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フクロウ
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Novels by フクロウ

元悪役令嬢ですが、断罪カフェで人生を焙煎し直します

元悪役令嬢ですが、断罪カフェで人生を焙煎し直します

貴族社会から盛大に追放された悪役令嬢リディア。 前世の記憶をもとに教会の片隅で開いた「断罪カフェ」は、罪悪感ごと煮詰めて抽出する名物コーヒーだった。 ところが常連のなかに、紛れているのは王族!? 恋とスローライフが同時抽出される、人生再焙煎コメディただいま開店! ※毎週月~金の20時更新予定
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Chapter: 第24話 ごきげんよう、罪の重さは自己申告でお願いしますわ!
 乱暴に音を立ててカップを置いたお父様。わたくしはそのことを予想しておりました。  罪の味は、耐え切れないほどに苦い。特に頑なに罪を認めようとしない方には、わたくしのコーヒーはただの泥水と一緒。  ですから。 「お父様。こちらの砂糖をお試しください」  わたくしは小瓶の中から黒砂糖を一つつまむと、お父様へ。お父様は一度逡巡しましたが、わたくしの手のひらから黒砂糖をつかむとコールタールのような真っ黒なコーヒーの中へ。  スプーンでかき混ぜると、香りがほんの少し変わります。苦い罪の味がすぐに受け入れられないのであれば、口あたりを変えればいいのです。  お父様は改めてコーヒーを飲みました。目が少し開き、カップを置くと、味を確かめるようにもう一口。  わたくしはその行動に、微かな、でも確かな希望を見ました。お父様は罪を味わおうとしているのです。  カップを置いたお父様は、目を閉じると腕を組みます。  しばし沈黙が続きました。コーヒーの香りと静かな談笑が続く店内で、わたくしたちだけが時が止まったようでした。  口を開いたのは、ハンカチで涙を拭ったお母様。 「あなた、諦めてください。もう、意地を張るのはやめて。リディアの想いがあなたにも伝わったはずです」  強い口調でした。わたくしの記憶がある中で一番強い口調。  いつも付き従うだけだったお母様に意見を言われ、お父様は腕組みを解きます。そして、居心地悪そうにわたくしに視線を向けました。  瞳の中が揺れます。お父様に真正面から見つめられることは、本当に久しぶりのことでした。 「……私は、私のやり方で貴族の責務を果たした。一つの失敗が次の失敗を生み、やがてそれは領地全体の混乱として広がっていく。……だから私は、お前を──赦すことができなかった」  そう言うと、お父様はカップに手を伸ばしコーヒーカップを手にしました。 「私がやったことは間違いとは思わない。──だが、もしかしたら他のやり方があったのかもしれぬ。……リディア、ともかくこのコーヒーは……悪くない」  お父様は顔を背けたまま、コーヒーを飲むと席を立ちました。 「今日は帰ろう。……ところで、クラリス!」  突然、お父様はクラリスの名前を呼びました。そばにいたクラリスは変な声を出すと、驚いたのか両肩を
Last Updated: 2025-10-06
Chapter: 第23話 白無垢のミオリナ・カフェと、贖罪のフォルテ・ルシアン
 お母様にお出ししたのは、「白無垢のミオリナ・カフェ」。 最も口当たりが柔らかなミオリナ・ブレンドにミルクをたっぷり入れて、花蜜を加えた一杯。ミルクの白さに隠れていますが、しっかりとコクのあるコーヒーが存在している。赦しへの希望と優しさを伝えるコーヒーですわ。「お父様にはこちらを」 お父様には、アルヴィカ・ルシアンの深煎りにさらに炭を混ぜた強い苦味のあるコーヒーを。 さらに今回、わたくしは初めて直接コーヒー豆に火を当てる「直火焙煎」を行いました。いつものアルヴィカよりもさらに苦味とコクが一段階強くなっています。 その名も「贖罪のフォルテ・ルシアン」。「これが、リディアのコーヒー……普通のカフェとは随分と違うのね」 遠慮がちに口を開いたのはお母様でした。お父様の前で見せるトゲトゲしさは今はなく、穏やかな表情。「ええ。当店ではお客様の罪に応じて豆も味も変わります。わたくしがお二人の罪に一番合うコーヒーを淹れました」「……罪に合うコーヒー」「やめろ」 お母様がカップに手をつけようとしたところで、お父様の硬い声が響き、空気が張り詰めました。「コーヒーで罪が測れるわけもない。茶番だ、帰るぞ」 立ち上がろうとしたお父様に、レオナール様がお声を掛けます。「また逃げるのですか? 娘がこうして向き合っているのに──あなたは逃げるのですか。グレイス候」 レオナール様の言葉の中には、見えない怒りが滲んでいます。わたくしのためを思ってくださる熱が感じられます。&nb
Last Updated: 2025-10-03
Chapter: 第22話 特別な一杯を
 「断罪カフェ」が断罪から免れ、教会から正式に認められて一月──カフェは前以上のにぎわいを見せていました。 遠方からのお客様も多数訪れるようになり、中にはこっそりお忍びでやってくる貴族の方々も……。「お待たせしました。アルヴィカ・ルシアンの深煎りです」「ありがとう。リディア」 コーヒーを提供したのはまさかのセドリック様。セドリック様はコーヒーカップを受け取ると、まじまじとわたくしの顔を見つめました。「……すまなかったリディア。私はどうかしていたんだ。このカフェで立派に働く君の姿を見て、そして王子が懇意にしていることも知って、私は──」 セドリック様の噂は、聞いています。わたくしを追放したきっかけをつくったエリス様も、今となってはカフェの常連客のお一人。 口を開けば、セドリック様も含めた愚痴ばかり言っていますから。 あの一件以降セドリック様の性格の悪さが露呈し、周囲からは避けられ婚約も進まないこと、もちろんエリス様も愛想を尽かして婚約を破棄したこと、悪い噂ばかり聞いています。 私は内心「ざまぁ」の気分を楽しんでいるのですが、こう何度も通われるのはさすがに迷惑ですわ。 しおらしい態度を装っているセドリック様の本心もお見通しなのですから。「どうだろう、リディア。もう一度──婚約者というわけにはいかない、一人の友人として付き合うというのは……?」 わたくしはいつかのように差し出された手を拒否し、そのままコーヒーカップを押し当てました。「わたくしを二度も断罪しようとしたこと、忘れたとは言わせませんわよ? 今、こうして、お客様と
Last Updated: 2025-10-02
Chapter: 第21話 どうか、赦しの一杯を
「お父様。あなたがわたくしを断罪しようとし、わたくしの店を嫌った理由は明白ですわ。家の名誉。己の体面。そして、追放したはずのわたくしが賞賛されていること。それが、赦せなかったのでしょう?」「……リディア……!」 大司教様は、深く長く息を吐きました。「残念ながら、断罪するべきものが誰なのか、もはや明白ですね──」「お待ちください、大司教様。わたくしは父を断罪したくはないのです」「リディア!」 わたくしはレオナール様に微笑みかけました。大丈夫です、と伝えるために。「もし、今この場で父を断罪すれば、わたくしは自ら断罪カフェを否定することになります」「うぅむ……」 わたくしの言葉に、大司教様が立ち上がります。眼鏡を外し、しばしの沈黙の後、思慮深げに口を開きました。「なるほど……ならば、リディア様。私にも一杯、あなたのコーヒーをいただけますか?」 目を見開いたわたくしは、思わず姿勢を正し──悪役令嬢ではなくカフェの店主として頭を下げました。「承知しました。心を込めてお淹れいたしますわ。しばし、お待ちください」 そして、わたくしはクラリスの名を呼ぶと、ドレスの裾を持って背筋を正したまま、扉へ向かいました。 扉の前ではセドリック様が、情けない困惑顔で立ちすくんでいます。「…
Last Updated: 2025-10-01
Chapter: 第20話 今、断罪のとき
 ざわつく教会。ことの重大さに気づいたお父様が一歩前に出て、無理に笑みを張りつけて言いました。「……ま、待ってくれ。これは誤解だ」「グレイス様。誤解ではありません。……大司教様。使用人を代表して私が証言をしても?」 眼鏡を上げると、大司教様は微笑みを浮かべてうなずきました。しかし、阻止するようにお父様は声を荒げました。「やめろ! めったなことを言うな! お前たち、いつクビにしてもいいんだぞ!!」 脅し。とても卑怯な、貴族とは思えないやり方。お父様はそうやっていつも支配してきました。わたくしも含めてみんなを。 しかし、今度ばかりはそうはいきませんでした。わたくしたちがいるのは、教会。つまびらかに罪を明らかにする場所。 つまり、お父様の権威はここではなくなるのです。「……クビにしていただいて構いません。私たちはグレイス様と司教様が、リディアお嬢様の断罪カフェを潰そうと密かにやり取りしているのを聞いていました。私一人ではなく、私たちリディア様の使用人全員が、その証人です」「ち、違う! お前たちは誤解をしているのだ!」 情けない父の姿に、わたくしは哀しくなりました。あんなに大きかったはずなのに、今はとても小さく見えます。 なおも無理な弁解を続けようとするお父様の姿を見て、レオナール様は呆れたようにため息を吐きました。「私の従者に調べてもらった。この一月の間に、グレイス侯とベスティアン司教は何度も不自然な面会を重ねている。それに、あなたはここへ来る際に嬉々としていた。娘の──リディアが再び断罪の憂き目にあうやもしれないというのに……」
Last Updated: 2025-09-30
Chapter: 第19話 悪役令嬢のように、気高く
「その通りですわね」 いら立つ司教様とは反対に、わたくしはゆっくりと口元に微笑みを浮かべました。物語の悪役令嬢が、そうするように。「ですが、断罪カフェの話を持ち込んだのは司教様ではありませんね?」「な、なにを言う!」「ふふっ。焦りがわかりやすく顔色に出ていますわよ。──断罪カフェが神を騙る。それが事実なら大問題でしょう。しかし、それが事実ではないとしたら? 誰かが仕組んだ罠だとしたら?」「誰かが仕組んだ? 罠? そんな絵空事、どこに証拠が──」「まだ気づかれないのですか? 今、ここに集まったのはグレイス家の使用人の方達ですわ」「「なっ……!?」」 司教様とセドリック様は仲良く一緒に驚きの声を上げました。「……グレイス家、つまりはグレイス伯爵の使用人ということですな?」 大司教様が立ち上がり、みなさまに視線を向けます。「大司教! 信じてはなりません! 私が──」「ベスティアン司教。これだけ多くの民が押し寄せているのです。話をうかがわなければ、それこそ神に背くことになる──私はそう思いますが」 落ち着いた大司教様の言葉にベスティアン司教様は何も言い返すことができずに、その場に座りました。一方、セドリック様はお顔を真っ青にされています。「あ、ああそうだ。申し訳ない、危急の用事を思い出しました。私はこれで失礼します」 震えた声でぼそぼそととってつけた嘘を述べると、セドリック様は慌てて教会の外へ出ていこうとしました。「おや、
Last Updated: 2025-09-29
白無垢の呪恋唄

白無垢の呪恋唄

高校2年が間近に迫った春休み──古塚美月は、幼馴染の如月乃愛からSNSでつぶやけば必ず想い人と結ばれるという「白無垢の恋唄」の噂を耳にする。 全く興味のない美月だったが、不可思議な動画を見つける。それは、真っ暗闇のなかに佇む白無垢の女性の姿だった。 「白無垢の恋唄」を巡り広がる怪異に巻き込まれていく美月。やがてそれは、家族の秘密や自分の呪われた血筋が浮き彫りにしていく。 これは、「白無垢の恋唄」を巡る閉じない呪いの物語──。
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Chapter: 第17話 着信音(古塚美月side)
 赤い鮮血が垂れる。首を伝い、至極緩慢に重力に従い落ちていく。目が離せなかった、離すことができなかった。虚ろなどこか遠くを見ている目が、初めて認識したようにこちらを見て瞳孔が開く──。* 着信音が鳴っている。「うっ」、と声を出しながら怠そうに目を開くと体を起こした。(寝ちゃってた……制服のままなのに……) 美月は乱れた髪の毛を軽く整えながら、スマホのありかを探す。唸るように鳴り続けるスマホは、いつの間にかベッドの下へと落ちていた。(いくらなんでも、なんでこんなところに……) 振動が自分以外誰もいない家の中に響く。美月はカーペットの上に伏せると右腕だけを伸ばしてスマホを取ろうとした。(ずっと鳴ってる……もしかして)「……兄さん?」 寝ぼけたままだった細い目が開くと、美月は急いでスマホをつかんで起き上がった。「違う……誰?」 知らない番号だった。以前、誰かから聞いたのか顔も知らない男子生徒から電話が掛かってきたことがあり、それ以来美月は見覚えのない着信番号には出ないことにしていた。「でも……もしかすると……」(兄さんに何かあって、その電話なのかもしれない) 幾度か逡巡したあと、美月は意を決して電話に出た。「……はい」「古塚さん? ちょっと急で連絡事項があって」「えっと……」「ああ、ごめん、ごめん。弓道部の二俣です」「あっ、すみません……」 電話先の相手が二俣だと知って、張り詰めた心が緩む。胸の前で握り締められていた拳が解《ほど》かれ、無意識のうちに美月は姿勢を正すと前髪を直した。「いや、いいんだ。それよりさっきの話なんだけど」(さっきの、と言うといなくなった加護先輩の件) 寝る前に抱いていた悶々とした気持ちを思い出す。進展はあったのか、それともやはり美月の勘違いだったのか。「古塚さん、『白無垢の恋唄』って知ってるかい?」「……えっ」 二俣からその言葉が出された瞬間、背筋が凍りつき、すぐに返答することができなかった。背中が急に重くなったような気がしてベッドへと腰掛ける。「なんかSNSで流行っているらしいんだけど、僕はこの年だしSNSやってないからよくわからないんだけど、みんなを帰らせたあと、加護さんにそのことを教えたとかで急に残ってもらった2年生の1人が泣き始めてしまって」 やはり、何かを知ってたんだ──とは思った
Last Updated: 2026-02-02
Chapter: 第16話 成人の儀
 弓弦は短い前髪をかきあげる。(これは……母さんが美月を連れてこなかった理由もわかるな) 弓弦が誕生日を迎えたのは、春休みが始まる少し前だった。母親が急に旧家に帰ろうと言い出しのは、リビングでささやかな誕生日祝いを終えたすぐあとだった。最初は渋っていた弓弦だったが、母親のいつもの「遠い目」に首肯《しゅこう》せざるをえなかった。 母親は、「部活のある美月は大変だろうからと二人で」、とさも美月のことを考えて提案しているように装っていたが、本音は「美月は連れていきたくない」と思っているであろうことは明白だった。弓弦は、隣りに座っていた美月の顔を窺ったが、美月が小さく頷いたので二つ返事で承諾することにした。 弓弦と美月の兄妹にとって、一人しかいない肉親である母親は、幼い頃より何よりも優先すべき人間だった。 今回の帰省が実は理由不明の「成人の儀」てあることを知ったのは、電車を乗り継ぎながら移動している最中のことだった。内容や目的を聞いても「着いたらわかる」と返されるだけで、一つだけわかったことは「古塚家の男子は18歳になったら、この成人の儀を受けなければならない」ということだけ。母親はそれ以上口を開くことなく、ぼんやりとあの「遠い目」で流れる車窓の景色を眺めていた。(この令和の世に。なんだよ、成人の儀って、しかも男子だけって。美月は受けなくていいのかよ) 心の中で愚痴をつぶやくが、早々に意味がないことを察して弓弦は横になった。横になったらなったで儀式だからと着せられた黒い袴が快適さを邪魔をして、また板張りの上に胡座《あぐら》をかいて座った。(理不尽なことが多すぎる! じいちゃんもばあちゃんも当たり前のような顔して準備を始めるし。じいちゃんも昔儀式やったことあんだから、どんな感じか事前に教えてくれてもいい……の、に……)「ん?」 どこかから
Last Updated: 2026-01-30
Chapter: 第15話 祠(古塚弓弦side)
「ここは、いったい……?」 辺りは一面、黒に塗り潰されていた。まだ真昼間だというのに、夜のように暗く手探りをしなければ壁がどこにあるかわからないほどだった。天井は低く、立ち上がればすぐに頭がついてしまう。 一人でも圧迫感を感じる狭い部屋だった。ここに二人も人が入れば空気が薄くなってしまうのではないかと思ってしまうほど。窓もなく、唯一の出入り口と言えば今連れてこられた古びた木製の戸だ。その戸ですら両手を地べたについて這うような体勢でなければ出入りはできない。 戸は、中に入った途端に大きな閂《かんぬき》で施錠されてしまったために誰かが来なければ開けてもらうことはできないが。 少し体を揺するだけで埃や木屑《きくず》がパラパラと落ちてくる。虫が一匹もいなそうなのが幸いだったが、特にひどいのは臭いだった。どこからというものではなく、部屋全体からなんとなく漂ってくる腐臭。鼻が慣れてくれば気にならないのかもしれないが、ねっとりと粘りつくようなその臭いが嫌だった。「これが祠?」 幼い時分から妹と二人で想像していた祠のイメージとはだいぶかけ離れていた。祠と聞けば、古いなりにもそれなりに綺麗に保たれており、神社でよく見る白紙や赤い鳥居に守られるようにして何か依代のようなものが鎮座しているのを想像していたが、実際に入ってみれば何もないただの狭い空間があるだけだった。 他との境界線がないわけではない。地上にあるだだっ広い旧家からは階段を降りて来なければならず、閂付きの戸、窓も何もない空間は意図的に他と隔絶されているように造られている。それでも、これではただの部屋に過ぎなかった。 半ば期待していた分、落胆も大きかった。その上これから一週間もここで生活しなければいけないという事実が心を暗くする。(成人の儀って言ってたよな?)「ま
Last Updated: 2026-01-28
Chapter: 第14話 無関心な母
 家のドアを乱暴に閉めると、美月は制服のままに2階の自室へと上がりベッドにダイブした。無地の白い枕を両手でつかむと、抱き締めて二度、三度と寝返りを打つ。 どうしてあんなことを言ってしまったのか、美月にもわからなかった。いつものとおり無関心でいればよかった。何を言われても気にせず、涼しい顔で生活を送ってきたのだ。正義ずらして事実をただし、真実を明らかにするようなことをする必要はなかった。(だいたい私は本当に何も知らないんだから、知らない顔して真っ直ぐ帰ればよかったんだ) 今になって不安が襲ってくる。あのときは先輩が何かを隠していると思ったのだが家に帰り冷静に考えると、そうじゃない可能性がいくつも思いつく。先輩はただ、いなくなったことが怖くなってショックを受けていただけなのかもしれない。そうだとすると。(──また、部での印象が悪くなっちゃうな) 美月は枕を胸の上で抱いたまま、天井を見上げた。真っ白な天井には長年住んでいた証のようにところどころ染みが目立っていた。 ぼうっと、染みの数を数えていると突然今朝方の夢を思い出す。母親の手を黒い手がつかみ、続いて1つ2つと全身を覆うように黒い手が増えていく。まるで母親をどこかへ連れて行こうとするかのように。 体がゾワッと震えて、背中に冷たいものが走る。目を閉じると夢は霧散するように消えた。 思えば、無関心なのは母親に対しても同じだった。 美月は、父親の存在を知らない。遡れる記憶の最初から、家には兄と母親と自分しかおらず、生まれたときには父親がいたのか、兄が生まれたときにはどうだったのか、離婚なのか死別なのか、そもそも籍を入れたのか入れていないのか、何も知らなかった。 母親に聞こうと思ったこともない。というよりも何かを尋ねていい雰囲気は皆無だった。料理の話もそうだったが、そもそも母親と他愛もない何かを話す、という行為が自分には許されていない、認められていないことをなんとなく感じ取っていたからだった。 美月には母親と久しく会話した記憶はない。3人で食卓を囲むこともほとんどない。あるとすれば兄の誕生日くらいで、それも黙って美月が用意した誕生日らしいピザや手巻き寿司、フライドチキンなどのご飯とホールケーキとを食べるだけで、仮に口を開いたとしてもこの間みたいな突拍子もないことを言い出すか、兄の話ばかりだった。普段は兄と
Last Updated: 2026-01-26
Chapter: 第13話 行方不明の二人
 街中に咲き誇る桜の木を眺めながら美月が弓道場へ着くと、部員が中央で集まり何かを話していた。それも男子と女子両方の部員だ。(……緊急ミーティング?) 制服のスカートのポケットに入れたスマホを見るも、部からの連絡は入っていなかった。弓道着姿の部員は誰もおらず、みんな制服でいることから今しがた何かが起こったのか、と美月も急いで中央の輪に入った。 すぐに気がついたのは、みんなこれまで見たことがないような深刻な面持ちをしていることだった。大会の前や段級審査のときももちろん不安や緊張でピリッと張り詰めた真剣な雰囲気になることもあるが、ここまで悲壮感が漂うような空気になったことはない。 話をしているのは副部長と男子弓道部の部長と二俣だった。周りの部員がざわざわと話している中、二俣の焦った声に耳を傾ける。「──つまり、加護さんと森久保さんの2人と連絡が取れないということでいいのかな?」(加護? 加護先輩のこと? じゃあ、もう1人は森久保……先輩?) 美月は月に一度の合同練習の記憶を思い返していた。森久保がわざわざ自分の横に立ち、弓の持ち方や動作を教えてくれた姿が目に浮かぶ。別け隔てなくよく目を掛けてくれる先輩だと、美月は思っていた。 黒髪ベリーショートの副部長は強くうなずくと身振り手振りでさらに詳しい状況を説明する。「そうです! 今日、ここへ来たら彩乃と仲良くしている2年生2人から、昨日の夜から連絡がつかないって言われて、私も連絡してみたんですが全然つかまらなくて」 2年生の2人とは、昨日更衣室で加護先輩と話していた2人だろうと、美月は30人ほどの部員から2人の姿を探した。(いた。でも、顔色がおかしいような……) ポニーテールで髪の毛をまとめた1人は困ったような顔をして、訴える副部長の顔を見つめていた。しかし、なぜか下を向いているもう1人は長い前髪で表情は読み取れないものの蒼白い顔をしていた。 何か知ってる──そう考えたときに外野から声がして思考が途切れてしまった。「おっ! 美月ちゃん来たじゃん!」「何? 弓道部、練習やらないの!? 俺ら美月ちゃんの練習見にきたんだけど!」(あいつら、こんなときまで!!) さすがに許せないと文句の一つでも言ってやろうと近づこうとしたそのとき、二俣の口からこれまで聞いたことのない怒声が飛んだ。「いい加減にしろ!
Last Updated: 2025-12-26
Chapter: 第12話 2人分の食事
 長袖の白シャツにボーダー柄の長めのパンツというシンプルなルームウェアを着たまま歯磨きを済ませると、美月は綺麗に整えたキッチンの前に立った。 フライパンに米油を垂らし、火を点ける。十分に温まる間に冷蔵庫からウインナーを取り出すと、包丁で綺麗に切れ目を入れていわゆるタコさんウインナーを作った。 タコさんウインナーは兄、弓弦の子どものときからの好物だ。もう高校3年生にもなると言うのに、食事にウインナーを出すときはこのウインナーを所望し、前に忙しくて時間がないときにただ表面に斜めに切り目を入れただけのウインナーを出せば、「タコの奴じゃねえーのかよ」などと文句を言ってきた。 美月は、「どこのモラハラ夫だよ」と返したが、内心自分とは違い母親に甘やかされて育っているから仕方がない部分もあるかと不思議と納得している自分もいた。 フライパンにウインナーを投入する。続いて、空いたスペースに卵を2つ割り入れて目玉焼きをつくる。炒めている間に、玉子焼き専用の四角いミニフライパンを出して同じように火を点けると、そこに入れるべき卵液を混ぜ始めた。(しょうがない。兄さんは昔からそうだし、お母さんも昔からそうだ) 兄とは対照的に美月は自分でも自覚するほど実に厳しく育てられた。物心ついたときにはすでに自分で身の回りのことは済ませていた記憶がある。小学生に上がる頃には、踏み台を使って料理をしていたし、中学生になるともう家事は全て美月の仕事だった。 美月は長らくそれが当たり前だと思っていたのだが、乃愛と話をしたり、クラスメートの会話に耳を傾けていると、どうも他の家では母親か父親か、どちらにせよ親が家事をすることが当たり前らしい、ということがわかった。 玉子焼きは兄がしょっぱいのが好みだった。甘いのが好きな美月は以前は2回玉子焼きを作っていたのだが、面倒くさくなって今は兄に合わせて卵液に醤油を一回ししている。適度に混ぜ終わったところで、火力を調整したフ
Last Updated: 2025-12-24
一度王子を殺した秘書官、今度こそ愛を誓います

一度王子を殺した秘書官、今度こそ愛を誓います

ティナ・アールグレンは、成人を迎えた王子の秘書官に抜擢された。 ──しかし。 「そんな……! なんで私が……」 戦いに巻き込まれた結果、ティナは愛する王子を自身の剣で刺し殺してしまう。 絶望するティナは、自ら死を選ぶ。そして、気がつけば王子の「成人の儀」の最中、目を覚ます。 「ここは──過去!?」 一度死んで戻ったティナは、今度こそ王子を守り抜くために剣を握る。 「死に戻り×溺愛」の異世界恋愛ファンタジー! ※毎週火・木・土の3回更新!
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Chapter: 第12話 黒い影
「いやいや、久しぶりに王宮の外に出るとすげぇ人手だな。王子なんてさっきから目につくもの食べまくってるぜ」「王子は味を確かめているのだと思います。王宮で口にするものは、もう一流のシェフによって作られた料理。それも市民が食べないような高級品ばかりです。こうして市民が食べるものを自ら食することで、その質と安全を確かめているのです」 たぶん……フリーダのやつ、王子にあんな近づいて。手渡しで食べ物を…それに「あーん」まで!? わ、私だって隣にいたら……。あらぬ妄想をしそうになった私の思考をディンブラ殿の言葉が止める。「ふーん、そんなもんかね。俺はてっきりお固い行進が面倒くさかっただけなような気がするが。おっと、つい王宮や王子の話をしちまう……そうだな。ティナは、確か市民出身だったか? 城下町の説明をお願いしてもいいか? 下手におしゃべりするよりかはその方がいいだろ」「承知しました」 ディンブラ殿の言うことも最もだった。共通の話題と言えばどうしても王宮か王子の話題になってしまう。それに、フリーダに向いてるこのどす黒い気持ちもごまかせるかもしれない。「では、まず城下町ですが、主に3つの区画に分かれています。一つは、ここ商業区。市民の台所とも言える場所でありとあらゆる食品とともにその他の品物を取り扱っています。二つは、ギルド区。職人たちのエリアですね。冒険者御用達の場所でもあります」「王宮で扱う武具や紋章なんかも、ここから仕入れてるって聞くぜ。まあ、俺たちは与えられた武器をただ使うだけだが。……おっと、うまそうなステーキがあるぞ。おっさん、この肉はいくらだ?」 ガハハハハ、と笑いながら牛肉のステーキを購入すると、分厚い肉にフォークを刺してその場で食べ始める。
Last Updated: 2026-01-31
Chapter: 第11話 ティナの作戦
「なぁ、ところで──」 ディンブラ殿は耳に顔を近づけると声を潜ませて聞いてきた。「どうやって、今回のお忍び視察、王や大臣連中を説得したんだ?」「ああ、それなら。『万が一にも王子の身に危険が及ぶことがあれば、賊と賊に繋がる全ての者を殺し尽くした後《のち》に私がその首を持って償わせていただきます』、とベルテーン現国王に述べることで、無事に王子の提案した無理難題を解決することができました」 前のときと同じ手法だ。 本当は王子の視察自体を阻止したかったのだが、王子はあれでもなかなかの頑固者。フリーダと相談して、前回同様視察を行うことにしてフリーダと力を合わせて王子を守ることを決めた。 ……前の記憶通りなら、このあと王子は賊に襲われる。ただの賊ではなく、もっと恐ろしい怪物《フォボラ》に。 フォボラが出現するのはほぼ間違いない。だから私たちの作戦は、王子に危害が加えられないように身を挺して守ること。私の剣とフリーダの魔法、そしてディンブラ殿の<重槍の紋章>があればフォボラを退けるのはたやすい。 王子の命は守られ、この先の展開もおそらく違ったものになるはず……。 私が考えを巡らせていると、ディンブラ殿はぽかんと大口を開けて理解できない、といった顔をしていた。「……何か?」「いや。アールグレン秘書官──おっと、ここからはティナだな。ティナのその手腕に感心しただけだ」「はぁ……」 感心しないでほしい。心の中では今、必死なんだから。フリーダはあんな調子だし、これから起こることを止める算段を考えなきゃいけないし
Last Updated: 2026-01-29
Chapter: 第10話 王子、城下町へ
「それでは出発しよう。くれぐれも、私が王子だと気づかれないようにしてほしい」「承知しました」 秘書官以下、数人の近衛兵が口々にそう述べると、市民に扮した王子は、馬ではなく徒歩で王宮の門を出立《しゅったつ》した。王子の隣には街の若者を装った近衛兵の一人と、そして……なぜかフリフリ衣装のフリーダが付いている。友人3人で街を散策している、という設定だが、フリーダの背格好を考えると無理がないか? 他の近衛兵も各々、怪しまれない程度に何かに扮しているけど……。「なんだぁ? 不満そうだな? あの紋章士の嬢ちゃんに王子の隣を取られたのが不服なのか?」 私の背丈よりも遥かに大きい近衛兵長アーダン・ディンブラ殿が、豪快に笑い声を上げる。黒髪で隻眼の戦士だ。右目にはいつぞやの戦いでつけられたらしい切傷が深い跡として残っている。 前の記憶では、ここでのディンブラ殿の台詞は「父親ほど年の離れた俺と歩くのは不服そうだな」だったはず。「いえ、別段何も思ってはいません。王子がフリーダが隣にいた方が身分が紛れるとおっしゃったので……」 でも、本当は王子の横がよかった。楽しそうにフリーダと談笑している王子を見ていると、少し羨《うらや》ましくもあった。 そんな私の心内を知っているからか、フリーダはちらりと私の方を見ると悪戯そうに笑い、わざと王子に体を近づける。「マリク王子の甘い香水の香り、素敵ですわ」 あ、あいつ…!! 「そんな睨みつけるな。王子があんなのに簡単になびくわけがない。けど、アールグレン。本当は王子の隣が良かったのに。王子はなぜ、私を隣に付けてくださらなかったのか……とでも言いたそうな顔をしているが?」「……ふっ。まさか、そんな。私はただ王子に仕える身、そのようなことは考えたこともありません」 くっ…恥ずかしい! 前も同じ意地の悪い質問をされたのに、回避できなかった! なぜ2度もディンブラ殿に私の気持ちがっ! はっ! まさかっ!「ディンブラ殿」「ん? なんだ?」「ディンブラ殿は、確か〈重槍《じゅうそう》の紋章〉を宿していると聞いています。他にもたとえば、他人の心を読む紋章など宿していたりなどは」「他人の心を読む紋章?」「もしくは感情を読み解く紋章でも」 そうじゃないと無表情をキープしているのに、感情を読み解くなどできない! しかし、ディンブラ
Last Updated: 2026-01-27
Chapter: 第9話 死の回避方法
「死に戻り? 魔法の一種か?」 フリーダはこめかみに人差し指を当てると首を横に振った。「あんた、見た目通り魔法は使えないみたいだけど、そんな魔法あるわけないじゃない」「む……。たしかに私は魔法が使えない。じゃあ紋章か? 紋章の力で」 魔法は、その才がある者が紋章を体に宿すことで使えるようになる。だが、魔法とは別に紋章は多種多様な力を有する。 だから、私の知らない「死に戻り」という紋章があるのかと思ったのだが……。「紋章なら、記憶にあるはずでしょ? 腕か額かどこかに宿した記憶が。それがないから困ってるんじゃない?」「た、たしかにそうだ」「本当に剣一本で戦ってるのね。だとしたら強すぎだけど」 手のひらを向けると、フリーダは部屋の中を行ったり来たりし始めた。「だけど、紋章は数え切れないほど存在するし、新しい紋章も研究されている。どこかにそういう紋章がある可能性はあるわ。それに──」 足が止まると、くるりとこちらに向いた。「咎人《とがびと》」「……なに?」 その言葉を聞いて、私は視線を逸らしてしまった。「だから【咎人】よ。彼らの持つ能力に、死に戻りがあるのかもしれない。一度死んで、特定の場所に戻る力がね」「……だとしたら、私はどうしたらいい?」 慎重に言葉を選んで質問する。頭の片隅で、咎人の言葉がこびりついていた。一生、思い
Last Updated: 2025-12-25
Chapter: 第8話 死に戻り
 フリーダは、驚いたように口をパクパクさせながらもティーカップを口に運んだ。そして、心を落ち着かせるように紅茶を飲むと大きく息を吐く。「──意味がわからないわよ。だけど、初対面のはずなのに誰にも話していない私の目的を知っている……あなたに『なにか』があったってことだけは、わかるわ」「それだけわかってもらえれば、今は問題ない。……念のため聞くが、私のことは知らないという理解でいいか?」 大きくうなずくと、フリーダの赤い髪が揺れた。「初対面に近いわね。牢屋に忍び込んだときに一度、今で二度目よ」 ふふん、と偉そうに目を閉じて微笑むが、なんで賊なのにそんな態度なんだ?「一応、忠告しておくが自分の立場はわかっているか? 看守から温情をもらっているようだが、城に忍び込んだ事実は変わらない」「ふーん、罪人ってこと? でも、よくわからないけどあなたは私を頼ってるんでしょ? 協力するなら罪はなくしてほしいんだけど」 挑発するようにフリーダの瞳が揺れる。「……罪人か。それは、私のことかもしれないな」 この記憶が本当なら、王子を殺したのは他でもない私だ。「なに、急に?」「いや、なんでもない。罪をなくすことはできないが、上と掛け合ってみよう。だから、協力してほしい」「なーんか釈然としないけど、まあ、いいわ」 フリーダは強気に笑うと、紅茶に口をつけた。 かわいい顔をしているけど、こいつを王子に近づけさせるわけにはいかない。前の記憶のときだって、王子に魔法を教える大役をちゃっかり担って、毎日王子にくっついて手や腕や胸をペタペタペタペタと触りイチャイチャと──こいつは要注意人物。王子の身が危ないって──。 ああ、もう。それどころじゃない! 左右に頭を振って嫌な記憶を振り払った。「そう言えば、まだ名乗ってないんじゃない、王子の秘書官さん。私のことは知ってるみたいだけど」「ああ、そうだった。私はティナ。ティナ・アールグレン。王子の傍に仕える王子のための剣だ」「固っ! 肩書も態度も固すぎ!! もっとかわいらしく乙女な感じのやつがいいんじゃないの~?」 こいつ……! 人が一生懸命考えた台詞を小馬鹿に……!! いや、そうだ。こいつはこういうやつだった。 フリーダの顔がにやついている。もしかして、こっちの反応を楽しんでいるのか? くっ。振り回されたら終わりだ。
Last Updated: 2025-11-04
Chapter: 第7話 フリーダは最強の紋章士
「なぜって、出してくれたから。可憐な私の魅力に気がついてあまりにも不憫と思ったのよ」 どう見ても少女にしか見えないこの紋章士は、食べかけのりんごをお皿の上に置いて立ち上がった。束ねた赤髪を手で払いながら。 本人なりに可憐な動きなんだろうけど、全くそう見えないから不思議だ。 ……そう言えば、私の「記憶」のなかではフリーダと2度目に会ったのは街で王子が襲われているとき。 なぜ、牢屋から抜け出せたのかと疑問に思っていたけど、こういうことか。 それでも、罪人は罪人。私はキッとフリーダの隣にいる看守をにらみつけた。 慌てて両手を振りながら看守は弁明する。「いえ、誤解です! さすがに王宮に忍び込むという悪事は働きましたが、こんな小さな女の子を冷たい牢に入れておくのはかわいそうだと思っただけなんです! お腹も空いていそうでしたし!」「あっ」 フリーダにとっては、それは禁句だ。この小さな魔女は、なによりも自分が子どもに見られることを気にしている。 現に今も、腹を立てたのか拳を握ってぷるぷると震えている。「だれがぁ、小さな女の子だってぇ〜!!!!」 獣のようにわめきながらつかみかかろうとするフリーダを羽交い締めにして止める。やっぱり、怒り出したか。「落ち着け、フリーダ。それより重要な話がある」「これ以上重要な話なんてないわ! だいたいなんであんたが私の名前知ってるのよ!!」 それは、本当にこっちが聞きたいんだけど。ここで説明してもらちが明かないと判断して、私は職権を乱用してフリーダを連れていくことにした。「この者は神官殿も心配していた。まだ幼い見た目とはいえ罪人だ。魔法の才があるとのことだから、一度、紋章宮へ連れていく」「なに、ちょっと勝手なこと! あぁ! なにすんの、やめなさい!!」 問答無用でフードを引っ張ると、フリーダの体を引きずりながら私は牢屋を出ていった。*「で! なにが目的なのよ!? だいたい私は──」「フリーダ・ルフナ。幼い子どもに見えるが年は24歳。火の紋章を宿した紋章士……だな?」 フリーダは硬直した。丸い赤い瞳が驚いたように大きく見開かれている。「あんた、私を捕まえた人間よね? なんで私の素性を知ってるのよ」「そこが問題なんだ」 私は机に座るフリーダの前にティーカップを置くと、そのなかに淹れたての紅茶を注いだ。紋
Last Updated: 2025-10-31
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