Chapter: 21・愛されるべき者は被害者の振りが得意 アイリーンはアルフレッドからの予想もしていなかった問いかけに息を詰まらせた。この隠し口座は万が一の時の為にフィオナがアイリーンの名で作ったものだ。 まさかこの口座がアルフレッドに知られているとは、夢にも思っていなかった。「どうなんだ? それとも君が一人で考えてやったのか?」 アルフレッドはさらに強い口調で問い詰める。ここで何かしらの情報を聞き出さなければ、また巧妙に隠されてしまうだろう。それだけは避けたい。「こ、こんな口座、私知りません。誰かが私の名を騙って勝手に作ったんですわ!」「勝手に作った? それは誰だ? 母親か? 父親か? それとも、勝手に君の名を使う事が出来るほどの近親者か?」 畳み掛けるように言うと、アイリーンがふと視線をサンドラに向けたかと思うと、僅かに唇の端を上げる。「もしかしたら、姉かも……」「姉?」「ええ! きっと逃走資金に困って勝手に私の名を使ったに違いありません! そこに入金されたお金もきっと汚いお金に違いありませんわ!」 アルフレッドがどこまで事件の事を知っているのかは分からないが、どうにかして逃げ切らなければならない。ここは全ての責任を今は逃亡していると思われているリリアナに押し付けてしまおう。 我ながら良いアイディアだと思っていたのに、ふとサンドラが口を開いた。「それは少し難しいのでは?」「何故だ?」 それまで黙っていたサンドラが唐突に口を挟んでくるが、それを止めようとは思わなかった。普段のアルフレッドからは考えられない事だが、あの発表会の一件からアルフレッドはサンドラに尊敬にも似た気持ちを抱いている。「口座を作るためには偽装出来ないよう、必ず本人が居なければなりませんよね? もしくは委任状ですが、それには個人のサインと印章が必要です。あなた、お姉様に印章を預けているのですか?」「確かにその通りだな。君たちの仲は決して良くなかったようだが、そんな物を姉に預けていたのか?」 サンドラの指摘にアイリーンが笑みを完全に消した。どうやら失踪した姉に全てを擦り付けようとしたらしい。どこまで性根が腐っているんだと
Last Updated: 2026-09-23
Chapter: 20・古い友人と明確な嫉妬 リリアナは部屋に入るなり、尋ねてきた客人を見て息を飲んだ。 けれどそれはリリアナだけでなく、フィンもだ。 フィンはリリアナを見るなり目を見開くと、勢いよく立ち上がり大股で近寄ってきてリリアナの肩を掴んで口を開いた。「リリ——むぐ!」 大声で本当の名を呼ばれそうになって急いでフィンの口を覆ったリリアナは、視線だけで軽くフィンを窘めてカーテシーをして見せる。「お久しぶりです、フィン・サイモンさま」「え? あ、ああ、久しぶり。元気そうで安心したよ」 一体何が起こっているのか分からないとでも言いたげなフィンを横目にちらりとアルフレッドを見ると、その顔は明らかに不機嫌そうだ。「知り合いか?」「ええ。古い友人なんです。ね? フィン様」 不機嫌なアルフレッドの言葉にフィンを見て言うと、何かを察したかのようにフィンが頷く。「友人か。君の友人に調香委員会を務めるような者が居るとは驚きだ」 サンドラに秘密が多いのは承知しているし、それを無理に聞き出すこともしないと決めたが、サンドラの過去を知っている者がいざ目の前に現れると話は変わってくる。「私も驚きました。私たちが知り合ったのはまだ幼い頃で、その時はお互い自分たちのアトリエを持つ事を目標にしていたんです」 どこかトゲのあるアルフレッドの言葉にリリアナは包み隠さず答えた。「ほう? だが君は調香委員会の道を選んだのか」 サンドラの言葉が本当かどうか分からないままフィンに問いかけると、フィンは真っ直ぐアルフレッドを見据えて言う。「ええ。どうしても見つけ出したい人が居たんです。彼女はとても優秀な調香師で、ある日忽然と姿を消してしまった」「それと委員会に入る事に何の繋がりがる? 人探しなら探偵でも雇えばいい」 やけに挑戦的な目を向けてくるフィンに思わず強い口調で言うと、フィンは怯むことなく言い返してくる。「彼女はとても優秀な調香師です。どこへ隠れていても、必ず表舞台に出てくる」「そうか。それで、その相手がサンドラなのか?」 試すように言うと、フィンはちら
Last Updated: 2026-09-22
Chapter: 19・不審な金の流れと妨害工作 アルフレッドは今回の事を絶対に許さないと胸に誓っていた。 アルフレッドにとってメロウ・ブルーの立ち上げは後継者争いの一環でもあったが、初めて持つ自分のブランドでもあった。「ルーク、アイリーンの尻尾は掴めたか?」 ヴェール家が健康被害を出してから半月、アルフレッドはルークを呼び出し尋ねた。「そんなにすぐに結果が欲しいのなら正規の探偵を雇うんだね」「つまりまだ何も成果は無いという事だな?」「まぁね。でもあの一件以来、風向きは良いよ。何せ皆が簡単に口を割ってくれるようになったからね」 そう言ってルークは大量のメモを机の上にバサリと置いた。「ヴェール家の評判。あそこ最悪だよ」「そうなのか?」「まぁ読んでみれば。そりゃ姉も逃げ出す」 そんな事を言われてメモに目を通していたが、最後まで読まずにアルフレッドはメモを引き出しに仕舞いこんだ。「酷いな」 メモには逃げた長女リリアナ・ヴェールについても書かれていたが、とにかく母を亡くしてからの扱いが酷かったようで、日頃から離れに一人で住み、たった一人で朝から晩まで黙々と調香をしていたらしい。 あのアイリーンとは異母姉妹のようだが、華やかな妹と地味な姉だと皆からは思われていたようだ。「だが、姉には調香の才能があった、か」「そうなんだ?」「らしい。妹が言った事が本当であれば、なかなかの腕前だったようだぞ」「へぇ。それじゃあ、もしかしてヴェール・ノワールの代表調香師は姉の方だったのかもね。だって姉が逃げた途端にこのザマだ」「かもしれないな。挙句の果てに大陸の男との縁談を勝手に進められていたそうだから笑えない」 人の一生を一体なんだと思っているのだ。そうは思ったがエバンズ家も似たようなものだと思い咳払いすると、ルークもそう思ったのか苦笑いを浮かべ調査に戻って行く。 ルークが成果を手にやってきたのはそれからすぐの事だった。 その日アルフレッドはラボにサンドラを送り、執務室で書類仕事をしていたのだが、そこへルークが大量の書類を持ち込んだのだ。「アル! 掴んだよ! この数
Last Updated: 2026-09-21
Chapter: 18・健康被害と大切な場所 あの発表会で『霧の果て』が調香委員会に認められた事で、リリアナの盗作疑惑は払拭された。それどころか、エバンズ家の新ブランドは盗作を覆した新ブランドだとして大いに注目され始めたのだ。 おまけに陰謀だらけの発表会を乗り越えた事で、ラボの仲間たちの士気は上がりっぱなしだ。「サンドラ様! 次のテーマなんですけど、凄いの思いついちゃいました! でもまだ香りのイメージが出来ないんです」 「それじゃあこの紙にまずは瓶のイメージを書いてみて。それから名前をつけてあげるの。そうしたらきっと、どんな香りにすれば良いか自然と分かると思うわ」「なるほど! やってみます!」 若い調香師はそう言ってリリアナの手からペンと紙を受け取って自席へと戻る。彼の周りにはあっという間に人だかりが出来て、気がつけば皆が彼の真似をしている。 その光景は幼い頃に母の側で調香をしていた自分の姿と重なった。「もうすっかり皆の先生だな」「アルフレッド様! どうでしたか? 何か分かりましたか?」 アルフレッドはあれから誰がサンプルを取り替えたのか、側近のルークと共にあのホテルで聞き込み調査をしていた。「ああ。どうやらすり替えた人物は誰かに偽物のサンプルを渡されて、こちらが本物だから至急取り替えて欲しいと言われたらしい」「その方は突然そんな事を言われて不思議には思わなかったのでしょうか?」「俺もそう思って問い詰めると、どうやらサンプルはお祖母様の署名が入った封筒に入っていたらしい」「シャルロッテ様の⁉」 なんという大胆な事をするのだ! 思わず声を上げたリリアナにアルフレッドも肩を竦める。「それを聞いて思ったんだ。叔父ではないな、と」 流石の叔父もシャルロッテの名前を偽造するなどという馬鹿な真似はしないだろう。「では誰が?」 リリアナには犯人の目星がついているが、それを不用意に告げるとサンドラがリリアナだとばれてしまう可能性があるので言えないでいると、アルフレッドが困惑したように眉根を寄せた。「アイリーン・ヴェールだ」 彼女の事はよく知らないが、何せサンドラの作品を自分の作品だと意気揚々と紹
Last Updated: 2026-09-21
Chapter: 17・取り替えられたサンプルと、リリアナの機転 アルフレッドの雰囲気がそれまでの穏やかな物から一気に怒りへと変わっていく。ふと見るとアルフレッドの拳は硬く握りしめられ、微かに震えていた。 ちらりと壇上から客席に視線を走らせると、アイリーンとフィオナの目が弓なりに弧を描いている。 その表情がまるでこの事態を楽しんでいるようにも見えて背筋に冷たいものが流れていく。あの二人はやはり、リリアナの正体に気づいているに違いない。 ケースを開けたのにいつまで経っても説明を始めないアルフレッドに皆がざわめき始め、アルフレッドの横顔には絶望の色が浮かんでいる。 その横顔に彼のこのブランドに対する思いが全て詰まっていた。「ご安心ください、アルフレッド様。こんな事もあろうかと実は私、こんな物を用意してきたんです」 リリアナは小声で囁いてアルフレッドの怒りに震える拳を優しく包み込み、バッグから二つのサンプルを取り出して会場内を見渡し毅然とした態度で言った。「皆様、お騒がせいたしました。どうやら手違いで試作段階のサンプルが用意されてしまっていたようです。ラボからいくつかの試作品が無くなっている事に気づいて完成品を持ってきましたが、どうやら正解でしたね。調香委員会の皆様、登録されているのはこちらです。どうぞ確認をお願いします」 リリアナが澄んだ声で言うと調香委員会の調香師が二人、前に進み出てくる。「では確認します。こちらが『霧の果て』、そしてこちらが『花の都』ですね」「はい」 一連の騒ぎのせいでリリアナを疑っている調香委員の目つきは鷹のように鋭かったが、いざ『霧の果て』を嗅いだ瞬間、彼らの表情が一変した。「……驚きました。提出されたサンプルと全く同じ、いえ、むしろさらに洗練された香りに仕上がっているようです。そちらは?」「……『花の都』も同じです。レシピを変えた訳ではなさそうですが、これはどういう事ですか?」「温度と湿度を限りなく人肌に近い環境で保管しました。香水は人が肌に付けるものなので、それを再現したんです」「そこまで計算されて作られていたという事ですか?」「はい。調香師として、それは
Last Updated: 2026-09-20
Chapter: 16・対の香りと新たな陰謀 いよいよ新ブランドの発表会が近づく中、リリアナは土壇場になってようやく『霧の果て』を調香するのに成功した。「どうでしょうか」 緊張した面持ちでサンプルを試すアルフレッドを見上げると、厳しい顔つきに徐々に驚きが広がっていく。「不思議な香りだな。最初はウッド系で郷愁を漂わせ、次にオリエンタルな香りで惹きつけてくる。酔うような香りを抜けるとそこに残るのはシトラスの爽やかさ……驚いた。確かにこれは『霧の果て』だ。名前だけ聞くとネガティブにも思えたが、実際に嗅ぐと霧を抜けた後の晴れやかな気持ちになる」 アルフレッドは感動していた。やはりサンドラは天才だ。自分の選択に間違いはなかったのだ。「あの、それは合格という事ですか?」 こうしてきちんと調香した物をアルフレッドに見せるのはこれが初めての事だ。 当初の予定では若い女性の為のブランドという事でフローラルな物を作っていたが、アイリーン達の挑発に乗るような形で真逆の商品になってしまった。それは全てサンプルとレシピをヴェール家に置きっぱなしにしていたリリアナの責任だ。 ドキドキしながら答えを待っていると、アルフレッドがじっとこちらを見下ろしてきた。背後ではチームの皆も彼の答えを固唾を飲んで見守っている。「これでいこう。もう一つの方も採用だ。花畑のような甘い香りが主体の香水と、この霧の果てはまるで一つの物語になっているかのようだ。これは今まで レ・パルファンでも無かった試みだが、試す価値がある」 今まで通りの事をしていても会社は決して大きくはならない。もちろん古いやり方を否定するつもりは無いが、サンドラの調香技術のように柔軟性を持つべきだ。 アルフレッドが告げると、ラボが壊れるのではないかと思うほどの歓声が湧き上がった。チームの全員がサンドラの周りに集まり、互いの健闘を称え合っている。 気がつけばサンドラは名実共に代表となっていたようだ。「やった……やったわ、皆!」 普段はどちらかと言うとあまり感情は表に出さないリリアナだが、今回ばかりは色んな意味で声を上げずにはいられなかった。 盗作という汚名
Last Updated: 2026-09-19
Chapter: 103・好きになってはいけない 心の中でずっと警鐘が鳴っている。この人は王だ。好きになってはいけないのだ、と。 それからしばらくして離宮に軟膏が届けられた。それを届けてくれたのはオズワルドの専属の執事さんだ。「本当に、本当に申し訳ありませんでした、ダリア嬢」 オズワルドの執事さんは初老のイケオジで、艷やかな黒髪をきっちりと後ろに撫でつけ、眼鏡の奥に少しだけ神経質そうな緑の瞳が光っている。「大丈夫ですから! それに誰のせいでもないって言うか、私が咄嗟に防御出来てれば問題無かったって言うか……」 そう、万が一の時の為に習っていた護身術を披露する間もないほど、私はここで気を抜いていたのだ。「防御? お前が?」 私の台詞にオズワルドが首を傾げて尋ねてくるので、私は深々と頷いた。「合気道習ってたからね! でもそんなのすっかり忘れてたよ……」「あいきどう? 何かよく分からんが護身術のようなものか」「うん。相手の力を利用して投げ飛ばす的な奴。投げ飛ばしたらすぐさま亀甲縛りだよ!」「お前は男を縛り上げる事に関しては引く程手際が良いからな。残念だったな、技を披露出来なくて」「ほんとだよ。そんな訳なので大丈夫です。軟膏ありがとうございます」 そう言って頭を下げた私を見て執事さんが少しだけ表情を緩めた。「王の言う通り、本当に普通に話しておられるのですね」「?」「気安いだろ? 記憶が無くなっているとは言えなかなかの態度だと思うんだ」「ですが王、ダリア嬢にお会いになられてからは以前よりも少しだけ取っ付きやすくなったと言われていますよ」「誰にだ」「使用人にでございます。私も嬉しゅうございます。世間で何と呼ばれようとも私達にとってあなたはあの地獄から救い出してくれた救世主ですから」「……大げさだ。仕事中にすまなかったな。戻れ」「畏まりました。それでは私はこれで失礼致します。ダリア嬢、お早い回復を祈っておりま
Last Updated: 2026-09-22
Chapter: 102・気遣い 声は出せなかったけれど心の中で呟いたその時——。 部屋のドアが勢いよく開いた。「ダリア!」「んん……?」 血相を変えて部屋に飛び込んできたのはオズワルドだ。 オズワルドは私の姿を見て一瞬顔を歪めたが、すぐに全ての表情を消して帯剣していた剣を抜いた。「ダリア、目を閉じていろ」 オズワルドはそれだけ言ったかと思うと、男たちに問答無用で斬りかかる。 オズワルドの言う通り私は急いで目を閉じたが、男たちの叫び声が耳にこびりつく。 しばらくして手足を縛っていたロープが解かれた。ついでに口のタオルも。「目を開けてもいいぞ」 オズワルドの言葉に私はゆっくりと目を開けてオズワルドを見つめると、涙が頬を伝う。そんな私を見てオズワルドは眉根を寄せて私を抱きかかえた。「あの人達は?」「運び出した。今から尋問だ」「殺してない?」「ああ。大切な証人だからな。だが、その後は死罪だ。俺の物に手を出した罪は重い」「うん」 オズワルドの物。何だかその一言が嬉しくて私はオズワルドに抱きつこうとしたけれど、生憎力が入らない。「酷いな」「うん……せっかく綺麗にしてるのにな」「全くだ。毎日毎日念入りにマッサージをしてオイルを塗り込んでいるのにな」「ほんとだよ……見て、アザだらけ。顔もでしょ?」「ああ。だが、湿布でも貼っていればすぐに案外可愛いお前に戻る」 冗談めかしてそんな事を言うオズワルドに、私は少しだけ笑ってしまった。 怖かった。痛かった。オズワルドは私が本当はそう思っている事もきっと知っている。 けれどこうやってわざと私に合わせて茶化してくれているのだろう。 殴られる事も蹴られる事も前世で慣れている。それでも怖かった。だからもう思い出したくない。 私がオズワルドの胸
Last Updated: 2026-09-21
Chapter: 101・オズワルド以外の人 けれどいつものゾクリじゃない。気持ちが悪い時のゾクリだ。それでも中はこんな時でも濡れてきてしまう。 それに気を良くしたのか、男は下履きを脱いで熱い塊を曝け出した。そしてそれを私の中に充てがう。「んん……」 それまで抵抗していた私だったが、この時点でもう一切の抵抗を止めた。 殴られ続けて疲れたのと、充てがわれた熱い塊がもう止まらない事を知っていたからだ。 それならば男たちの好きなようにさせて、さっさと終わってくれた方がマシだ。 そう思った途端、涙が溢れ出した。 ※ あれから二週間が過ぎた頃、俺は昼間は城で仕事をして夜には離宮に戻るという生活をしていた。もちろんほぼ毎晩ダリアを抱き、休日には誰にも邪魔される事なく快適な生活を送っていたのだが——。 その日、俺はいつもと変わらず朝から書類仕事をしてから執務室で重鎮達の進言という名の愚痴を聞いていた。「王、城に潜り込んでいたスパイはやはり隣国の手の者でした。早急に何か手段を考えませんと、このままでは内部から破壊されてしまいます!」 この国の重鎮の1人が言うと、次々に同じような声が上がる。「では何か策はあるのか? こちらに入り込んだ製薬会社には今数人のスパイを潜り込ませているが、未だ証拠が見つからない。今の状態であちらに宣戦布告などしたら、言い逃れをされて結局何も終わらない。違うか?」「そ、それはそうですが……」 冷ややかな俺の声に皆が黙り込む。そんな中、今度は別の重鎮が話し出す。「次は私が。王、離宮を再開されたのは何かの作戦ですか? それともただ女を囲う為ですか?」 そんな事を尋ねてきたのは側室候補の娘を持つ親だ。「どちらも違う。あの女はお前たちも知っての通り、唯一俺の寵愛を受けている女だ。サロンの実態が分からない今、あそこにあいつを置いておくことは出来ないから離宮に連れてきたまでだ。離宮の再開ではない」「ですが側室候補はどうします!?」
Last Updated: 2026-09-20
Chapter: 100・狙われるダリア「ここ、使用人の人とか居るの?」「一応な。だがここの使用人は皆、城からの通いだ。古株で俺の専属のような奴らに任せてある。ただ……」 そう言ってちらりとオズワルドが私を見た。「なに?」「全員男なんだよな……お前、絶対に手を出すなよ? 言っておくが、全員既婚者だからな?」「分かってるってば! でもオズワルドの身の回りの世話も男の人がしてたの? メイドさんとか居なかったんだ?」「ああ。女を王の側におくのは危険だろ。何か手違いがある……かもしれない」「あったんだ」「二代前の王がな。まぁそういう所は俺も人のことは言えないが」「女好きって事?」「せめて性欲が強いと言ってくれないか。別に俺は女が好きな訳じゃない。抱くのが好きなだけだ」「なるほど。私と一緒か」「ああ。……いや、お前と一緒と言われると少し違う気もするが」「どこが違うの! 一緒でしょ!? 要はセックスが好き! そんだけよね?」「そうなんだが、俺は別に腹上死するまでセックスをしたいとは思わないぞ」「えー! なんで?」「なんでと聞かれても困るが、俺は普通に死にたい。とにかくそういう訳で俺の周りは皆男で固めてあるんだ。だが、やはり使用人を昼に入れるのは危険だな。掃除は夜に、食事はここで作らず運ばせるか。それか俺がここで仕事をするか、いっそ閉じ込めておくかだな」 何やらブツブツと呟き出したオズワルドに私は思わず噴き出した。「大丈夫だってば! 悪さしないから安心してよ!」「……本当に?」「本当だよ! 私だってオズワルドとするのが一番気持ち良いんだから。それに気づいたんだけど、オズワルドとするとかなり性欲発散されるみたいなんだよね」 自分でも驚きだが、何回もオズワルドとしているうちに、だんだん性欲が落ち着いてきたのだ。 毎日したいしオズワルド
Last Updated: 2026-09-19
Chapter: 99・独特の感性「お店の人、凄く緊張してたね!」 突然やってきたオズワルドを見て店員さんは可哀想なほど縮こまって震えていたのを思い出して言うと、オズワルドは真顔で頷く。「ああ。悪いことをしたな」「でもオズワルドにだってお菓子買う権利はあるからね! いつ誰が来ても良いように心の準備はしておかないと」「そういうものか?」「そういうものだよ!」 接客業をするのであれば、ある日突然王様がやってきたぐらいでビビっていてはいけない。それは接客業の極意のようなものだと私は思っている。 頷くオズワルドを横目に私がさっそく買ったばかりの焼き菓子を開けていると、オズワルドがそこから無言でクッキーを一枚抜き取って齧りだす。やはりオズワルドは結構甘いものが好きなようだ。 そうこうしているうちにようやく城に辿り着いた。 離宮は城の門をくぐり更に庭を迂回した場所にあり、高い壁に囲われていた。 馬車から降りた私は目の前に聳え立つ白亜の美しい絵画にでも出てきそうな建物と、それを取り囲む高すぎる壁を見上げて思わずため息を付く。「凄い高い壁……これ離宮じゃなくて要塞だよね?」「外から覗かれないようにとの配慮だそうだぞ」 冷たい声でそんな事を言うオズワルドに私は思わず首を傾げた。「昨日も言ったが、ここは俺の両親が使っていたんだ。元々は側室達の為に造られたらしいが、両親はここで自分たちの愛人を囲っていたんだよ」「ん? 両親の愛人? それってお互いの愛人が一つの離宮に住んでたって事?」「ああ。男も女も同じ場所で囲われてたんだ。間違いが起こらない訳がないと思わないか?」「思う」「その最たる間違いが俺だ。俺は離宮で生まれた。父親が王という事にはなっているが、本当の所は誰にも分からない」「え……もしかしてそれも有名な話?」「超がつくほど有名だな。誰も俺を王の子だとは思っていない。俺自身もな。だが俺は王に選ばれた。それは今が戦乱の世だったからに過ぎない」
Last Updated: 2026-09-18
Chapter: 98・優しい人「分からない。俺は王だ。滅多な事では誰も信用しない。出来ない」 いつもよりも数倍冷たい顔でそんな事を言い放ったオズワルドの顔は、本当に冷酷王そのものだった。 けれどそうさせたのは他の誰でもない、周りの人間だ。 私はカクテルを手早く作り上げてオズワルドに一つ手渡して言う。「やっぱり狙われてるのって私とあなた?」「ほぼ間違いなく」「そっか……はぁ~……」「そんなに側室が嫌か? それとも相手が俺一人になるのが嫌なのか?」 怪訝な顔をしてそんな事を言ってくるオズワルドに私はすぐさま首を振った。「違うよ。むしろ最近はオズワルド以外と寝たいなんて思わなくなっちゃったよ。そうじゃなくて、身の丈って言うのかな。ついこの間まで街灯の下に立って客取ってたような奴がさ、いきなりお城での生活なんて出来る訳ないよね?」 規則正しくお上品に、が何よりも苦手な私だ。それはオズワルドも痛い程良く分かっているだろう。こんな私だから絶対にさっきのような事をしでかすに決まっている。「なんだ、城で暮らすのが嫌なだけか」 私の答えにオズワルドは何故か少しだけ表情を和らげて言う。「まぁ、そう」「自由人だもんな、お前。ではやはりお前は離宮に住むと良い。城の敷地内ではあるが城とは隔離されている。元は両親が使っていたんだが、そこなら誰にも干渉はされない」「でも命狙われてるんでしょ? 私。そんな所に一人で暮らしてて構わないの?」「別に一人で住めとは言ってない。俺もそこに移る。むしろ命を狙われている者同士、お前は唯一信頼出来る相手だ。そしてそれはお前にとってもだろ」「確かに」 絶対に安全なのは誰だと言われたら、同じ敵に命を狙われているであろう、オズワルド以外には居ない。「毎日一緒?」「ああ」「朝から晩まで?」「昼は流石に城で公務をするが、夜は離宮に戻る」 私はオズワルドをじっと見つめてもう一度大き
Last Updated: 2026-09-17