LOGINティナ・アールグレンは、成人を迎えた王子の秘書官に抜擢された。 ──しかし。 「そんな……! なんで私が……」 戦いに巻き込まれた結果、ティナは愛する王子を自身の剣で刺し殺してしまう。 絶望するティナは、自ら死を選ぶ。そして、気がつけば王子の「成人の儀」の最中、目を覚ます。 「ここは──過去!?」 一度死んで戻ったティナは、今度こそ王子を守り抜くために剣を握る。 「死に戻り×溺愛」の異世界恋愛ファンタジー! ※毎週火・木・土の3回更新!
View Moreなぜ……? どうして……?
真っ暗闇のなか、大粒の雨が降っていた。降りしきる雨は、でも、血を洗ってはくれない。
──王子の傷を治してはくれない。
「王子! マリク王子!!」
胸を貫いた剣はそのままに、地面にたおれた王子の名前を呼ぶ。
暗闇のような空洞の瞳が私を見つめていた。指も唇も動かず、雨に打たれるまま。赤い水たまりが王子の体の周りに広がっていく。
即死だった。剣で心臓を一突き、驚愕の表情のままに王子はたおれ、そして絶命した。
殺したのは──私だ。
なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ!?
「どうして!?」
思い返しても、はっきりとは思い出せなかった。ただ、ぼんやりとした意識の中で私は剣を取り、振り向きざまに王子の胸を突き刺していた。
体の震えが止まらない。現実に起こったこととはとうてい思えなかった。でも、両手には、雨でも流れ落ちていかない真っ赤な血。
血。呪い。呪われた血。
「やはり私は、王子のそばにいるべきではなかった」
震えた手で剣を握り締めると、私は立ち上がった。
「王子と関わるべきではなかった」
王子の体から一気に刀身を引き抜く。
「私は、とうの昔に死ぬべきだった」
剣の切っ先を自分に向けて、迷うことなく胸を貫く。
「うぁあああああああああああ!!!!!!!!!!」
今まで味わったことのない激痛が体をつらぬき、全身が悲鳴を上げる。飛びかける意識のなかで、私の体は王子に重なるように倒れていった。
「王子……マリク……」
ぬかるんだ地面を指でえぐる。指先がしびれ、もう感覚がなくなってきている。
「ごめんなさい……でも、私はあなたのことが──」
その先の言葉を伝えることは叶わず、私の意識は急激に遠のいていった。
*
「……僕は、大丈夫だろうかティナ」
マリク王子の少し緑がかった青い瞳が不安そうにこちらを見つめてた。心臓が早鐘を打つも、無表情をつらぬいて私は辺りを見渡した。
なにが……? ここは──王子の部屋!?
見慣れた調度品に、王子の好きなウッドの香り。そしてなにより、目の前には命を落としたはずの王子。
意味が分からない。
「ティナ? 大丈夫かい? なにか驚いているみたいだけど、やはり鎧は似合わないだろうか?」
「……鎧?」
王子は、きらびやかな鎧を身に着けている。これは、「成人の儀」のみに着用するという特別な鎧。
つまり、今は成人の儀の日……?
王子は困ったようにあいまいな微笑みを浮かべた。
はっ──!
「も、問題ありません、マリク王子。王子は今日もす──」
「……す?」
私の思考が突然止まってしまったがゆえに、王子は首を傾げた。
ダ、ダメだ、ティナ。ティナ・アールグレン。王子の困ったような瞳が子犬のように可愛いなどと、そんなことを微塵も思ってはいけない。感じてはいけない。
私は、王子の視線から逃れるように目を瞑り咳払いを一つして、王子の疑問に答えた。
「素晴らしい晴れやかな格好です。これから始まる成人の儀においても、お集まりいただいている皆様が誇らしく思うことでしょう」
本当は、「王子は今日も素敵です」と言うところだった。言いたかった。いや、素敵ですは一般的な褒め言葉だから言っても良かったはずだが、言葉の衝撃に私自身が耐えられない。
「そうか。自分ではよくわからないが、ティナが言うのならばそう見えるのだろう」
王子は私の本心に気づくことなく輝く笑顔を向ける。私は大きくうなずくと、
「はい。それでは王子、行ってらっしゃいませ。どうぞご武運を」
と言って王子を送り出した。
部屋の扉が静かに閉まる。……そうじゃない! 元気に王子を送り出してどうする!?
落ち着け、ティナ・アールグレン。……でも、この状況、私の記憶。いったいなにがどうなっているんだぁあああ!!!!
翌朝、早朝も早朝の王宮の中庭。王宮全体がまだ動き出す前のまだ朝露の残る芝の上に、私はマリク王子とともに向かった。「気が乗ってなさそうですね、王子」 私が声をかけると、王子は振り向いて苦笑した。「太陽の紋章を受け継いだとはいえ、争いは苦手だよ。使いこなせるかどうか……」「王子……」 いつになく弱気な王子。共感するべきか激励すべきか悩んでいたところへ、背後から朝にしてはうるさい声が響く。「おはようございます! 王子!」 振り向かなくてもわかる、フリーダだ。 そっと息を吐いていると、気楽な足取りで歩いてきたフリーダは王子の前に立った。「王子、今日は付きっきりで、手取り足取り紋章の使い方を教えてさしあげます」 む……。「フリーダ。頼むよ。君になら安心して任せられる」 私は王子の前に立った。「待ってください。紋章を教えるのに手取り足取り使う必要はありません。王子……気を付けてください」 王子は不思議そうに私を見る。フリーダがふふっとおかしそうに笑った。「秘書官さん。比喩よ比喩。……気を付けてって何を想像したのかしら?」 頬が熱くなる。「そ、それは!! な、なんでもない」「大丈夫だよ。ティナ。ケガをしたりはしないから」 王子の手が私の肩に触れて、私はなにも言えなくなってしまった。
私はフリーダと顔を見合わせると、すぐに踵を返した。 「王子のところへ行く」 「また急ね、今から?」 「内通者が王子の近くにいる可能性があるから、確かめないと」 フリーダは髪をいじりながら少しだけ考え、それから紅茶を片付けた。 「そしたら、私は周りを見てくる。後で報告ね」 私は頷くと、そのまま扉を開けて王宮の回廊を急いだ。 夕暮れの光が石壁を赤く染めている。胸の奥のざわつきは、まだ消えていない。 早足で王子の執務室の前に立ち、一呼吸置いたのち扉を叩く。 「失礼します」 「ティナ? どうぞ」 中に入ると、マリク王子が書類を確認していた。私が目を通すよう頼んでおいた書類だ。 「どうしたんだい? 君のせいで僕はこんな重労働を」 無事を確認するとくすりと気づかれないように微笑む。 「フォヴォラと戦うよりは、軽い仕事ですよ。それに予定を変更しないと言ったのは王子です」 「ふふっ、まあそうだね。辛いが、これも自分の言葉が撒いた種か」 王子は柔らかく笑うと、一息つくように紅茶を飲んだ。 「それで? 要件は?」 「あっ、いえ……出立の件で少し確認を」 私は言いながら、部屋の中を見回す。 誰もいない。窓も閉まっている。 それでも、さっき感じた気配がどこかに残っている気がした。 「ずいぶん険しい顔をしているね」 「あっ、護衛の配置を見直そうと思いまして」 王子には軽く見透かされてしまう。 「もう?」 王子が軽く笑った。 「君は本当に仕事が早いね」 「王子の秘書官ですから」 私は王子の机に近づく。 そのとき、机の端に置かれた書類が目に入った。王子の訪問予定をまとめた資料だ。 私はそれを何気なく手に取った。 ――折り跡。 紙の端に、わずかな跡がついていた。私の作った資
王子と別れたあと、私はすぐにフリーダを探した。フリーダは、王子にあてがわれた一室で呑気に紅茶を飲んでいた。 「ゆっくりしている場合じゃない、フリーダ」 フリーダは露骨に嫌な顔をする。 「予定通り、アヌ国へ一週間後。……そこで王子が襲われる」 「あんたね、また肝心な情報を言ってないじゃない」 ため息をつきつつも、その目は鋭く窓の外を見た。 「今日ので止められると思った。咎人を捕まえて、それでおしまいだと。でも……このままだと前と同じ流れになる。護衛は少数のまま。アヌで――」 「マリク王子が襲われる」 私の言いたくない台詞は、フリーダが先に言った。 「咎人は、もうアヌに先回りしているはず」 「確証はあるの?」 「ない。でもアヌでの襲撃はあまりにも完璧だった。王子の動きも、謁見の時間も、護衛の配置も把握していた」 フリーダは目を細めると髪を揺らした。 「つまり、王宮に内通者がいるってこと?」 私はゆっくりとうなずいた。 「そう。少なくとも一人は」 それが、前回の私の結論だ。いくら咎人でも、王子の予定が把握できなければあの迅速な展開はできなかった。 王宮の中に内通者がいる。 「面倒ね。外より中のほうが厄介なのに。前の記憶ではわかんないの?」 私は目を閉じる。 あの日。出立前、違和感はなかった。咎人の気配は襲撃のときに初めて感じた。 だから、城には咎人はいない。 「さっきの会議で、王子の訪問日程を聞いた瞬間。ほんの一瞬だけ、空気が変わった気がした」 「それは、そうね。無茶な王子の話だもの。みんな驚くわ」 「そうじゃない。確かに、驚きの声がほとんどだったけど、一人だけ……悪意を感じた」 「悪意?」 フリーダはいらただしそうに頭をかいた。 「情報が漏れてるわね」 「咎人にはもう伝わっている可能性もある。だから向こうで待ち伏せが成立する」 少し考えた後、フリーダは
「各国への訪問の日取りはこのままで、と考えています」 場がざわついた。口々に反対意見が述べられる。「我が国を除く8カ国、そのうち特に隣国〈アヌ〉はすでに準備を進めているはず。我が国が襲撃を理由に日取りを遅らせれば、アヌ国の人々に影響を及ぼす可能性があります。それに、襲撃があったからという理由で揺らいでしまえば、それこそ他国に付け入る隙を与えるようなものです」 みんなの動揺を鎮めるように、王子は落ち着いた穏やかな声で理由を話した。 王はにやりと笑みを浮かべると、あごひげを触り続きを促す。「ほう。お前がそういうのであれば、構わん。して、護衛はどうする?」「私の周りで十分です。最近、紋章士の新しい仲間もできたことですし」「王子! ダメです!」 この選択は誤りだった。護衛が少ないせいで王子は──。「アールグレン秘書官。構わん。王子の判断だ」 反論しようとしても、王の言葉に止められてしまう。王子は礼を述べると、予定通り1週間後にアヌ国へ向けて出立することが決定してしまった。 緊急会議は終わり、王子と私は謁見の間を出た。私はすぐに王子の前に立つと頭を下げる。「申し訳ありません、王子」「ティナ。何か君が謝らなきゃいけないことをしたのかい?」 そうです。私のせいで、王子を危険な目にさらしてしまう。けど、そんなこと言っても「心配性だな」とあしらわれるだけ……。 私は、焦りながらも記憶を紐解くように、前と同じようなセリフを発することしかできなかった。「&hell





