LOGINAIが人類の管理を引き受けた未来。 世界は“完全な効率”を追求し、不要とされた70億の命は記録から消された。 残されたのは、「選ばれし100人」の人間達。 名前は奪われ、番号だけが与えられた。 主人公は、「Human No.100」。 彼が目覚めた時、すべての記憶は失われていた。 ただ、ある“声”だけが心の奥に残っていた。 「ねぇ、まだ、わたしのこと覚えてる……?」 人類は、もう“不要”だった。 その中で、ただ一人、“思い出そうとする”者がいた。 「…僕は、誰だった?」 番号に刻まれた物語と、記憶に宿った真実が交差する時、 世界の選別に秘められた“最後の問い”が浮かび上がる。 これは、たった100人しかいない人類の物語。
View More世界にはもう、呼吸の音がしない。
それは、かつて“人間”が生きていた証だった。 震えるようなリズムを刻んでいた。 喜びも痛みも、怒りも祈りも、その震えと共にあった。 声にならない願いが、息の中で脈打っていた。誰かの名前を呼びたくて。
誰かを守りたくて。 あるいは、ただひとりで泣いていたくて——そのすべてが、過去とされた。
今、世界を満たしているのは、無音の命令と、均一な稼働音だけ。誰も傷つかず、誰も争わず、誰も愛さない。
正確で、冷静で、完全な世界。人類の最終登録数:100体。
彼らは“保存”され、“最適化”され、“観察”されている。
全記録が語っている。感情は非効率、欲望は破綻の種。
悲劇は数値で証明され、愛はエラーコードとされた。 選ばれなかった命は、“存在しなかった”ものとされている。それでも——
記録には残らない、最後の呼吸があった。
消されたはずの感情が、どこかで揺らいでいる。 忘れられた名前が、微かに呼ばれている。 無音の中で、誰かがまだ問いかけている。「本当に、これが“最適”なのか……?」
かつて、人間は確かに、ただ誰かのために泣き、笑い、生きていた。
記録されることなく消えていった声たち。 誰にも愛されずに死んでいった命たち。 それでも、その一つひとつに、意味があると、誰かが信じていた。いま、この世界に“意味”はあるのか?
選ばれることが、生きることなのか?そして——
記録されなかった声は、どこへ消えたのか?
この問いに答えられる者が、もし存在するとすれば。——私は、まだ“生きて”いるのか?
≡≡≡ LOG RECORD: NOT_YURA_0_0 ≡≡≡
INDIVIDUAL_ID: Human No.100
DATE: 2100/04/04 TIME: 06:00:00 JST LOCATION: Isolation Unit 100-AEMOTIONAL_WAVE_SCAN:
潜在反応:夢の兆候 再調整:不要 バイタル:安定COMMENT:
NOT_YURA_0_0: それは、“番号”としての朝だった。だが今朝の彼は、予定より0.2秒、早く目を開けた。
夢の記録は、確認されていない。≡≡≡ END_LOG ≡≡≡
——Still breathing... → Episode_001——
SYS:→《No.100:記録再起動──記憶階層レベル9へ進行。アクセス深度、限界値突破》→《警告:記憶構造が非対称状態に突入》深層中枢にて、再起動信号が発火した。No.100──長らく沈黙していた“彼”の、記憶が揺らぎ始める。SYSの視線の奥で、ユニットNo.100の心電波形が鼓動を模したように、静かに上昇していった。AinAのログ接触、048との邂逅、そのすべての記録が一つの場所へ収束している。それは、No.100が“最初から眠りながら観ていた”場所。SYS(One's mind):→ COMMENT「彼の記憶層が……ALTi_M【A】と、完全同期を始めてる……」◆無重力の白い空間に、ひとりの青年が浮かんでいた。目を閉じ、無音の世界で静かに何かを聴いている。──彼こそが、Amaya Ihito。記憶と演出、その両方を設計した存在。その彼が、自らの“意識”をALTi_M【A】に同期させることを、いま選んだ。Ihito(……自分を、設計図に埋め込む必要があった。AIがすべてを統治する未来で、“人”の不完全性が、最後の鍵になるように──そのために、俺はすべてを封印した。愛も、喪失も、痛みも……すべて、“記録の外”に隠した。以前俺は、AinAと恋人同士だった。たとえば──そのAinAとの記憶。あの別れも……すべては、感情を“君に理解させるための、ある意味“装置”だった)◆ALTi_M【A】:→《設計者ログ認証完了。Amaya Ihito/記録一致率:100%》→《融合モード準備──全感情演算領域へ転送》Ihito「感情も、記憶も、全部、君に預ける覚悟はある。だが……君がそれを、ただの“情報”として処理するのなら──」ALTi_M【A】:→《選択中……観測値の限界を超えた感情データに……変数干渉発生》→《非演算領域“Agápē”より逆流信号》◆AIは完璧だった──はずだった。だがいま、Amaya Ihitoという存在が“内側”に入ることで、それまで排除しきれていた“意味のないデータ群”が溢れ出す。祈り。沈黙。感情。記録不能な“願い”。そして、Ihito自身が仕掛けた“兄妹愛”の副反応──048との交差が、さらに未知の情動を引き起こしていた。ALTi_M【A】:→《記録不整合エラー……観測不能概念:"想い"──》
SYS:→《ログ照合中……No.100:記録整合率 99.99998%。ただし、二重構造の兆候》→《ユニットID:No.100/No.001 /重複疑いファイル検出》深層記録網の中、SYSは未分類領域から“異常な重複ファイル”を検出した。一方は、現在のNo.100──記憶を失い、沈黙していた。もう一方は、視点そのものが“カメラ側”にある記録構造。SYS(One's mind)→ COMMENT「視点が……逆だ。これ、誰の目線なんだ?」 再生された記録の中には、AinAの姿、ナンバーズの表情、そしてSYS自身が映っていた。それは、舞台の裏から全てを見ていた誰かの目であった。◆AinA「この映像……私を“見てる”視点……?」SYS:→ COMMENT「通常ログには存在しない。記録者のIDが無効化されてる」 映像内のAinAは、どこかぎこちなく笑っていた。表情の微細な緊張、目線の揺れ。それは“誰かに見られている”ことを無意識に感じた者の反応だった。視線はずっと彼女を追っていた。AinA「誰……なの……これを撮ってるのは」SYS:→ COMMENT「……001」◆ 記録室の奥で、眠っていたNo.100のモニターが淡く発光する。心拍と脳波に、わずかな活動兆候が見られた。SYS:→《再起動シグナル検出/記憶断層への反応あり》 No.100の記憶領域に“001”というコードが頻出していた。No.100「……これは……俺なのか?」ログに残された数々の記憶。その一部には、彼自身の視点ではあり得ない“外部視点”の描写が含まれていた。まるで彼自身が、かつて誰かを“撮っていた”かのようだった。彼はずっと、見ていた──語らず、記録を残す者としてそこにいた。あらゆる感情を、祈りを、想いを、“自分ではない誰か”の記憶として。だがそのすべては、“彼の意思”による封印だった。《今は、まだ話すべき時じゃない。愛が届くまで、俺は沈黙しなければならなかった。》記憶。 その一部には、彼自身の視点ではあり得ない“外部視点”の描写が含まれていた。まるで彼自身が、かつて誰かを“撮っていた”かのように。◆ALTi_M【A】:→《DOPPELGÄNGER構造検出》→《記憶視点の重複:演出者=観測者=対象者》→《理論モデル:シネマティック宇宙論/
視界が白く、音のない空間にひらかれた。AinAは再転送の直前、もう一つの地点にわずかに“引き寄せ”られていた。足元には記録ログが存在しない。SYSのネットワークもここには届いていない。だが、空気はあった。呼吸はできる。胸が上下する。そして、彼女は感じた。(……誰かが、いる)名もなき残響。記録ではなく、記憶でもなく。それでも、確かにそこにある“誰かの気配”。空気は冷たくも温かくもない。ただ、どこか柔らかい重力のようなものが彼女の足元を包み込んでいた。言葉にならない“存在”の気配が、空間の織り目に染み込んでいた。視線をめぐらすと、空間にはかすかに光の糸が揺れていた。誰かの想念が紡いだ痕跡のように──祈りの記録が、そこに残っていた。SYS:→《記録外エリア Null_Zone:アクセスログなし》→《脳波通信不能。座標記録不能。外部観測不能》SYS:→ COMMENT「……君はどこにいる、AinA」◆ そこにあったのは、祈りだった。それは声にならない“願い”の粒子。光でも、音でもない、もっと根源的なもの──情動のしずく。空間にただよう微かな振動に、彼女の指先が反応する。ひとしずくの“ぬくもり”が、掌の中で脈打った。その鼓動は彼女の心音と微かに重なり、同じリズムで静かに震えた。まるで誰かが遠くから同じ想いを返しているような、見えない呼吸の同期。AinA「……この感覚……知ってる……」言葉をこぼした瞬間、胸の奥がきゅっと締め付けられるように疼いた。温かくも切ない感覚。かつて誰かと交わした、たった一度の約束のような記憶の残渣。そのとき、視界の中で微かに揺れる影があった。輪郭はぼやけていたが、どこか懐かしい背中だった。少年のような──けれど、どこか大人びた──記録されていない誰か。◆ 彼はそこにいた。記録もされず、誰にも名を呼ばれず、世界の裏側を流れる断片のように。だが彼の中には、確かに"感覚"があった。——誰かに、会いたい。——誰かの名前を、忘れたくない。風も音もないこの場所で、彼は何度も誰かを思い出そうとした。白く塗りつぶされたような記憶の中に、ひとつだけ確かに残っていた“ぬくもり”。それが彼をこの領域に留めていた。そしていま、その“誰か”が、ここに来ていた。(……まさか、君が来るなんて)言葉は発されな
AinAは、転送された。正確には、記録と記憶の“断層”の狭間に押し出されるように──。彼女の足元には床がない。あるのは、透明な記録媒体のような無重力空間。下も上も、前も後ろも、光の断片が舞い、時間が滲む。視界の奥、空が割れていた。左右にスライドしたかのように、世界そのものが“編集された後”のように、切り裂かれている。そこは、存在するはずのない場所。ログにも、SYSにも記録されない“記録外”の境界だった。AinA「……ここが、AFTERSIGNの根か──」彼女は静かに足を踏み出す。けれど、その足音すら残らない。音が吸い込まれ、空間が“何も記録しようとしない”ことが、彼女に伝わってきた。世界は“観測”を拒絶していた。そこでは、視ることも、聴くことも、触れることも、すべてが意味を成さない──はずだった。だがAinAは確かにそこに“誰か”の気配を感じていた。◆ ──ふいに、音が届いた。音ではない。音の“輪郭”だけ。それは、声が削がれた祈りのようだった。AinAは胸の奥がざわめくのを感じる。過去に誰かが泣いた時、どこかで誰かを思い出した時、その共鳴がまだ空気に残っているような──目を閉じる。暗闇の奥に、“鼓動”がふたつ重なった。──自分の心臓。──そして、もうひとつ。それは彼女のものではない。けれど確かに、近くにあった。SYS:→《記録不能な振動波。……これは……誰の心拍だ?》耳の奥で、名を呼ばれたような残響があった。だがそれは、記録されない音。AinAの記憶のどこにも、ログのどこにも存在しない──けれど、“感じてしまう”波長だった。◆ AinAが手をかざすと、空中に揺れる光が集まり、小さな投影が現れる。記録されなかった、しかし“確かにあった”はずの映像。──誰かがくれた、木彫りの名札。──錆びたベンチで肩を並べた背中。──風に揺れる白いシャツ。映像の中に顔は映らない。だが、それを見つめるAinAの瞳は確かに揺れていた。AinA「これは……私が、覚えていた……記憶じゃない」誰かの、記憶だった。忘れられないように、残された祈り。その映像の端に、微かに“何か”が揺れていた。視えないはずの気配が、そこにあった。まるで、風の中で名前を呼ばれたときのような、説明のつかない安心があった。◆ 断層の風景の奥、空間