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岸本よしみ
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Novels by 岸本よしみ

間違い人生のトリガーを破壊して新しい人生を謳歌します!

間違い人生のトリガーを破壊して新しい人生を謳歌します!

東雲翔月(しののめかつき)と契約結婚をした若桜凛華(わかさりんか)は夫やその友人達、そして義妹の若桜楓香からの嫌がらせを受け流しながら、あと僅かに迫った離婚成立を心待ちにしていた。しかし、離婚後も彼らの支配下の生活が続くと知って絶望してしまった。その日の夜、失意の中義妹が指示した交通事故に遭い意識を失った。目覚めて見ると凛華は3歳を目前にした幼児に戻っていた。前世の不本意な人生のトリガーとなった出来事を回避しながら今度こそ自分らしく生きようと奮闘していく。その結果、前世で結婚を強いられた年齢になった凛華の周りを彼女の心を得たいと望む男達が取り囲む。悔いなく生きたいと望む彼女の選択は……。
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Chapter: 第122話
先日の様子ではとてもそうは見えなかった。もし、望まないのであれば何らかの手助けをするべきなのか、成り行きに任せるしかないのか。凛華はいろいろと思い悩みはしたが、わざわざ自分から楓華に関わろうとは思えなかった。3月もいよいよ終わりに近付いた頃の週末、華織から連絡が入った。「凛ちゃん、今日こっちに帰ってくる?」「少し遅くなるかもしれないけど、帰ろうとは思っています。」「そう!良かったわ。時間の目処がたったら連絡して。車を迎えに行かせるわ。」「わざわざ来なくても、自分で帰りますよ。」「そう言わないで。いろいろ心配なのよ。」「わかりました、時間がわかったら連絡しますね。」その日は、作業が予想以上にスムーズに進み、8時には若桜家に帰り着く事が出来た。「凛ちゃん、おかえりなさい。夕食の用意が出来ているわよ。」華織はいつも以上に上機嫌で迎えてくれた。何かいいことでもあったのかなと、特に気にもせずに食事を終えてリビングに行くと、華織と清麗が上機嫌で待っていた。「何か良いことでもあったのですか。」「まぁね。ねぇ凛ちゃん、明日何か予定あるの?」「特にはないですよ。」「良かったわ!じゃ、明日の午後は予定を入れないでね。一緒にお客様を迎えに行って欲しいの。」「どなたが来られるのですか。」「それは内緒よ。」「?……私も知っている人ですか。」「明日のお楽しみよ。」「?……わかりました。」翌日の午後、凛華は清麗と共に空港に向かった。相変わらず詳しい事は知らされ無いまま、清麗と雑談しながら出迎えの人混みの中で待っていた。暫くして、国際線の到着ゲートから見知った人物を見つけると、思わず声が出てしまった。「えっ?なぜ?」唖然とする凛華と、ニコニコと嬉しそうな笑顔の清麗を見つけた彼も事情を察して笑顔で声をかけた。「久しぶり、凛華。元気だった?」「ビョルン!どうしてあなたが?」「歓迎してくれないの?」「会えたのは嬉しいわ。でも、あなた学校は?」「留学する事にしたんだ。2年間の予定で。」「どうして教えてくれなかったの?」「急に決めたんだ。間に合うか分からなかったから心配させたくなかった。でも、どうしても来たくて凛華のパパに頼んだんだ。」「……。」驚き過ぎて言葉を無くしてしまった凛華に清麗が声をかけた。「ビョルン、サプライズ成功ね。ここ
Last Updated: 2026-11-04
Chapter: 第121話
「これを調べて見て。」「これは?」「今日凛ちゃんが誰かから贈られたプレゼントよ。」「誰かから?心当たりないの?」「はい。翔月さんと話している時にテーブルに置いて、そのまま忘れていました。」「きっと宗像さんが、翔月さんから凛ちゃんへのプレゼントだと勘違いして嫉妬して持っていったのよ。」彩愛の言わんとする所を察した勇真は、すぐに秘書を呼んで調べさせた。その頃にはパーティーもほぼ終わりだったので、その日はそのまま解散する事にした。月曜日、凛華は憂鬱な気持ちで出勤をした。土曜日の午後に勇真から連絡が入り、やはりあのイヤリングの箱には発信機が付いていたと言うことだった。ロックスマンの名前が入っていたので、送り主は恐らく研究所の関係者だろう。誰かを疑いたくはないが、警戒は必要になってしまった。取り敢えずその日、 陽子にだけは金曜日の事について話を聞いてもらうためにマンションに誘った。「想像通り、シンプルな部屋ねぇ。」陽子の第一声がそれだった。「この部屋は殆ど寝るためだけに帰っているようなものですから。」「まだ十代の女の子でしょう?趣味とかないの?」「ありますよ。そう言うのは母の実家に置いて貰っているんです。週末はそちらに帰る事が多いですね。」陽子を部屋に招き入れた後、三十分程で夕食を作り食事を済ませた。そろそろ話を始めようとすると陽子が、「リンカって知れば知るほど驚かされるわね。」「何がですか?」「何がって、シンプルな部屋で無趣味かと思えば料理はプロ級だし、部屋着はすごく可愛いし。」「あ〜、それはよく言われますね。自分では普通のつもりなんですけど…。」「ふふっ、そういう反応はイメージ通りね。さて、じゃあ話を聞かせてくれる?」凛華は金曜日の出来事を話した。陽子は真剣な表情で聞きながら、イヤリングやメッセージや手紙などを手に取って見ていた。そして、話が終わってまずひと言尋ねた。「リンカって〈凛華〉って書くのね。日本名があるの初めて知ったわ。」「!?……、そう、ですよね。だとしたら…?」「ええ、相手は研究所関係者だけとは限らない。こちらでの知り合いの誰か、若しくは完全なストーカーの可能性もあると思うわ。例の噂話もあるし、お母様のご実家に相談してきちんと調査してもらうべきなんじゃない。研究所内の事については、取り敢えずジョニーに
Last Updated: 2026-10-22
Chapter: 第120話
「嫌な予感がするわ。何かあったらどうしよう。そうだ!翔月さんにもすぐに来てもらおう。」彩愛はすぐに翔月に608号室に来るように連絡をして自分たちもその部屋へ向かった。二人が部屋の前に着いた時、なぜか翔月は既に部屋の前にいた。「翔月さん、どうしてこんなに早く?」「楓華ちゃんが電話で、酔ってしまったから休憩したいって言って来たんだ。だからフロントに頼んで612号室を借りて楓華ちゃんを待ってた。そしたら彩愛さんからも連絡が来たから廊下に出てたんだ。一体何があったの?」彩愛が事情を説明する間に、勇真は既に608号室のチャイムを鳴らしていた。少しして、ドアがゆっくりと開いた。中から、上半身裸で赤ら顔の向井がにやにやしながら顔を覗かせた。「遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ。」向井は彩愛を見るなり手首を掴んで部屋の中に引き入れようとした。しかし勇真がすかさず彩愛を抱き寄せて、彩愛の顔を胸元に抱き込んで視界を塞いだ。翔月はドアを勢いよく押し開けて中へと入って行った。「凛ちゃん?何処にいるんだ!大丈夫か!」彩愛と勇真もその後に付いて入って行った。「おい!君たちは誰なんだ!なんで勝手に入って来るんだよ!」「うるさい!変態野郎!凛ちゃんは何処だ!」「凛ちゃんて誰だよ!俺が待ってるのは楓華ちゃんだよ!」「……楓華?……待ってた?そんな格好で?お前、楓華に何するつもりだったんだ!」「何って……、いや、違うよ。これは、お酒を零してしまって……。そうなんだよ!それで、今フロントに着替えを頼んでいるところなんだ。」向井はようやく自分の姿を思い出して慌ててバスローブを羽織り、説明をした。結局、室内に凛華の姿はなかった。三人で困惑している中、彩愛はふとテーブルの上の紙袋に目が行った。「あれって……。」何かに気づいたように袋の中を覗いて見ると、思った通りのカードが入っていた。「あの、これがどうしてここにあるのですか?」「それ?それは楓華ちゃんが置き忘れて言ったんだ。誰かからのプレゼントらしいよ。」「宗像さんが貰ったものだと言っていたのですか?」「そうだったと思うよ。」「……。何かの間違いのようですよ。 ロックスマンさんは私の友人です。これは私の友人が貰ったものです。」彩愛はそう言うとカードを取り出して見せた。「………。きっと何処かで取り違え
Last Updated: 2026-10-21
Chapter: 第119話
「お願いします。友人は今、ちょっと取り込み中で……。すぐ上の階なので、そんなにお時間も取らせません。私……もう、辛くて……。」凛華に支えられながらソファーにもたれ掛かり、益々辛そうに言う楓華を放置出来ない。かと言って同行するのも不安だ。どうしたものかと躊躇っていると、偶然通りかかったホテルのスタッフが声を掛けてくれた。「お客様、何かお困りですか。」「ちょうど良かったです。この方が気分が悪くなられたようで、お部屋まで送って欲しいと仰っているんです。でも、私も友人を待たせているのでどうしようかと困っていたんです。」「失礼ですが、お二人はお知り合いではないのですか。」「はい、知人です。」「いえ、お名前もちゃんとは存じません。」スタッフの女性は楓華と凛華の異なる反応に困惑したが、すぐに無線で応援を呼んだ。そして楓華に向かって言った。「お客様、よろしければ私達がお手伝いいたします。間もなく応援の者も参ります。いかがでしょうか。」そう言うと、腕を伸ばして凛華に代わって楓華の身体を支えた。楓華はそれ以上凛華にこだわる事もできずに、スタッフに向かって、「……お願いします。」と言わざるを得なかった。その後、間もなくやって来た女性スタッフ達に支えられながらエレベーターへと移動して行った。楓華は去り際に、凛華に向かって厳しい視線を向けた。しかしそれは一瞬の事で、すぐに弱々しい表情に戻りその心中は誰にも気付かれることはなかった。一方で、凛華は化粧室に行ってからすぐに会場に戻った。彩愛達と合流しようと二人の姿を探してみたが見当たらない。二人だけでなく、翔月もいない。 まさか自分を残して帰ってしまったのか。不安が募り始めた頃、バッグの中から微かな振動が感じられた。急いで携帯を取り出し確認すると、彩愛からの着信だった。「もしもし……、」「凛ちゃん!良かった!何処にいるの?無事なのね?」「えっ?何かあったんですか?私は会場にいますけど。」「会場?ずっといたの?」「いえ、少し前に戻ったところです…。」「無事なら良かったわ。今から会場に戻るから動かないで待っててね。」「はい。」首を傾げながら着歴を見てみると、彩愛や勇真や翔月からの10回以上の着信があったようだ。僅か30分程の間に何があったのだろう。首を傾げていると、慌てた様子の三人が戻って来た。
Last Updated: 2026-10-20
Chapter: 第118話
しかし、それを察した楓華は素早く一歩横にずれて避けた。そして、「あっ、向井さん、もうお友達とのお話は終わったのですか?では皆様、友人が戻りましたので私はこれで失礼しますね。」と言うと二人でその場を去って行った。相手の男性は去りながら、「人前だからって気にせずに俊哉で良いのに。急にいなくなったから驚いたよ。気に入った品は決まった?すぐに予約しに行こう。約束通りプレゼントするよ。」と楽しそうに話しかけていた。彩愛と凛華は呆れたような顔で楓華たちを見送った。翔月はと言うと、僅かに微笑みながら、「漸くあの娘(こ)にも彼氏が出来たのかな。これでひと安心だ。」と安堵の表情を浮かべた。彩愛は堪らずに翔月に問いかけた。「翔月さん、宗像さんとどういうお知り合いなの?ネックレスまでプレゼントするのに他の男性と行ってしまっていいの?」「彼女は妹みたいなものだよ。彼女が高校生の時に偶然に再会してね。僕のアドバイスの影響でわざわざ九州から同じ学園に進学してきたんだ。知り合いもいなくて心細いって言うから相談に乗ったりしているんだ。」「それだけなの?」「それ以外に何があるの?」全く訳が分からないと言う様子の翔月に、彩愛がさらに問いかけた。「私達が見た感じては、少なくとも彼女はそれだけではない様子だったわ。気づかなかった?」それまで何も言わず状況を見ていた凛華も、「そうですね。彼女、プレゼントの事とっても嬉しそうでしたよ。」「それは気に入ったアクセサリーが手に入るからじゃないの?」当然のように言う翔月に、彩愛は呆れたように返した。「翔月さんて意外と女心に疎いのね。女の子はね、何を貰うかより誰から貰うかの方が大事なのよ。」「そうなんだね。だったら彩愛は僕からのプレゼントなら喜んでくれる?」直ぐ近くまで来ていた勇真が彩愛に声をかけた。「勇真さん。もちろんよ。皆さんとのお話は終わったの?」「ああ。せっかくのショーの間に側にいられなくてごめんね。それより、翔月君と何の話をしていたの?」「大したことじゃないわ。」「そうですよ。僕はまだ挨拶できていない方々がいらっしゃるのでこれで失礼します。凛ちゃんのこと、よろしくお願いします。」「分かったよ。行ってらっしゃい。凛ちゃんのことは任せて。」「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですよ。」翔月が去った後
Last Updated: 2026-10-18
Chapter: 第117話
凛華も彩愛達とそちらに注目していた。 すると、凛華のすぐ斜め後ろからスタッフらしき人に小声で声を掛けられた。 「失礼いたします。リンカ・ロックスマン様でいらっしゃいますか。」 凛華はステージに気を取られていたので、軽く振り返っただけで特に確認することなく返事をした。 「はい、そうです。」 「あちらのお客様からこれをお渡しするように言付かりました。」 その人物はそう言って凛華に小さな紙袋を手渡すと、一礼してすぐに去って行った。 「えっ?」 凛華は反射的に受け取ってしまったものの、訳が分からず一瞬ポカンとしてしまった。その為、我に返って慌てて辺りを見回しても時既に遅しで、贈ったのがどの人物か分からない。 凛華の様子の異変に気付いた彩愛が声をかけた。 「凛ちゃん、どうしたの?何かあった?」 「はい。いきなり誰かにこれを渡されました。」 「何?それ。」 「さぁ?後で一緒に見てもらえますか?」 「いいわよ。でも、取り敢えずこっちを見てからにしましょう。」 二人はその紙袋がこのブランドの物であると気づいたので、それほど危機感もなかった。 アクセサリーのショーが終わり、二人は一頻り感想を言い合って余韻を愉しんだ。その後漸くあの紙袋を見てみることにした。 袋の中には一枚のカードと可愛くラッピングされた小さな箱が入っていた。カードには、 『リンカ様 いつも見守っています Kより』 と書かれていた。そして箱の中にはシンプルなデザインのイヤリングが入っていた。彩愛は何気なく、 「可愛いわね、このイヤリング。凛ちゃん何か心当たりある?」 と言って凛華を見た。凛華は始めは首を傾げながら見ていたが、突然何かに気付いて思わずイヤリングを凝視した。 「これって……。」 強張った顔で箱を見る凛華に、彩愛も険しい表情になり 「大丈夫?何か思い出したの?」 と尋ねた。落ち着きを取り戻した凛華は改めてもう一度イヤリングを確認しながら、 「いえ、少し気になったことはありますが、関係あるかはわかりません。これ、どうしたらいいでしょう。」 「凛ちゃん宛なのは確かだから取り敢えず保管しておく?そのうちに送り主が誰か分かるかもしれないわ。」 「そう……ですね。でも、誰からか分からないものを受け取るのもどう
Last Updated: 2026-10-17
いつかの一枚のために

いつかの一枚のために

記憶を失った涼禾は、優しい家族と出会い身ごもっていた子供たち共々穏やかな生活を送っていた。 ある日ふとしたことにより過去が判明し、双子の父親が訪ねてきた。離れていた5年間の想いから彼の三人への溺愛が始まる。 天才双子と父親が協力して過去の事件の真相解明に挑む。失われた家族の幸せを取り戻すために。
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Chapter: 第120話
たまらず駆け寄り抱きしめかけた隼翔は、数歩手前で立ち止まり、「涼禾、やっと会えた。今日もとっても綺麗だよ。」と恐る恐る手を差し出した。その目は一点の曇りもなく、薄っすら浮かんだ涙のせいで一層キラキラ輝いていた。涼禾は、自分の不安を一瞬で綺麗に拭い去った隼翔の笑顔に、心からの笑顔を返して、「ありがとう、隼翔さん。これからもよろしくお願いします。」と言って差し出された手を両手で包み込むように握り返した。そこで安心した隼翔は素早く涼禾を抱きしめて、「涼禾、よかった。僕の方こそよろしくね。」と涙を流した。「やっぱりパパ泣いちゃったねぇ。」「やっぱりね。」陽亮と夏蓮は嬉しそうに笑いながら、「「パパ、ママ、結婚記念日おめでとう!!」」と二人に駆け寄った。隼翔はその会の間中、とうとう一度も涼禾から離れずに、会が終わっても病室に泊まり込んで皆を心配させた。しかし、その翌日から涼禾は目に見えて回復して1週間ほどで退院した。2年後、同じ病院で涼禾は退院を翌日に控えていた。退院準備の為に手伝いに来ている佐和子が、大きなため息をついた。「いよいよ退院だけど、明日から大変よ。もう一人家政婦さんを頼んだ方がいいんじゃない?」「やっぱり2人じゃ足りないかしら。」「暫くはあなたも無理できないでしょ?陽亮と夏蓮もいくらしっかりしていてもまだ2年生だし。」「そうねぇ。それに今回は元気な男の子ばかりだし。成長スピードもすごいしねぇ。」3週間前、涼禾は一卵性の三つ子を出産した。2年前、涼禾が回復してから隼翔が、「ねぇ涼禾、陽亮は雅輝にべったりだし、夏蓮は亮君や従兄弟たちにベッタリなんだ。僕にも僕に一番懐いてくれる子が欲しいと思わない?」と度々言うようになった。涼禾は笑いながら聞き流していたが、やがて妊娠に気づいて検査してみると何と三つ子だと分かった。双子に続いて三つ子とは…と不安になったのもつかの間、隼翔と江崎夫妻は大喜びだった。これで自分たちにも”一番“ができる、と。細身の涼禾にとって三人はかなりの負担だったが、周囲の手厚い支えがあって、やや未熟児ながらも手術で無事に生まれてくれた。三人は生まれてからどんどん成長して、今では通常の新生児並みになっている。「やっぱり三人じゃ狭かったのかしら?」真剣な顔で言う涼禾を見て、佐和子がくすくすと笑う。「か
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第119話
雅輝は思わずプッと噴き出して、「確かに。これは兄さん泣くね。」と笑い出した。亮もつられて、「ふふっ、気の毒…でも…あはは…。」と笑い出した。涼禾は訳が分からず陽亮と夏蓮を見ると、二人もにこにこしながら、「パパがねぇ、ママが会ってくれないってずっとしょげてるの。」「せめて明日ぐらい、少しでもいいから会えないかって。何日か前から部屋の前をうろうろしたり、おばあちゃんたちに様子を聞いたり。今日も私たちに聞いてきてくれって。」涼禾は困ったような顔になり、「パパがママに会いたいって?」「当たり前じゃない。」「何で僕だけ会ってくれないんだってブツブツ言ってるよ。」「パパ、無理して仕方なくとか……。」「「そんなわけがない!」」「ママ、パパはね、ママが大好きなんだよ。」「昨日もこの部屋の前をクマみたいにうろうろしてたって、おばあちゃんに叱られてた。」「隼翔さんが……、クマ?」家族の前以外では、いつも冷静な態度と冷たい眼差しの彼が?涼禾はその光景を思い浮かべて、思わずくすっと笑ってしまった。亮が穏やかな笑顔で涼禾に言った。「姉さん、もういろいろ考えなくていいんだよ。自分の心の望むままにすればいい。」「そうそう、弟の僕から言わせて貰えば、うちの兄はとても単純で純粋なんだよ。そして、びっくりするくらい一途なんだ。姉さん限定でね。」四人と話しているうちに、涼禾の心の強張りがすうっと解けていくような気持ちがした。「ありがとう、みんな。陽亮、夏蓮。パパに伝えて。明日の夜はみんなで記念日のお祝いをしましょう、って。」「「やったー!!!」」双子の喜びの声に続いて、雅輝が燥いで問いかけた。「姉さん、姉さん!みんなって僕は入ってる?父や母は?亮ちゃんは?」「ちょっと!僕は当然入ってるでしょ?」涼禾は賑やかな四人に笑顔で答えた。「みんなよ。私は大丈夫だから、亮ちゃん、参加者を決めるのも含めて準備をお願いできるかしら。」「任せて!姉さん。じゃあ、決まったからには姉さんは明日の夕方まではゆっくり休んでいてね。」「そうだね。もちろん僕も手伝うからね。」雅輝がそう言うと、四人は嬉しそうに会の準備について話しながら帰って行った。涼禾は、ほうっと一息ついてまた眠りについた。その表情は、1年前の最高に幸せだった頃に戻ったような穏やかなものになっていた
Last Updated: 2026-05-05
Chapter: 第118話
「信じてる。でも、嫌悪感なんて頭で分かってても感じてしまうものでしょう?彼に我慢させるなんて耐えられない。」「………。」「隼翔さんと結婚できて、家族として過ごせた半年足らず。とっても幸せで……、彼があの頃と変わってしまったらと思うと……。会いたいの。でも、……。」娘の複雑な気持ちを聞いて、かける言葉に詰まってしまった佐和子だった。それでも、「ねぇ、涼禾。2年ちょっと前のこと、覚えてる?」「隼翔さんと再会した頃?」「ええ、あの頃もあなた、怖いって言っていたわね。」思い出す仕草をした後、小さく頷いた。「ええ。今とは違う理由だったけど。」佐和子も一つ頷いてから話を続けた。「あの頃は陽亮と夏蓮に背中を押して貰ったようなものだったけど、会ってみてどうだった?」涼禾はまた少し考えて、思わずくすっと笑った。「彼は……、彼のままだった。ううん、思っていた以上に私を想ってくれていて、嬉しかった。」「そう。私はね、あの頃以上に、彼はあなたを大切に想ってくれていると思うわ。」「……。」「焦ることはないわ。気が向いたら考えてみて。」佐和子は少し話し込みすぎて疲れさせてしまったかと心配になり、話を終えて休むように勧めた。素直に頷いて横になり、目を閉じた涼禾を見守ってから静かに部屋を後にした。翌日の午後には、亮と雅輝が付き添って陽亮と夏蓮が会いに来た。二人は幼稚園での様子やそれぞれの習い事の様子を報告した。「ママ、私ね、こんどはじゅうちゃんから“けんどう”をならうの。」「空手と合気道はもういいの?」「どっちも続けるよ。でもね、私はまだ小さいからむずかしいことはできないの。元気なからだをつくるのが一番なんだって。」「そう。いい先生に習っているのね。」 「ママ、僕はキーボードの早打ちソフトで記録を更新したよ!雅輝さんに習ってプログラミングも始めたんだ。」「陽亮もすごいわね。でも頑張りすぎて目を悪くしてはだめよ。」「うん!ちゃんとお休みしながらやっているよ。」涼禾は二人の頭を撫でながら亮と雅輝を見た。「亮ちゃん、雅輝さんありがとう。あなたたちの研究は順調かしら?」「来月から治験段階に進むよ。まずは3ヶ月間のデータを見てそれからの方針を決めていくつもり。治験者には聡美さんや島田さんの奥さんも参加してくれるんだ。」「島田さんの奥さん?」「あ
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第117話
「ママ、ありがとう。」「ママ、いつまでもみんなで待っているからね。」二人から差し出された花束を受け取れるように、佐和子が涼禾の手を取ろうとした。が、それより先に涼禾が自ら花束を受け取った。そして、「夏蓮、陽亮、少し会えなかった間に大きくなったわね。こんなママで、ごめんね。」と言うと、しっかりと二人を見つめ涙を浮かべた。涼禾の変化にその場にいた全員が息を呑んだ。「…涼禾……?」佐和子の呼びかけに、ゆっくりと顔を向けると、「お母さん、ごめんなさい。」ひと言返してまた眠りに落ちていった。ほんのひとときではあったが、涼禾が周囲に穏やかに反応したのは事件以来初めてのことだった。幼いとはいえ、男の子である陽亮に対しても拒否反応はなかった。僅かではあるが、今度こそ回復の兆しを得た皆は心から聡美に感謝した。聡美は、「私の方こそ皆様に感謝しています。私の拙い作品をこんなに素敵な場で披露させていただけたのですから。」と返した。この日をきっかけに、涼禾は少しずつ自分を取り戻し始めた。9月になり、結婚記念日まであと三日という日、涼禾の病室の前には朝から熊のようにドアの前をうろうろする隼翔の姿があった。ドアが開いて中から出てきた美沙は、その姿を見て呆れたような顔をして声をかけた。「まだいたの?」「だって、……お母さん。なぜ僕だけだめなんだ?陽亮や亮君、雅輝だって会えるようになったのに。この間は安藤のおじさんや颯太くんと健人君まで会えたじゃないか。そのうちお父さんや剣太郎君や柔治狼君も会えるようになりそうなんだろう?なのに何で僕はだめなんだ!」「情けない子ね。それだけ涼禾さんがあなたを特別に思っているってことでしょ。彼女の気持ちの整理がつくまで落ち着いて待ってあげなさい!」「だって……。」この3ヶ月間、涼禾は起きて正気を取り戻して過ごせる時間が少しずつ増えてきた。演奏会以前は、長時間眠り続けたり、起き上がってもぼんやりとして周囲に反応できなかったり、異性に怯えて距離を取ろうとしたりという状態だった。それが、夏蓮と陽亮を認識できたのをきっかけに、弟の亮と義弟の雅輝にも会えるようになった。室内に入っても拒否しなくなって、更に慣れて少し話せるようになり、短時間ながら以前のように親しみを持って接することができるようになった。佐和子や美沙や夏蓮や
Last Updated: 2026-05-04
Chapter: 第116話
今までは何かの催しや、時折訪れる慰問の演奏者たちによって演奏されるだけだったが、この春休みだけは違った。二日に一回の間隔でお昼休みになると、1時間ほど演奏されるのだ。その曲たちは、ほとんどが誰もが聴いたことのある馴染みのあるものが、日によって変えられながら演奏されていた。ただ、毎回最後に演奏される1曲だけは同じ曲で、今まで聴いたことのない穏やかで、優しい曲だった。この二日に一度の小さな演奏会は、入院患者のみならず病院内のあらゆる人達の心を癒していった。春休みが終わり、この演奏会が無くなって多くの人達が残念に思った。涼禾もまた、その一人だった。演奏会のある日は、お昼になると必ず起き上がり、穏やかな顔で耳を傾けていた。そして最後の一曲を聴き終えると、時折頬に一筋の涙が溢れることもあった。砂川先生によると、感情を取り戻す兆候なのではと期待も持たれた。しかし、演奏会が無くなった後はまた、ほとんど横になったままの生活に戻ってしまった。そんな涼禾を見て、隼翔は一つの決心をした。涼禾を現在の中京市の病院から東都の病院へと転院させる事にしたのだ。移動時の疲労や環境の変化がかなりの負担になるだろうことは予測された。しかしそのリスクを冒してでも、家族の側で過ごして欲しいという思いが勝ったのだった。5月の半ば、細心の注意を払って涼禾の転院が行われた。やはり、転院直後の数日間は熱を出したり、悪夢に魘されたりと不調が続いた。けれどそれもだんだん落ち着き、やがて穏やかに過ごせるようになっていった。涼禾が転院したのは、瀬川グループ系列の病院で設備も環境も素晴らしかった。その素晴らしさのひとつとして、ピアノが常設された小ホールがあることが挙げられる。ある週末、その小ホールで少し変わった演奏会が計画された。観客が女性限定なのだ。なぜ?と思う人もいたが、ここは病院なのだから、おそらく何かの事情があるのだろうと納得したようだった。演奏会当日。佐和子と美沙、それに亜沙美と果奈も車椅子で参加している涼禾に寄り添うように席に着いた。観客は八人の患者ごとに、そのサポートメンバーとまとまって席を用意している。時間通りに演奏者の聡美が入って来た。アイスブルーの、天使のように清らかなイメージの衣装に身を包み、微かな微笑みを浮かべながら演奏が始まった。どの曲も初めて聴くもの
Last Updated: 2026-05-03
Chapter: 第115話
『やめて…、誰か助けて…』くぐもった言葉にならない声が漏れる。何度も同じ目に遭ってしまう自分の愚かさが嫌になる。そんな涼禾を嘲笑うかのように男の言葉が続く。「だけどさぁ、せっかくの印が薄くなっちゃっているんだよねぇ。お仕置きを兼ねてもう一度しっかり身体に刻んであげなくちゃあ、ねぇ。」男がニヤリと笑いながらポケットから取り出した物を一振りすると、シュルリ、としなやかな音と共に焦げ茶色の革紐が垂れ下がった。「今度こそ完全に君は僕の物になるんだ。」パァーン!男が革紐を両手で強く引き、強度を確かめる音が響いた。その音が涼禾の脳裏に5年前の出来事を全て蘇らせてしまった。延々と続いた暴力に因る苦痛と、容赦無く浴びせられる暴言による屈辱、逃れられないと言う絶望感。それらから心を守る為に記憶を閉ざしていたのに。思い出してしまった今、まるで他人事のような諦めの言葉が浮かんだ。『今度こそ私は壊れてしまうんだ。』そんな涼禾を意に介することもなく、男は容赦無く大きく腕を上げて力を込めて革紐を彼女背中に振り下ろした。革紐はピシッと鋭い音を立てて白い華奢な背中に、赤い一筋の線をくっきりと刻んだ。焼け付くような激しい痛みが涼禾を襲う。と同時にこの後に続くだろう惨劇が脳裏に浮かんだ。涼禾は耐えきれずに、「いやーっ!!!」とありったけの力を込めて叫んだ。それでも男はニヤリと不気味な笑みを浮かべて再び腕を振り上げた。その時、隣室でドアが押し開けられ、男達が激しく争う音がした。その音がすぐに収まると、すぐにこちらの部屋に二人の男が駆け込んだ。男達は中の様子を見て一瞬顔を顰めたが、すぐに一人が犯人を制圧し、もう一人は上着を脱いで涼禾に掛けた後、彼女の拘束を全て取り去った。そして上着で涼禾の身体を包み込みながらゆっくり抱え起こしてくれた。「もう大丈夫ですよ。今度こそ全て終わりました。安心してください。」聞き覚えのある穏やかな男の声が聞こえてきたので、涼禾はゆっくり顔を上げると、大きく目を見開いた。「しま…だ、さん?」小さく呟く声に男が頷くと、安心したように表情を和らげて意識を手放した。涼禾が助け出されてから一月がたった。大田原は逮捕され、今までの様々な悪事に関する調査が行われている。尋問により証拠も出てきているようだ。浅野夫妻の事故や涼禾への殺人未遂
Last Updated: 2026-05-02
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