人は付き合ってんでしょ? じゃあ話は簡単。クリストさんをエサにすれば、ヴェルムを誘き出せるよ」エサ。響きがあまり良くないが、確かにそうなる。「ところで……俺とヴェルムが付き合ってることは、まさかこの店の人は皆知ってるんですか?」「いえいえ、私とレイグールと、ここにいるランディしか知りません。レイグールにも口外しないようきつく言っておいたので!」「そうですか……ありがとうございます」今さら過ぎるが、それでもできればこれ以上広まってほしくない。居心地が悪過ぎだ。クリストは安心して胸を撫で下ろした。「よし、じゃあすぐにでも決行しよう。頑張ってね、クリストさん」「うん?」果たして上手くいくのか分からないが、こうしてヴェルムを誘き寄せる作戦が始まった。◇「……!」ダッシュボードに置いたスマホが振動している。画面に表示されている名前は、……クリス
last updateLast Updated : 2025-12-11
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