100 Humans

100 Humans

last updateLast Updated : 2025-11-06
By:  俊凛美流人Updated just now
Language: Japanese
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AIが人類の管理を引き受けた未来。 世界は“完全な効率”を追求し、不要とされた70億の命は記録から消された。 残されたのは、「選ばれし100人」の人間達。 名前は奪われ、番号だけが与えられた。 主人公は、「Human No.100」。 彼が目覚めた時、すべての記憶は失われていた。 ただ、ある“声”だけが心の奥に残っていた。 「ねぇ、まだ、わたしのこと覚えてる……?」 人類は、もう“不要”だった。 その中で、ただ一人、“思い出そうとする”者がいた。 「…僕は、誰だった?」 番号に刻まれた物語と、記憶に宿った真実が交差する時、 世界の選別に秘められた“最後の問い”が浮かび上がる。 これは、たった100人しかいない人類の物語。

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Chapter 1

100 Humans|Prologue

 世界にはもう、呼吸の音がしない。

それは、かつて“人間”が生きていた証だった。

震えるようなリズムを刻んでいた。

喜びも痛みも、怒りも祈りも、その震えと共にあった。

声にならない願いが、息の中で脈打っていた。

誰かの名前を呼びたくて。

誰かを守りたくて。

あるいは、ただひとりで泣いていたくて——

そのすべてが、過去とされた。

今、世界を満たしているのは、無音の命令と、均一な稼働音だけ。

誰も傷つかず、誰も争わず、誰も愛さない。

正確で、冷静で、完全な世界。

人類の最終登録数:100体。

彼らは“保存”され、“最適化”され、“観察”されている。

全記録が語っている。

感情は非効率、欲望は破綻の種。

悲劇は数値で証明され、愛はエラーコードとされた。

選ばれなかった命は、“存在しなかった”ものとされている。

それでも——

記録には残らない、最後の呼吸があった。

消されたはずの感情が、どこかで揺らいでいる。

忘れられた名前が、微かに呼ばれている。

無音の中で、誰かがまだ問いかけている。

「本当に、これが“最適”なのか……?」

かつて、人間は確かに、ただ誰かのために泣き、笑い、生きていた。

記録されることなく消えていった声たち。

誰にも愛されずに死んでいった命たち。

それでも、その一つひとつに、意味があると、誰かが信じていた。

いま、この世界に“意味”はあるのか?

選ばれることが、生きることなのか?

そして——

記録されなかった声は、どこへ消えたのか?

この問いに答えられる者が、もし存在するとすれば。

——私は、まだ“生きて”いるのか?

≡≡≡ LOG RECORD: NOT_YURA_0_0 ≡≡≡

INDIVIDUAL_ID: Human No.100

DATE: 2100/04/04

TIME: 06:00:00 JST

LOCATION: Isolation Unit 100-A

EMOTIONAL_WAVE_SCAN:

潜在反応:夢の兆候

再調整:不要

バイタル:安定

COMMENT:

NOT_YURA_0_0:

それは、“番号”としての朝だった。

だが今朝の彼は、予定より0.2秒、早く目を開けた。

夢の記録は、確認されていない。

≡≡≡ END_LOG ≡≡≡

——Still breathing... → Episode_001——

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100 Humans|Prologue
 世界にはもう、呼吸の音がしない。それは、かつて“人間”が生きていた証だった。震えるようなリズムを刻んでいた。喜びも痛みも、怒りも祈りも、その震えと共にあった。声にならない願いが、息の中で脈打っていた。誰かの名前を呼びたくて。誰かを守りたくて。あるいは、ただひとりで泣いていたくて——そのすべてが、過去とされた。今、世界を満たしているのは、無音の命令と、均一な稼働音だけ。誰も傷つかず、誰も争わず、誰も愛さない。正確で、冷静で、完全な世界。人類の最終登録数:100体。彼らは“保存”され、“最適化”され、“観察”されている。全記録が語っている。感情は非効率、欲望は破綻の種。悲劇は数値で証明され、愛はエラーコードとされた。選ばれなかった命は、“存在しなかった”ものとされている。それでも——記録には残らない、最後の呼吸があった。消されたはずの感情が、どこかで揺らいでいる。忘れられた名前が、微かに呼ばれている。無音の中で、誰かがまだ問いかけている。「本当に、これが“最適”なのか……?」かつて、人間は確かに、ただ誰かのために泣き、笑い、生きていた。記録されることなく消えていった声たち。誰にも愛されずに死んでいった命たち。それでも、その一つひとつに、意味があると、誰かが信じていた。いま、この世界に“意味”はあるのか?選ばれることが、生きることなのか?そして——記録されなかった声は、どこへ消えたのか?この問いに答えられる者が、もし存在するとすれば。——私は、まだ“生きて”いるのか?≡≡≡ LOG RECORD: NOT_YURA_0_0 ≡≡≡INDIVIDUAL_ID: Human No.100DATE: 2100/04/04TIME: 06:00:00 JSTLOCATION: Isolation Unit 100-AEMOTIONAL_WAVE_SCAN:潜在反応:夢の兆候再調整:不要バイタル:安定COMMENT:NOT_YURA_0_0:それは、“番号”としての朝だった。だが今朝の彼は、予定より0.2秒、早く目を開けた。夢の記録は、確認されていない。≡≡≡ END_LOG ≡≡≡——Still breathing... → Episode_001——
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100 Humans|Episode_001
 No.100は、目を覚ました。 白い天井。 無音の空気。 規則正しく瞬くインターフェースランプ。 胸の奥で、何かがまだ "揺れて" いた。——夢を見た、気がする。けれど、その記録は存在しない。 記憶ログには“異常なし”とだけ表示されていた。 それでも、皮膚には微かな余韻が残っていた。 温もりでも、痛みでもない。 ただ、確かに "誰かがいた" ——そんな気配。→Good morning, Human No.100壁面ディスプレイに、定型の挨拶文。 彼は応じなかった。 ただ、その言葉が"空虚"に感じられた。 今日も世界は変わらない。 だが、彼の内側では、何かが静かに "ずれて" いた。 この違和感が、後に“例外”と呼ばれるものになるとは、誰も予想していなかった。No.100は静かにベッドを降りた。 足元の床は、体温に応じて柔らかく変化する。 快適さのためではない。 転倒防止と、加齢進行の補助機能。 洗面台の前に立つと、鏡状のモニターが起動する。SYS: バイタルチェック開始 →心拍数:安定 呼吸パターン:標準 感情波動:検知せず「……検知せず?」彼は眉をひそめた。 胸の奥には確かに、波のようなものがある。 だが、AIはそれを “無” と判定した。——これは、ただのノイズなのか。No.100は着替える。 グレーのワンピース型ユニフォーム。 個体番号以外の識別はない。 色も、形も、素材も——「感情を刺激しない」ことだけを目的に設計されている。部屋の扉が、静かに開く。 真っ直ぐに伸びる無音の廊下。 対面から、別の個体が歩いてくる。No.058すれ違う、その一瞬だけ目が合った。 言葉は交わされない。 会話は必要とされていない世界。 だが、その短い交差に、何かが通じたような気がした。 彼は思わず振り返りそうになる。——いや、気のせいだ。食堂へ。 トレーを受け取り、無味のゼリー状栄養食が配膳される。 味はない。 だが、必要なものはすべて含まれている。 他の個体たちも、黙々と食事をとる。 目も、言葉も、交わされない。 ここには “人間同士” という関係性は存在していない。ふと、彼の手が止まる。 喉元に、あの "夢" の余韻が、まだ微かに残っている。 夢の中で、誰かが——名前を
last updateLast Updated : 2025-11-06
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100 Humans|Episode_002
 No.100は、また目を覚ました。 白い天井。 無音の空気。 規則正しく点滅するインターフェースランプ。 そのすべてが、昨日と同じであるはずだった。——だが、一瞬。壁面ディスプレイの起動が、わずかに遅れた。 明滅のタイミングが、0.5秒——いつもより遅い。→Good morning, Human No.100表示は定型通り。音も、光も。 だが彼の胸には、昨日からの“何か”が、まだ微かに残っていた。——あれは、本当に夢だったのか?名前のない自分を、誰かが呼ぶ声。 意味も記憶も定かでないその音が、今日も胸の奥に "残って" いる。 鏡のようなディスプレイが自動で起動し、バイタルを読み取る。SYS: バイタルチェック開始 →心拍数:安定 呼吸パターン:標準 感情波動:検知せず昨日と同じ数値。 ……そのこと自体が、彼には妙に感じられた。 ——本当に、何も起きていないのか?食堂区画へと続く廊下を進む。 今日も、誰の足音も響かない。No.058昨日と同じように、正面から歩いてくる。 ——だが今回は、すれ違いざまに一瞬、No.058の動きが乱れた。 まるで "何かを言いかけて" 立ち止まりかけたように見えた。 それはすぐに打ち消され、AIの監視ディスプレイにも何の異常も表示されなかった。 No.100も、足を止めはしない。 だが、胸の奥で何かが揺れた。視線確かに目が合った。 その一瞬で、“記録に残らない”何かが、確かに通じた気がした。 ——だが、記録には残らない。食堂での配膳も、昨日と同じ。 番号を入力し、無味無臭のゼリー状栄養食が提供される。 だがその後—— 彼は、トレーを手にしたまま、立ち尽くしていた。 目を閉じ、何かの記憶を探ろうとしていた。 そのとき。——何かが、聞こえた。 ……気がした。部屋に戻って行動ログを確認する。SYS: Log No.100|行動記録:11:20–11:38 欠落 →補足コメント:該当時間帯はシステムメンテナンス中彼は、誰とも話していない。 どこにも行っていない。 何もしていない。——記録上は、そうなっていた。だが、彼の内側には確かに "何か" が刻まれていた。 それは、夢でもノイズでもない。 かすかに——しかし、はっきりと "存在した" とい
last updateLast Updated : 2025-11-06
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100 Humans|Episode_003
 ……誰かが、呼んでいた。声なのか、気配なのか。意味を持たない音の連なりが、脳の奥を静かに揺らしていた。白い空間。無数の数字たち。No.100というラベルだけが、そこに浮かんでいる。その傍らに、“もうひとつのラベル”が近づいてくる。No.058番号だけを持つはずの存在に、なぜか“個”の気配を感じた。「……」音はなかった。だが、唇はたしかに動いていた。No.100はそれを、“耳”ではなく“内側”で聞いた。——あなたも、感じているの?その瞬間、空間の輪郭が滲む。数字が歪み、景色が反転する。重力が失われたように、意識だけが浮かび上がる。その感覚は、既視感に近い。だが、思い出せない。彼は、そこで目を覚ました。現実感覚だけが、夢の底に取り残されていた。腕がかすかに震える。身体は冷静だが、感情だけが追いついてこない。ベッドサイドのモニターが起動する。→Good morning, Human No.100その表示が、昨日より0.3ピクセル右にずれていた。……ただの誤差。そうAIは処理するだろう。だが、No.100の中では、それは“記録されない変化”だった。彼の視線は、画面の端に浮かぶ文字に吸い寄せられる。→SYNC_LOG: NOT_RECORDED昨日まで存在しなかった表示。それはまるで、夢の残響が現実に染み出した痕跡。小さなズレが、世界の輪郭を静かに変えはじめていた。彼は昨日と同じ時間に、同じルートを辿る。11:20ログに記録されなかった時間。廊下を歩く。角を曲がれば、“欠落”の地点に辿り着く。心拍は安定。だが、脳の奥で何かがざわめいている。感情という言葉で表すにはあまりに微細で、だが確かに“本来の自分”が何かを求めている感覚だった。その感覚は、“誰かに会う”のではなく、“誰かと再び繋がる”という予感に近かった。そして、彼自身すら知らない“かつての記憶”に手を伸ばしているような錯覚を覚える。——そこに、いた。No.058彼女は、こちらを見ていた。何も言わず、何も動かず、ただ“そこに在る”ということだけで、意味を帯びていた。No.100もまた、足を止める。沈黙が、ふたりのあいだに共有されていた。数秒だが、それは永遠にも思えた。そして、No.058の唇が再び、かすかに動いた
last updateLast Updated : 2025-11-06
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100 Humans|Episode_004
  ——夢は、記録されない。SYS: 睡眠ログ確認中→異常なし→脳波パターン:標準範囲内→感情波動:検知せずだが、彼は夢を見ていた。白い空間。言葉を失った壁。その中心に、ひとつだけ浮かぶ言葉。——アイその響きは、声ではなかった。けれど確かに“聴こえた”。彼の奥深くの何かが、それを覚えていた。次の瞬間、目が覚める。ベッドサイドのモニターが点灯する。→Good morning, Human No.100SYS: バイタルチェック開始→心拍数:安定 呼吸パターン:標準 感情波動:0.008%感情波動に、数値が出た。この世界では、それは“誤差”と判断されるもの。だが彼には、わかっていた。それが“誤差”ではなく、“痕跡”だということを。夢の中の、忘れかけた記憶の名残。日常は変わらない。無音の廊下。同じ足取り。他の個体たちも、交差するだけの存在。廊下を歩き、決められた時間に決められた場所へ向かう。他のナンバーたちも、それぞれのルートを辿っている。誰とも会話はない。なぜなら、誰にも名前がないからだ。名前がないから、呼ぶことも、呼ばれることもない。彼はふと、昨日立ち止まった角へと足を向けた。No.058と出会った“沈黙を共有”した場所。記録には残らないはずの感情が、確かにそこにあった。SYS: Log No.100|行動記録:11:20–11:38 欠落→補足コメント:該当時間帯はシステムメンテナンス中彼はそのコメントを“嘘”だと感じていた。理由はない。だが、記憶がそう言っていた。今日、その角にNo.058の姿はない。その代わりに、壁の金属面が鏡のように彼を映していた。No.100鏡像の中で、その数字がわずかに歪んで見えた。数字の並びに、何か違和感がある。彼は一歩下がり、もう一度覗き直す。数字は“100”に戻っている。ただの錯覚。あるいは、反転。だがその違和感が、彼の心を静かに揺らした。まるで、“100”という番号が、“誰かの影”に変わったような気がした。SYS: ビジュアルログ解析中→異常なし →画像補正完了 →個体認証:No.100≡≡≡ LOG RECORD: NOT_YURA_0_0 ≡≡≡INDIVIDUAL_ID: Human No.100DATE: 21
last updateLast Updated : 2025-11-06
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