彼氏は私を貧乏だと嫌うけど、実家は大牧場の経営者

私は、3年間交際していた彼氏の相澤陽介がこんな言葉を口にするなんて、夢にも思わなかった。

彼の背後では、社長の木崎清乃香が腕を組み、勝ち誇ったような冷たい視線で私を見下ろしていた。

「早川夏美、早くブレスレットを返したほうがいいわよ。警察を呼んだら、お互いに面倒なことになるだけだから」

盗みの濡れ衣を着せられ、私は言葉を失った。

それだけではなく、最も信じたかった彼氏からも疑いの目を向けられたのだ。

「この前、お前、自分の両親が大学の学費のために牛を2頭売ったって言ってただろう。高価なブレスレットを見て、売りたくなったんだろう！」

陽介は怒りを露わにして私を睨みつけた。「夏美、お前、ほんと最低だな！」

その瞬間、彼の顔がまるで別人のように見えた。

私たちは大学時代から付き合い、卒業後も同じ会社で働いていた。

最近、彼が私の家庭環境についてやたらと聞いてきたので、私は彼が結婚を意識しているのだと思い、実家が牛を飼っていることだけ話した。

ただ、家に数万頭もの牛がいることまでは伏せていた。

父から「謙虚に生きろ」と教えられていたため、富を誇ることはせず、彼にも家の本当の事情を話さなかった。彼が劣等感を抱くのではないかと心配していたのだ。

しかし、彼がこの話を聞いてからというもの、明らかに私を避けるようになり、その代わりに会社の社長である木崎清乃香に異様なほど親切に接するようになった。

私は彼の向上心の表れだと思い、特に気に留めていなかった。

しかし、ある日、会社の噂話が飛び交うグループチャットで、陽介と木崎清乃香が地下駐車場でキスをしている動画を目にした。

私はその動画を突きつけて彼を問い詰めたが、彼は面倒くさそうな表情を浮かべてこう言った。

「そんなくだらないものを信じるなんて、頭がおかしいんじゃないのか？

あの時、社長の元夫がしつこくつきまとってて、俺が彼氏のフリをして追い払わなきゃいけなかったんだ！」

私が反論すると、彼は逆上して怒鳴りつけた。

「夏美、お前、本当に冷たい奴だな！駐車場には俺たちしかいなかったんだぞ？俺が彼女にキスしなかったら、元夫は帰らなかっただろう！

彼女に何かあったらどうするんだ？その時はお前が加害者になるんだぞ！」

私は自分の愚かさに気付いた。彼の行動を善意だと信じ込んでいた自分が恥ずかしくなったのだ。

そして、この3年間、心から大切にしてきた恋愛が、もう何の価値もないことを悟った。

陽介と木崎清乃香は腕を組み、私を値踏みするように見下ろしている。

周囲の同僚たちも、私が犯罪者であるかのように指を差し、ヒソヒソと噂をしている。

私は薄く笑みを浮かべ、椅子に座り直った。「私がブレスレットを盗んだと言うなら、証拠を見せてください。それができないのなら、仕事の邪魔をしないでください」

木崎清乃香は冷たく笑った。「どこに隠したのかなんて誰にも分からないわよね。もしかしたら、もう売り払ったのかもね。素直に白状したほうがいいわよ。警察沙汰になったら、刑務所行きになるのはあなたよ」

陽介も私を睨みつけながら言った。「夏美、さっさとブレスレットを返せよ。ほんとに恥知らずな奴だな！」

2人は次々と私を犯人扱いし、責め立てた。

私は深くため息をつき、毅然とした声で言った。「だから言ったでしょ。主張するなら証拠を出せって。それができないのに、どうして私を疑うわけ？」