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4-30 姫宮の言い分 2

last update Last Updated: 2025-05-15 22:15:39

「落ち着いて下さい。彼の行動がエスカレートしていたのは今まで翔さん……貴方と会ったことが無かったからです。でも今夜翔さんと会って、目が冷めたそうです」

「あいつが……? そんなことを言ったのか?」

(本当の話だろうか……? あの男が朱莉さんを見る目は……完全に男が女に惚れている目つきだったぞ?)

しかし、姫宮はきっぱりと言い切った。

「はい、もう金輪際朱莉様に二度と付きまとわないと約束しました」

「しかし……やはり訴えたほうが……」

「翔さん。それは我が社のスキャンダルに発展してしまいますよ?鳴海グループの御曹司の妻がストーキングされていたとなると、マスコミはどのように面白おかしく騒ぎ立てるか分かったものではありません。最悪、契約婚のことも公になってしまう可能性があります。訴えるのは得策ではありません。それに朱莉様も望んでおられないと思います」

「朱莉さんが……?」

「はい、朱莉様はおとなしい方です。目立つのを極力恐れます。それに彼に約束させました。もしもう一度同じ行いをした場合は社会的制裁を与えると告げました」

「社会的制裁……」

「はい、鳴海グループの力を持ってすれば簡単なことだと思いますが、心優しい朱莉様はそれを望んではおられません。なので……今回の件はこれで全て解決済みです」

「解決済み……」

翔は姫宮の言葉を口の中で繰り返した。

「し、しかし……」

翔が尚も言いよどむも……。

「それに元はと言えば、こうなったのは多少なりとも翔さんにも責任があると思いますが……?」

姫宮の言葉は的を得ていた。

(そうだ……俺が契約妻の朱莉さんを今まで蔑ろにして……いわば彼女を放置状態にしていたから妙な男に付きまとわれたんだ……)

「そうだな……俺にも責任の一環はあるよな……」

「はい。だからあまり朱莉様を追及されないで下さい。いわば朱莉様はストーカーの被害者ですから」

****

「翔先輩……まだ話終わらないのかな……」

朱莉は第二ビルのロビーのソファで蓮にミルクをあげながら翔の来るのを待っていた。

蓮にミルクを与え、抱っこをしていると翔がガラス越しからこちらへ向かってやって来るのが目に入った。翔も朱莉の姿に気が付いたのか手を振って笑顔でこちらへ向かって来る。

(え……? 笑顔……? どうして? もっと機嫌悪い顔で来ると思っていたのに……)

「朱莉さん、お待たせ」

翔は笑顔
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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-2 新年の始まり 2

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-1 新年の始まり

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