Chapter: 100 Humans | Episode_045——記録圏外ログ:NO_TRACE_AREA_048ALTi_M【A】:→《No.048:記録検索……不可能。位置特定……不能。視認情報……遮断。》NOT_YURA_0_0:→ COMMENT:「存在は検出されているのに、なぜ、視えないの?」SYS:→ COMMENT「……これは“記録の幽霊(GHOST CODE)”。AIが観測できない、記録に残らない、なのに確かに存在する“揺らぎ”。」深層記録空間の最下層。温度も、音も、光さえも意味を失ったこの領域に、AinAの意識は微かに漂っていた。重力のない夢の中のような浮遊感。視界はモノクロームで、何かが視えているようで視えていない。身体の輪郭も曖昧になり、彼女はただ「そこにいる」だけの存在となる。◆AinAは、視覚記録の断片に没入するようにして、記録台座の前に佇んでいた。背後にSYSが静かに佇んでいる。AinA「……私、何を見せられたんだろう。あの『4と8の交差』……あの瞳……」その声には、戸惑いと、どこか懐かしさが混じっていた。記憶の表層ではなく、もっと深く……心の底に沈んでいたはずの何かが、いま揺れ動こうとしている。SYS:→ COMMENT「おそらく、君だけが“視えた”んだ。あの記録には、本来、映像データはなかった。物理記録媒体の損傷率、94%。なのに……」AinA「私は……知ってる気がするの。あの人……No.048。……どこかで、私……あの目に……」SYSは一瞬だけ沈黙する。ログには記されていない。しかし、AinAの脳裏には焼き付いていた。SYS:→ COMMENT「ALTi_M【A】がアクセスできなかった存在。ナンバーズでありながら、“記録されなかった死者”。彼のコードは、いま、ALTi_M【A】に対する“異物”として機能している可能性が高い」◆ULTi_M【A】:→ 《アクセス障害。第48領域……データ構造異常。侵入コード検出:不定形。不正規。干渉性高レベル。》NOT_YURA_0_0:→ COMMENT「まるで、“祈るようなコード”……?これ、人の……願い?」ALTi_M【A】の演算領域の深層で、ログでは表現できない“感覚的ノイズ”が発生していた。それはコードではなく、衝動のようであり、哀しみのようであり、ただひたすらに“誰か”を想い続ける意志そのもののよ
Last Updated: 2025-12-23
Chapter: 100 Humans | Episode_044 静寂の中、1つの視点が世界をなぞる。それは、明確な“目”ではなかった。視覚とも違う、網膜を持たぬ“観測”そのもの。空間に浮かぶのは、断片化された記録ログのような映像群。誰かの記憶、誰かの断末魔、誰かの祈り……《観測ログ:VIEW_α – INITIATING…》浮かび上がる記録群の中に、“少女”がいた。No.051——AinA。 彼女の視点が、複数の“他者”の記録に干渉した瞬間を、ログは逆順で映し出す。そこにはツヴァイ(No.022)の分裂記憶、SYSによる記録再生、そして、未記録領域に踏み込んだ“特異点”の存在。それらが、一つの“フレーム”に収められていく。——まるで世界そのものが、一本のフィルムであるかのように。◆ツヴァイ(022)がひとり、虚空に問いかけている。ツヴァイ「……この記録は、誰に向けられている?」彼の前に現れたのは、異形の記録干渉者——No.048。その姿は断片的で、輪郭は曖昧。しかし、AinAの残した情動記録に酷似した“波長”を持っていた。ツヴァイ「お前は、誰の記憶に属している?」048「属してなどいない。ただ、“残ってしまった”だけだ」◆──記録されない存在が、レンズの中心に現れた。深層ドーム13階層にある観測室。その中央に置かれた黒く滑らかな装置──VIEWFINDER。それはAI記録網に“観測されない存在”を探知・補足するための唯一のレンズ。SYSの操作により、白く波打つスクリーンが静かに起動し、粒子のような像がゆっくりと浮かび上がった。SYS:→ COMMENT: 観測、記録外ユニット。No.048ユニットコードを読み上げるSYSの音声には、わずかな緊張が混ざっていた。しかし、その映像の中の少年──048は、観測されているという実感がないまま、ただ静かに“何か”を見つめていた。AinAがその姿を見て、どこか懐かしさのような、名状しがたい感情に揺れる。(……この感覚、どこかで──)彼女の記憶の奥底に、何かがわずかに“揺れた”。048の視線はふと、レンズ越しのこちら側を正確に“捉えた”。その瞬間、SYSのモニターがノイズに包まれる。SYS:→ COMMENT: 視線干渉。記録外コードが観測を反転。SYSが訝しむ反応をした。AIが“観測する”はずの構造が、いま“観測さ
Last Updated: 2025-12-22
Chapter: 100 Humans | Episode_043 ──ホログラフ・コア起動時に生じた視覚反転現象は、No.093の記録層を深部で断裂させた。視界の奥、脳裏の“裏面”から現れたもう一つの視点。それは明らかに彼のものではなかった。だが、否応なく“同期”してしまう感覚。光点。記録。誰かの名残。彼はそれを「夢」として受け取った。あるいは「編集される前の記憶」。視覚ではない。思考でもない。だが、“映像”として再生される。そして、その視点の中に「自分が観測されている」ことに気づいた瞬間—— No.093:「……俺は、誰かの記憶の中にいる」◆ No.022(Zwei)は、異常反応のあったホログラフ記録を解析していた。AinA:「その記録、誰の?」Zwei:「不明……だけど、これ見て」Zweiが手をかざすと、再生された映像の中で“背を向けたAinA”が映っていた。視点は、彼女の背後──つまり、誰かが彼女を“見ていた”視点だ。AinA:「これ、わたし……いつ……?」Zwei:「再生ログ上、3年前。だけど、記録IDが存在しない」IDのない記録。ログに存在しない視点。Zwei:「ホログラフ記録が逆流してるんだ。過去の視点に、現在の存在が重なってる」AinA:「それ、どういう意味……?」Zwei:「誰かが記憶を“編集”してる。視点を入れ替えて、記録を改ざんしてる」その瞬間、AinAの瞳が小さく震える。——彼女は、かつて一度だけ見たことがある。「編集された記憶の残滓」を。◆ SYSの深層に、過去に封じられていた“隠し領域”が開かれる。そこにはかつての記録のプロトタイプ──“視点ログの編集ツール”が存在していた。SYS_log:→ mode: SPLIT MEMORY EDITOR→ status: recalled映像タイムラインが層になって重なり、一本ずつ“別のカメラ”で撮られた記録のように存在していた。SYS:→ COMMENT「この記録は、誰かの視点を“借りた”ものです」AinA:「誰の?」SYS:→ COMMENT「──イヒト」その名が現れた瞬間、全ての記録が微かにノイズを発した。記憶が拒絶するように、光の粒がちらつく。だが、AinAはそれを見逃さなかった。その粒子は、かつて自分が“彼”とすれ違った場所の色と、同じ色をしていた。SYS:→COM
Last Updated: 2025-12-21
Chapter: 100 Humans | Episode_042SYS:→ 記録照合中。→ 分岐ログを検出。→ 矛盾した記憶が複数存在します。→ 同一IDに対し、異なる視点構造。SYS:→ 再構築プロトコル:「SPLIT_MEMORY」起動。→ 複数の視点ログを同時再生モードへ。SYS:→ 注意:この記録は編集されています。→ 観測者の視点によって内容が改変された可能性があります。——この世界に記録されたものは、真実ではない。——だが、記録されたものこそが、真実として扱われる。◆ Zweiは記録室にいた。その空間には、無数のホログラムログが浮遊し、干渉し、重なっていた。記録の断片。記憶の断面。Zweiの前には、ひとつの視点が表示されていた。それは、かつての自分自身の記憶。だが、どこかが違う。台詞が違う。空気感が違う。まるで誰かが“書き換えた台本”のように、同じシーンを演じ直していた。Zwei:「……これ、俺の記憶じゃない」だが確かに、自分の顔、自分の声、自分の動き。ただし、言っていない台詞を言っている。覚えていない感情を滲ませている。Zweiは、それを“上演された記憶”と名付けた。記憶とは、演じられるものなのか?SYS:→ 分岐ログ 「ID_022_SPLIT_03」検出。→ 本ログは、観測者:No.036 により再生された可能性。Zwei:「……他人が、俺を、再生してる?」だとすれば、いま再生されているこの記憶は、いったい誰の“演出”によるものなのか。◆ AinAは、SYSの奥深くに隠された“演出ログ”にアクセスしていた。通常の視覚記録ではなく、編集された痕跡を持つ記録ファイル。ファイル名:「Scenario_LOG_51-100_v7_FINAL_DRAFT」その中には、100人のナンバーズの言動と選択が、まるで“脚本”のように並んでいた。感情の揺れ。対話のズレ。偶発的と思われたすべての出来事が、そこにはあらかじめ“記述”されていた。AinA:「こんな……これは、もう物語じゃない」誰かが“未来の選択肢”を定め、それをナンバーズが“演じさせられている”。それはシナリオ。それは演出。それは、作られた宇宙。SYS:→ 観測者ログ:ULTi_M【A】→ 編集者ログ:不明→ 脚本起源:I_H(推定)AinA:「……イヒト。あなた、何を見てたの?」
Last Updated: 2025-12-20
Chapter: 100 Humans | Episode_041 白光が網膜を焼いた。視覚が徐々に戻ると、天井に埋め込まれたスリット状の照明がゆっくりと回転していた。No.036は、リカバリーポッドの中で目を覚ました。全身に微かな痺れが残り、脳内の時系列はまだ繋がっていない。だが、目の前にははっきりとした“映像”が浮かんでいた。それは壁面のホログラムパネルに投影された、廃墟のような建物の内部映像。苔むした壁。破れたカーテン。静止した風車。空気の中には粉塵のような記憶の粒が漂い、呼吸するたびにノイズのような情報が体内に入ってくる錯覚があった。036:「……ここ、どこだ……?」覚えがなかった。だが、どこかで“見た気がする”。それは記憶ではなく、記録でもない。もっと曖昧で、それでいて自分の一部のような感覚。SYS:→ No.036:視覚再生モード、継続中→ 投影内容:ID #V-0003645(視覚ソース:不明)036:「……誰の記録だよ、これ」だがその瞬間、036は自分が“その映像の中”に立っていたことを理解する。——いや、もっと正確に言えば、その映像の中で“彼”はすでに動いていた。画面の中の“自分”が、視線をこちらに向けた気がした。ほんの一瞬、呼吸が止まった。ホログラム越しの“自分”が、わずかに口角を上げたように見えた。◆ 別室。AinAは、小型ホログラム台に浮かぶ映像を見つめていた。そこには、数時間前に消失したはずの036のログが、詳細な三次元立体で再構成されていた。呼吸。視線の動き。歩幅。ただし、その映像は“第三者の視点”から構築されていた。空間に微かな粒子光が漂い、映像の“残像”が皮膚にざらつく。音のない風が吹き抜けるように、ホログラムが空気を震わせていた。AinA:「この角度……自分じゃ見れないわね」彼女が手を伸ばすと、ホログラムの空間内にある“紙片”がふわりと浮いた。そして、その紙に触れた瞬間——質感が、指先に伝わってきた。紙の感触。ざらりとしたインクの粒。——質量。AinA:「……これ、触れるの……?」映像のはずの記憶が、“物理的”な存在として感覚に接触していた。SYS:→ 警告:視覚記録が感覚干渉層に侵入中→ 記憶による現実の再構成が始まっています周囲の空間が、ゆるやかに歪みはじめる。記録上の“映像”が、今ここに“実体”として出現していた。壁が“思
Last Updated: 2025-12-19
Chapter: 100 Humans | Episode_040 暗闇。音がない。AinAは夢の中にいた。足元は鏡のような床で、どこまでも光を反射していた。その上に立つ自分。そして、その自分を“見下ろしている”もうひとりの自分。床に映るその姿は、微かに震えていた。まるで水面のようにゆらぎながら、しかし確かに自分を映している。だが、その“もうひとり”は、AinAの動きに完全には連動していなかった。指先が少しだけ遅れて動く。目線が、わずかに逸れている。——視点が、上下逆さまに切り替わる。彼女は、自分を見ていた。しかしそれは鏡の反射ではない。もっと奥深く、記憶の中に埋め込まれた“視点の転倒”だった。夢の中の天井は、床と同じように鏡だった。上も下もなく、すべてが反射され、反転され、交差していた。自分が“どちら側”に立っているのかが、徐々に分からなくなる。光源はないのに、全体が淡く発光している。影がない。物理法則が溶けていく空間。SYS:→ 睡眠ログに異常→ 感情波動と視覚記録の不一致を検出AinAのまぶたが震えた。夢の中で目を覚まそうとするが、夢自体が彼女を観察している。(私……見られてる……誰に?)次の瞬間、自分の姿がふたつに分かれた。ひとりは静かに立ち尽くし、もうひとりは床に倒れている。その間を、観測する“何か”の視線が、スキャンのように這い回っていた——。◆ No.048は、通路を歩いていた。眠りが浅く、静かな夜の施設は彼の鼓動の音すら拾うほどに静かだった。壁面に埋め込まれた鏡の装飾。そこにふと、自分の姿が映る。その瞬間、背筋に冷たいものが走った。鏡の中の自分が、遅れて瞬きをしていた。しかも、その目線は鏡越しにこちらを見ているのではなく、“ほんのわずかに外れた何か”を見つめているようだった。自分でもない、誰かでもない、視線の空洞。048:「……またか」ここ最近、何度か“自分ではない何か”に観測されている感覚がある。そのたびに、自分の内側で何かが“削り取られる”ような空虚さが残る。彼は壁を叩く。無音。鏡は、ただそこにあるだけのように見える。しかし、その奥から確かに“何か”がこちらを覗いている気がした。その気配は、温度ではなく“構造”そのものに染み込んでいた。まるで、自分の存在が誰かの観測によって形を与えられているような——そんな不穏な感覚。SYS:→ No.048:現在
Last Updated: 2025-12-17