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お仕事スタート! だけど…… PAGE4

last update Last Updated: 2025-05-09 12:27:14

「でも、そんな彼が今ではわたしが仕事をするうえでなくてはならない存在になってるの。人事部長の山崎さんも、貴女なら秘書に向いてると思ったから秘書室に配属したんだとわたしは思う。だから、慣れるまでは大変でしょうけど、お仕事頑張ってね」

 会長のお言葉に桐島主任も頷かれ、わたしに優しい励ましの言葉をかけて下さった。

「僕もそう思うな。あの人は、何も考えず適当に配属先を決めたりしない人だからね。矢神さんはそれだけ見込まれてるってことなんじゃないかな。別に僕や他の人たちの真似をする必要なんかないから、君なりに頑張っていけばいいと思うよ」

「そうですね。わたしなりに頑張ってみます。会長、桐島主任、ありがとうございます!」

 人事部長だけじゃなく、会長や主任もわたしに見込みがあると思って下さっているらしいと分かって、わたしはちょっと自信が湧いてきた。

「それじゃ、僕たちはそろそろ出ないといけないので。――会長、参りましょう」

「うん、そうだね。じゃ、行ってきます。――矢神さん、他のみなさんも。何か困ったことがあったら、何でも相談して下さいね。わたしは社員のみなさんあっての会長ですから、可能な限りはお力になります」

「「「はい!」」」

「はい……」

 元気よく返事をした他の三人とは違い、わたしの返事には「本当にいいのかな……」という遠慮が混ざった。わたしは現在進行形で厄介な問題を抱えているから……。

   * * * *

 ――そうこうしているうちに、お昼休みのチャイムが鳴った。

「新入社員のみんな、この社屋(しゃおく)の近くに安くて美味しいお店があるから、私がランチごちそうするよ。一緒に行く人ー?」

 小川先輩の太っ腹な提案に、わたし以外の三人が手を挙げた。

「やったー! ありがとうございます!」

「先輩、太っ腹ですね!」

「ゴチになります!」

「矢神さんはお昼、どうするの?」

 一人だけ手を挙げなかったわたしに、先輩は訊ねる。遠慮して手を挙げなかったんだと思われたかな。

「あの、わたしは友だちと約束してるので、社食に……」

「そっか、社員食堂ね。ウチの社食はどのメニューも美味しいしお手頃価格だからいいよ。実は私も普段は社食派」

「そうなんですね」

「うん。じゃ、また午後からもよろしくね。――みんな、行こっか」

「「「はーい!」」」

 中には「矢神さん、また後でね」と親しげに声
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  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   お仕事スタート! だけど…… PAGE3

    「みなさん、入社おめでとうございます。これから僕と一緒にこの会社を盛りたてて行きましょう」 村上社長もこの会社の社長なのに、まったく偉そぶっていなくて謙虚で好感が持てる人だ。そしてそれは、この会社の重役みなさんにも言えることだとわたしは感じている。常務でもある広田室長然(しか)り、専務でもある山崎人事部長もまた然り。 最後はこの会社とグループ全体のトップである絢乃会長にご挨拶するだけとなったのだけれど――。「すみません。会長はこの後阿佐間(あさま)先生と会食のご予定があるので、挨拶は手短にお願いしますね」 桐島主任が小川先輩にそう言って、会長室へ絢乃会長を呼びに行った。 ――〝阿佐間先生〟って誰だろう? 疑問に思ったわたしは小川先輩に訊ねてみる。「……小川先輩、〝阿佐間先生〟ってどなたですか?」「ああ、ウチのグループ全体の顧問弁護士の先生だよ。絢乃会長のお友だちのお父さまなんだって。会長も初めてそのお嬢さんから『ウチの父がお世話になります』って聞いた時は驚かれたそうよ」「へぇー……」  お嬢さんが会長と同級生だからコネで顧問になられたのかと思ったけれど、どうも違うらしい。「――みなさん、入社おめでとう。会長の篠沢絢乃です。よろしく」 わざわざ廊下でわたしたちを天使のような笑顔で迎えて下さった会長は、間近に見てもすごく可愛い人だった。お肌はツヤツヤだし、柑橘系の爽やかなコロンの香りがする。スーツの着こなしも上品で、全体から清潔感が漂っている。 そして、そんな彼女の左手の薬指には、小ぶりなダイヤモンドがあしらわれたシンプルなプラチナリングがはまっている。あれってもしかして……。「あの、会長。その指輪は……」「ええ、桐島さんからクリスマスに贈られた婚約指輪よ。――貴女(あなた)は……」「矢神麻衣と申します。突然ぶしつけな質問をしてしまってすみません!」「いえ、そんなにかしこまらないで。わたしの方が年下だから。別に貴女を咎めるつもりなんかないの」 分をわきまえないで失礼な質問をしてしまったと謝るわたしに、会長は優しく微笑んで下さった。「……わたし、実は不安なんです。秘書なんて重要な仕事がわたしなんかに務まるのか、って、なので、辞令を受けた時は信じられなくて」「それ、桐島さんも最初の頃はそうだったよ。『僕なんかに務まるかどうか分かりませ

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    「〝取り柄〟っていうのは、仕事をするうえでの自分の売りってことかな? それがないっていう解釈で合ってる?」 小川先輩に訊ねられた彼女は「はい」と頷いたので、先輩はそのうえで返答して下さった。「私は、仕事に関係のない〝取り柄〟でも活かし方次第で仕事の売りになるんじゃないかって思ってます。たとえば、ここにいる桐島主任。彼の取り柄は美味しいコーヒーを淹(い)れるのがうまいことなの。一見、仕事には関係ない取り柄みたいに思うでしょ?」「……ちょっと小川先輩、その言い方は僕が他に何の取り柄もないみたいに聞こえるんで、やめてもらっていいですか」「ああ、ゴメンゴメン! そういう意味で言ったんじゃないよ!? あくまでたとえとして出しただけだから」 大学時代の先輩後輩だというお二人が漫才みたいなやり取りを始めたので、わたしたち新入社員は唖然となった。ハッと我に返ったらしい先輩方はお二人揃ってゴホン、と咳ばらいをして、小川先輩は質問の答えに話を戻される。「……えっと、話が逸れちゃってゴメンね。要するに、自分では『仕事とは関係ないな』っていう特技とか長所でも、どんな形で仕事の役に立つか分からないってこと。桐島くんの『美味しいコーヒーを淹れられる』っていう特技だって、今では大のコーヒー好きの会長にすごく喜ばれててちゃんと仕事の役に立ってるんだから。あなたにもそういうのがきっとあるはずだよ。だからみんなも、そういうことを伸ばして秘書の仕事に活かしていってほしいな」「「「「はいっ!」」」」 小川先輩からのエールに、わたしたち四人の新入社員はみんな元気よく返事をした。 &

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   お仕事スタート! だけど…… PAGE1

    「――えーっと、じゃあ、一人ずつ自己紹介をお願いします」 この場を仕切っている小川先輩に振られ、わたしたち新入りは名前のあいうえお順で、各々自己紹介をしていくことになった。わたしの苗字は矢神なので、四人の中でいちばん最後だ。「――じゃあ、最後は矢神さん。お願い」「はい。矢神麻衣です。四月十二日生まれのA型です。実は子供の頃から人見知りが激しくて、秘書の仕事も自分にできるかどうか不安ですが、できるだけ頑張ってみようと思いますのでよろしくお願いします」 元々の性格と緊張から、つっかえつっかえになりながらどうにか自己紹介を終えると、みなさんが温かい拍手を送って下さったのでわたしはホッと胸を撫で下ろす。わたしにとってはたったこれだけのことでも冷や汗もので、ハードルを一つ飛び越えたような達成感を味わえたと言っても過言ではないのだ。「じゃあ、何か質問のある人は手を挙げて下さい。答えられる限りはお答えしますから。ただし、個人的なことにはあんまり答えられませーん」 小川先輩がわたしたち新入りに向けて、質問コーナーを設けて下さった。けれど、最後の言葉にみんながドッと沸く。「あんまり」ということは少しなら答えてもいいという意味なんだろうか。「はいっ!」 真っ先に手を挙げたのはわたしだった。どうしてこんなに目立つことができたのか、自分でも信じられない。「矢神さん、どうぞ」「はい、あの……。秘書室で働くうえで、服装に決まりというのはあるんでしょうか?」「うん、これは非常に大事な質問ね。――我が篠沢商事には制服というものはなくて、基本的にはスーツかオフィスカジュアルで働いています。ですが秘書に関しては、あまりカジュアル過ぎても困るので男性はスーツにネクタイ、女性はキチッとしたジャケットスタイル、もしくはスーツが望ましいです。ボトムスはスカートでもパンツでもどちらでも大丈夫ですが。……という答えで大丈夫かしら、矢神さん?」「はい、大丈夫です。広田室長、ありがとうございます」 室長自らの丁寧な返答に、わたしはお礼を言った。「じゃあ、他に質問のある人」 はい、と別の子から手が挙がる。彼女は「自分にはこれといった取り柄がないのだけれど、それを秘書の仕事にどう活かせばいいか」という質問をした。それはわたしにとっても共通の悩みだったので、わたしももう一度質問しようと思ってい

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   入社初日、初めての友だち PAGE9

       * * * * ――秘書室に配属された他の子たちと一緒に、エレベーターでこのビルの最上階・三十四階へ上がると、そこは重役フロアーだ。社長室、専務と常務それぞれの執務室、小会議室、そしてフロアーのいちばん奥には会長室があり、秘書室のオフィスは給湯室を挟んで会長室の隣に位置している。 今のところ人事部長が専務、秘書室長が常務を兼務されているため、専務と常務の執務室は使われていないらしいけれど。小川先輩の話では次の役員人事で室長が副社長、人事部長は常務になるそうなので、近々また使用される予定とのこと。そして次の専務はどうやら、桐島主任が就任するんじゃないかともっぱらの噂らしい。……それはさておき。「秘書室へ配属されたみなさん、入社おめでとう。私が室長の広(ひろ)田(た)妙(たえ)子(こ)です。よろしく」 わたしたち新入社員をにこやかに出迎えて下さったのは、パリッとした真っ白なスーツ姿で長い髪を一つに束ねた四十代前半くらいの女性。メタルフレームの眼鏡(メガネ)をかけているキャリアウーマン風の人で、一見厳しそうな印象を受けるけれど、小川先輩曰く茶目っ気もあって優しい人だよ、とのこと。「我々秘書の仕事は、一言でいえば上役のサポート役です。主な内容はスケジュール管理、来客の応対、その他業務の代行など。ですが難しく考えないで、自分にできることを誠心誠意務めるということがいちばん大切だと私は考えています。やり方は一人ひとり違っていいので、自分に合った仕事のしかたを見つけていって下さいね」「「「「はい」」」」 室長のお言葉で、「秘書の仕事って難しそう」と思って肩に力が入っていたわたしも少し気が楽になった。 そして室長の次に、爽やかに挨拶をしたのが――。「みなさん、入社おめでとうございます。僕が秘書室主任で、会長秘書も務めている桐島貢です。よろしくお願いします」 程よくガッシリした長身の体に紺色のスーツを着込み、赤い巣とストライプ柄のネクタイを締めた桐島主任だった。 わたしは彼に思わずポーッとなってしまう。この人は絢乃会長の婚約者で、彼女のことを心から愛しているんだと分かっているのに……。 ……これは恋じゃない。ただの憧れの感情だと自分に言い聞かせる。多分、アイツから逃げたいだけの現実逃避なんだと。

  • 恋のフレッシャーズ! ~等身大で恋しよう~   入社初日、初めての友だち PAGE8

    「――で、矢神さんはそういう相手いるの?」「いいい……っ、いえいえっ! いい……いないですよ、彼氏とか好きな人とかっ!」「矢神さん、どもりすぎ。そんなに動揺しなくても」 思いっきり動揺してどもりまくっていると、小川先輩に笑われた。何ていうか、社会人にもなって恥ずかしい……。「ごめんねー、私が悪かったね。彼氏にもよく言われるのよ。『お前は秘書なんだから、もうちょっと周りの空気読め』って」「……はあ」 確かに、周りの空気が読めないのは秘書として致命的じゃないかとわたしも思う。でも、キチンと守秘義務が守れる人なら多分問題はないはず。だからご自身で「空気が読めない」と自虐的に言えてしまう小川先輩だって、社長秘書という仕事が務まっているんだろう。「……って、私の話はどうでもよかったよね。じゃあさっきまで一緒だった男の子は? あのガタイのいい」「入江くんのことですか? 彼は高校から大学までの同級生で、友だちです」「えっ、そうなの? 二人って仲よさそうに見えたし、てっきり付き合ってるもんだと思ってた」 佳菜ちゃんにも言われたけど、やっぱりわたしと入江くんって周りの人の目からはそんなふうに見えるのか。でも正直なところ、わたしにとって彼がどういう存在なのか、自分でもよく分かっていないのだ。「はい。……多分、付き合ってはいないです。あ、ちなみに入江くんの配属先は総務課だそうですけど」「総務課か。そういえば、桐島くんも秘書室に来る前は総務にいたのよ。ちょうどパワハラがひどかった頃に」「えっ、そうなんですか?」 驚きの事実に、わたしは目をみはった。あれだけ会長秘書の仕事をバリバリやっていそうなあの人がかつて総務にいたことにもだけれど、その総務課でハラスメント被害に耐えていたことにも驚いた。「うん、そうなのよー。秘書室(うちのぶしょ)に来たのは先代の会長が余命宣告を受けて、絢乃さんが後継者になりそうだったからだったんだけど。つまりは愛の力ね。ちなみに、先代会長の秘書だったのが私」「へぇー……」「まあ、そんな彼にも秘書の仕事は務まってるんだから、矢神さんも『わたしには無理』とか思わないでね。この仕事はやる気と、ボスへの愛さえあれば務まるものだから。ウチでは秘書検定なんて持ってる人の方が少ないし。私も桐島くんも持ってないもん」「…………はあ」 〝ボスへの愛

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