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裃 左右(かみしも そう)
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Novels by 裃 左右(かみしも そう)

ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~

ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~

 王家の策略により、王太子の婚約者に選ばれた伯爵令嬢ベアトリーチェ。 「お気づきになりましたか、お嬢様。これは、栄誉ある縁談などではない。『金の首輪』ですよ」  愛する家族を守るため、令嬢は決意する。  ――そうだわ、わざと嫌われて、婚約破棄されればいいのよ!  歴史上の悪女を手本に「完璧な悪役令嬢」を目指すが計画は、持ち前のポンコツさとドジっぷりで、いつもあらぬ方向へ大脱線!  お嬢様の奇行を、慇懃無礼に支えるのは、ミステリアスな専属執事、イヅル・キクチただ一人。  悪役を演じる不器用令嬢を、『最高のエンタメ』として愉しむ執事がおくる、予測不能な勘違いラブコメディ。  さあ、勘違い悲喜劇(バーレスク)、ここに開幕。
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Chapter: 第95話 愚かな道化が視た、聖女の幻(前半)
 血まみれのローラント殿が、こちらへ歩み寄ってくる。 逃げなければ。そう思うのに、足がすくむ。「さあ、参りましょう。その献身を、我が王が忘れることはないはずです」 優しい微笑み。彼の手が、わたくしに触れようとした、その刹那!「――させんッ!」 横合いから、雷鳴のような怒号と共に、青白い閃光が迸った。鏡の迷宮に、裂帛の気合いが響き渡る。 ガギィィィンッ! だが、ローラント殿は、その奇襲を弾く。 ――仕掛けたのは、息切らす、バージル殿下。「殿下っ!?」「遅くなって、すまない! 無事か、ベアトリーチェ!」 黄金の髪を振り乱し、ドレスシャツを汗と血で汚した――我が婚約者! かつて感じた冷淡さは微塵もない。ただ真っ直ぐに、わたくしを案じる。「おや、殿下。もうお戻りになるとは、ああ、やはり殿下は、本当に正義感のある、素晴らしいお方だ」「皮肉か、貴様ッ」「いいえ、本心ですよ。ベアトリーチェ様を、苦しませずに済みました」 ローラント殿は、悪びれる様子もなく称賛する。宿る、一点の曇りもない、主君への敬愛。 だからこそ、不気味だった。「下がりたまえ、バージル殿下。私が、せっかく逃がしてやったと言うのに、戻って来るとはどういう了見だね?」 背後から、よろよろと立ち上がったヒュプシュ卿が悪態をつく。 彼は、血まみれの剣を構え、ローラント殿を挟み撃ちにする形をとった。「ヒュプシュ! 生きていたか!」「あいにく、死にぞこなったところだが。ここから先は保証せんよ。さっさと、ベアトリーチェ嬢を連れて逃げるんだな」「ならば、加勢しろ! 可能ならば、ここでローラントを抑えるっ!」「チッ、間抜け王子。こんな時でも、頭の堅さは変わらずか」 バージル殿下とヒュプシュ卿。かつての敵対者同士が、今、並び立って剣を構える。 しかし、ローラント殿は、その二人の剣圧を前にしても、余裕を崩さない。「国を憂う若きお二人が、手を取り合う。感無量です。ですが
Last Updated: 2026-01-01
Chapter: 第94話 鏡の回廊、砕け散る虚像
 かつ、かつ、かつ。 ヒールの音が反響する。 わたくしが駆け込んだ先は、王宮の奥深くにある『鏡の回廊』。王宮の裏口や、重要区画へと通じる動脈。(バージル殿下が逃げるとしたら、あるいは連れ去られるとしたら、このルートを使うはずよ) そう、踏んだのだけれど。 ふと横を見れば、そこには無数の“わたくし”がいた。 壁一面を覆う鏡が作り出す、終わりのない合わせ鏡の迷宮。 わたくしが一歩踏み出せば、鏡の中の何百人ものわたくしも、一斉に動く。(増殖する、虚像のわたくし) なぜか、嫌悪感が走る。 深紅と緑の斑入り大理石の柱。その柱頭から見下ろす、勝利の女神。頭上のフレスコ画から見下ろす、歴代の王たちの影。 あらゆる絢爛さが、鏡の中で歪み、増殖し、現実の境界を曖昧にしていく。(怖い。まるで、過去の亡霊たちが、姿を借りてこちらを覗いているみたい) 普段は、煌びやかなはずのこの場所が、今は、ただひたすらに不気味。 わたくしは、この震える体を抱きしめながら、前に進んだの。 そして、そこで目にしたのは――。「ぐあっ!?」「くそっ、こいつら、強すぎるっ!」 殿下の護衛騎士たちが、次々に薙ぎ倒されていく光景だった。 立っていたのは、ヒュプシュ卿と、あの鉄拳カールと呼ばれていた巨躯の騎士。 (ヒュプシュ卿!? それに、あの騎士まで!?) わたくしの思考は、瞬時に結論を出した。「この二人こそが、この事態を招いた裏切り者なのだわ! ヒュプシュ卿が、温室で捕らえられたのは、誤解ではなかったのね!」 宰相家の嫡男と、騎士団きっての武闘派。そんな二人が、殿下の護衛騎士たちを攻撃している。もはや、疑いようのない真実に見えた。 わたくしは、とっさに柱の陰に身を隠す。だけど、戦いを終え、騎士たちが動かなくなったのを確認すると、二人はゆっくりと近づいてくる。「――そこにいるのは、誰だ?」「おい、若。…&he
Last Updated: 2025-12-31
Chapter: 第93話 天翔ける女傑、戦乙女たちのルーツ(後半)
「暫く見ぬ前に、王都も随分と賑やかなことになっているじゃないか」 黄金の翼と獅子の身体を持つ、幻獣――グリフィン! そして、背に悠然と跨るのは、白銀の甲冑に身を包んだ、一人の女性。 年齢を感じさせない、彫刻のように美しい顔立ち。燃えるような赤髪。どんな猛獣よりも鋭利で、覇気に満ちた瞳。「……まったく、どいつもこいつも、だらしないことだ」 女が片手で軽々と、巨大な|槍斧《ハルバード》を振るえば――怪物たちが、木の葉のように吹き飛ぶ。 その光景を見た途端、三人の重鎮たちは、安堵ではなく。揃いも揃って顔面蒼白になった。「ば、馬鹿な……! まさか、あの御方が!?」「うげぇっ!? マティルデ殿だと!? なぜ、領地からここへ!?」「ひぃぃぃっ! 妻が! 妻が来てしまったぁぁぁっ!」 国王は床に転がり落ちそうになり、宰相は震え上がり、夫であるはずのウェルギリ伯爵が、頭を抱えて悲鳴を上げた!「え……?」「うそ……あの紋章は……?」 あまりの暴れっぷりに、必死に戦っていた生徒たちも、騎士たちも、怪物たちすら動きが止まる。 掲げられているのは、シャーデフロイ家の『翼ある蛇』。 さらに隣には、かつての敵、聖王国に連なる名家『赤き猟犬』の紋章が、誇らしげに刻まれていた。「ふははははっ、随分と散らかしてくれたものだな。……獣どもめッ!」 そう、この雄たけびをあげながら暴れまわる彼女こそが、シャーデフロイ伯爵夫人。 聖王国の宝と謳われ、シュタウフェン王国軍を幾度も退けた、伝説の聖騎士。マティルデ・ファン・シャーデフロイ、その人だったのだ! そこに空気も読まず、能天気な声を掛けられるのはただ一人、ルチアだけ。「ああっ、お師匠さまだ♪ わーい、ルチアはここです~!」 ふっと、マティルデは、表情を緩めて一瞥。すかさず、手を振ると合
Last Updated: 2025-12-30
Chapter: 第92話 天翔ける女傑、戦乙女たちのルーツ(前半)
 そんな渦中で、ツェツィーリア様はある違和感に気付いた。「待って! この状況……おかしいわ! なぜ、バージル殿下の姿が見えないの!?」「言われてみれば……?」 見渡せば、陛下や、お父様の姿も、遥か上段のバルコニーに見える。でも、肝心の王太子殿下の姿が、どこにもない。ローラント殿の姿も、だ。「あの責任感の塊のようなお二人ならば、この状況を解決しようとするはずじゃなくて? ――まさか!?」 ツェツィーリア様の顔色が、さっと変わる。何かを確信したように、わたくしの腕を掴んだ。「ベアトリーチェ! あんた、行きなさい!」「えっ? どこへ?」「とにかく殿下の元へよ! これは……きっと陽動だわ! 敵の本当の狙いは、この騒ぎに乗じて、手薄になった殿下を暗殺することに違いないわ!」 そう言われても、殿下がどこにいるのかすら、わたくしにはわからないわ。「きっと、無茶をしてるわよ! ここは、あたしたちがなんとかする!」「でも……」「……お願い。きっと、あんたが一番、上手くやれるはずだわ」 ぐっとこらえるように、切なそうな眼差しでそう言われた。本当は、ツェツィーリア様自身が助けに行きたい、そんな気持ちが痛いほど伝わってくる。 わたくしが、助けられるかなんて、そんな自信はまったくないけれど。(まったく、殿下も罪な男ですわね。ツェツィーリア様という幼馴染を、もっと大事にすべきですわ) この提案に込められたものは、信頼と友情。応えられなかったら、女が廃るわ。「もし負けたら、貴方様の無様な姿を、最前列で笑ってあげますわよ」「なによ! そっちこそ覚悟したらいいわ!」 いつかの台詞を引用して、わたくしたちは不敵に笑みを交わし合うと、互いに別々の方向へと動き出す。 背後で、乙女たちの詠唱が、高らかに響き渡った。「さあ、あんたた
Last Updated: 2025-12-29
Chapter: 第91話 殻破れ、先陣切るは乙女の軍団
 暴走した学生たちの乱入で、戦況は一変。 矛先は、騎士たちだけでなく、逃げ遅れた令嬢たち……かつて、わたくしと笑い合っていた、あの子たちにも向けられている。 ルチアは、別の魔獣と交戦中で、手が離せない。ジャンジャック様も、エミール様も、手一杯。(誰も、他にいない――っ!) ああ、まただわ。いつだって……そうよ。 たいして力もないくせに、わたくしは、こう思ってしまうのだわ。「このまま守られているだけでいいの?」って。後悔したくないって。 上手くいくかなんて、わからないのに。「――お嬢様」 不意に、背中を支えていたイヅルの手が、ふわりと離れた。見上げれば、どこか誇らしげに、力強く微笑んでいる。「行ってらっしゃいませ。貴女様が、信じる道へ」 その言葉が、凍り付いた足を、前に踏み出させる。 ……こんな時でも、そうなのね。あなたって。「はあ……もうっ、主人を危険に導く執事が、どこの世界にいますのよ? ……ならば、あなたも、あなたが為すべきことを為しなさい!」 わたくしは、イヅルに別れを告げたわ。 隠し持っていた『|ディスツプリーン《おしおきステッキ》』を握りしめ、戦場の只中へと走り出す!「そこまでですわっ!」 魔獣の前に立ちはだかり、電撃纏うステッキで一閃! パシィィィンッ! と、小気味よい音が響き、魔獣の鼻先を弾く。「ベ、ベアトリーチェ様!?」「さあ、お立ちなさい! シャーデフロイの友人とあろう者が、こんなところで膝をつくなんて、許しませんわよ!」 震える手を強引に取り、無理やり立たせる。 そのまま、わたくしは庇うように、扇を広げて魔獣と対峙。「どうして、貴女が……?」「なぜ、私たちのことをお助けに!? 私たちは、貴女様を!」 彼女たちの瞳に浮かぶのは、驚きと、戸惑
Last Updated: 2025-12-28
Chapter: 第90話 砕け散る輝き、混沌サプライズ
 エミール様の奏でるリュートは、哀愁と華やかさが入り混じる。どこか迫りくる、終わりの予感。 宮廷楽師たちが続けば、会場の貴族たちを、退廃的な陶酔へと誘うワルツとなった。こういうのも、弾けるのね。「仮面舞踏会のワルツ……どうせなら、もっと明るい曲が良かったわね」 わたくしは、そっと振り返った。 背後に控える、漆黒の影へと。誰よりも一途で、誰よりも残酷な、わたくしだけの従者。「ねえ、イヅル」「はい、お嬢様」 イヅルは、恭しく、一歩前に進み出た。 こんなお祭り騒ぎ。すべてを冗談やパフォーマンスで済ませてしまえる、嘘みたいな時間。 なんだか周囲のざわめきが、すっと遠のいていくような気がした。「約束通り、ダンスのお相手を、お願いできるかしら?」 差し出した手は、少しだけ震えていたかもしれない。 だって、こんな大勢の前で、執事と令嬢が、手を取り合って踊るなんてありえないもの。貴族社会の常識を覆す、許されざる行為。「不思議ね。今のわたくしなら、ぜんぶ黙らせることが出来る気がするわよ?」 きっと、本当はそんな上手くは、いかないかもしれないけれど。 見つめ返してくる、イヅル。黒曜石の瞳に、いつもの皮肉めいた色はない。そう、まるで凪いだ夜の海みたい。「では、喜んで、見世物になりましょう。――我が、愛しの主」 返答は、流れる音楽よりも、わたくしの鼓膜を強く震わせる。 白手袋に包まれた手が、わたくしの手を取り、そっと唇を寄せた。手の甲に触れる、熱い吐息。 ……世界には、わたくしたち二人しかいなくなった。「参りましょうか」 イヅルのエスコートで、わたくしたちは、ダンスフロアの中央へと進み出る。 周囲からの視線や評価も、今は気にならなかった。彼の手の温もりと、彼のリズムだけが、わたくしの全てだった。 イヅルの手が、わたくしの腰に回される。 ぐっと引き寄せられ、身体が密着する。心臓の音が、聞こえるくら
Last Updated: 2025-12-27
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